Space Techシリーズ 第2回:宇宙ビジネス支援オフィス設立記念 宇宙ビジネスウェビナー開催報告(後編)

情報センサー2024年4月 デジタル&イノベーション

Space Techシリーズ 第2回:宇宙ビジネス支援オフィス設立記念 宇宙ビジネスウェビナー開催報告(後編)


現在、人類の活動領域は、地球、地球低軌道を越え、月面、さらに深宇宙へと、本格的に宇宙空間に拡大しつつあり、宇宙産業の市場規模についても拡大が見込まれています。

本ウェビナーでは、このような潮流の中での当法人の取組みや展望について、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏と当法人理事長の片倉正美との対談、EY Japan所属パラアスリートの富田宇宙の講演、産学官の有識者によるパネルディスカッションなどを通じてご紹介しました。その内容を前・後編の2回に分けてお届けします。


左から、伏見、永田氏、富田、竹上氏、片倉、青木氏、宮川、土屋

登壇者:

山崎 直子氏(やまざき なおこ)
内閣府宇宙政策委員会 部会委員/(社)Space Port Japan 代表理事

青木 英剛 氏(あおき ひでたか)
宇宙エバンジェリスト®/(社)Space Port Japan 共同創業者&理事

竹上 直也 氏(たけがみ なおや)
文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 宇宙科学技術推進企画官

永田 晴紀 氏(ながた はるのり)
北海道大学大学院工学研究院 教授


EY所属登壇者:

富田 宇宙(とみた うちゅう)
EY Japan所属  パラ競泳選手

片倉 正美(かたくら まさみ)
EY新日本有限責任監査法人 理事長 公認会計士 

宮川 朋弘(みやがわ ともひろ)
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 宇宙ビジネス支援オフィス オフィス長


モデレーター:

伏見 達(ふしみ とおる)
EY新日本有限責任監査法人 弁護士 公認会計士 宇宙ビジネス支援オフィス



要点

  • 10年間で総額1兆円の宇宙戦略基金の創設など、官民の連携により宇宙ビジネスが立ち上がりつつある
  • 宇宙は人々を平等にするバリアフリーな空間であり、歴史をひもとくと多様性に満ちている
  • EY新日本は、宇宙ビジネス支援オフィスの設置により、宇宙の開発から利用まで一貫した支援を行うことで、Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)を実現していく


パネルディスカッション

宇宙エバンジェリスト 青木 英剛 氏、文部科学省 竹上 直也 氏、北海道大学 永田 晴紀 氏

 

モデレーター:
EY新日本有限責任監査法人 伏見 達

 


伏見:最初のテーマは宇宙開発支援の現況と宇宙スタートアップの機会拡大です。直近ではSBIR(Small Business Innovation Research)の採択や宇宙航空研究開発機構(JAXA)による1兆円規模の宇宙戦略基金などが取りざたされています。このような資金提供は、かつて米国のNASAで行われていたCOTSプロジェクトや、またアンカーテナンシーという言葉を非常に想起させますが、まず政府によるそれら政策の目的、今後の課題について竹上さまからお話を聞きたいと思います。

 

竹上氏:日本政府は、JAXAを産学官の結節点として位置付け、JAXAにおける戦略的かつ弾力的な資金供給機能の強化を図る意思決定を行いました。今後1兆円規模の資金を宇宙戦略基金に投入することを目指しており、本年度、早速3,000億円の予算計上を行い、JAXAを通じて企業や大学などを支援することを予定しています。また、技術開発支援としては、別途SBIR基金を活用した大規模実証への支援も行っています。文部科学省では、民間ロケット開発やスペースデブリ低減技術開発に約600億円を投じるなど、現場への具体的な支援を開始しています。これらは、COTSプロジェクトなどを参考に制度設計したものです。今後は、より効果的な政策推進のため、アンカーテナンシーなどの政府調達の仕組みや必要となる制度対応についても検討し、全体の動きを加速していきます。

 

伏見:これについてスタートアップサイドはどのようなご認識なのでしょうか。SBIR、宇宙戦略基金などがもたらす民間企業へのインパクトについて、青木さまのご意見をお聞かせください。

 

青木氏:スタートアップの立場から、今回潮目が変わったと感じています。いよいよ開発が世界に遅れないレベルで本格化し、むしろ世界に勝っていけるのではないかというレベルの土壌ができました。これからは、開発の補助金的な予算が入った次はいかに公共調達につなげていくかが重要になります。もう1点課題となる制度設計としては、営業外収益となる補助金を、アンカーテナンシーも含めて売上に計上できるような仕組みを作っていければと思います。

 

