EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本レポートでは、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって大きな影響を受けたヘルスサイエンス・ウェルネス業界の企業がどう対処していくべきか5つの視点からトレンドを紹介しています。日本の企業にとっても大いに当てはまる有益なものであり、今後のビジネス展開に欠かせない視点であると考えます。
日本においても、この業界は人類の健康を守る産業として大きな注目を浴びました。病院は感染者の対応に、製薬会社は治療薬やワクチンの開発に大きな期待が寄せられ、医療機器企業も検査キットやマスクなどの需要が増大しました。個人のレベルでも、在宅での自粛生活でさらに健康になった人、いわゆる「コロナ太り」をはじめ不健康になった人に二極化し、免疫力の向上も含め健康維持への関心が高まりました。一方、医療体制の脆弱性、医療費の膨張、過剰な治療や投薬などはかねて指摘されていたことですが、こうした社会問題にもあらためて意識が向けられ、解決への機運も高まっています。
ポストコロナの時代は、治療から予防、さらには個人の健康維持へと焦点が移ります。日本でも今後、遠隔診断やAI・デジタル技術活用が進み、健康管理データの活用によって人々の意識や行動が変わり、健康を増進する新たなビジネスモデルが他産業を含めたコラボレーションで活性化することになるでしょう。
新たなデータベースツールやテクノロジーによって、医療と健康へのより個別化されたアプローチが可能となります。個別化ヘルスエコシステムの出現をけん引する5つのトレンド(pdf)から分かるように、今ほどこの個別化アプローチが必要とされているときはありません。
企業や組織は、健康の形を変え得るデータ活用の可能性をこれまでも認識していましたが、その変革を促す「切迫感」がありませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックおよびその後の混乱により、データを中心にしたデジタルビジネスモデルに対し、より柔軟に機敏にそして革新的に対応する機会が生まれました。
今回のパンデミックは永続的な形で世界を変えています。あるCEOがフォーチュン誌に語ったように、「危機の出現は『重大な再出発』ではなく『重大なリセット』とみなされるべき」なのです。
今回の危機は、コストの高騰、未整備のインフラ、高齢化、疾病人口といった構造的な問題を医療機関に突き付けました。これら課題に対処するには、パンデミックへの対応と同様に、ステークホルダー間の緊密な協働、共通目標、データを共有・活用する相互運用システム構築へのコミットメントが必要です。
特に、このデータ中心の未来のために組織が注力すべき5つの分野があります。
私たちは今、前例のない健康データ急増の時代を迎えています。2018年、ヘルスケア業界は1,218エクサバイトのデータを生成したと推計されています。人は一生のうちに膨大な量のデータを生み出します。しかし、そうしたデータは多数のサイロに分散されるため、そこから読み取れるのは個人の健康に関する孤立した「スナップショット」でしかありません。これらのデータを統合することで断片的なスナップショットは連続した動画となり、患者の健康についての見通しや課題、ニーズをより深く、完全に理解することが可能となります。これら豊富なデータ活用を中心に構築したシステムで、より良いアウトカムが得られる未来が予測できるでしょう。
しかし現在、こうした情報はサイロ化されてしまっています。組織には、データを所有し収益化することから、それをつなぎ、組み合わせてヘルスケアを一変させることのできる価値ある考察を導き出すことへのシフトが求められます。
患者の生活や健康を改善することができるイノベーションを加速する最良の方法は、データに対する保護主義を止めることです。代わりに、患者個人の健康に関する個人データをすべて統合できるような、まったく新しいヘルスケアエコシステムを検討する必要があります。この未来のエコシステムの中心に立つことで、患者個人が医療と健康に対する高度に個別化されたアプローチの焦点となります。
新たなエコシステムを構築するにあたって、組織に求められるのは以下の通りです。
来るデータ革命の中心となるのは、治療の変革につながる補完的テクノロジーでしょう。これらのテクノロジーは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが加速する中で極めて重要な役割を果たしました。センサーはソーシャルディスタンスを監視するために人々の動きを追跡し、5Gは遠隔医療および仮想現実を活用した遠隔トリアージをけん引、AIは創薬の取り組みを支援しました。
