パブリックバリュー(PV)の観点から見た地域交通の持つ社会的価値とは?

パブリックバリュー(PV)の観点から見た地域交通の持つ社会的価値とは?


地域交通は、地域の人々の生活の維持・向上やウェルビーイングの観点から社会的価値の高い事業です。
この地域交通について、組織活動による社会への影響度を普遍的に捉える指標として欧州等で研究が進む「パブリックバリュー(Public Value :以下「PV」)」を用いて分析することで、地域での議論の一助とすべく、調査を実施しました。


要点

  • 地域交通は高いPVを有しており、地域交通に対する投資とPVには相関関係が観察された
  • 高いPVを有する地域交通を地域で維持・活用していくには、更なる事業構造の再構築が求められる
  • 地域交通に限らず生活インフラの価値を可視化するツールとしてPVを有効活用することが考えられる


1. 調査趣旨

わが国では、少子高齢化の進行に伴う人口減少の進展等の環境変化によって、特に地方部では過疎化も進展しています。官民問わずさまざまな生活インフラに関連する事業において利用者減少・採算悪化・担い手不足が深刻化し、事業規模の縮小や事業の終了を余儀なくされる事態が生じています。

しかし、地域の人々の生活を支える上で、生活インフラなどの社会的価値の高い事業については、住民の生活の維持・向上の観点から、事業を持続可能な形で担保していくことが求められており、これをどのように実現していくかが重要な課題となっています。一方で、このような生活インフラを担う事業者の多くは、公的主体による財政的な裏付けに支えられている側面があり、このままでは、公的財政負担への依拠が拡大し続けることとなってしまいます。そのため、社会的価値の高い生活インフラ事業について、どのような仕組みによって支えていくことが地域社会にとって適切なのかを検討することは、各地において喫緊の重要課題であると考えられます。

生活インフラのうち、特に地域交通については、わが国では民間事業者が主体となって営利事業として展開されてきました。しかし、現在、利用者減少や運転士等の担い手不足等により、事業の持続可能性が危ぶまれています。交通事業以外の利潤で交通事業を支える内部補助構造や、公的主体による路線単位の補助では、事業を持続可能な形で担保していくことが限界を迎えており、地域ぐるみの事業構造の再構築が求められているところです。

そこでEYでは、組織活動による社会への影響度を普遍的に捉える指標である「パブリックバリュー(Public Value :以下「PV」)」を用いて、地域交通に着目して分析を実施することとしました。
地域交通の交通モードごとに、地域交通事業の各経営指標等とPVとの関連性について分析を行うことにより、その社会的価値をPVという観点から改めて可視化し、広く地域住民や関連するさまざまなプレイヤーに訴求することで、今後の事業構造再構築の議論の一助とすることを目的としています。
 

2. 調査の概要と示唆

具体的には、地域交通の課題に事業者や自治体等が積極的に取り組んでいる実績があると想定される4都市(前橋市、長野市、熊本市、長崎市)の各交通モード(バス、タクシー、ローカル鉄道、路面電車等)を対象とし、PVへの影響を分析しています。また、各交通機関の事業に対して、事業者自らもしくは公的主体が一定の資金を投下し(投資)、交通の維持・活用に即した事業活動を展開、促進してきたことのPVに与える影響について分析しました。

この結果、地域交通の各交通モードに関するPVは高く、地域差があることが観察されました。また、輸送人員1人当たりの投資額とPVには相関関係がある可能性が見受けられました。
目下、赤字経営が常態化し持続可能性が危ぶまれているような地方の各交通モードを担う事業者にとっては、これまでの投資水準を維持していくことも困難になっているところと考えられますが、利便性維持のための各交通モードの運用に重要な経営資源への投資が減退してしまうと、PVも下がっていく可能性(住民が地域交通の社会的価値をより感じにくくなり、さらに利用が減退する可能性)が示唆されたところです。
地域交通のような社会的価値の高いサービスを担う組織・事業体を地域全体で支えていくには、例えば、今般、国土交通省が掲げている3つの共創(交通事業者間の共創、官民の共創、他事業との共創)・DX・GXを中心とした、事業構造の再構築が求められます。このような地域全体での事業再構築においては、交通の社会的価値の可視化が必須となります。

このような価値を可視化した例は交通の分野ではほぼなく、これまでは社会的価値が十分に客観的・定量的に認識されてきたとはいえません。今回の調査のように、地域交通が存在していること、また、地域交通に関する何らかの取組みを実施すること(インプット)によって創出されるアウトカムにフォーカスし、交通がもたらしている価値を一事業者や路線単位の損益にとどまらず可視化していくことは、これまでの業界の垣根・官民の垣根を越えた「共創」の促進や、これまでにない新たなファイナンスの創出や、公共の財源確保(公的なファイナンス)にもつながりうるものと考えます。
以上のような「価値の可視化」の重要性の観点からは、1つのツールとして、PVを有効活用していくことが考えられ、今回の調査結果は、その有用性の一端を示したものと言えます。本調査結果を踏まえ、PVを各地域で活用し、地域における地域交通といった生活インフラの持続可能性確保に向けた議論の一助となれば幸いです。
なお、調査結果レポートは下記よりダウンロードして頂けます。

是非、ご一読ください。

「パブリックバリュー(PV)の観点から見た地域交通の持つ社会的価値とは?」をダウンロード



【共同執筆者】

白石 俊介
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション リード・アドバイザリー マネージャー

田窪 成貴
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション リード・アドバイザリー シニアコンサルタント

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

地域交通は、今、持続可能性が危ぶまれ、地域での事業構造再構築が喫緊の課題となっています。今回の調査を通じて、地域交通は高いPVを有すること、また、地域交通への投資がPVを上昇させる可能性があることが観察されました。
地域交通の社会的価値をPVで可視化することで、地域での投資の喚起に繋げるなど、各地におけるPVの活用は地域の生活インフラの持続可能性確保に寄与するものと考えられます。


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