オーストラリア国民経済計算(2022年3月期):洪水被害と供給網の混乱は経済成長の足かせにならず

オーストラリア国民経済計算(2022年3月期):洪水被害と供給網の混乱は経済成長の足かせにならず


関連トピック

家計消費、政府支出、企業の在庫積み増しなど、オーストラリア経済の需要は増し、1~3月四半期のGDP成長率は0.8%に達しました。


要点

  • オーストラリア経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に起因した人手不足や供給網の混乱、および気象災害が課題となったものの、ロックダウンからの回復を続けている。
  • 企業のコストは、従業員の賃金・福利厚生費の上向き傾向に伴って上昇し、輸入価格が着実に伸びた結果、経済全体の物価指標も堅調に上昇した。
  • 公共部門は引き続き経済に大きく貢献しているが、緊急措置が終わりを迎えたことで、社会保障支出はピーク時から減少し、税収は再び上昇している。

1~3月四半期決算の結果、通年の成長率が3.3%となり、平均を少し上回るこの値は、新型コロナウイルス感染症からの立ち直りを示しています。新型コロナウイルス感染症を起因とする人手不足や供給網の混乱など、供給面での制約がなければ、成長率はさらに高くなっていたでしょう。洪水被害により縮小した活動もあった一方で、救助と清掃活動のために軍隊の投入があり、国防費が増加しました。

 

輸入の急増も、GDPを押し下げる要因となりました。これは純輸出が成長の足を引っ張った主な理由です。在庫と輸入の増加は、昨年末の出荷遅延により、1~3月期に企業がやや過剰在庫を抱えたことに起因する一方で、企業が価格上昇を抑えようとした可能性もあります。また、抗原検査(Rapid Antigen Tests、以下RAT)の購入も輸入(おそらく在庫も同様)が増えた理由であると思われます。

 

1~3月四半期の経済全体のインフレを考えると、当然ながら実質GDPより名目GDPの方がはるかに強い伸びを示しました。名目GDPは前期比3.7%増、前年同期比10.2%増となりました。

これは、オーストラリアの企業や消費者が、輸入・国内品を問わず商品およびサービスに対してより多くの金額を支払っていることを意味します。企業はもはや価格上昇を吸収することなく、価格に転嫁しています。しかし、これにはポジティブな要素もあります。

国際的な価格上昇は、オーストラリアの鉱業部門に大きな利益をもたらしています。1~3月四半期の企業収益の伸びは、主に鉱業によるものでした。鉱業の利益は、オーストラリアの交易条件(Terms of trade)が5.9%上昇したことを反映しており、これは主に輸出価格が9.6%上昇したためです。

利益の増加はまず、他国からの限定供給により利益を得ているLNG、石炭、鉄鉱石の生産者にもたらされています。他のセクターと比べてさほど多くはないとしても、こうした企業では労働者の雇用と賃金の引き上げを実施しています。

このことは税収とロイヤリティの増加にもつながっています。生産と輸入にかかる補助金を差し引いた税収は、この四半期に15.7%という堅調な伸びを示し、初めて新型コロナウイルス感染症によるパンデミック以前の水準に達しました。

これらの税収は、連邦政府や州政府の給付金の支払いとなって還元されています。3月の連邦予算や最近発表された西オーストラリア州の州予算で、低所得者や年金受給者に現金給付が行われたことがその証拠です。

交易条件上昇の1つの影響として、所得に占める利益配当が賃金を上回って上昇することが挙げられます。国民所得に占める利益配当は、1~3月四半期には過去最高の31.1%に達しました。GDPに占める賃金の割合が長期にわたって低下する傾向が続いており、特に実質賃金がしばらく低下していたことから、最低賃金受給者の賃上げを求める最近の主張は正当だとするものとなっています。

消費傾向に関しては、統計的に新型コロナウイルス感染症の影響から勢いよく抜け出したことがうかがわれます。規制の緩和と国境の開放により、接客業やその他の関連サービス業が改善されました。家計支出(特に自己裁量で購入できるモノとサービスの消費)は堅調に増加しており、家計では収入に占める貯蓄の割合を少し低下させました。

2022年3月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る


所得効果は経済の多くの分野で強く現れている

GDPの所得面を見ると、企業収益と賃金が非常に堅調に上昇しており、今後の景気回復の下支えとなっています。これは、高い交易条件が利益の上昇につながり、労働市場のひっ迫が賃金の高さにつながった結果です。

