イノベーションでデータが持つ力を引き出し、価値ベースの医療を実現するには
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ey-how-you-can-jumpstart-innovation-to-unlock-the-power-of-data-to-deliver-value-based-care (PDF)
個別化されたヘルスエクスペリエンス(医療体験)は既に存在していますが、将来の発展に向けては各医療機関のエコシステムを通じた連携が必要です。
3つの質問
- 試験的取り組みを大規模な変革につなげるために戦略的投資をどのように行うか。
- 将来に向けてリスク、データ、報酬の共有のために医療機関はいかに協力し合えるか。
- デジタル化が容易には進まない社会において、コネクトケア、そしてその先のスマートヘルスシステムにいかにつなげていくか。
EY Japanの視点
デジタル技術、通信技術、センサー技術、AI等の進展により、ヘルスケアを取り巻く環境は大きく変化しています。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、変化の流れは加速しています。本レポートにおいては、こうした変化をアナログケアからデジタルケア、コネクテッドケアを経て、スマートヘルスシステムへと向かう道筋としてグローバルの動向を説明しています。
日本においても多くのプレーヤーによりさまざまな疾患領域においてそうした方向を目指す試みが行われています。最近では、不眠障害用アプリ、ニコチン依存症治療アプリ、高血圧治療補助アプリ等が薬事承認され、医療現場で処方されていますが、その他にもスタートアップ企業を中心にイノベーションによるヘルスケア領域への付加価値を生み出す試みが行われています。こうしたイノベーションが普遍的なモデルに進化するためには、価値ベースでの医療の考え方の普及と、データ中心のテクノロジー、個別化されたユーザーエクスペリエンス、目に見えるアウトカムの向上等がキーになります。日本発ヘルスケアテクノロジーの進展が大きく期待されています。
人間はテクノロジーの影響を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向にあります。未来科学者のロイ・アマラ氏の名を伝える「アマラの法則」では、今日の主要なヘルスサイエンス企業が業界の将来の方向性を把握し、課題に対応するのに直面している課題を忠実に捉えています。人間は直線的に考える傾向にあり、既にあるテクノロジーによる抜本的な変革のポテンシャルを判断する妨げとなっています。EYの最新のレポート、How will you jumpstart innovation to unlock the power for data to deliver value-based care?(PDF、英語版のみ)では、この問題を掘り下げています。
センサーや、いわゆるIoMT(医療版IoT)の膨大な広がり、空前の医療データの急増、これらデータをインサイトに変える人工知能(AI)の急速なパワー拡大は、今や現実のものとなりました。これらがその他のテクノロジーと共にそのポテンシャルをフルに引き出せれば、現在のシステムとは違ったヘルスケアモデルが誕生するでしょう。EYではこれをインテリジェント・ヘルスエコシステム(IHE)と呼んでいます。超流動的で迅速なデータフローと、相互運用性に対応したデータ基準によるハイパーコネクテッドなシステムでは、意思決定を最適化し、アウトカムを向上させ、新たなイノベーションへのアクセスを加速し、患者中心の個別化されたヘルスエクスペリエンスを提供します。
課題は現状の部分的デジタルのアナログケアから、コネクテッドケアを超えた真のスマートヘルスシステムであるインテリジェント・ヘルスエコシステムへと進むことです。
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上の図は、医療がシーケンシャル型の「アナログケア」から「デジタルケア」へと進化する過程を整理したものです。患者重視が高まる中、デジタルケアは最終的に「コネクテッドケア」となり、人工知能(AI)が担う役割は大きくなっていきます。こうした流れが、未来の「スマートヘルスシステム」への完全な移行につながるのです。
