リジェネラティブ農業は、バイオマテリアルやバイオケミカルなど有機農業資材を使用するバイオエコノミーの実践のフロントエンドにもなりつつあります。この農法により、炭素の便益が充実し、サステナビリティの効果を農村に広くもたらすことができるからです。
実現のためにテクノロジーを活用する
リジェネラティブエコノミーを実現する鍵となる、新たなテクノロジー分野がいくつか浮上してきました。こうしたテクノロジーは、化石燃料に代わる生産資材の開発、二酸化炭素排出量の削減、循環性の向上、自然環境を活用したソリューションの開発に役立ちます。とはいえ、テクノロジーは本来、リジェネラティブなものではありません。テクノロジーもまた幅広いシステムの変革の一部とする必要があります。万能の解決策などありません。
しかし、重要な触媒の役割を果たすものはあります。「非常に優れた創業者や優秀な人材がわれわれの領域に進出してきています」と、Regeneration.VC社のGeneral PartnerであるDan Fishman氏は述べています。同社は、サーキュラーエコノミーやリジェネラティブエコノミーの原則を適用して、消費者市場に革新をもたらす企業のポートフォリオを組むベンチャーキャピタルです。「彼らは大手テクノロジー企業を辞めて、地球の環境問題を解決する方法を模索しています。その根底にあるのは、マーケティングではなく、自らの倫理観です。企業による取り組み、拡大生産者責任を認識する企業の姿勢、規制強化の機運の世界的な高まりを受けて、こうした人たちが事業を拡大する余地が生まれました」
合成生物学とマイクロバイオームを活用する
バクテリア、菌類、藻類などの微生物は、生物系で不可欠な役割を果たしています。肉眼で見える生命体はすべて、ある物質を別の物質に変える、顕微鏡でしか分からない生化学的能力に依存しているのです。合成生物学を活用してこの能力を超高速化することで、リジェネレーションを実現する鍵となる可能性があります。
- 工業製品と消費財に、石油や動物由来原料の代わりに農産物由来原料を使用すること
- プラスチックのバイオリサイクルと、産業排出物からの炭素の除去を可能にすること
- 土壌炭素の改善、作物の回復力の向上および肥料投入量の削減
炭素を除去する
炭素を除去するための、自然環境を活用したアプローチと工学的なアプローチは、森林プロジェクトや大規模な直接空気回収施設から、モジュラー型回収装置、炭素隔離材料や消費財まで広く普及してきました。脱炭素化の主な方策である再生可能エネルギー、効率化、電化を完全に実現した今、大気の長期的リジェネレーションに向けた下地をつくっているのが炭素除去です。これはまた、以下のような機会も生み出しています。
- 農家や里山集落の新たな収入機会と、生物多様性へのメリット
- 廃棄物に含まれる炭素の循環資源への転換
- 建材や消費財などカーボンネガティブな製品を拡充させることで、脱炭素化を推進
地球画像とリモートセンシングを採用する
増え続ける人工衛星による地球画像と物理的特性のリモートセンシングのかつてないほど高い能力により、地球に関する深いインサイトが得られるようになってきました。これは今後、リジェネラティブな成果の達成に不可欠となるでしょう。人工衛星は、システムとパーツ、森林と樹木の両方を理解する、他に類を見ない能力を私たちに与えてくれています。この傾向はますます強まっています。一例として、現在、ベンチャーキャピタルのポートフォリオで衛星画像とリモートセンシングを重視するプライベートカンパニーは300社近くに上り、調達したベンチャー資金は現時点で40億米ドルに達しています6。こうしたベンチャーキャピタルの支援を受ける企業は、以下のようなさまざまな用途を模索しています。
- 自然環境を活用した炭素除去の性能の向上と検証
- 温室効果ガスの排出量、森林破壊および密漁のリアルタイムのモニタリングと予測
- 気候変動、生物多様性、土地利用、水・天然資源の採取に関する新たなインサイトの獲得
Web 3.0とメタバースに今すぐに対応する
ソーシャルイノベーターは、運営面とパーパス面の両方で、リジェネラティブな組織づくりを目的に、ブロックチェーン、トークン化、コインなど、Web 3.0のツールを活用しています。インパクトDAOを立ち上げ、既存のシステムに頼らずに、公共財を創出し、ポジティブな外部要因を生み出すようになってきました。DAO(分散型自律組織)とは、コミュニティーが所有し、民主的に運営する組織です。ブロックチェーンを活用したスマートコントラクトで意思決定などを行います。
インパクトDAOは、連携、共創、誰もが参加できる仕組みのリジェネラティブな価値を体現するよう設計されています。その多くが力を入れているのは、地元地域社会にポジティブな影響をもたらしながら、自然環境を活用した炭素除去の資金調達を促進することです。
AI、AR/VR、IoTと、人工衛星のデータをメタバースで融合させれば、デジタルツインにより、新たなスコープと詳細さで地球システムをモデル化し、リジェネレーションの実現が可能になるはずです。欧州宇宙機関(European Space Agency)は、地球全体のデジタルツインの作成に向けて取り組んでいます。デジタルとフィジカルをこのように融合させることで、人間の活動が自然システムに与える影響を可視化、予測する可能性と、環境シナリオをシミュレーションして政策決定時の参考とする可能性を開くことができるでしょう。
組み合わせることで、エンド・ツー・エンドのインパクトを生む
リジェネラティブなアプローチと、実現のためのテクノロジーを組み合わせることで、エンド・ツー・エンドのインパクトを生むことができます。ネットゼロ(最終的にはカーボンネットネガティブ)のサステナブルな航空燃料の開発に取り組むGevo社を例に説明しましょう。同社は、サプライチェーン全体と全製品にわたる炭素パフォーマンスの向上に組織的に取り組んでいます。
Gevo社はリジェネラティブ農法で原料を栽培し、土壌炭素隔離を向上させ、化成肥料など農場での排出源の使用を最小限に抑えています。ほかに、マイクロバイオームを活用して土壌改善を図り、土壌炭素貯留を一段と向上させる取り組みも試行しているところです。
再生可能エネルギー由来の電力でバイオ燃料を生産しており、同社が生み出した合成生物学の新機軸は、農産物原料をより効率的にイソブタノールとエタノールに変換する酵母を作り出しました。
自社のサプライチェーンと燃料の気候変動パフォーマンスを測定、検証するため、同社はBlocksize Capital社と共同でVerity Trackingの開発を進めています。これはブロックチェーンを活用した測定・報告・検証システムです。農場から、ジェットエンジン、さらには航空機のシートに至る、炭素のライフサイクルにおいて製品を追跡し、製品の差別化を図ります。
「リジェネラティブなアプローチと組織的な脱炭素化のエンド・ツー・エンドのインパクトを実証することは、顧客などのステークホルダーにこうした投資を認識してもらい、適切に評価していただく上で不可欠です」とVerity TrackingでChief Product Officerを務めるJason Libersky氏は言います。