期末に向けて企業は継続企業の前提、資産の減損、負債の分類、気候関連の開⽰、第2の柱モデルルールに対処する必要があります。
要点
- 経済課題が企業の財務安定性に影響を与え、資産の減損、負債の分類、継続企業の評価の開示が必要となる場合がある。
- 企業は定量的要因と定性的要因の両方を考慮し、企業固有の、かつ透明性のある情報開示を通して気候変動の課題に対処する必要がある。
- 複雑な第2の柱モデルルールが2024年の当期法人所得税に影響を与え、コンプライアンスと情報開示が必要となる。
期末が近づき、多くの企業が年次財務諸表と関連報告書の準備に着⼿しています。経済状況全般と昨今の財務報告の動向を考慮すると、来る決算シーズンに向けて、企業の経営陣や取締役会メンバーは次の主要テーマに注⼒することが重要でしょう。
減損、債務の分類、継続企業の前提 —— インフレと⾼⾦利、不安定な商品市場、変動する外国為替レート、その他のマクロ経済要因が、多くの国で景気後退を引き起こしています。その結果、資産の減損がより頻繁に⽣じることになるでしょう。IFRSに基づく⼀般的な減損モデルとは別に、⾦融商品、棚卸資産、関連会社や合弁事業への投資などの⼀部の資産は、減損損失の特定の認識および測定要件の対象となります。また不利な契約に関連する追加負債の認識が必要となる可能性もあります。
景気低迷の影響は⻑期借⼊金の財務制限条項に対する企業の順守を左右する場合があるため、負債の流動・⾮流動の評価にも影響する可能性があります。企業が期末⽇または期末⽇前に財務制限条項に抵触し、負債が要求払債務となった場合は、期末⽇前に返済猶予を受けて抵触を効果的に是正し、期末⽇から12カ⽉以内に返済する必要がないように対処しない限り、当該負債は流動負債と分類されます。
現在の経済状況は企業の財政状態と業績に重⼤な悪影響を及ぼす可能性があることから、継続企業の前提の妥当性にも影響しかねません。継続企業の前提が使⽤されていない場合、あるいは経営管理者が評価に際して、継続企業としての存続能⼒に重⼤な疑義を⽣じさせるような事象または状況に関する重要性がある不確実性を認識していた場合には、開⽰が求められます。また、重要性がある不確実性の有無の評価に重⼤な判断が⽤いられた場合にも、開⽰が必要となります。
気候変動事項への配慮 —— 近年、環境負荷の低減に向けた明確な取り組みの情報提供を、企業に促す圧⼒がますます⾼まっています。こうした開⽰は年次報告書内で⾏われることが多く、投資家、規制当局、その他の利害関係者の⼤きな注⽬を集める傾向にあります。
気候関連の開⽰はIFRSの必須事項ではないとの考えは、企業が避けなければならない落とし⽳です。IFRSは現在のところ、気候関連事項に関する個別の明確な基準を定めていませんが、気候関連リスクやその他の類似の不確実性は、多くの会計分野に影響を与える可能性があります。またIFRSは企業に、気候変動に関連する可能性がある重要な仮定、⾒積り、判断の開⽰も求めています。
気候関連の開⽰はIFRSの必須事項ではないとの考えは、企業が避けなければならない落とし⽳です。
それに加えて、気候変動の取り組みに関連する新たな会計上の問題が⽣まれています。例えば、⼆酸化炭素排出量の相殺や削減のためにカーボンクレジットの使⽤を決定した企業や、再⽣可能エネルギーから電⼒を調達するために電⼒購⼊契約の締結を決めた企業もあるでしょう。IFRSに具体的な会計処理を⽰す明確なガイダンスがない中、こうした新たな課題に対しては、個別の事例や関連する会計上の要求事項を特定し慎重な分析を行った上で、適切な処理を判断しなければなりません。
企業が陥りがちなもう1つの落とし⽳は、財務諸表内の開示と財務諸表外の開⽰について、明確な関連性が不⼗分な場合があることです。規制当局は最近、財務諸表上で気候関連事項の⼗分な開⽰を⾏わなかった企業に対して強制措置を取るようになっています。企業は定量化した情報で前提条件と感応度を⽰すなど、企業固有の、かつ透明性のある開⽰を⾏い、⾒積りに含まれる不確実性を説明する必要があります。また、財務諸表外の気候関連事項の開⽰と、気候リスクを財務情報に組み⼊れる⽅法の両⽅で、⼀貫性を確保することも重要です。財務諸表への影響は定量的に重要性がないと結論付けた企業もあるかもしれませんが、重要性評価は定量的要因・定性的要因の双⽅に基づくべきです。
財務諸表への影響は定量的に重要性がないと結論付けた企業もあるかもしれませんが、重要性評価は定量的要因・定性的要因の双⽅に基づくべきです。
第2の柱モデルルールの導入 —— 多くの国・地域は国際的な税制改⾰を促進する第2の柱モデルルールを導入しており、2024年以降、⼤規模な多国籍企業には各法域における拠点の利益に対し、最低税率15%のグローバルミニマム課税が義務付けられます。国際会計基準審議会(IASB)は2023年5⽉にIAS第12号「法⼈所得税」を改訂し、法域で第2の柱モデルルールの導入から⽣じる繰延税⾦の会計処理に対し、⼀時的な例外(強制)規定を設けました。その結果、国際税制改⾰が企業の財務業績に与える影響は、2024年の当期法⼈所得税に及ぶことになります。
それに加え企業は、第2の柱の関連法制が(実質的に)制定されているものの未発効である期間において、第2の柱の法⼈所得税から⽣じるエクスポージャーについて財務諸表の利⽤者が理解するのに役立つ、既知または合理的に⾒積り可能な情報の開⽰を求められます。
第2の柱モデルルールの影響を受ける企業は、関連する法域の導入状況を注視する必要があります。また、2024年の当期法⼈所得税を算出するプロセスを確⽴し、改訂によって開⽰が求められる情報を適切なタイミングで⼊⼿することが重要です。
第2の柱モデルルールは複雑であり、企業に与える全体的な影響は特に法域ごとの実施状況に左右されます。第2の柱モデルルールの影響を受ける企業は、関連する法域の実施および(実質的な)発効状況を注視する必要があります。また、2024年の当期法⼈所得税を算出する適切なプロセスと⼿続きを確⽴し、改訂によって開⽰が求められる情報を適切なタイミングで⼊⼿することが重要です。
全般的な経済状況と昨今の動向を踏まえると、企業は期末財務報告にいっそう多くのリソースと時間を割り当てる必要があるかもしれません。利害関係者と規制当局双⽅のニーズと要求事項の変化を理解することが、財務報告の効果的な情報提供の在り⽅と継続的な改善の鍵となるでしょう。
サマリー
来る決算シーズンに向けて準備を進める企業は、第2の柱モデルルールの影響を注視する⼀⽅で、経済課題がどのように継続企業の前提に影響するか、また気候変動関連の開⽰の透明性をいかに確保するかを熟慮しなければなりません。変容する経済情勢の下、こうした変化を監視し、リソースを効果的に配分し、堅固な財務報告を望む利害関係者と規制当局の要求に応えることが必要不可⽋です。
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