アナログケア:紙ベースから電子記録に移行するとともに、データに関するポリシー、原則、ガバナンスを策定。アナログケアからデジタルケアへの移行を促す推進力となるのは、生産性向上への圧力、経済的圧力、消費者の需要、高齢化、慢性疾患などです。
デジタルケア:システム間の相互運用性の確保により、データセットの結合とアウトカムの比較が可能。デジタルケアからコネクテッドケアへの移行を促す推進力となるのは、技術の最新化、相互運用性の推進、人手不足、影響力のある「スーパー消費者」の存在などです。
コネクテッドケア:バーチャルモデルで360度から患者を把握し、かつAIを活用して得たインサイトを参考に、臨床・手術面の意思決定をリアルタイムで行うとともに、価値ベースの医療モデルを構築。コネクテッドケアから新たなスマートヘルスシステムへの移行を促す推進力となるのは、技術の進歩、エコシステムの受容、リスクの共有/報酬、プラットフォーム中心のビジネスモデルなどです。
スマートヘルスシステムの特徴は以下の通りです。
- 統合型:患者を中心に据え、そのデータを管理
- 目標設定セラピー、効果の実証、個別化医療
- リアルタイムなフィードバックループを形成することで継続的に改善(センサー使用)
- ペイシェントジャーニー(患者がたどる医療プロセス)を通して意思決定を最適化
- 戦略的ソーシング:入手したテクノロジーを相互運用性の基準に準拠させ、データフローを維持
- デジタル化エッジコンピューティング:データを一元管理ではなく、ネットワーク周縁(エッジ)でプッシュ/プルで情報配信を実施
- バーチャル医療と対面医療を完全に統合
- インサイトを共有
このビジョンは、非常に大きなポテンシャルを秘めているものの、アナログケアを脱し、デジタルケアやコネクテッドケアを経て、真にスマートな、未来の医療システムであるインテリジェント・ヘルスエコシステムへと移行する業界の取り組みは、現在までほとんど進んでいません。最大のハードルは、テクノロジー側の限界ではなく、人間側の限界です。テクノロジーが指数関数的な速さで進歩しているのに対して、業界のステークホルダーのさまざまなニーズのすり合わせがほとんど進んでいません。ステークホルダーがそれぞれ価値を置き、重視し、投資するものがなかなか一致せず、それが足かせとなり、医療を変革できる、よりつながったエコシステムの実現に向けて前進することができないのです。
ステークホルダーがお互いのデータにアクセスし、つながり、自らのデータと組み合わせて付加価値を生み、さらにはそのデータを共有してエコシステムに還元できれば、相互運用可能なモデルは生き残るだけでなく、成功を収めることができるでしょう。このことをステークホルダーが理解すれば、すり合わせが必要であることを了解するはずです。残念ながら、業界のこれまでのビジネスモデルはこうした考えを土台としたものではありません。これまでとは異なる、より良い未来のモデルの実現を試みる企業にとって、課題の核心にあるのはこの問題です。
最大のハードルはステークホルダーがそれぞれの立場から価値を置くものの不一致
自分が健康でいられるよう、健康状態をきちんと把握し、すぐに適切な治療情報にアクセスするにはどうすればよいのか。
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診断の迅速化を図り、最も効果的な治療を行うには、どのようにデータを活用し、エビデンスに基づいた診療を行えばよいのか。
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被保険者の健康を維持し、最も費用対効果の高いヘルスソリューションを提供するにはどうすればよいのか。
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国民・住民の健康増進のためには、どのように各優遇措置を調整し、リスクを管理すればよいのか。
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承認の取得を迅速化し、イノベーションを持続させることができる水準の助成金などを長く受給するにはどうすればよいのか。