従業員の報酬(賃金と給与の指標)は、当四半期中に1.8%上昇(年間では5.5%上昇)しました。これらの賃金圧力は主に民間部門からもたらされたものです。労働市場のひっ迫状況がようやく賃金圧力に反映されつつあり、賃金価格指数(WPI)(年間でわずか2.4%の上昇)が示唆する速さ以上で上昇しています。WPIが同職種での変化のみを捉えるのに対し、GDPによる賃金の指標はより包括的であり、賃金全体(ボーナスや昇進による賃上げや、加算される社会保障など)を捉えています。

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックがもたらした混乱により、労働時間は0.9%減少したものの、その一方では、生産性の指標である労働時間当たりのGDPが過去最高水準に達しました。しかし、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」関連で生じた欠勤により労働時間が減少したことを考えると、これは持続可能とは言えないものでしょう。

当四半期中の利益は、鉱業部門のけん引により7.3%増加したもののその他の産業では全て減益となりました。オーストラリアの交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は1~3月四半期に5.9%上昇し、鉱業の利益急増の要因となりました。卸売業も穀物、燃料、自動車などの利幅が拡大し、増益となっています。


州によるわずかな違い 

オミクロン株の影響は、タスマニア州を除く全ての地域で経済活動が好調であったことから、単なる一時的なものであったことが証明されました。

クイーンズランド州とニューサウスウェールズ州では、気象災害にもかかわらずプラス成長を記録しました。両州とも、洪水被害の災害復旧支援金により政府消費が大幅に増加された(それぞれ3.2%、2.1%増)ことが寄与しています。ニューサウスウェールズ州は、オミクロン株の発生にもかかわらず、規制がさらに緩和されたため家計消費が著しく増加し、クイーンズランド州もクリスマス休暇中に国境が開放されたため、家計消費が増加しました。

西オーストラリア州では、州境が開放され、政府支出が増加したことが成長の原動力となりました。同時に、オミクロン株の感染が最初に確認されたため、他州に比べ当四半期は比較的厳しい規制が行われました。その結果、家計消費は横ばいとなり、接客業が打撃を受けました。

ビクトリア州では、規制がさらに緩和されたため、各世帯が自由裁量で購入できるモノへの支出を増やし、経済活動が最も大きく伸びました。

タスマニア州での芳しくない結果は、非緊急性手術の延期措置や労働力と資材の不足に一部起因する、民間医療費と民間住宅投資の減少が主な要因でした。


消費者と政府が今もなお経済成長の基盤

民間消費支出は10~12月四半期にすでに回復していましたが、1~3月四半期はさらに堅調に伸び、2.7%増加しました。

モノとサービスへの家計支出は徐々に正常に戻りつつあるとはいえ、サービスに関してはまだ後れを取っており、消費者がちゅうちょしていることを示しています。

家計貯蓄率は引き続き低下しており、消費者の購買意欲が高まっていることを示しています。ただし、貯蓄率は11.4%と、歴史的に高い水準のままです。直近では、消費者心理の水準が低下しており、新型コロナウイルス感染症に関連する懸念が生活費圧迫や金利上昇に取って代わられる可能性を示唆しています。  

公的需要は成長に0.7%ポイント寄与しています。

新型コロナウイルス感染症の患者数の増加に伴い、関連する検査(PCR検査からRAT検査への移行を含む)、感染対策用の防護具、子ども向けワクチンに重点を置いた医療費が増加しました。

ジョブセーバー(JobSaver)と呼ばれるプログラムは10~12月四半期で制度終了となりましたが、今期は洪水の被害を受けた個人と企業に対し災害復旧支援金が支給されました。

この洪水で被害を受けた地域を支援するために7,000人以上の国防軍が派遣されたため、国防費は大幅に増加しました。さらに、ウクライナ情勢に対し軍事・人道支援が行われました。

公共投資は四半期で1.7%増加し、そのうち国防投資が最大の伸びとなりました。  

 

住宅投資縮小と金利上昇により需要緩和の見込み

住宅投資が1%減少し、再び当四半期の成長率を低下させました。縮小の主な原因は、大幅な労働力不足、仕入価格の影響、供給網の制約があり、全体として2.2%減少した新築住宅投資に起因しています。

