PEファンドのCFOが投資ライフサイクルの5段階全てを通じて価値を創造するには

プライベートエクイティ投資先のCFOが投資ライフサイクルを通じて価値を創造するには

プライベートエクイティの投資先CFOは、投資ライフサイクルの全てにおいて、優先順位を決め、イグジットバリューを最⼤限⾼める等、中⼼的役割を果たしています。


3つの質問

  • CFOは早期に価値の追求に着手しているか。
  • CEOは素早く企業価値の目標を達成できるのか。
  • 投資先の財務部門はポートフォリオ企業をまたいだ連携により企業価値を高めているか。

EY Japanの視点

日本においても、経営請負人としての米国型CFOの役割が期待されており、コーポレート・ガバナンスの強化や物言う株主が台頭する中、プライベートエクイティ(PE)投資先のCFOの役割はますます重要になっています。

PEの投資先を成功に導くため、能力のあるCFOを招聘(しょうへい)することは非常に重要であり、近年ではファイナンス領域だけでなく、経営企画やイグジットまでのストーリーの策定に関与する等、期待される役割はより広く、高度化しています。

EY Japanは、ポートフォリオ企業の価値創造のため、CFOのアジェンダとして、以下のような支援をしています。

  • 経営管理体制(レポーティング)の高度化
  • 予算/中計策定支援
  • LBOレンダー向け報告支援(コベナンツ管理)
  • 運転資本/CCC改善支援
  • M&Aを活用したロールアップ支援
  • IFRS導入/IPO支援
  • 税務コスト削減支援
  • ESGポリシーの策定・導入支援

EY Japanの窓口

高柳 圭吾
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EYパルテノン ディレクター

プライベートエクイティ(PE)の最⾼財務責任者(CFO)は、ディール前の評価、デューデリジェンスからPMI、イグジット(Exit)に⾄るまで、投資ライフサイクルを通した価値創造において中⼼的な役割を果たしています。CFOは常に⼤局を⾒ながら細部を理解する能⼒を備え、業務効率化のリーダーであると同時に戦略遂行に⽋かせないパートナーでもあります。

ただし、これは厳しい任務です。投資実行からイグジットまでの間、プライベートエクイティの投資先CFOはタイトな時間軸の中で高い⽬標を達成し、投資家へのリターン最⼤化に尽力します。⾼インフレや⾦利上昇、地政学的リスクの⾼まりといった厳しい経済状況の中、⽬標の達成は今まで以上に重要になっています。キャッシュ・フロー改善とコスト削減に留意し、好機を察知し事業に不可⽋な情報を提供する有能なプライベートエクイティのCFOは、近年イグジットバリューの最⼤化を究極のミッションとするプライベートエクイティの影のヒーローとして認識されるようになりました。

プライベートエクイティの優れたCFOは価値創造に向けて、それぞれ5つの段階で次の対応を取っています。

1. 買収前の価値追求に早期に着手する

プライベートエクイティのディールチームは、対象企業の財務部門と連携して、ディールの開始時から極めて重要な役割を担います。最初に⼿がけるのは、戦略的な分析とポートフォリオの⾒直しを含めた市場評価、機会分析、ビジネスモデリング、税務ストラクチャリング、財務デューデリジェンスとバリュエーションです。次に、ストラクチャリングを含め、対象企業のバリュエーションに基づき買収価格を検討します。レバレッジを活⽤した資⾦調達を⾏うPEファンドの構造上、CFOはイグジットまでに1回はリファイナンスするため、資金の流動性の管理と資本構成の最適化は不可⽋であり、それがCFOの1つの⼤きな強みでもあります。

財務部門は時に、デューデリジェンスの観点から、主要な事業ドライバーとの整合を意識した上で、営業・マーケティング業務を評価し、利益項目(損益計算書)にあえて提言する必要があります。また対象企業の顧客が誰で、その顧客から企業・事業・商品がどう認知されているか理解し、収益の源泉を見極める必要があります。ここでの評価結果は、企業の事業計画とバリュエーションに織り込む必要があります。