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ただ、これはどちらかが得をすればどちらかが損をするような、いわゆるゼロサムゲームではありません。ステークホルダー同士が、自分の目的の相互依存性に気付き、協働的なアプローチを取れば、インテリジェント・ヘルスエコシステムの発展を阻む最大の障壁はたちまち消えるはずです。今必要なのは、膨大なデータを異なるステークホルダーが別々に保管するモデルではなく、ある個人の「ペイシェントジャーニー」に特有の詳細なデータを、特定の疾患領域のステークホルダーが相互に依存し合いながら利用できるモデルです。こうした形でデータを利用できれば、より的確な決定を下し、全員にとってより良いアウトカムを実現できるでしょう。
価値ベースの医療がステークホルダーを結び付けることができる理由とは
価値ベースの医療のメリットは、この10年間で広く認識され、その原則も今ではほとんどの関係者にすんなりと受け入れられるようになりました。価値ベースの医療が一般的なものになるための課題は、「何に価値があるのかに合意する」という問題です。目的の相互依存性と価値観への合意によって価値共有のための意味あるフレームワークを形成できます。価値ベースの医療モデルがこうした相互依存を可能にし、ステークホルダーの足並みをそろえることができます。協調がなければ、業界の投資とイノベーションの取り組みは、舵なく漂流する船のようになりかねません。価値ベースの医療が一般的になれば、インテリジェント・ヘルスエコシステムでスマートヘルスを提供するという目標の達成に向け、ヘルステクノロジーの活用へと業界が動き出すことになります。
現在、EYインテリジェント・ヘルスエコシステム・ダッシュボード(下図参照)を見ると、新たなテクノロジーへの業界の投資パターンに方向性が欠如している現状が浮かび上がってきます。ここ数年は各組織が、新たなテクノロジーを利用した幅広いパイロットプログラムに着手しているものの、こうしたプログラムは、普及レベルには至っておらず、相互依存のレベルも革新的なものにはなっていません。変革を生むような成功事例がないため、各組織はこうした新テクノロジーが持つポテンシャルと革新的な成長への新たな波への大きな投資に二の足を踏んでいる状況です。
EYインテリジェント・ヘルスエコシステム・ダッシュボード
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上図は、EYインテリジェント・ヘルスエコシステム・ダッシュボードのイメージ図です。従来の業界専門領域以外(従来の医薬品開発テクノロジーではなく、デジタルテクノロジーなど)でのイノベーションに対するヘルスサイエンス企業の投資状況の推移を追跡するものです。
このダッシュボードでは、上記定義に従い、デジタルモデル、コネクテッドケアモデル、スマートヘルスモデルのどれを対象としているかに応じて、企業の投資を分類しています。また、その投資で以下のような重点を置くバリューチェーンの領域も識別しています。
- 販売
- 創薬
- 患者エンゲージメント
- 研究開発
- 規制関連
- サプライチェーンと業務
- 複数の領域
また、投資をしている各イノベーションの成熟度に応じても、企業の投資が以下のように分類されています。
- 実証段階:販売前のイノベーション、または4カ所以下の国・地域でのみ販売されているイノベーション
- 展開段階:実証段階から進んで、5カ所の国・地域で販売されているイノベーション
- 成熟段階:既に大規模に展開され、複数の医療現場で標準ツールとして導入されているイノベーション
ダッシュボードに掲載した投資の大部分は、(スマートヘルスではなく)デジタルケアやコネクテッドケアのイノベーションです。また、実証段階に集中しており、イノベーションへの投資は行われているものの、業界で真の変革を実現できる規模や相互運用には至っていないことも示しています。
市場で受け入れられ認められている3つの新テクノロジーの事例を見てみましょう。
- 1つ目はスマート吸入器。呼吸器疾患を管理する従来の「アナログ」吸入器にセンサーを組み込んだ、効果の向上を目的とする製品で、患者の医薬品の使い方に関するデータを収集し、フィードバックすることができます。
