生成系AIは経営層がまず試すべき、激変するホワイトカラーの業務

生成系AIは経営層がまず試すべき、激変するホワイトカラーの業務


生成系AIで切り拓く新たな価値創出~本質を知り、激変の時代に向き合う~(2023年12月7日開催)

生成系AIの飛躍的な進化から1年余りの2023年12月現在、世の中は激変しました。プロンプトに指示を出すと会議の議事録をまとめてくれたり、プログラミングのコードを自動生成したりと、さまざまなポテンシャルを示しており、この先もどこまで進化するのか、可能性に限りは見えません。この生成系AIによって私たちは、そして企業はどのような影響を受けるのかを、EYストラテジー・アンド・コンサルティングのテクノロジーコンサルティング パートナー 山本直人と、同外部顧問である椎名茂氏との対談によって掘り下げます。


要点

  • 生成系AIの飛躍的な進化は想像以上のインパクトをもたらしており、いち早く使うことが重要に。
  • 生成系AIは今後2、3年でホワイトカラーの本格的なDXを実現し、企業にも劇的な変化をもたらす。
  • ガイドラインの制定も重要だが、様子見をするくらいなら経営層が率先していち早く活用を。

想像を超えるインパクトを起こしたChatGPT

2022年より前には存在しなかったChatGPTですが、今やホワイトカラーの業務を中心に大きなインパクトを及ぼしています。人工知能・AIの第一人者である椎名茂氏は、とにかく早く使い始めることを推奨しました。

この対談では、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの外部顧問を務め、人工知能の第一人者である椎名茂氏をお招きし、テクノロジーコンサルティング パートナーの山本直人との対話を通して生成系AIがもたらすインパクトについてさらに掘り下げました。

椎名氏は人工知能の研究者からキャリアをスタートし、コンサルティング業界に転身したのち、再びテクノロジー業界でブロックチェーン関連の企業を起業するなど、幅広い経験と視野を持っています。エキスパートシステムを中心とした第2次人工知能ブームを知る椎名氏にとっても、昨今の生成AIの進化はやはり大きなインパクトだと言います。

「AIの世界では驚くべきことがたくさん起こってきました。ディープラーニングによって猫を認識した検索における画像認識技術、あるいは囲碁のプログラムもすごいと思いましたが、ChatGPTに代表される生成系AIは本当に驚きでした」(椎名氏)

imageEYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) コンサルティング事業部 椎名 茂

ChatGPTは、例えばただ議事録をまとめるだけではありません。学習したデータを元に「会議では次のアクションが大事である」ということを学び、自動的に「次回までの宿題」を作成してくれることもあります。また、「今日は会社を休みたいから理由を考えてほしい」と投げると「そんなことはダメです」とたしなめた上で回答するなど、あくまでも統計的な推論を元にしているにもかかわらず、まるで感情や倫理を持っているかのように見える振る舞いも見せます。

また、以前は存在していた英語との差も徐々に埋まり、日本語でも対話を引き出しやすい流れで会話をするなど、驚かされる場面は多いと椎名氏は述べ、「専門知識のノウハウをどう埋め込むか、またセキュリティ上の課題などはありますが、技術的には、十分これでいいのではないかというレベルに来ています」と評価しました。

最近では、人間ではなくAI同士でワークショップを行う例もあります。「AI自体にワークショップをさせてしまい、そこから出てくる面白いアイデアを人間が刈り取るという発想も出てきており、どこまで進化するのだろうと思わされます」(山本)

椎名氏は、コンピューター同士で自由に戦わせて学習していった囲碁のプログラムが非常に強くなった例を挙げ、「人間は検索する範囲が限られているため、期待値の高いところから刈り取ろうとします。これに対しコンピューターは、ムダ打ちでもいいので力技で網羅し、今までにないような解を見つけて来る可能性があります」と指摘しました。山本もこれに同意し、常人の考えとは飛躍した「天才の発想」に行き着く可能性があるとしました。

ただ国内企業の実情を見ると、生成系AIの活用はまだまだという状況で、使ったことがないとする回答が85%に上るという調査結果もあります。過去にも繰り返されてきた悩みですが、果たして企業は生成系AIにどのように向き合ったらいいのでしょうか。

これに対する椎名氏の回答はシンプルでした。「昔は、何かを埋め込んだりする必要がありましたが、今はアプリで簡単に使えるようになっています。まず経営層自身がインストールして使ってみて、どこに活用できるかを考えることが一番です」

