EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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期待が寄せられるウェルスマネジメントの新たな世界
小川:政府が掲げた資産運用立国の実現プランにおいて、ウェルスマネジメントの世界で生成AIがどう活躍するかをお聞きします。
⾦⼦⽒︓具体的なポイントに絞ってお話します。例えば運⽤リポートを作成するとき、「投資家⽬線で考察を書いてほしい」と頼めば、⽣成AIは⾦融知識の豊富な⼈向けにまとめ上げます。ですが「投資家初⼼者に向けたわかりやすい考察」とすれば、相応の内容を提⽰してきます。その裏側では「中学⽣にもわかるように」というプロンプトを投げるわけですが、このあたりが⽣成AIスキルのポイントになります。あくまで個⼈が特定された上で⼀歩踏み込むなら、本⼈のレベルに合わせてパーソナライゼーションされたガイドが⾏われてもいいと思います。資産運⽤⽴国を⽬指すというのは、国⺠の多くが⾦融商品に興味を持つということです。⽣成AIは、ハードルを下げるのに⼤いに貢献できると思います。
小川:NECでも企業戦略としてこの分野に着目されていますね。
岩井⽒︓欧州で1位、Asia-Pacificでも2位のシェアを有するAvaloqという、ヨーロッパのソフトウェアカンパニーを2020年に買収しました。その理由の⼤きなところは、ウェルスマネジメントにおけるデジタル変⾰の計り知れない可能性と、ウェルスマネジメントの⺠主化に向けた共通のビジョンです。さらに2023年には、Japan Asset Managementと資本提携を⾏いました。⽇本政府が重視する、企業における資産形成⽀援の拡⼤に向け、IFA(独⽴系ファイナンシャルアドバイザー)サービスに取り組むのが⽬的です。ここではまず、クライアントゼロとして2社との連携でNECグループ社員にファイナンシャルウェルビーイングを提供し、その後徐々に市場へ提供していくという試みをしております。
⼩川︓資産運⽤の領域にもどんどん新しい技術が⼊ってくる印象を受けました。ウェルスマネジメント分野で生成AIに興味のある⽅もいらっしゃると思いますが、この分野での⼤局的なテクノロジーへの期待にはどんなものがあるでしょうか。
金子氏:将来的には複数の生成AIを立ててディベートさせることも技術的に可能と聞いたことがあります。それが実現すれば、個々の資産運用の考え方や経験値に即したアドバイスを人間が判断できる、おもしろい未来がやってくるのではと思います。
岩井氏:私はウェルスマネジメントの民主化が鍵になるとみています。デジタルの力を使って、富裕層以外にもウェルスマネジメントをしっかり提供していく。NECは「安全・安心・公平・効率という社会価値の創造」をパーパスに掲げており、当社のテクノロジーを通して皆さまの資産運用を助け、ウェルスマネジメントの裾野を広げるのが大事と考えています。
⼩川︓お聞きしたいのは、「⾦融サービスにおいて、⽣成AIで何が実現されるか、何が解決されるか」です。あるクライアントから聞いた話になりますが、コールセンターで「おたくみたいな⼤企業様がさあ」という声をいただいた場合、それが褒められているのかクレームなのか判別できない。そのあたりも⾃然⾔語化モデルへの進化によって正しく意図をくみ取ることができるようになるのか、将来的に⽣成AIはどのような世界に到達するのか、ぜひお聞かせください。
金子氏:金融サービス業界では、効率化の促進と売り上げへの貢献が大きなポイントになるでしょう。例えばコールセンターは、Copilotなどによって効率化できる余地がたくさんありますし、小川さんがおっしゃったフレーズのネガティブとポジティブも人間を通さずに判断できる世界になると思います。そうして効率が上がった分を売上貢献の投資に回すことも可能になっていく。コールセンターという一つのファンクションでも、生成AIの使い方で得られる効果が変わってくるとすれば、金融機関のさまざまな業務でも効率化と売上貢献が検討できますから、生成AIによる企業内の好循環が大いに期待できるのではないでしょうか。
岩井氏:部署ごとの連携においては、他部署からの質問に回答できない情報もあります。それと同じく生成AIを大きな脳として使うと事細かに情報を分断できなくなるため、そこは小さな脳を使うケースを考えておく必要があります。つまり生成AIは、各企業の活用シーンでそれぞれ違った利用方法があるわけです。
金子氏:モデルの使い分けは、マイクロソフトもModel as a Serviceを提唱しているように今後ますます出てくるでしょう。岩井さんがおっしゃったように、生成AIのユースケースは金融機関の中にありますから、実装する場合はどの技術が適しているのか、関係者の方々と考えながら、より良いサービスと価値をクライアントにお届けしていきたいと思います。
小川:最後に、外部情報、中でもSNS関連の情報を使う時のポイントや課題についてお聞かせください。
岩井氏:私どもの「cotomi」に関して、より良い情報を学習させていますが、やはりデータの純度は大事です。外部情報が真か偽かという問題もありますが、これだけSNSが発展した現在では、環境に応じたさまざまなタイプの生成AIをつくっていくのが私たちの務めではないかと思います。
金子氏:生成AIを利用し始めたきっかけのシナリオの一つは、金融機関の皆さんも行っているクライアントのアンケート分析でした。回答を11つずつ確認していくのは大変でしたし、そこにもネガティブかポジティブか判明しない声があったのですが、生成AIを使えば一瞬で分析と要約をしてくれます。大事なのは、生成AIが果たしたショートカットから先の人間のアクションです。
小川:ありがとうございました。現時点の生成AIにはたくさんの課題があるものの、さまざまなステークホルダーがエコシステムを組み、それらの課題をひとつずつ解決しながら、より良い社会の構築の実現に向けて寄与していきたいと思います。