EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
特に日系企業にとっては、規制対応とカーボンクレジットを活用した新規投資の機会が同時に生まれています。 変化の波を戦略的に捉え、新たな競争優位性を確立することが重要となっています。
要点
近年、ASEAN地域はサステナビリティへの取り組みが急速に重要性を増しています。その背景には、気候変動の影響に対する脆弱性と急速な経済発展の両面があります。2050年までにASEAN全体でGDPの35%以上が気候変動による損失リスクにさらされるとされています。こうしたリスクを踏まえ、ASEAN各国はパリ協定の下で排出削減目標を掲げ、脱炭素社会への移行を目指し始めました。また投資家や消費者の意識変化も追い風となり、ASEANにおけるESG投資が拡大傾向にあります。
2017年から2023年にかけて、ASEANのサステナブル債券市場は33.6億米ドル(約3.6兆円)から726.9億米ドル(約78.9兆円)へと急成長し、年間平均成長率(CAGR)は約67.5% となりました。この力強い成長は、同地域におけるサステナブル・ファイナンスの拡大と投資家の関心の高まりを示しています。こうした状況を踏まえ、本記事ではASEAN地域におけるサステナビリティの主要トレンドについて概観します。特に、ESG規制の最新動向、各国の脱炭素政策、カーボンクレジットを活用した新規事業に焦点を当て、日系企業の視点から今後の動向やビジネスへの影響を整理します。
近年、ESGに関する企業の情報開示が、ASEAN地域において急速に進化しています。その背景には、気候変動リスクの増大、投資家の要請の高まり、そして各国政府の持続可能性への取り組みが挙げられます。これにより、各国がESG規制を強化し、企業の情報開示義務を拡大しています。
例えば、シンガポールでは2025年からIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)に準拠し、Scope 1・2の温室効果ガス(GHG)排出量の報告が義務化されます。マレーシアでは、2024年に国家サステナビリティ報告フレームワーク(NSRF)が導入され、2025年から段階的にISSB基準の適用が進められます。タイも2026年からISSB基準の導入を検討しています。さらに、インドネシア・フィリピンでは、将来的な導入に向けた準備が進行中です。
ASEAN地域でのESG規制の強化は、日本企業にも大きな影響を及ぼしています。例えば、ベトナムでは一定の排出量を超える企業にScope 1・2の排出報告義務が課せられており、一部の日系企業もその対象となっています。また、シンガポールやマレーシアでも2027年から非上場企業への適用が拡大する予定であり、今後の規制の動向を注視する必要があります。
加えて、2年延期のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)、日本国内は2027年にSSBJ(サステナビリティ開示基準)の導入が予定されており、各国の規制および関連性の理解(例:親会社がSSBJ対応の場合はASEAN統括会社・子会社が免除)、財務・非財務のデータの同時開示向けたデータ収集等の対応が必要となります。
ASEAN各国は脱炭素に向け長期目標を掲げており、シンガポール・マレーシア・ベトナムは2050年までのカーボンニュートラル達成を宣言しています。一方、インドネシアは2060年、タイは2065年を目標年とし、達成時期に差があります。再生可能エネルギーの導入も加速しており、ASEAN全体ではエネルギー行動計画(APAEC)で2025年までに一次エネルギー供給の23%を再生可能エネルギーとする目標を掲げつつ、炭素税や排出量取引といったカーボンプライシングも進展しつつあります。
ASEANのサステナビリティ政策の進展により、日本企業は規制対応の強化と新たなビジネスモデルの構築を求められています。特に、現場での実装が求められるカーボンクレジットを活用した二元的収益モデルやNbSは、持続可能な成長の鍵となります。しかし、シンガポールのNational Climate Change Secretariatやインドネシアの環境・林業省(KLHK)といった政府機関、Temasek Foundationのような地域財団、WWFなどの国際NGOとの連携なしには、実効性のある事業展開は困難です。日本企業がこれらの変化に適応し、成長機会を確実に捉えるためには、戦略策定だけでなく、現場での実行力とグローバルなネットワークを生かしたパートナーシップが不可欠です。
次回の記事では、カーボンクレジットを活用した事業展開の具体的な戦略にフォーカスし、成功事例や最新の市場動向を深掘りします。ASEAN市場での新たな成長機会をどのようにつかむのか、ぜひご期待ください。
ASEANのサステナビリティ政策が企業経営に大きな影響を与えており、戦略的な対応が求められています。 シンガポールを中心とするカーボンプライシング政策が加速し、さらにNbSを活用したカーボンクレジット市場が注目を集め、投資先としてのポテンシャルが拡大しています。 日本企業はこれらの構造変化に対応し、新たな成長機会を戦略的に獲得する必要があります。