こうした最近の活用例は、テクノロジーがヘルスケアにもたらす革新的可能性の前兆にすぎません。すでに環境のいたるところにセンサーが組み込まれ、リアルタイムでデータストリームを取得しており、健康をより総合的にとらえることができます。
5Gの登場によりデータ伝送が高速化すると同時に、AIアルゴリズムが分析能力を大幅に向上し、高速かつ大規模にデータをインサイトへと変換できます。米国食品医薬品局(FDA)が2018年から2019年の間に認可したアルゴリズムの急増を見れば、AIの急速な進展が一目で分かります。
これらのテクノロジーが結合してパワフルな新規ネットワークを実現し、未来のヘルスケアエコシステムの重要な一部となっていくのです。
センサー、5G、AIの可能性を最大限に生かすため、組織に求められるのは以下の通りです。
行動がヘルスアウトカムの重要な要因であることは、世界的なコンセンサスが得られています。行動が極めて重要な役割を果たしているという認識から、多くの新興デジタル企業が行動パターンを分析し、影響を及ぼそうと試みています。こうした試みは、この1年である程度成功を収めています。例えば、Virta Health社は遠隔指導プログラムで2型糖尿病の改善に効果が見られたことを報告しています。
ただし、その可能性を現実のものとするためには、行動変容を健康管理の独立した分野としてではなく、重要な医療を個別化し、管理する方法として位置付ける必要があります。これからの製品とサービスの供給には、AIとセンサーが患者の行動を継続的に「判断して促す」観点での評価が可能で、健康向上への行動を促す環境が必要です。
行動変容を可能にするデータを活用するにあたり、組織に必要なのは以下の通りです。
組織が規制当局の承認および患者と消費者の賛同を得るためには、今後の信頼の構築が不可欠です。例えば、サイバープロテクションは現在業界全体の課題となっています。企業が信頼を勝ち取るには、自社製品と生成・保持・共有するデータを保護する措置を講ずる必要があります。
FDAは、AI規制の新たなアプローチを提案するガイダンスを2019年に発表しています。信頼される企業は、アンロックアルゴリズムを発表し、こうした製品の性能をモニタリングする際にFDAと協働することが許可されます。このような協働的な信頼に基づく環境の中で成功する企業は、非常に有利な立場に立ちます。そうした企業は、広範なエコシステムに自信を持って関わるための安全かつ便利なツールを個人に提供する将来の「高信頼インテリジェンス」システムの構築に最も適していると言えるでしょう。
高信頼インテリジェンスシステムを構築するにあたり、組織に求められるのは以下の通りです。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらす世界経済への影響から、企業はかつてないほど厳しい資本の制約を受けています。そうした制約により企業は、さまざまなアプローチに労力を分散させるのではなく、的を絞ったビジネスモデルへと移行することが大切です。
ブレークスルーイノベーターは、がんから認知症に至るまで、アンメットメディカルニーズへの新たなアプローチを開発していきます。エフィシェントプロデューサーが世界中で必要とされる手頃な価格で効率的な治療を提供します。医療従事者や医療システムの対応能力が限界に達する中、疾病マネジャーとライフスタイルマネジャーは、特に持病のある個人への医療提供の際、エコシステムにおいて重要な役割を果たします。
すべての企業にとって、ポストコロナの課題は残ります。ここで言う課題とは、採用可能な最適なビジネスモデルを識別し、その分野で各自が最大の効果を発揮できるデータを取得することです。
将来のビジネスモデルを実現するために組織に求められるのは以下の通りです。
世界中のヘルスシステムやビジネスモデルがコストの高騰と高齢化の問題に悪戦苦闘する中、力を得た個々人はすでに、より健康に長生きできるよう個別化された治療への移行を求め始めています。組織は重要な5つのトレンドに注目することで、データがけん引する未来で成功し繁栄するための態勢を整えることができるでしょう。
今日の業界にとってこれが特に重要なのは、不安定な情勢を切り抜け、新型コロナウイルス感染症とそれがビジネスにもたらす混乱に対処し、医療におけるデータ革命を加速するために必要だからです。