- 2つ目は、関節置換術で長らく使われてきた人工関節(インプラント)。センサーが搭載され、人工関節を新たに入れた後の患者の改善状況をチェックし、そのデータを医療チームに伝えることができます。
- 3つ目は、遠隔医とチャットボット式のデジタルトリアージツール。これらの活用により、バーチャル医療チームが担う役割も拡大している事例です。
これら3つの事例それぞれが何らかの治療の改善を可能にしてきたと言えますが、呼吸ケア、関節置換術、患者の医療へのアクセスに対して、大規模な改革を起こすまでには至っていません。変化が、急進的ではなく漸進的である理由を理解するために、自然界でもビジネス界でも私たちが度々目にする「S字カーブ」について考えてみましょう。新たな製品やイノベーションは、普及していく過程で急成長を遂げた後、安定期を迎え、成長が頭打ちになる場合が少なくありません。そうなると、その製品を最終的に待ち受けているのは減速と消滅です。企業は往々にして、製品の改良や、現行の動作機構のデジタル化による効率性の向上と製品の性能曲線の伸長で、この結末を先延ばししようとするでしょう。ヘルスサイエンス業界において、製品とサービスのデジタル化は現在、その市場寿命を延ばす試みとなってしまっているようです。
ほぼ全ての生命体(とビジネスモデル)は、ありきたりのパターンである典型的なS字カーブをたどる
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上のグラフは、時間の経過に伴う進歩/成長の「S字カーブ」が自然界とビジネスモデルではどのような動きを頻繁に繰り返すかを示したものです。ここでは、革新的な製品(や新興企業)は成長期を経た後、普及が加速し、成長速度が最大に達します。
そうすると通例、成長は安定期に入ります。その後、成長は鈍化し、下り坂を迎え、製品は消滅へと向かっていくことになります。ビジネス界では、「カーブを広げて」製品の消滅を先送りしようとする企業もあるかもしれません。デジタル化などで、その製品に関わるビジネスモデルを最適化すれば、先送りできる場合もあるでしょう。
このグラフを見ると、それよりも意欲的な目標、すなわち、消滅を完全に回避し、次のS字カーブ成長の波へと飛び込むことも可能であることが分かります。テクノロジーの力を借りて、イノベーションが持つポテンシャルを引き出し、自社の業務を変革すれば、これを実現することができるかもしれません。
とはいえ、真に目指すべきは、先送りではなく消滅の回避です。それには、これまで以上に組織は意欲的に取り組み、現製品の単なる最適化の先を行く発想が必要となります。次のS字カーブの成長という上昇気流に向けた飛躍を可能にするようなイノベーションの扉を開けなければなりません。このことは大きなチャレンジになりますが、これまでの成功要因が将来も通用するとは思えません。また、個人投資家も(国庫の管理者である政府を含めた)機関投資家もリターンを求めます。ヘルスケア業界でこのような飛躍を遂げるには、エコシステムへのアプローチと、関係者が足並みをそろえることが必要となりますが、それを可能にするのが、先に述べた価値ベースの医療です。業界とそのステークホルダーが足並みをそろえることができれば、イノベーションのポジティブフィードバックループにより、S字カーブの成長の連続で普及率が上がると考えられます。
「価値観」の不一致を解消し、リスク、報酬、データ、インサイトを共有することで、ヘルスケア業界のステークホルダーは「カーブを乗り越えること」ができる
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上のグラフは、S字カーブが成長を続け、業界が現在の状況(一部デジタル化されているものの、依然として旧式のアナログシステム)を脱し、コネクテッドケアから、最終的にはスマートシステムへといかにして移行できるかを図示したものです。
いずれの場合も、ステークホルダー間の足並みをそれまで以上にそろえることで、消滅へと向かう各S字カーブの衰退期を回避できるでしょう。このグラフを見ると、エコシステムモデルが発展するにつれ、業界とそのステークホルダーの間の足並みが着実にそろっていくことが分かります。最終的には、医療提供者、ペイヤー、患者、政策立案者に加え、業界自体もこれに加わります。
そして、足並みがそろうにつれ、以下に示すようにステークホルダーがデータを共有する規模が拡大し、また意欲も高まっていきます。
