ChatGPTは、例えばただ議事録をまとめるだけではありません。学習したデータを元に「会議では次のアクションが大事である」ということを学び、自動的に「次回までの宿題」を作成してくれることもあります。また、「今日は会社を休みたいから理由を考えてほしい」と投げると「そんなことはダメです」とたしなめた上で回答するなど、あくまでも統計的な推論を元にしているにもかかわらず、まるで感情や倫理を持っているかのように見える振る舞いも見せます。
また、以前は存在していた英語との差も徐々に埋まり、日本語でも対話を引き出しやすい流れで会話をするなど、驚かされる場面は多いと椎名氏は述べ、「専門知識のノウハウをどう埋め込むか、またセキュリティ上の課題などはありますが、技術的には、十分これでいいのではないかというレベルに来ています」と評価しました。
最近では、人間ではなくAI同士でワークショップを行う例もあります。「AI自体にワークショップをさせてしまい、そこから出てくる面白いアイデアを人間が刈り取るという発想も出てきており、どこまで進化するのだろうと思わされます」(山本)
椎名氏は、コンピューター同士で自由に戦わせて学習していった囲碁のプログラムが非常に強くなった例を挙げ、「人間は検索する範囲が限られているため、期待値の高いところから刈り取ろうとします。これに対しコンピューターは、ムダ打ちでもいいので力技で網羅し、今までにないような解を見つけて来る可能性があります」と指摘しました。山本もこれに同意し、常人の考えとは飛躍した「天才の発想」に行き着く可能性があるとしました。
ただ国内企業の実情を見ると、生成系AIの活用はまだまだという状況で、使ったことがないとする回答が85%に上るという調査結果もあります。過去にも繰り返されてきた悩みですが、果たして企業は生成系AIにどのように向き合ったらいいのでしょうか。
これに対する椎名氏の回答はシンプルでした。「昔は、何かを埋め込んだりする必要がありましたが、今はアプリで簡単に使えるようになっています。まず経営層自身がインストールして使ってみて、どこに活用できるかを考えることが一番です」
このトピックに関連して山本は、この数年続いている「DXブーム」を踏まえ、DXツールとしてのRPAと生成系AIを次のように対比しました。「RPAはクライアントの実業務を自動化、効率化するといったわかりやすいシナリオが成立しています。一方、効率化にも使われると考えられますが、人間の知識で欠けている部分を補っていくのが生成系AIだと捉えており、刺さる場所がちょっと違っているように思います」
これを受け、椎名氏は「ChatGPTが出て世の中は大きく変化しています。特にホワイトカラーの仕事は、今後2、3年のうちに激変するでしょう」と予測しました。
定型的な業務の自動化にはRPAがありましたが、定型化しづらかった業務もChatGPTのような生成系AIが自動的に対応してくれるようになります。また、知識を増幅させたり、対話を通した創作活動にも活用できることを挙げ、生成系AIが生み出す面白い事柄を拾い上げ、組み合わせていくことが重要だとしました。
こうした仕組みを使うには、システムも不可欠です。これまでの企業におけるデータ活用というと、基幹システムやデータベースに格納された構造化データが前提となっていました。これに対し生成系AIが扱うのは、画像や報告書といった非構造化データが大半です。この違いもまた、生成系AIにどんな向き合い方をすべきかわからない企業が多い要因の1つかもしれません。
そんな違いを踏まえた上で椎名氏は「データを構造化する時点で、すでに何らかの情報が抜け落ちてしまいます。これからは、あらかじめ枠を用意した上での分析ではなく、丸ごと全部取っておいたデータをゆるく分析していくことで、いい気づきが得られるのかもしれません」とコメントしました。