オーストラリア国民経済計算(2022年6月期):結果は良好、しかし前途は多難

オーストラリア国民経済計算(2022年6月期):結果は良好、しかし前途は多難


一般家庭がインフレと金利上昇に懸念を抱いていたとしても、4~6月四半期の経済指標には反映されませんでした。



要点

  • 国内外に課題を抱える中、家計消費と輸出に支えられて、オーストラリア経済4~6月四半期は堅調な成長を遂げた。
  • 物価上昇の圧力は継続的な高まりを見せ、国内外の物価は過去数十年中、最も速いペースで上昇している。
  • 国際的な物価上昇の一部は、コモディティ価格の上昇による国民所得と交易条件の増加という点でオーストラリアに恩恵をもたらしている。
  • 消費者は最終的に消費行動を変えると予想されるものの、その時期や規模については不透明な側面がある。これは、根強いインフレに直面しているオーストラリア準備銀行(RBA)がどれだけ積極的に動くかに大きく左右されるだろう。


チーフエコノミストより

インフレと金利上昇の影響を受けることなく、一般家庭による積極的な外食、旅行、渡航への支出がみられました。同時に、輸出業界ではオーストラリアで最も重要なコモディティの多くが高値で取引され、長年にわたる積極的な投資結果を享受することができた結果、国内総生産(GDP)は四半期ごとに0.9%増加し、年率3.6%という非常に堅調な伸びを示しています。


2020年から21年にかけての金融・財政の緩和は、ロックダウンの解除と相まって、22年前半には多くの企業の業績を押し上げつつ消費者を支えました。この結果、雇用市場は堅調に推移し、本四半期の失業率はほぼ50年ぶりの低水準に低下しました。また、これまで以上に多くのオーストラリア国民が給料を手にするようになったため、労働参加率は過去最高を記録しました。このような好材料の一部を相殺したのが、物価の上昇と供給不足であり、この2つは多くの場合で相関関係にあります。5月に始まった利上げと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による生産の遅延により、一部の事業拡大計画は減速し、改築や住宅新築の再考を余儀なくされた家庭もあります。

民間部門では、非常に厳しい電力供給不足が大混乱を引き起こしているヨーロッパと、輸出部門が好調なオーストラリアとでは、これ以上ないほど鮮明な対比が見られます。コモディティ価格の高騰と、過去10年間で培われた広範囲にわたる輸出力により、本四半期の鉱業利益は17%増加しました。この業界での利益は、現在、他のあらゆる産業の合計を上回っています(ただし、非鉱業部門の利益も、この四半期に3.8%というかなりの伸びを示しました)。農業部門では、特に羊毛、食肉、穀物における価格上昇と輸出量が好調を記録しました。

公共部門では支出が引き続き高水準で推移していたものの、1~3月四半期に急増した洪水関連の支出は削減され、医療費やパンデミック関連の支援費もわずかに減少しました。一方、政府投資は、多くの重要なインフラプロジェクトが州レベルで進行中であり、さらに活発化しています。

今年後半は、消費者と企業の双方にとってはこれまでのところあまり楽観的でない状況です。金利上昇が継続しコモディティ価格がピークを脱したことがその理由です。一部の業界では供給サイドの問題により生産が減速しており、今期のような力強い成長を再現することは難しいでしょう。特に、固定金利の住宅ローン保有者の大半が今後2年間で低金利期間を終え、金利は上昇を続けるため、最終的に消費者は消費行動を変化させていくものとEYでは予想しています。しかし、この変化の時期や規模には不透明な側面があり、根強いインフレに直面しているRBAがどれだけ積極的に動くかに大きく左右されるでしょう。

オーストラリアは非常に強固な労働市場と、堅調な公共支出を維持し、民間部門は高水準の設備投資計画を保有しています。しかし、今後の見通しとしては、政府が最近実施した雇用・技能サミットで議論されたような、生産性向上改革と労働市場の改善が次の成長段階に向けて重要となるでしょう。


