EY Japan、NEC、マイクロソフトの3社がひも解く「生成AI&生体認証による金融ビジネス革命」

EY Japan、NEC、マイクロソフトの3社がひも解く「生成AI&生体認証による金融ビジネス革命」


2024年3月のFIN/SUM2024において、EY Japan、NEC、マイクロソフトの3社連携による「生成AI&生体認証による金融ビジネス革命」と題したパネルディスカッションを行いました。

⽣成AIや生体認証といった最先端技術が⽇本の⾦融機関にもたらす価値や期待が寄せられるカスタマーセンター、ウェルスマネジメント分野での展開について、技術説明を踏まえた議論が繰り広げられました。


要点

  • 生成AIによる多言語対応の音声認識やアバターの利用。さらに複数情報を組み合わせる生体認証システム等の最新テクノロジーは、金融をより身近にすることに貢献する。
  • 至るところで生成AIが組み込まれる世界がやって来て、そこに飛び込まざるを得ないタイミングにきている。
  • 金融サービスにおいて、生成AIで何が実現されるか、何が解決されるか。さまざまな業務の効率化、売り上げへの貢献、コンプライアンス向上への期待など、幅広く可能性が議論されている。

2024年3月 FIN/SUM2024にて、EY Japan、NEC、マイクロソフトの3社連携によるパネルディスカッション「生成AI&生体認証による金融ビジネス革命」

小川 恵子
EYストラテジー・アンド・コンサルティング 金融サービス バンキング・アンド・キャピタル(銀行・証券)マーケットリーダー、レグテックリーダー、パートナー(公認会計士)

岩井 孝夫 氏
NEC Corporate SVP 兼 金融ソリューション事業部門長

金子 暁 氏
日本マイクロソフト 業務執行役員 金融サービス事業本部 銀行・証券営業本部長


顧客接点であるコールセンター改革を実現していく最新技術として期待される生成AIと生体認証技術

⼩川 恵⼦(以下、⼩川)︓私どもEYにも「Trusted AI」と呼ぶAIガバナンスのフレームワークがあります。これからますます⽣成AIや、その周辺システム、もしくはストレージの基盤が複雑になっていくと、企業側には⾼難度のガバナンスが必要になると同時に、⽂字通りトラストに関する説明責任が増してきます。私たちは、そのための準備と実装のお⼿伝いをしており、そこに不可⽋なのが最先端テクノロジーです。また、ここ数年の⾦融界はデジタル化が注⽬されてきましたが、昨今では、リアルな世界での顧客接点、個々に注⽬したカスタマイズされたサービスへの潮流に最先端技術が求められていると感じ取っています。⽣成AIを軸に、⾦融機関で新しいテクノロジーがどういった価値を⽣み出していくかについてお聞きします。

金子 暁 氏(以下、金子氏):生成AIを使ってクライアントとの接点を変えていく時、お金に関するハードルを下げるため、あるいは金融をより身近にしていくために、「お金に関するCopilot』を設けてやり取りするイメージを持っています。新NISAも始まり、人それぞれの投資方法が違う中、最終的な判断は人間が行うとしても、情報取集の段階で副操縦士たるCopilotが横にいれば、より気軽に相談できます。

例えば「お金に関するCopilot』は、最も手軽なチャット式に始まり、現在のコールセンターから一歩進んだ、音声認識で本人確認できる方法も用意されています。声で本人確認できる仕組みには、生成AIが言語を理解する前に音声をテキストに変換するエンジンを入れます。すると会話がテキストとして残るため、次のフォローアップに回せるなど、その先のアクションに向けることができます。

さらに、チャットや音声認識まで出来れば、より親しみやすいアバターを使うこともできます。途中で話し手の言語が変わっても対応可能ですが、そこで重要なのは、マルチ言語化よりも、やはりクライアントの心理的ハードルを下げることに貢献できる点です。

小川:そうした技術が利用できれば、コンダクトリスクモニタリングも同時にできると期待が高まりますね。お話に出たコールセンターで働くオペレーターの皆さまにおいては、問い合わせ先との厳しいやり取りを発端とする離職率の高さが問題となっています。その点も生成AIがいったんクッションとなることで職場環境の改善が図れるのではないでしょうか。

岩井 孝夫 ⽒(以下、岩井⽒)︓NECの⽣成AIラインアップでは、業務の特性に応じた最適な⽣成AIの提供を⼤事にしています。それを踏まえてつくったNEC Generative AI Frameworkは、NECが独⾃開発した⽣成AI「cotomi」と、マイクロソフトの「Microsoft Azure OpenAI Service」を組み合わせてクライアントに提供しています。