このトピックに関連して山本は、この数年続いている「DXブーム」を踏まえ、DXツールとしてのRPAと生成系AIを次のように対比しました。「RPAはクライアントの実業務を自動化、効率化するといったわかりやすいシナリオが成立しています。一方、効率化にも使われると考えられますが、人間の知識で欠けている部分を補っていくのが生成系AIだと捉えており、刺さる場所がちょっと違っているように思います」

これを受け、椎名氏は「ChatGPTが出て世の中は大きく変化しています。特にホワイトカラーの仕事は、今後2、3年のうちに激変するでしょう」と予測しました。

定型的な業務の自動化にはRPAがありましたが、定型化しづらかった業務もChatGPTのような生成系AIが自動的に対応してくれるようになります。また、知識を増幅させたり、対話を通した創作活動にも活用できることを挙げ、生成系AIが生み出す面白い事柄を拾い上げ、組み合わせていくことが重要だとしました。

こうした仕組みを使うには、システムも不可欠です。これまでの企業におけるデータ活用というと、基幹システムやデータベースに格納された構造化データが前提となっていました。これに対し生成系AIが扱うのは、画像や報告書といった非構造化データが大半です。この違いもまた、生成系AIにどんな向き合い方をすべきかわからない企業が多い要因の1つかもしれません。

そんな違いを踏まえた上で椎名氏は「データを構造化する時点で、すでに何らかの情報が抜け落ちてしまいます。これからは、あらかじめ枠を用意した上での分析ではなく、丸ごと全部取っておいたデータをゆるく分析していくことで、いい気づきが得られるのかもしれません」とコメントしました。

生成系AIで激変していくホワイトカラーの業務、本質を見据えた応用を

生成系AIは単に業務を自動化するだけでなく、嫌な部分を肩代わりしたり、対話を通して創作活動を支援することもできます。ホワイトカラーの業務に多大な影響を及ぼすのはもちろん、チームや企業全体にも変化をもたらすでしょう。その本質を見据えることが重要です。

では、ChatGPTに代表される生成系AIは、これから私たちにどのような影響を与えていくのでしょうか。椎名氏は「これまでのDXがおままごとレベルになってしまうくらいの、ホワイトカラーの本格的なDXが来るだろうと思います」と予測します。

一例がプログラミングの分野です。前述のAIワークショップのように複数のAIを切磋琢磨させることで、コードを自動生成するだけでなく、テストやバグ取り、改善に至るまでが実現できるのではないかと言います。「現に友人の会社では、工数が半分くらいになっています」(椎名氏)

同時に、こうした生成系AIを使いこなせる人間とそうでない人間との間で差が広がり、それがホワイトカラーの生き残りを分けていく可能性があるとも指摘しました。

椎名氏のこの指摘を踏まえて山本は、誰か一人の効率を上げるのではなく、チーム全体、企業全体という観点で検討していく必要があると述べました。「開発効率が50%上がるというのは、これまでありえないような向上率です。単純にもの作りが早くなるだけでなく、何かが劇的に変わるはずです」

そして、コンサルタントとして「その劇的な変化によって企業がどうなるかという部分に提案の目を向けていく必要があると思います」と述べました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーコンサルティング AI&Data パートナー 山本 直人

もちろん、コンサルティングという業務自体にとっても生成系AIは知識を補う面で大きな手助けになります。椎名氏はさらに、人間にとって大きなストレスとなっている、資料の一番最初のたたき台作成などにも有効であると述べました。「人間がちょっと先送りしがちな嫌な仕事を代わりにやってくれ、その分、本当に時間をかけなければいけないところに専念できるようになると思います」(椎名氏)

生成系AIをめぐっては、ともすれば特定の業務を局所的に便利にしていく部分が注目されがちです。しかし「本質を見据え、それを応用していくことが大事だと思います」と山本は述べました。

その一例が、生成系AIを活用したデジタルツインの設定です。例えばChatGPTでさまざまなペルソナを設定し、それぞれに質問していくことで、一種のアンケート調査が実現できます。山本が前段のセッションで紹介した「娘モデル」もその一種といえるでしょう。

椎名氏は「今まで人間に聞かなければわからなかったことも、生成系AIに聞けばわかるようになります。さらに、生成系AI同士でディスカッションすれば、新しいアイデアも出てくるのではないでしょうか」とコメントしています。