2022年6月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る 


コモディティ価格の高騰と労働市場のひっ迫が利益と賃金を高値誘導

高い交易条件が好調な利益につながり、また、労働市場のひっ迫で賃金に圧力がかかっている状況であることから、企業利益と賃金は堅調に増加し続けています。

オーストラリアの交易条件(輸出入価格比)は、特に石炭と液化天然ガス(LNG)に見られる、コモディティ価格の上昇により、4~6月四半期に4.6%上昇し、過去最高となりました。しかし、世界的な成長減速のリスクを考えると、コモディティ価格の上昇は持続しないと考えられ、RBAが示す商品価格指数はすでに高値から下降し始めています。


従業員の報酬(経済全体の賃金・給与指標)は、2010年以来最大の上昇率で、この四半期に2.4%増加し、年間では7%増加しました。賃金抑制という政府の試みを反映して、このような賃金圧力は、公共部門よりもむしろ民間部門から継続的に生じています。失業率がほぼ50年ぶりの低水準にあることを考えると、労働市場のひっ迫が賃金・給与に反映され、賃金価格指数(WPI)が示唆するよりも速いスピードで影響が及んでいるとみられます。WPIは転職による賃金上昇を考慮せず、賃金上昇を測るには狭域の指標であることから、年間で2.6%のみの上昇にとどまりました。


労働時間は、新型コロナウイルス感染症や洪水関連で引き起こされた混乱により1~3月四半期では減少したものの、その後に2.9%急増しました。生産性の指標である、労働時間当たりのGDPは1.9%減少しましたが、これは労働時間の正常化が主な原因とみられます。

インフレ圧力が続き、国内物価は年間を通じて4.9%上昇し(四半期ベースで1990年以来最速の伸び)、国際物価は実に21%もの上昇を示しました(1985年以来最速の伸び)。しかし、コモディティ価格が上昇したことで国民所得と交易条件が向上した結果、国際物価の上昇の中には現にオーストラリアに恩恵をもたらしたものもあります。

宿泊・飲食サービス業、運輸業はついにパンデミック前の水準を上回る

業種別に見ると、ほとんどの業種が成長を示したと言いつつも、卸売業、行政、建設業は原料不足と労働力不足が重なり、いずれも縮小が示されました。

宿泊・飲食サービス業、運輸業は、それぞれ10.7%と7.5%の成長率で、この四半期で最大の成長産業となりました。国内外への旅行が正常化し、一般家庭のホテルやカフェ、レストランへの利用が増加したため、両業種とも初めてパンデミック前の水準を上回りました。

金利上昇の影響は、前期比1.0%の成長率となった賃貸・雇用・不動産部門にはまだ及んでいない状況です。


消費者マインドの低迷にもかかわらず、個人消費が成長の主な原動力

消費者マインドが景気後退期の低水準に近づいている中で、本四半期に家計消費が2.2%も増加したことは、いささか驚きです。実質賃金や住宅価格の下落、金利の上昇、インフレ率の急上昇など、残念ながら消費者不安を招く要因は多く存在しています。


家計消費が好調だった理由は、サービスに対する支出が増加したためです。裁量的支出の割合は、この四半期を通じて増加しました。

 

一方、家計貯蓄率が11.1%から8.7%に低下した理由は家計支出の伸びが可処分所得の伸びを上回ったためです。このことは、消費者側での消費意欲の高まりを示しています。いずれは、変動金利による住宅ローン費用の上昇など、生活費の圧迫が強まるにつれ、家計貯蓄率は低下すると予想されます。

 

 

政府は医療と洪水被害救済のための支出を削減

政府支出は本四半期で0.8%減少し、成長率を0.2%引き下げました。新型コロナウイルス感染症の症例は減少(反面入院者数は増加)し、洪水も1~3月四半期より影響範囲が小さくなったため、医療費と災害復旧費に対する政府支出が減少しました。国防費も、洪水被害を受けた地域社会に向けた支援のため、1~3月四半期は支出が増加したこともあり、今期は減少となりましたが、過去の水準からすれば高水準のままです。