デューデリジェンスの中でも、ポートフォリオ企業に価値創造の機会がないか検討します。買収後、新たなポートフォリオ企業のCFOは、キャッシュ改善に関する未着手の施策を⾒つけ、競争力を高め、⻑期的な成功をもたらすコスト最適化戦略の策定が必要となります。

2. Day 1が迫る中、優先順位を決め、ペースを加速させる

対象企業の財務部門はディールの実行を⾒据え、ディール前のデューデリジェンスからポートフォリオ企業の経営状況の把握と経営の見える化に早急に着手する必要があります。ポートフォリオ企業を独⽴運営するのか、より規模の⼤きいポートフォリオに含めるかも判断の1つです。最初のステップとして、CFOはまず、業務・営業・マーケティング・ITの各チームが投資⽅針をよく理解し、おのおのをうまく連携させる必要があります。

プライベートエクイティの投資先CFOは、経営に役立つレポーティング体制を迅速に整え、データを活⽤した最適な意思決定に有用な重要業績指標(KPIs)を適切に定め、さらに、精度の高い予算策定、適切なガバナンスおよび管理体制をDay 1までに構築する必要があります。

次に、通常100日プランにてCFOに求められるのは、市場環境が変化する中であらゆるオプションを評価し、継続的にビジネス・ドライバーを評価、モニタリング、予測することです。また経営の見える化を進め、ビジネスとの連携を高めることに加え、テクノロジーの有効活⽤も経営には欠かせません。例えばEYは、PEファンド投資先の世界的な海運・海洋企業から委託を受けて、財務事業全体の評価とプロセスの徹底的な調査をした結果、業務効率を40%アップできることをクライアントに提言しました。

3. 企業へ投資し数年経過すると、成⻑を加速し、統合や規模の適正化を図る

投資実行から数年経過すると、適切に財務管理を行うとともに、必要に応じ柔軟に軌道修正をしながら、ポートフォリオ企業の規模を拡大し、予算達成することが求められます。最初のステップでは、投資額と⽬標ROIに沿った適切なターゲット・オペレーティングモデルを定義付け、それに向けた実行が求められます。これには適切な⼈材の確保と、従業員、プロセス、テクノロジーの適切な配備が必要です。


優秀な⼈材を採⽤・育成し、定着させることは経営にとって極めて重要です。EYの2023年版Private Equity Survey から、事業の成⻑は当然として、⼈材管理が規模の大小を問わず戦略上の最優先課題であることが分かり、⾃社に合ったインセンティブ制度の設計は⽋かせません。また、複数のポートフォリオ企業の財務部門の連携を高めることも重要です。それにより、⼈材の有効活⽤が可能になり、知的好奇⼼が刺激され、キャリアの幅が広がることで優秀な⼈材をつなぎ留める⼀助となります。


また、業務の⾃動化は、時代に遅れないだけでなく、成⻑の持続と経営管理の向上に貢献し、テクノロジーの活用はCFOにとって重要な経営アジェンダとなっています。そのため、システム・テクノロジーの選定と導⼊を近年ではCFOが積極的にリードするようになっています。

税務戦略は、法規制の順守からはじまり、価値創造のための最適な税務ストラクチャリングに至るまで、不可欠なものとなっています。税務戦略に関して、CFOは次の問いに回答できる必要があります。

 

  • 税務テクノロジーを適切に利用することで、業務効率化が図られ、有⽤な税務情報が⼊⼿可能か。
  • 税務に関連した社内で発生するコスト・外部に支払う報酬は相場に⾒合ったものとなっているか。
  • 企業の税務担当者や外部アドバイザーは適正なスキルセットを備えているか。

同時にCFOは、税務部⾨が適正な人数となっているか確認し、ビジネスに必要な税務機能を備えているか継続的に把握する必要があります。

この段階で財務部門に求められるのは、EBITDAの最⼤化と運転資本の改善、イグジット時にROIを最⼤化するストーリーの策定、その実現に注⼒することです。具体的には、会社の財務数値を管理する上で、デューデリジェンスの視点を考慮したKPIモニタリング等、収益ドライバーとコストドライバーを明確にします。収益とコストのシナジー効果をもたらすM&A戦略(アド・オン)の策定は重要な価値創造の⼿段となり、特に、金融市場が厳しく、⼤型のレバレッジ取引が制限されている場合に重要となります。