また、同じく山本のセッションで紹介された動画を解釈できるマルチモーダルAIのプロトタイプについても、今後大きく飛躍していく可能性があるとしました。

それにはコンピューターリソースと大量のデータが必要となります。「見方を変えると、今まで手元に持っていながら活用できなかったデータ資産の価値が上がっていく可能性もあります」(山本)と、データの価値が見直される可能性も指摘しました。

多様な話題が広がり、盛り上がった対談でしたが、最後の「どのように生成系AIというイノベーティブなテクノロジーと向き合うべきか」という山本の問いに対し、椎名氏は「いろいろな使い方、いろいろなオポチュニティがあるため、早くトライアルしていくことが重要です」と述べ、早いもの勝ちの状況の中でいち早く実験、検証に取り組むべきだと述べました。

スピーディに、そしてフレキシブルに――現実的な一歩を踏み出す際のポイント

生成系AIをビジネスで活用し始めるとなると、「どの技術を採用すべきか」「セキュリティは大丈夫か」といった現実的な課題も浮上します。最後に行われた質疑応答では、専門家ならではの視点から、ガイドライン策定やアーキテクチャ検討時に留意すべきアドバイスが示されました。

 

対談が弾んで限られた時間ではありましたが、最後に視聴者からのコメントを元に質疑応答が行われました。

 

「様子見の状態から脱却するにはどうすればいいか」という質問に対し、椎名氏は対談のコメントを繰り返し、まず役員に使わせることを挙げました。

 

といって、野放図に使われるのも問題があります。そうした事態を防ぐために、もちろんガイドラインも必要です。ただ「ガイドライン作りに躊躇するぐらいならば、『機密情報は使わない』など2、3行の指示だけでもいいので出して、まず使ってくださいと呼びかけ、早く使っていくべきだと思います」(椎名氏)ともアドバイスしました。

 

一方、すでに活用に一歩踏み出している企業では、ChatGPTはもちろん、次々に新たな生成系AIが登場していることを踏まえ、どれを採用すべきか迷う声があります。これに対し椎名氏は「1年前にはChatGPTがなかったことを考えると、今後もどんどん変化していくことは明らかです。まず手が付けやすいところから、あまりお金をかけずに検討するのがいいのでは」と回答しました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジーコンサルティング AI&Data パートナー 山本 直人/EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) コンサルティング事業部 椎名 茂椎名 茂

そういった意味では、「今後もさまざまなモデルが出て来ることを見据え、その時々に合った良いモデルをプラガブルにしておくフレキシブルなアーキテクチャ設計が重要になるでしょう」(山本)

生成AI系活用においては、データをどこまで外部に出すべきかも企業が懸念するポイントの1つです。パブリッククラウドで活用すべきか、それともオンプレミスに閉じるべきかという質問に対し、椎名氏は、無差別にデータをアップロードしてしまうと、想定外の課金が発生してしまう恐れがある点を指摘しました。

もう1つのポイントはセキュリティの観点です。山本は個人情報、機密情報を無邪気にクラウドに上げてしまうのはリスクが大きいことを指摘し、そういった観点での検討も欠かせないとしました。

同時に「AIは人と企業と世の中を理解し、つなげていくところに価値があります。そこを踏まえてAIの配置デザインを考えていかなければならないでしょう。例えば社内のデータは世の中のデータと重ね合わせてることで新たな気付きにたどり着いたりします。社内と社外でデータが断絶していては価値が半減してしまうのではないでしょうか。そのような前提で考えると、生成系AIは必ずしもクラウドサービスとして提供されているものを使う、という選択肢にはならないと考えます。」とし、自社内に閉じるところと生成AI系などを活用していく部分をうまく組み合わせながら、システム構成の現実解を検討していくことが重要だとアドバイスしました。




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サマリー 

2022年より前には影も形もなかったChatGPTなどの生成系AIは、AIの専門家さえも驚かせるようなインパクトをもたらしています。中でも、議事録作成や資料作成といったホワイトカラーの業務は、生成系AIによって激変することは間違いありません。どう取り組むべきか悩む声もありますが、まずは経営層を中心に実際に試し、いち早く活用に向けた検討を開始すべきでしょう。


EY.ai ― 統合型プラットフォーム(人工知能サービス)

EY.aiは、人間の能力とAIを統合したプラットフォームです。EYは、企業が信頼できる責任ある方法でAIを導入し、自社の変革を促進するための支援を目指しています。



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