われわれの調査結果以外にも、“若年層が「環境にやさしい」で動く”ということが俗説であることを示す先行研究が存在します。「Greener than Others? Exploring Generational Differences in Green Purchase Intent.」6では、「年齢と環境配慮商品の消費行動の関係は、以前から多くの先行研究で取り扱われてきたが、その結果は矛盾しており、曖昧である」ということが指摘されています。具体的には、「年齢と環境配慮商品の消費行動の間には関係が見られる」という研究結果もあれば、「年齢と環境配慮商品の消費行動の間には、関係が見られない」という研究結果もあり、一貫した結論が得られていないという指摘がされています。
別の先行研究7では、若い世代は、環境問題を認識していても、実際に環境に配慮した行動を取る可能性は低いことが指摘されています。
こういった研究を背景として、若年層が”環境にやさしい”で動くという俗説は否定されつつあります。
—消費者にとって「今・ここ・私」に近い価値とひもづけることで動く
若年層を中心に、“環境にやさしい”で動かない層が多数存在するのは、生まれながらに脳にプログラミングされた「心のクセ・価値観(以下、進化的な本能)」が、大きく影響しています。
人の進化的な本能は、「今・ここ・私」に近い価値(=生存および遺伝子を残すこと)に対して主に反応します。他方で、気候変動をはじめとした環境問題は、ヒトという種が進化したサバンナ(古代)環境には存在しなかったため、多くの人にとって「将来・遠く離れた場所・自分と親しくない他人」に生じる出来事だと感じられやすく、人が本能的な興味を持つことが難しいのです8。
裏を返すと、環境問題を「今・ここ・私」に近い価値とひもづけることさえできれば、環境配慮行動のために人が動きやすくなると考えられます。
「今・ここ・私」に近い価値とひもづけるために、具体的には大きく2つのアプローチ方法が考えられます。
1つ目は、本能的に理解できる脅威を伝える「直球アプローチ」、2つ目は本能的に重要と感じる別の価値とひもづける「変化球アプローチ」です。
直球アプローチの有効性を示唆する先行研究の代表例として「The evolutionary bases for sustainable behavior: Implications for marketing, policy, and social entrepreneurship」9が挙げられます。この研究では、「感じる、聞く、嗅ぐ、触れる、見ることができる環境の脅威に対して、人は敏感に反応する」ということが示唆されています。具体的には、目に見えない有害な排気ガスに意図的に色を付けて大気中の汚染物質レベルを示すことで、本能的に理解できる脅威として伝わり、大気汚染に対する回避行動をより促す可能性があると指摘されています。
変化球アプローチの有効性を示唆する代表例としては、ラベルレス飲料市場が挙げられます。例えば、コカ・コーラ社は「い・ろ・は・す天然水ラベルレス」の訴求において、「環境に配慮している商品」という価値を訴求するのではなく、人が飲料水を選ぶ上で本能的に重視する「おいしさ」や、キュッとしぼる「楽しさ」に加え、廃棄時にラベルを剥がす手間が省ける「簡単さ」を強調することで消費者の購買行動を促しています10。同様なアプローチは、アサヒ飲料の「アサヒ おいしい水 天然水 ラベルレスボトル」においても確認できます。「おいしさ」や「楽しさ」、「簡単さ」は、まさに「今・ここ・私」に近い価値(=生存および遺伝子を残すことに直結した価値)と解釈できます。結果的に環境配慮行動である、消費者のラベルレス飲料の購買行動を促す上で、これらの価値が大きく影響したと解釈できます。
このように、どのようなアプローチであったとしても、進化的な本能が“ついつい”反応してしまう「今・ここ・私」に近いと感じられる価値を分かりやすく強調することで、結果として、環境に配慮した行動を促すことができるのです。
—消費者の価値観に応じた「今・ここ・私」の見極めが不可欠
人の進化的な本能は、「今・ここ・私」に近いと感じられる価値に対して主に反応します。しかし、その反応(どのような価値に「今・ここ・私」に近いと感じるか)は、その人の価値観に大きく左右されます。
先ほどご紹介したわれわれの調査結果からも、再エネ利用については「環境・献身重視タイプ」と「実利・快さ追求タイプ」とで価値観が異なり、それが年代によって左右されることをご紹介しました。
つまり、消費者の価値観、または年代に応じてコミュニケーションの仕方を変えることが重要であると言えます。(図3)
図 3 再エネ価値に感じる価値