好機を捉えるために、どう準備するか。
Man driving formula racing car on motor racing track

好機を捉えるために、どう準備するか。


世界のIPO(新規株式公開)市場は記録的な好調から一転、完全に失速しました。2023年に向けたトレンドの変化に注目してみましょう。


要点

  • 2022年の世界のIPOは前年比で件数が45%減少、調達額が51%減少した。
  • パンデミック前と比較すると、IPO件数は16%増加した。 
  • Asia-Pacific(アジア・パシフィック)のIPO調達額は、世界全体の67%であった。


2021年の記録的な好調の後、世界のIPO市場は2022年に急激な衰退へと転じました。IPO件数は1,333件、調達額は1,795億米ドルにとどまり、それぞれ前年比で45%減、61%減となりました。バリュエーションの低下と株式市場の不調により平均調達額が減少したことから、大型IPOの件数も限定的でした。 

2022年、世界のIPOは2021年以降に行われた多くのIPOの悲惨なパフォーマンスに加え、市場のボラティリティの高まりやその他の思わしくない市場状況に、年間を通して影響を受けました。インフレの進行と金利の上昇を背景とした環境の中で、投資家は新規上場企業を敬遠し、よりリスクの低いアセットクラスに目を向けました。同様に、金融機関をスポンサーとするIPOも件数で77%、調達額で93%の急落となりました。また、2020年後半以降に上場したSPAC(特別目的買収会社)の多くが2年の期限を迎え、今後は合併対象を見つけるか、IPO調達金を投資家に返還しなければなりません。ここに述べた急激な減少は2021年との比較ですが、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年と比較すると、2022年の世界のIPO件数は16%増加しています。 

2022年の市場活動は全般的に低調であったものの、控えめながら成功を収めたセクターや地域もあります。テクノロジーセクターは2022年も件数で全体の23%を占めてリードを保ち、エネルギーセクターは調達額で22%を占めました。調達額が10億米ドル超のメガIPOに関しては、エネルギーセクターのメガIPOが高いバリュエーションを得たことから、2022年の平均調達額は2021年比で45%の増加となりました。中国本土、中東、ASEAN諸国の一部などの特定の市場は、世界的な著しい低迷にもかかわらず、比較的良好な結果を残しています。 

EY Global IPOリーダーのPaul Goは次のように述べています。「2021年のIPOの記録的な好調に取って代わり、地政学的緊張の高まり、インフレ、積極的な利上げによるボラティリティの高まりが2022年のIPO市場を支配しました。株式市場の低迷、バリュエーションの悪化、IPO後の思わしくないパフォーマンスによって、IPO投資家の心理はいっそう冷え込みました」


EYの最新のIPO市場動向レポートをダウンロードする

EYの世界のIPO市場動向レポート2022 では、地域別・国別のデータを含め、より踏み込んだ分析と洞察を提供しています。

世界のIPO

地域別パフォーマンスの概要:2023年の市場の持ち直しと市況の好転が待ち望まれる
 

Americas(北・中・南米)のIPOは大不況ピーク時以来の落ち込みとなりました。市場はボラティリティとインフレ対策のあおりを受け、件数で13 年ぶり、調達額で 20 年ぶりの低水準となり、件数が前年比76%減の130件、調達額が95%減の90 億米ドルと、どちらも2021年から急落しました。AmericasのIPOの大部分(69%)は米国の取引所での実施でした。 
 

Asia-PacificのIPO件数は845件、調達額は1,206億米ドルでした。この地域は世界的な景気後退と地政学的緊張による影響が最も小さく、2022年のIPO全体に対し件数は63%、調達額は67%を占めました。中国本土のIPOは記録的な調達額の再達成に向けて順調に推移しました。
 

EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)のIPOは、件数が358件、調達額は499億米ドルで、それぞれ53%減、55%減となりました。欧州のIPOは地政学的な混乱により78%減少しましたが、MENA(中東・北アフリカ)では、エネルギーなどの大型IPOの完了と、政府の民営化計画に沿って展開されたイニシアチブとの相乗効果の恩恵で、調達額が115%増加しました。また、上位10件のIPOのうち5件をEMEAのIPOが占めました。  

 

2023年の見通し:ファンダメンタルズとESGに注目しつつ、好機を待つ 
 

2023年に向け、前途には有望なIPOパイプラインが数多く存在します。少なくとも第1四半期は低調が続く可能性が高いものの、下半期には世界のIPOが勢いを取り戻すような好条件が整うものと思われます。 
 

ポジティブな市場心理と株式市場の業績好転、インフレ率の抑制と利上げの終了、地政学的緊張の緩和、パンデミックによる経済への影響の低減などが、IPO市場の再活性化の前提条件となります。 
 

IPOを目指す企業の多くは、依然としてしかるべきタイミングを待つ「様子見」の構えを見せています。ここしばらくは、投資家は企業の単なる成長予測ではなく、増収率、収益性、キャッシュフローなどのファンダメンタルズに注目するでしょう。
 

企業のIPO後の株価パフォーマンスと環境・社会・ガバナンス(ESG)戦略の伝達には正の相関性があることから、企業の ESG課題に対する投資家の注目も今後ますます高まるでしょう。   
 

「パイプラインの構築が進む中、多くの企業がIPO計画復活の好機を待っています」と、Paul Goは述べています。
 

「こうした流れの中でも、市場流動性の逼迫からリスク回避の姿勢を強めている投資家は、ESG課題を明示しながら収益性とキャッシュフローの面でレジリエントなビジネスモデルを打ち出すことができる企業を選好しています」と、Paul Goは付け加えています。


株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

ipo globe


IPOを成功に導く可能性を最大化するために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF、英語版のみ)をダウンロードしてください。

過去のIPOレポート


サマリー

EYの世界のIPO市場動向レポート2022では、年間を通じて世界のIPO市場が落ち込んだことが明らかになりました。マクロ経済の課題がもたらす変動、市場の不確実性、ボラティリティの高まり、世界的な株価下落などにより、多くのIPOが延期されました。


この記事について