新築住宅投資の減少が最も大きかったのはクイーンズランド州で、9.7%減となった主な要因は洪水被害でした。

過去最高水準に近い伸び率の改築・増築は、新築住宅投資での落ち込みを部分的に相殺しており、住宅所有者は改築によって資産価値を高め続けています。特に、オーストラリアの最も高価な不動産市場であるニューサウスウェールズ州とビクトリア州では、改築と増築がそれぞれ6.6%と5.7%増加しました。

所有権移転費用(主に印紙税)は依然として高い水準にありますが、取引量の減少に伴い価格調整後では減少に転じています。

CoreLogic社が発表した最新の住宅価格データによると、不動産価格はおそらくピークに達しており、金利が上昇を続ける一方で、価格はさらに縮小する可能性があります。最大の市場規模の修正は、住宅アフォーダビリティ(手ごろな価格設定)の問題が最も厳しいニューサウスウェールズ州とビクトリア州であると予想されます。

歴史的に見ると、不動産価格の下落は建設・建築活動の減少を意味しますが、住宅産業協会(Housing Industry Association)によれば、近年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる混乱と強い需要により、新築住宅の建設期間が8カ月から12カ月に延びています。これは、まだ引き渡されていない住宅建設が大量にあることを意味します。


企業投資は上向きを示すも、依然として控えめ

当四半期を通し、企業投資は1.5%の増加を示しました。これは、非住宅建築のわずかな縮小で部分的に相殺されたものの、機械・設備の伸びがけん引したものです。

重要なのは、生産性向上に不可欠な非鉱業部門への企業投資が、当四半期に2.4%増加して440億豪ドルという過去最高水準に達したことですが、対GDP比ではまだ控えめなままです。一方、設備投資計画によると、企業投資の見通しがより明るいことを示しています。

 

好調なファンダメンタルズと昨年の出荷遅れの影響による輸入の急増

純輸出は、輸入の大幅上昇(8.1%増)により、当四半期の成長率を1.7%ポイント引き下げました。これは、オーストラリアにおける国内経済の強さの表れであり、また、新型コロナウイルス感染症検査での政策転換でRATの輸入が急増した結果によるものです。また、昨年末の出荷の遅れも今期の上昇に寄与していると思われます。輸入により在庫が積み上がることで成長に拍車がかかり、在庫はコロナパンデミック前の水準に近くなりました。

輸出価格は 9.6%上昇し、オーストラリアの交易条件が この四半期に5.9%上昇した主な原動力となりました。このことは、引き続き経済全体にプラスの影響を及ぼすと見られます。

しかし、数量ベースでは、輸出は前期比0.9%減、前年同期比では4.2%減と、より鈍った動きとなりました。ここでもまた、ラニーニャ現象やそれに伴う気象災害が、東部の州での鉱業や農業に大きな打撃を与えています。サービス関連の輸出は、外国人観光客や学生の減少により、引き続き苦境に立たされています。

  

気象災害が農業と鉱業に影響

19業種のうち14業種で粗付加価値額の増加をうけ、この四半期にはほとんどの業種が正常化に向けてさらに一歩前進しました。

接客業は、低水準からの回復とはいえ、業界一の成長を記録しました。芸術・娯楽サービス業、運輸業、宿泊・飲食サービス業が最も大きく伸びました。しかし、外国人観光客の回復が遅れているため、状況は新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の水準には戻っていません。宿泊・飲食サービスおよび運輸部門は依然として遅れており、それぞれパンデミック前の水準より9%、6%低下しています。

農業は、パンデミック以降、全部門の中で最も堅調な成長を記録したにもかかわらず、洪水を含む異常な雨期と、10~12月四半期が非常に好調だったことから、1~3月四半期は最も大きな落ち込みを見せました。今後は、国際的な供給不足がオーストラリア品の需要と価格を押し上げるため、特に輸出面での堅調な成長が期待されます。

当四半期のレンタル、雇用、不動産サービスの減少は、不動産市場が高水準から落ち込んだことを反映しています。金利の上昇に伴い、さらなる下落が予想されます。


サマリー

1~3月四半期の経済成長率は0.8%と予想を超える結果となり、オーストラリアの長期平均をやや上回りました。これは、オミクロン株による人手不足や気象災害を考慮すると、堅実な結果であるといえます。


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