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スペーステックは現代における最大の変革の1つであり、高解像度の衛星画像データと人工知能(AI)と機械学習(ML)を組み合わせたツールを使用して地球上の人類の生活を向上させます。例えば、貴重な生物種の生息地、建設された環境、人間の行動パターン、重要なインフラの欠陥など、ほとんど全ての対象物を宇宙から調査観測し、よく理解することができます。このサイトは、急速に成長するスペーステックを研究するためのナレッジハブです。
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宇宙エバンジェリスト 青木 英剛 氏、文部科学省 竹上 直也 氏、北海道大学 永田 晴紀 氏
モデレーター:
EY新日本有限責任監査法人 伏見 達
伏見:最初のテーマは宇宙開発支援の現況と宇宙スタートアップの機会拡大です。直近ではSBIR(Small Business Innovation Research)の採択や宇宙航空研究開発機構(JAXA)による1兆円規模の宇宙戦略基金などが取りざたされています。このような資金提供は、かつて米国のNASAで行われていたCOTSプロジェクトや、またアンカーテナンシーという言葉を非常に想起させますが、まず政府によるそれら政策の目的、今後の課題について竹上さまからお話を聞きたいと思います。
竹上氏:日本政府は、JAXAを産学官の結節点として位置付け、JAXAにおける戦略的かつ弾力的な資金供給機能の強化を図る意思決定を行いました。今後1兆円規模の資金を宇宙戦略基金に投入することを目指しており、本年度、早速3,000億円の予算計上を行い、JAXAを通じて企業や大学などを支援することを予定しています。また、技術開発支援としては、別途SBIR基金を活用した大規模実証への支援も行っています。文部科学省では、民間ロケット開発やスペースデブリ低減技術開発に約600億円を投じるなど、現場への具体的な支援を開始しています。これらは、COTSプロジェクトなどを参考に制度設計したものです。今後は、より効果的な政策推進のため、アンカーテナンシーなどの政府調達の仕組みや必要となる制度対応についても検討し、全体の動きを加速していきます。
伏見:これについてスタートアップサイドはどのようなご認識なのでしょうか。SBIR、宇宙戦略基金などがもたらす民間企業へのインパクトについて、青木さまのご意見をお聞かせください。
青木氏:スタートアップの立場から、今回潮目が変わったと感じています。いよいよ開発が世界に遅れないレベルで本格化し、むしろ世界に勝っていけるのではないかというレベルの土壌ができました。これからは、開発の補助金的な予算が入った次はいかに公共調達につなげていくかが重要になります。もう1点課題となる制度設計としては、営業外収益となる補助金を、アンカーテナンシーも含めて売上に計上できるような仕組みを作っていければと思います。
伏見:われわれは会計監査をつかさどっている立場ですが、会計処理の問題に触れられたということで、われわれも宇宙産業に接しているのだと感じさせられました。今度は視点を変えて、永田先生にお伺いしたいのですが、先生は北海道大学発のスタートアップ企業にも関与されていますけれども、このような政府開発の支援というものは今後どのような在り方が望ましいか、アカデミアや大学スタートアップ企業を率いる立場から教えてください。
永田氏:宇宙系ベンチャーの課題として、資金だけでなく、技術系人材の不足が問題となっています。特に輸送系の人材が不足しており、日本では炭化水素系の液体ロケット開発に熟練した人材がいません。これが新たなベンチャーを立ち上げる際の大きな課題となっています。大学は人材育成において重要な役割を果たしますが、学生をベンチャーで活躍できるレベルにまで育て上げるには時間が足りません。また、ベンチャー企業には採用後に教育を行うリソースが欠けています。そこで政府がリスクの高い研究開発の支援を行い、大学と連携することで、教育の機会を提供することが求められています。博士課程まで進んだ学生が民間企業で活動し、高度な工学人材として全体を引っ張っていくことが求められています。
伏見:まさにビジネスの世界で言う「ヒト・モノ・カネ」の視点が詰まっていたご意見と思います。それでは今度は民間側として青木さまにお伺いしたいのですが、官民連携という言葉は、ともすれば民間企業側からは公共が負うべき責任やリスクを過度に移転されてしまうのではないかと捉えられることもあると思います。そういった官民連携の言葉の持つニュアンスも含めて、民間企業側からみた官民連携というものはどういうかたちが理想で、その課題がどこにあるのかを教えていただいてもよろしいでしょうか。
青木氏:宇宙産業では官民連携が必須で、官が法整備などの政策を推進し、民間が事業を進めるといった連携が求められています。資金面やプロジェクトを共同で立ち上げ、宇宙プロジェクトを行い民間企業が商業ビジネスを推進するためにも、官民連携が重要です。民間企業と自治体との連携による宇宙港建設が全国各地で行われており、これも官民連携が活用されている例です。米国では既に商用ベースで使われているスペースポートが存在し、それらは民間と官(米国連邦航空局)の連携により許可が得られています。例えば、バージニア州のミッドアトランティック・リージョナル・スペースポートでは、NASAと州政府と民間が協力しスペースポートの運営を行っています。これを参考に、官からの支援を受けつつ民間が独立・自立して活動できるような環境を日本でも整備していくべきであり、このような官民連携を加速させる必要があると言えます。