伏見:われわれは会計監査をつかさどっている立場ですが、会計処理の問題に触れられたということで、われわれも宇宙産業に接しているのだと感じさせられました。今度は視点を変えて、永田先生にお伺いしたいのですが、先生は北海道大学発のスタートアップ企業にも関与されていますけれども、このような政府開発の支援というものは今後どのような在り方が望ましいか、アカデミアや大学スタートアップ企業を率いる立場から教えてください。

 

永田氏:宇宙系ベンチャーの課題として、資金だけでなく、技術系人材の不足が問題となっています。特に輸送系の人材が不足しており、日本では炭化水素系の液体ロケット開発に熟練した人材がいません。これが新たなベンチャーを立ち上げる際の大きな課題となっています。大学は人材育成において重要な役割を果たしますが、学生をベンチャーで活躍できるレベルにまで育て上げるには時間が足りません。また、ベンチャー企業には採用後に教育を行うリソースが欠けています。そこで政府がリスクの高い研究開発の支援を行い、大学と連携することで、教育の機会を提供することが求められています。博士課程まで進んだ学生が民間企業で活動し、高度な工学人材として全体を引っ張っていくことが求められています。

 

伏見:まさにビジネスの世界で言う「ヒト・モノ・カネ」の視点が詰まっていたご意見と思います。それでは今度は民間側として青木さまにお伺いしたいのですが、官民連携という言葉は、ともすれば民間企業側からは公共が負うべき責任やリスクを過度に移転されてしまうのではないかと捉えられることもあると思います。そういった官民連携の言葉の持つニュアンスも含めて、民間企業側からみた官民連携というものはどういうかたちが理想で、その課題がどこにあるのかを教えていただいてもよろしいでしょうか。

 

青木氏:宇宙産業では官民連携が必須で、官が法整備などの政策を推進し、民間が事業を進めるといった連携が求められています。資金面やプロジェクトを共同で立ち上げ、宇宙プロジェクトを行い民間企業が商業ビジネスを推進するためにも、官民連携が重要です。民間企業と自治体との連携による宇宙港建設が全国各地で行われており、これも官民連携が活用されている例です。米国では既に商用ベースで使われているスペースポートが存在し、それらは民間と官(米国連邦航空局)の連携により許可が得られています。例えば、バージニア州のミッドアトランティック・リージョナル・スペースポートでは、NASAと州政府と民間が協力しスペースポートの運営を行っています。これを参考に、官からの支援を受けつつ民間が独立・自立して活動できるような環境を日本でも整備していくべきであり、このような官民連携を加速させる必要があると言えます。
 

伏見:依存関係にならずしっかり協力する絶妙なあんばいをどうやって官民連携のスキームに組み込んでいくかは非常に難しくもあり、やりがいのあることだと感じました。
 

それでは次に、官民連携はアカデミアの視点でも重要となりますが、アカデミアの立場でもある永田先生から見て政府が推し進めている宇宙開発の官民連携はどのような点がポイントなのかをお聞かせいただければと思います。

 

永田氏:宇宙産業における官の役割として、米国のように発展的な制度を整備することが求められています。具体的には、サブオービタル機の認証を得る際の性能保証や安全確保の制度、スペースポートの利用制度などが挙げられます。その制度が使いやすいかどうかは、民間企業がどれだけスムーズに発展できるかに大きく影響します。使いやすい制度とは、費用負担が少なく、法的な手続きが少ないものを指します。制度設計は主に官が行い、それに対して民間企業が使いやすさのフィードバックを提供し、官民が連携しながら適切な制度とインフラを構築することが重要です。このような取組みから産業発展の可能性が生まれ、政府にはその推進が期待されています。

 

伏見:宇宙インフラとはハードやソフト面ばかり考えていましたが、先生がおっしゃるとおり、制度のインフラというものも連携して構築していかなくてはならないとよく理解しました。また、官民連携をしたらすぐに理想の世界が構築できるのではなく、産みの苦しみの段階といえる過渡期においては、適切な形での公共による民間の後押しが必要であると、よく伝わってくるご意見でした。

 

では最後のテーマに入ります。最後のテーマは宇宙利用と数兆円産業への道筋ということで、宇宙基本計画でも明らかなとおり、今後の将来の産業の大部分は宇宙利用や衛星データ利用に依拠すると予測されます。他方で、衛星データの利活用は一体そのデータを何に使うのか、また宇宙を何に使うのかの使い道もポイントになると思います。どうやって宇宙利用を目標とする規模まで持っていくか青木さまにぜひご見解を頂きたいと思います。

 