- データストリームをつなぐ
- データセットを組み合わせる
- アクセスとインサイトを共有する
こうしたデータの共有と相互依存するステークホルダーによるデータの解析により、業界がカーブを乗り越え続け、以下のような段階が実現するのです。
- データの内容を把握して診断についてのインサイトを提供できるデジタルシステム
- データを利用して予見可能なインサイトを提供できるコネクテッドシステム
- 処方的能力を生かしてデータから価値を引き出し、それを提供できるスマートシステム
グラフを見ると、ステークホルダーのエンゲージメントが高まるにつれ、現在のシステムからスマートシステムへの移行も、継続的学習によってさらにインテリジェントになるデータとテクノロジーに支えられ、促されることが分かります。
このエコシステムのアプローチでは、デジタルイノベーションが、単なるスタンドアロンなポイントソリューション以上の役割を担い、より広範囲かつ強力な、データ中心のテクノロジー医療システムにつながることを可能にします。スマート吸入器とそのデータストリームは、連結されたセンサーネットワークの一部として機能し、よりリアルタイムな治療を患者に提供するしょう。例えば、自宅のセンサーが空気質と気象データを解析し、呼吸リスクを把握して、患者の吸入器使用を促す、などです。さらに将来的には、インテリジェント・ヘルスエコシステムが現実のものとなり、検知、予測、介入が今まで以上に迅速化され、おそらくは患者側が行動を起こす必要もなくなるでしょう。また、バイオエレクトロニクスを活用した埋め込み機器が神経炎症の要因を突き止め、兆候が表れる前にそれを取り除くことができるようになるかもしれません。
現在治療によって対処している呼吸器症状を予防できるスマートシステムを構築するには
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上のグラフは、呼吸器症状の治療に今まで以上に役立つスマートシステムを構築するための方法を表したものです。この実現には、以下の過程が必要です。
デジタルケア:デバイスモニターに組み込んだセンサーで「報告」できる
コネクテッドケア:自宅のセンサーで空気質と気象データを解析し、ぜんそく発作を「防ぐ」ため吸入器の使用を促す
スマートヘルスシステム:バイオエレクトロニクスを活用した埋め込み機器が、細胞反応で神経炎症の要因を突き止め、炎症を予防し、それによりぜんそく発作を防ぐ
同様に、現在の「スマート人工関節」も術後ケアを提供するデジタルエコシステムの一部となるでしょう。患者は現在、退院後の回復とセルフケアを自分で管理する必要があり、指導をあまり受けられない状況にありますが、近い将来にはデジタル・パーソナルアシスタントを介して、自宅でコーチングを受けられるようになります。スマート人工関節から送られてくるデータにアクセスすることで、患者は指導を受けながらリハビリを進めることができ、リハビリの終了も早まります。またこのデータは、コーチングプログラムの最適化にも役立つはずです。さらに、インテリジェント・ヘルスエコシステムでは術後の患者が、今まで以上に個別化された効果的な管理を受けることができます。人工関節やスマートホーム環境から送られてくる豊富なデータを参考にシミュレートされたデジタルツインを構築することで、患者一人ひとりのニーズに合わせた双方向型物理療法による個別化治療が可能になるでしょう。
デジタルケアとコネクテッドケアを経て、インテリジェント・ヘルスエコシステムへの移行が完了すれば、患者が必要に応じて訪れる従来型の医療機関での医療ではなく、健康管理が生活と実質的に一体化し、治療が進む中で患者を取り巻くテクノロジーが常に自動的に最適化され、アウトカムを向上させることのできる世界が実現するものと考えられます。現在は、旧式のシステムにデジタル遠隔医療がある程度導入されるレベルにとどまっていますが、将来的にはバーチャル病院の認知度が高まり、高度に個別化、かつ予測的でもある、専門家の総合的なサポートをリモートで提供できるようになるでしょう。インテリジェント・ヘルスエコシステムの進化に伴い、さらにその先へと進み、大規模で専門的な遠隔診療が出現すると見込まれます。この遠隔診療では、医療エンジニアがデータとテクノロジーを活用して、離れた場所にいる膨大な人数の患者を実質的に管理することになるとみられます。