伏見:依存関係にならずしっかり協力する絶妙なあんばいをどうやって官民連携のスキームに組み込んでいくかは非常に難しくもあり、やりがいのあることだと感じました。
それでは次に、官民連携はアカデミアの視点でも重要となりますが、アカデミアの立場でもある永田先生から見て政府が推し進めている宇宙開発の官民連携はどのような点がポイントなのかをお聞かせいただければと思います。
永田氏:宇宙産業における官の役割として、米国のように発展的な制度を整備することが求められています。具体的には、サブオービタル機の認証を得る際の性能保証や安全確保の制度、スペースポートの利用制度などが挙げられます。その制度が使いやすいかどうかは、民間企業がどれだけスムーズに発展できるかに大きく影響します。使いやすい制度とは、費用負担が少なく、法的な手続きが少ないものを指します。制度設計は主に官が行い、それに対して民間企業が使いやすさのフィードバックを提供し、官民が連携しながら適切な制度とインフラを構築することが重要です。このような取組みから産業発展の可能性が生まれ、政府にはその推進が期待されています。
伏見:宇宙インフラとはハードやソフト面ばかり考えていましたが、先生がおっしゃるとおり、制度のインフラというものも連携して構築していかなくてはならないとよく理解しました。また、官民連携をしたらすぐに理想の世界が構築できるのではなく、産みの苦しみの段階といえる過渡期においては、適切な形での公共による民間の後押しが必要であると、よく伝わってくるご意見でした。
では最後のテーマに入ります。最後のテーマは宇宙利用と数兆円産業への道筋ということで、宇宙基本計画でも明らかなとおり、今後の将来の産業の大部分は宇宙利用や衛星データ利用に依拠すると予測されます。他方で、衛星データの利活用は一体そのデータを何に使うのか、また宇宙を何に使うのかの使い道もポイントになると思います。どうやって宇宙利用を目標とする規模まで持っていくか青木さまにぜひご見解を頂きたいと思います。
青木氏:宇宙から得られるデータの活用は今後の宇宙産業の発展の鍵となると考えられています。ただし、その利用方法についてはまだ明らかになっていない企業も多く、政府が具体的な事例を紹介したり、実証を作るなどの支援が求められます。地方自治体でも、宇宙データを利用して地域や自治体が直面する問題解決に活用しようとする動きがあります。災害対策などでの宇宙データ活用が進んでおり、これらの事例が民間企業の参入につながると考えられています。特に半導体のサプライチェーン分析に宇宙データを利用した取組みがあり、これが各企業に影響を与えると予想されています。衛星画像だけでなく、位置情報や宇宙通信もデータ利用の対象となり、これらの組み合わせにより宇宙ビッグデータ市場が発展すると見込まれています。
伏見:宇宙利用では政府がファーストペンギンになることが重要ですね。次いで竹上さま、宇宙利用についてご意見をお聞かせください。
竹上氏:宇宙開発には多くの予算や人材を必要としますが、そのためには、宇宙の取組みに対する国民の支持を得ることが不可欠です。宇宙を利用したアプリケーションやサービスが人々の生活に密接に関わることを理解してもらう必要があり、具体的な事例を積み重ねていくことが大事と考えています。政府でも、宇宙活動を通じた経済・社会の変革、いわゆるスペーストランスフォーメーションの重要性を打ち出しています。文部科学省やJAXAも、研究開発を推進するだけでなく、ユーザー視点、ビジネス視点からの衛星開発や、積極的な利用促進の取組みを進めていくことが求められています。その一環として、最近は、環境省などと連携した森林バイオマスのデータ取得のための取組みや、光学衛星を用いた公共のDXを進めるための取組みにも着手しています。これらを通じて、宇宙利用の普及・推進に努めていきます。
伏見:ありがとうございます。それでは続いて永田先生、宇宙利用についてはいかがでしょうか。
永田氏:宇宙利用は、具体的な使用方法がわかれば自然と浸透していくと思っています。電子レンジが当初は使い方がわからず浸透しなかったが、今では欠かせないものになっていて、宇宙利用も同様の道をたどると楽観的にみています。先ほどの富田さんの話と同じ感想で、これからは地球にいる人が宇宙を利用することと、地球にいる人が宇宙に出ていくことが並行して進んでいくと思います。地球と月をつなげる経済活動圏が形成されるような未来を想像し、そのような規模の拡大を成し遂げるためには大きな経済規模や物流ネットワークの構築が必要です。その推進には宇宙利用が不可欠と考えます。そしてそのような経済規模拡大には、会計業務に従事する企業も大きな役割を果たすものと期待しています。
伏見:最後に会計にまで結び付けていただいて、ありがとうございます。皆さまのお話を伺うと、国民が宇宙に対して持っている「関心・ロマン」を、宇宙産業に対する「信頼・期待」へと高めていくことが、宇宙産業の拡大に必要であることが非常によくわかりました。