 

 

公共投資は引き続き増加

公共投資は、連邦政府と州・特別地域政府が大型インフラプロジェクトへ継続的に投資したため、5.9%増と引き続き堅調です。民間投資は、住宅建設と非住宅建設の両方で業界が苦戦するに伴い、1.5%減となりました。この落ち込みは、機械設備への投資(4%増)でいくぶん相殺されています。

 

新規の資本的支出(capex)のデータは、企業投資の見通しが堅調(23年度前回概算比で11%以上の計画増加)であることを示唆しています。これは、生産能力の制約があるにもかかわらず、需要が堅調に推移するという民間企業の信頼感によるものです。コストの上昇も、設備投資計画のアップグレードに貢献するでしょう。

 

 

住宅投資は生産能力の制約の影響を受け減少

住宅建設は、労働力と生産能力の制約に加え、東海岸で雨天が続いたため、引き続き経済成長の足かせとなりました。

住宅投資の減少は主に新築住宅への投資に見られ、同四半期で3.8%下落しました。改築や増築においても同様に1.6%減少し、前年同期比0.2%減となっています。

 

金利の上昇は、今後の住宅投資に大きな影響を与えそうです。借り入れコストの上昇は、デベロッパーと個人の両方にとって新築住宅の建設コストに影響し、さらには投入資材や労働力の価格圧力をさらに悪化させるだけでなく、金利上昇は既存の住宅価格にも影響を及ぼしています。オーストラリアの住宅価格は今年初めのピークから3.6%下落し、特にシドニーの住宅価格は1月のピークから8%下落しました。

 

 

鉱業、サービス業、地方からの輸出が成長をけん引

純輸出はGDP成長率3.6%に対し、1.0%増という大きな貢献をしています。これは、地方、鉱業、サービス業の輸出を背景に、輸出全体が幅広く増加したことによります。

 

サービス輸出は、留学生数が回復したため、2桁の伸びを記録しました。これは、低水準からの上昇だったとはいえ、2000年9月期(シドニーオリンピック開催時)以来の大きな伸びです。オーストラリア国民の海外旅行者数の増加により、輸入がこれを一部相殺しました。

 

価格変動を伴う、非金銭的な金の輸出は、15%近く増加しました。石油・ガス、石炭、鉄鉱石の輸出も数量ベースでは堅調な伸びを示しました。金額ベースでは、石炭の輸出価格が35%以上上昇し、石油・ガスの輸出価格も2桁の上昇を見せていることから、さらに明るい材料となっています。

 

好調だった3月四半期以降は、在庫の変動により、成長率が1.2%低下しました。

 

 

オーストラリア全土で好調な家計消費

州別最終需要は、北部準州を除くすべての州・特別地域で増加しました。

ニューサウスウェールズ州は、四半期ベースで最も高い、1.9%の国内活動の伸びを示しました。これは、経済の底堅さ(民間消費と民間投資がそれぞれ2.5%と1.5%増加)と、インフラへの大規模な公共投資(多くの大規模プロジェクトが建設中)が継続されていることが要因となっています。クイーンズランド州とビクトリア州も平均を上回る成長率を記録し、共に1.0%を公表されています。

重要なのは、ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の両州が、22年第1四半期の悪天候から堅調に回復したことです。東海岸沿いの洪水は4~6月四半期も続きましたが、1~3月四半期ほど広範囲ではありませんでした。

西オーストラリア州の本四半期成長率は、民間投資と公共投資の両方の落ち込みが主な原因で、過去の水準を大幅に下回り、0.1%と公表されました。


サマリー

金利が上昇し、コモディティ価格がピークを脱するため、消費者と企業を取り巻く環境は今年後半にさらに厳しくなることが予想されます。次の成長段階に向けては、生産性向上改革と労働市場の改善が不可欠となります。


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家計消費、政府支出、企業の在庫積み増しなど、オーストラリア経済の需要は増し、1~3月四半期のGDP成長率は0.8%に達しました。


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