ここからは⽣体認証の話になりますが、NECには⾳声だけではなく、顔、虹彩、指紋・掌紋、指静脈、声、⽿⾳響の6種の情報で認証する「Bio-Idiom」という生体認証ラインアップがあります。これを⾦融機関で活⽤する場合、マルチモーダル⽣体認証によってより安全に本⼈認証ができ、ダイバーシティの観点においても誰もが安⼼して使える環境を提供できるでしょう。すでにインドでは、顔、虹彩、指紋の3種の組み合わせにより国⺠IDの確認に利⽤されています。

⼩川︓提供側の都合ではなく、受け⼿側の多⽤性に着⽬されたサービス開発を推進されている点に感銘を受けました。⼀⽅で、そうした最先端技術が実⽤化されている中、100%の正確性が担保されない限り、金融機関としてはなかなかAIには踏み切れないといった声が⾦融機関のクライアントから届きます。この点について、⾦⼦さんはどうお考えですか。

金子氏:ハルシネーションの問題など、生成AIを使う上ではしっかりしたガードレールを敷かなければなりませんが、時間軸を考えるとゆっくり身構えている余裕はないかもしれません。PCとインターネットが普及し、そこにコンシューマー向けサービスが乗るまでに約10年。スマートフォンが登場し、ネットバンキングなどのアプリが広まるまでが約5年。その倍々のスピードを鑑みた場合、生成AI元年を2023年とすると、2025年もしくは2026年にはいろいろなところで生成AIが組み込まれるのが普通になる世界がやってきます。言い方を変えれば、金融機関のクライアントが生成AIに取り組まなくても、他のコンシューマーサービスが行うということです。心配や不安はあっても、そこに飛び込まざるを得ないタイミングに来ていると思います。

岩井氏:現時点で生成AIは新しいツールですが、ExcelやPowerPointが使いこなされるようになったのと同じく、生成AIも同様の道を歩むのは確実でしょう。また、働き方においても変革が起きていくと思います。例えば中途採用の方が「リモートワークはできますか」と尋ねるのと同様に、「業務でAIを使えますか」と尋ねるような世界になる。個々のレベルでも新しい働き方のスキルアップが大事になってくるでしょう。

金子氏:生成AIを使ったスキルで言えば、これから人間に求められていくのは、生成AIに対して的確な指示を出せる能力です。これまでは、検索ワードの選び方と並べ方が情報検索のスキルでしたが、今後は良いプロンプトを投げられる人がより良いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。そこで重要になってくるのが、どのようなデータを用意するかです。これはハルシネーションの予防にもつながっていきますし、その部分でいかにテクノロジーを使うかが鍵になってきます。


NEC Corporate 岩井 孝夫 氏
NEC 岩井 孝夫 氏

日本マイクロソフト 金子 暁 氏
日本マイクロソフト 金子 暁 氏

期待が寄せられるウェルスマネジメントの新たな世界

小川:政府が掲げた資産運用立国の実現プランにおいて、ウェルスマネジメントの世界で生成AIがどう活躍するかをお聞きします。
 

⾦⼦⽒︓具体的なポイントに絞ってお話します。例えば運⽤リポートを作成するとき、「投資家⽬線で考察を書いてほしい」と頼めば、⽣成AIは⾦融知識の豊富な⼈向けにまとめ上げます。ですが「投資家初⼼者に向けたわかりやすい考察」とすれば、相応の内容を提⽰してきます。その裏側では「中学⽣にもわかるように」というプロンプトを投げるわけですが、このあたりが⽣成AIスキルのポイントになります。あくまで個⼈が特定された上で⼀歩踏み込むなら、本⼈のレベルに合わせてパーソナライゼーションされたガイドが⾏われてもいいと思います。資産運⽤⽴国を⽬指すというのは、国⺠の多くが⾦融商品に興味を持つということです。⽣成AIは、ハードルを下げるのに⼤いに貢献できると思います。


小川:
NECでも企業戦略としてこの分野に着目されていますね。


岩井⽒︓欧州で1位、Asia-Pacificでも2位のシェアを有するAvaloqという、ヨーロッパのソフトウェアカンパニーを2020年に買収しました。その理由の⼤きなところは、ウェルスマネジメントにおけるデジタル変⾰の計り知れない可能性と、ウェルスマネジメントの⺠主化に向けた共通のビジョンです。さらに2023年には、Japan Asset Managementと資本提携を⾏いました。⽇本政府が重視する、企業における資産形成⽀援の拡⼤に向け、IFA(独⽴系ファイナンシャルアドバイザー)サービスに取り組むのが⽬的です。ここではまず、クライアントゼロとして2社との連携でNECグループ社員にファイナンシャルウェルビーイングを提供し、その後徐々に市場へ提供していくという試みをしております。