4. ポートフォリオをまたいだ連携により価値を引き出す

EYは、プライベートエクイティとの対話を通じ、ポートフォリオ企業間の点と点が線で結びきれていないことに気付きました。例えば、同じセクターに属するポートフォリオ企業でさえ、PEファンドは市場でのインサイトやビジネス機会を共有していないことが多々あります。この事はポートフォリオ企業の価値創造の上で⾮常に⼤きい機会にもかかわらず、⾒過ごされており、その背景には、組織連携上の問題や、チームのサイロ化などが考えられます。業務と戦略の両⽅に軸⾜を置き、組織のトップのPEファンド投資先のCFOは、そのギャップを解消する理想的な⽴場にあります。

⼀⽅で、PEファンド投資先企業の垣根を越えて協⼒し合い、互いに協力することをチームに奨励する、適切なインセンティブ設計も必要となります。ここでも重要な役割を果たし得るのは、テクノロジーの活用です。特定の業務やデータ収集活動の成果がバックオフィス業務の⼀部としてシェアされ、重要なインサイトとビジネス機会を効果的にポートフォリオ企業間に伝えるには、徹底した取り組みが必要になり、CFOは主導的な役割を果たすことが求められます。

5. 撤退に備え、イグジット時のバリュエーションを最大化する

投資先企業のCFOはイグジット戦略のシナリオ策定において重要な役割を果たします。初期投資時には⼀定の保有期間とイグジット戦略が計画されていたとしても、CFOは常に経済環境の変化を察知しながらイグジットを成功に導き、ROIの最⼤化が求められます。加えて、選択したシナリオによっては追加的な基盤構築が必要となるケースもあり、株式公開(IPO)を例にとると、IRや外部への情報開⽰を含め、業務プロセスと⼿順書の強化が不可⽋です。

またイグジットに備え、その会社のストーリーと経営指標を、予定するイグジットオプションと連携させる必要があります。財務部門には、ストレッチ⽬標値と現実的な目標値のバランスを取ることが求められ、予定するイグジットの9カ⽉から遅くとも6カ⽉前までには、CFOは専⾨チームを始動させます。明確なストーリーとその裏付けデータを活用し、デューデリジェンスの準備を始め、財務部門はディールに全⼒で取り組む必要があります。

さらにイグジット時のROIの最⼤化に当たり、環境・社会・ガバナンス(ESG)の情報開⽰も考慮する必要があります。ESGの各種指標を適切に開⽰し、期待される透明性を確保することは、バリュエーションに一定のプレミアムをもたらします。多くのCFOにとってESGは最優先課題ではないかもしれませんが、ESGは昨今注⽬を集めているテーマであり、プライベートエクイティでは広く、投資判断時に重要視されるようになってきています。

PEファンドの投資先CFOの進化

PEファンドの投資先CFOが担う役割はこの10年間で劇的に変化しており、絶えず進化しています。CFOが⼤きく評価されているのは、さまざまな役割の中でも特に、ディールにおいて効果的なアドバイスができる点です。また企業規模にもよりますが、戦略的な機会の見極め、資⾦調達プロセスの支援、ストレスシナリオの策定、新たなテクノロジー導⼊を監視する能⼒も評価されています。

CFOは、PEファンドに素晴らしい結果をもたらす上で、中⼼的役割を果たすようになりました。そのチャレンジと責任の範囲は以前と⽐べ格段に広くなっていますが、新たな価値創造の機会を発掘し、実現する能⼒は、PEファンドから共通して求められるものであり、優れたCFOを際⽴たせる特徴でもあります。

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    サマリー

    CFOと財務部門は、より優れた成果の達成に向けてPEファンドを導く上で、さらに中心的な役割を果たすようになりました。その中でも、新たな価値を創造する機会を見いだし実現する能力を持つCFOが、際立って重要な存在となっています。

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