青木氏:宇宙から得られるデータの活用は今後の宇宙産業の発展の鍵となると考えられています。ただし、その利用方法についてはまだ明らかになっていない企業も多く、政府が具体的な事例を紹介したり、実証を作るなどの支援が求められます。地方自治体でも、宇宙データを利用して地域や自治体が直面する問題解決に活用しようとする動きがあります。災害対策などでの宇宙データ活用が進んでおり、これらの事例が民間企業の参入につながると考えられています。特に半導体のサプライチェーン分析に宇宙データを利用した取組みがあり、これが各企業に影響を与えると予想されています。衛星画像だけでなく、位置情報や宇宙通信もデータ利用の対象となり、これらの組み合わせにより宇宙ビッグデータ市場が発展すると見込まれています。

 

伏見:宇宙利用では政府がファーストペンギンになることが重要ですね。次いで竹上さま、宇宙利用についてご意見をお聞かせください。

 

竹上氏:宇宙開発には多くの予算や人材を必要としますが、そのためには、宇宙の取組みに対する国民の支持を得ることが不可欠です。宇宙を利用したアプリケーションやサービスが人々の生活に密接に関わることを理解してもらう必要があり、具体的な事例を積み重ねていくことが大事と考えています。政府でも、宇宙活動を通じた経済・社会の変革、いわゆるスペーストランスフォーメーションの重要性を打ち出しています。文部科学省やJAXAも、研究開発を推進するだけでなく、ユーザー視点、ビジネス視点からの衛星開発や、積極的な利用促進の取組みを進めていくことが求められています。その一環として、最近は、環境省などと連携した森林バイオマスのデータ取得のための取組みや、光学衛星を用いた公共のDXを進めるための取組みにも着手しています。これらを通じて、宇宙利用の普及・推進に努めていきます。

 

伏見:ありがとうございます。それでは続いて永田先生、宇宙利用についてはいかがでしょうか。

 

永田氏:宇宙利用は、具体的な使用方法がわかれば自然と浸透していくと思っています。電子レンジが当初は使い方がわからず浸透しなかったが、今では欠かせないものになっていて、宇宙利用も同様の道をたどると楽観的にみています。先ほどの富田さんの話と同じ感想で、これからは地球にいる人が宇宙を利用することと、地球にいる人が宇宙に出ていくことが並行して進んでいくと思います。地球と月をつなげる経済活動圏が形成されるような未来を想像し、そのような規模の拡大を成し遂げるためには大きな経済規模や物流ネットワークの構築が必要です。その推進には宇宙利用が不可欠と考えます。そしてそのような経済規模拡大には、会計業務に従事する企業も大きな役割を果たすものと期待しています。

 

伏見:最後に会計にまで結び付けていただいて、ありがとうございます。皆さまのお話を伺うと、国民が宇宙に対して持っている「関心・ロマン」を、宇宙産業に対する「信頼・期待」へと高めていくことが、宇宙産業の拡大に必要であることが非常によくわかりました。


クロージング

EY新日本有限責任監査法人 宮川 朋弘

これほどまでに宇宙ビジネスが注目を集めていて、単に夢や希望から現実にビジネスに展開していく段階になったのだなと改めて思います。ご登壇いただいた皆さまにお礼を申し上げます。

EY新日本では、ファイナンスや会計、ガバナンスといった面で、宇宙ビジネスを大きく発展することに寄与できたらと思います。


サマリー

宇宙ビジネス支援オフィスの設立を記念した本ウェビナーでは、元JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏をはじめとしたさまざまなお立場の登壇者を迎え、対談やパネルディスカッションを通じて、EY新日本が宇宙ビジネスにどのように取り組んでいるのか、また、どのような展望を持っているのかを紹介しました。


関連コンテンツのご紹介

EY 新日本、「宇宙ビジネス支援オフィス」を新設

EY 新日本有限責任監査法人(東京都千代田区、理事長:片倉 正美)は、宇宙ビジネス分野の拡大を支援する「宇宙ビジネス支援オフィス」(室長:宮川 朋弘)を新たに設置したことをお知らせします。


期待されている衛星データの民間利用に向け監査法人が貢献できることとは

EY新日本は、宇宙ビジネスの官民連携や宇宙スタートアップのIPO支援のほか、衛星データの監査・保証やサステナビリティでの活用を通じて、日本の衛星地球観測分野の発展に積極的に貢献していくために監査法人業界で初めてCONSEOに加入しました。


EY Digital Audit

EY Digital Auditは、さまざまなデータと先端のテクノロジーを活⽤することで、より効率的で深度ある監査を提供します。


デジタル

EYでは、デジタルトランスフォーメーションは人間の可能性を解き放ち、より良い新たな働き方を推進するためにある、と考えています。 


アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。


情報センサー

EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、非財務情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 

EY Japan Assurance Hub

この記事について