⼩川︓
資産運⽤の領域にもどんどん新しい技術が⼊ってくる印象を受けました。ウェルスマネジメント分野で生成AIに興味のある⽅もいらっしゃると思いますが、この分野での⼤局的なテクノロジーへの期待にはどんなものがあるでしょうか。


金子氏:
将来的には複数の生成AIを立ててディベートさせることも技術的に可能と聞いたことがあります。それが実現すれば、個々の資産運用の考え方や経験値に即したアドバイスを人間が判断できる、おもしろい未来がやってくるのではと思います。


岩井氏:
私はウェルスマネジメントの民主化が鍵になるとみています。デジタルの力を使って、富裕層以外にもウェルスマネジメントをしっかり提供していく。NECは「安全・安心・公平・効率という社会価値の創造」をパーパスに掲げており、当社のテクノロジーを通して皆さまの資産運用を助け、ウェルスマネジメントの裾野を広げるのが大事と考えています。


⼩川︓
お聞きしたいのは、「⾦融サービスにおいて、⽣成AIで何が実現されるか、何が解決されるか」です。あるクライアントから聞いた話になりますが、コールセンターで「おたくみたいな⼤企業様がさあ」という声をいただいた場合、それが褒められているのかクレームなのか判別できない。そのあたりも⾃然⾔語化モデルへの進化によって正しく意図をくみ取ることができるようになるのか、将来的に⽣成AIはどのような世界に到達するのか、ぜひお聞かせください。


金子氏:
金融サービス業界では、効率化の促進と売り上げへの貢献が大きなポイントになるでしょう。例えばコールセンターは、Copilotなどによって効率化できる余地がたくさんありますし、小川さんがおっしゃったフレーズのネガティブとポジティブも人間を通さずに判断できる世界になると思います。そうして効率が上がった分を売上貢献の投資に回すことも可能になっていく。コールセンターという一つのファンクションでも、生成AIの使い方で得られる効果が変わってくるとすれば、金融機関のさまざまな業務でも効率化と売上貢献が検討できますから、生成AIによる企業内の好循環が大いに期待できるのではないでしょうか。


岩井氏:
部署ごとの連携においては、他部署からの質問に回答できない情報もあります。それと同じく生成AIを大きな脳として使うと事細かに情報を分断できなくなるため、そこは小さな脳を使うケースを考えておく必要があります。つまり生成AIは、各企業の活用シーンでそれぞれ違った利用方法があるわけです。


金子氏:
モデルの使い分けは、マイクロソフトもModel as a Serviceを提唱しているように今後ますます出てくるでしょう。岩井さんがおっしゃったように、生成AIのユースケースは金融機関の中にありますから、実装する場合はどの技術が適しているのか、関係者の方々と考えながら、より良いサービスと価値をクライアントにお届けしていきたいと思います。


小川:
最後に、外部情報、中でもSNS関連の情報を使う時のポイントや課題についてお聞かせください。


岩井氏:
私どもの「cotomi」に関して、より良い情報を学習させていますが、やはりデータの純度は大事です。外部情報が真か偽かという問題もありますが、これだけSNSが発展した現在では、環境に応じたさまざまなタイプの生成AIをつくっていくのが私たちの務めではないかと思います。


金子氏:
生成AIを利用し始めたきっかけのシナリオの一つは、金融機関の皆さんも行っているクライアントのアンケート分析でした。回答を11つずつ確認していくのは大変でしたし、そこにもネガティブかポジティブか判明しない声があったのですが、生成AIを使えば一瞬で分析と要約をしてくれます。大事なのは、生成AIが果たしたショートカットから先の人間のアクションです。


小川:
ありがとうございました。現時点の生成AIにはたくさんの課題があるものの、さまざまなステークホルダーがエコシステムを組み、それらの課題をひとつずつ解決しながら、より良い社会の構築の実現に向けて寄与していきたいと思います。

写真左から)日本マイクロソフト 金子 暁 氏、NEC Corporate 岩井 孝夫 氏、EY Japan 小川 恵子
写真左から)
⽇本マイクロソフト ⾦⼦ 暁 ⽒、NEC  岩井 孝夫 ⽒、EY Japan ⼩川 恵⼦

サマリー

生成AIの登場は、働き方の変化にとどまらないビジネスの大革新を予感させました。その潮流を推し進めるテクノロジーの進化にも著しいスピードが見られます。金融機関においては、最新ツールに対して100%の正確性を確認する責任があるものの、間もなく到来するとされる「生成AIが普通にある社会」に向けた、1日も早い意識の変革が求められています。


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