医療に対するこの新たなアプローチでは、各ステークホルダーが求めるアウトカムをもたらすことになるはずです。医療提供者は、現在より格段に効果的に医療を届けるために必要な情報とツールを手にし、ペイヤーと政策立案者は、真に機能する医療に資源を投じるようになるでしょう。医療のスマート化で、長期間にわたり費用もかさむ患者の通院が不要になり、住民のウェルビーイングと生産性が維持されます。政策立案者にとってはヘルスケア(今日の医療は正確には「シックケア」と表現される)を単に財政的な負担としてではなく、社会の公共資産と考えるようになります。こうした効果的な新しいケアアプローチを実現できる医療機関も、提供した便益によって評価されることになるでしょう。価値ベースの医療システム内における異なる償還価値が、イノベーションを評価し支えることになるのです。
インテリジェント・ヘルスエコシステムが提供する個別化されたヘルスエクスペリエンスは、特別なものではなく必要とされるもの
価値ベースの医療は、個別化治療を通じて業務を効率化し、効果と効率を両立させるのです。現状では、どのような介入がどの患者の役に立つかを予測する上で必要なデータが少なすぎるため、医療費の多くが見当違いの目的に使われ、無駄が生じていますが、インテリジェント・ヘルスエコシステムの構築に向けたこの取り組みは変革をもたらし、一人ひとりのペイシェントエクスペリエンスとアウトカムを向上させることになるでしょう。医療の個別化は特別なことではなく、アクセスの拡大と健康の公平性の確保で必要不可欠なものなのです。
ヘルスケア業界とそのステークホルダーは長い間、ヘルスエクスペリエンスの質が患者にとっていかに重要であるかを軽視してきました。他業界を見ると、より良いユーザーエクスペリエンスを提供する上で、利便性、品ぞろえ、シームレスな取引、透明性、個別化の重要性をマーケットリーダーが身をもって示しています。ヘルスケア業界では、こうした学びを得るのに時間を要したものの、医療システムのデジタル化が進み、よりつながり、よりスマートなシステムになるにつれ、エクスペリエンスの向上は重要な問題となるでしょう。これまでは、個人の主観的なヘルスエクスペリエンスは取るに足らない問題と見なされ、臨床結果に焦点が当てられてきましたが、今やアウトカムの向上で中心的な役割を果たしています。自らの治療に一層関与し、力を得ることで患者は単により幸せになるだけでなく、より健康にもなるのです。
インテリジェント・ヘルスエコシステムは、業界とそのステークホルダーのニーズ、そして、両者が一致協力して貢献する患者のニーズを満たすことができるヘルスケアの未来を創出します。こうしたビジョンを実現するためのテクノロジーが今ここにあります。そのテクノロジーに長期間にわたり効果を発揮させ、医療の提供の仕方を飛躍的に変えることのできる組織が、この新しい時代のリーダーとなり、未来にふさわしい医療を届けることができる新たなエコシステムにおいても、中心的な役割を担っていくでしょう。
- デジタルケア:デジタル化されている領域。主に従来型のオペレーティングモデルで、診断的な性格を持つ
- コネクテッドケア:それぞれ独立したデバイスの一元的運用。新たな個別化であり、予測的な性格を持つ
- スマートヘルス:知的介入。高度に個別化され、医療機関間の連携で相互に依存し、処方的な性格を持つ
サマリー
ここでお伝えしたいことは、ヘルスケア業界には今、こうした強力なツールがあるということです。実証段階や実験段階の取り組みから一歩踏み出し、価値ベースの医療で業界全体の足並みをそろえることが、より良い未来のヘルスケアとより良い診療報酬を実現するというビジョンに向けて飛躍するための投資へとつながります。企業に求められているのは、こうしたツールをどのように利用するかについて、これまで以上に先進的な考えを持つことなのです。このことは、業界に属する既存企業にとって、行動を起こす良いきっかけとなるはずです。全ての関係者に価値をもたらすことができる未来にふさわしいヘルスケアモデルの実現に向けて乗り出し、現状を変えれば、飛躍的な成長という恩恵を受けることができるでしょう。
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