EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2025年3月6日(木)、大和証券株式会社との共催によりEYスタートアップカンファレンスを開催しました。
ここ数年グロース市場が低迷し、上場前後における持続的な企業価値向上が課題として認識される中、今回は「急成長スタートアップ成功の秘訣~2025 IPO最前線~」と題して、上場前後を通じて急成長を遂げたスタートアップの経営者をお招きし、証券市場やVC業界の専門家の視点も交えて、成功の秘訣をひもときました。
会場とオンライン視聴合わせて約250名にご参加いただき、大盛況なカンファレンスとなりました。
EY新日本有限責任監査法人 副理事長 大内田敬の開催あいさつの後、大和証券株式会社 執行役員 プライベート・コーポレート担当兼公共法人担当 阿部東洋氏に講演いただきました。
まず、株式マーケットについて、2025年はトランプ政権の政策動向が大きなリスク要因であるものの、日本株の割安感と内需刺激期待が株価をけん引する見込みであると解説いただきました。
次に、IPOの動向を解説いただきました。国内におけるIPO時のバリュエーション水準はPER中央値が約16倍とほぼ横ばいであること(図1)や、赤字企業によるIPOの動向(図2)をご説明いただきました。また、上場時時価総額100億円未満のスモールIPOが全体の6割前後を占め、その後に時価総額が大きく上昇した企業は限定的である点(図3)を指摘されました。なお、IPO準備期間は日米ともに長期化する傾向にあるが、日本ではダウンラウンドの回避等を理由とした上場延期の増加が背景にあると分析いただきました。
このような中、スタートアップが買い手となるM&Aが増加傾向にあり、上場前の事業基盤の強化や競争優位性の確立を目的としたM&A(図4)やスウィングバイIPOの事例をご紹介いただきました。最後に、上場後には上場維持コストの負担が大きいことも踏まえ、上場前にM&Aなどを含めた企業価値向上策を取りベストなタイミングで上場を目指してほしいとのメッセージをいただきました。
2024年にユニコーン企業としてグロース市場に上場を果たした株式会社タイミーの代表取締役 小川嶺氏、タイミー創業期の投資家としてサービスローンチ前から関与してきた株式会社エフベンチャーズ 代表パートナー 両角将太氏をお招きし、弊法人 シニアマネージャー 長谷川昌俊をファシリテーターとしてトークセッションを行いました。
まず、タイミーが数年前に最年少上場を見据えながらも上場を延期し、事業をよりグロースして上場を実現した経緯をご紹介いただきました。そこで、上場のタイミングについて伺ったところ、小川氏から、会社の規模にかかわらず、市場環境や競合の状況を考慮し、上場後に事業が成長できる状態にあるかを吟味して判断することが重要とのご意見をいただきました。なお、タイミーでは上場後に社会的注目度が高まったことなど、上場の意義を実感していると共有いただきました。
次に、スタートアップが急成長するポイントについては、両角氏から、市場環境の変化を味方につけることや経験豊富で優秀な人材をチームに取り込むことの重要性を伺いました。小川氏からは、ユニコーン企業を実現する過程では、創業社長が起業家としてのエネルギーを維持しつつ、経営者としてのマインドセットへ転換し、組織を束ねて本業のプロダクトを強化することにリソースを集中することが大切と伺いました。また、調達した資金を積極的に成長投資に回すことも重要なポイントとご指摘いただきました。スタートアップが大企業との競争に勝つためには、希薄化を過度に恐れることなく、スピードを優先する戦略が重要と伺いました。
2023年にグロース市場に上場し、規律あるM&Aによる「連続的な非連続な成長」を実現した株式会社GENDAの取締役CSO 羽原康平氏、大和証券株式会社 公開引受担当 理事 松下健哉氏をお招きし、弊法人 シニアマネージャー 髙橋朗をファシリテーターとしてトークセッションを行いました。
GENDAでは累計で40件、うち11件はIPO前にM&Aを実施していることをご紹介いただき、M&Aを成功に導く上で、まずは社内組織体制の整備が重要であることを確認しました。証券会社の視点からも、被買収企業を管理する体制やノウハウが構築できていると安心感があると解説いただきました。
次に、M&Aのプロセスに沿ってポイントを伺いました。羽原氏からルート別のソーシングの特色や、投資回収を検証する際にシナジーは価格には反映しない考え方をご紹介いただきました。また、PMIにおける人的統合の重要性や、必要なガバナンスは短期間で構築し、グループ内で法人格を統合することもあると伺いました。この点、松下氏からグループ内企業との合併等は連結財務諸表の作成負担を軽減する観点でも有効と解説いただきました。
最後に、IPO準備中のM&Aの活用及び留意点について伺いました。M&Aの成否は不透明であるため、GENDAでは、事業計画に将来のM&Aは織り込まないと伺いました。一方で、松下氏からはマイナスの要素があれば保守的に織り込む考え方をご紹介いただきました。なお、IR上は、M&Aのトラックレコードがバリュエーションに寄与することもあると伺いました。
弊法人 パートナー 大⻆博章から、スタートアップでよくあるストック・オプションの会計処理等の論点(図5)やM&Aでよくある取得原価の配分等の論点(図6)、今後適用されるリースに関する会計基準(図7)を紹介させていただきました。
プログラムの取りまとめとして、最後に弊法人 企業成長サポートセンター 副センター長 善方正義からの閉会あいさつの後、ご登壇者と参加者の名刺交換会が催され、関係者のネットワークが図られました。
開催に多大なご尽力をいただいた大和証券株式会社の皆さま、またご多忙のところ、貴重な知見を共有いただいたご登壇者の皆さまに心から御礼申し上げます。
弊法人では、今後もスタートアップエコシステムの発展やIPO市場の活性化に向けて、スタートアップの皆さまにお役に立つ情報提供やセミナー開催を実施してまいります。本業であるIPO監査についても、さらに体制を強化し積極的に取り組んでまいります。引き続き、何とぞ宜しくお願いいたします。
塚本 健瑠
EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター
※所属・役職は記事公開当時のものです。
ここ数年グロース市場が低迷し、持続的な企業価値向上が課題として認識される中、上場前後を通じて急成長を遂げたスタートアップの経営者をお招きし、証券市場やVC業界の専門家の視点も交えて、成功の秘訣をひもときました。開催に多大なご尽力をいただいた大和証券株式会社の皆さま、また、貴重な知見を共有いただいたご登壇者の皆さまに心から御礼申し上げます。