EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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EYの試算によると、行動経済学・心理学を起点として社会課題解決型の行動を消費者や従業員に対して促すことにより生み出される市場規模は、約11兆円に上ります。BX(行動科学トランスフォーメーション)は、企業による11兆円市場の参入と取り込みを促します。
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具体的には、「得だから・損したくない」という気持ちを引き出す際には、同じインセンティブの原資だとしても、インセンティブの与え方を工夫することで効果を高めることができます(上図のLevel 3)。例えば、同じ1,500円のインセンティブでも、一度に与えるよりも分割して与える(2回に分けて750円ずつ与える)方が、人はお得感を強く感じます7。これは、「同じ財の2単位目(例:100円から200円になる際の100円の増分)が与えるお得感は、1単位目(例:0円から100円になる際の100円の増分)よりも小さく感じられる」という心のクセが働くからです。このように、インセンティブの与え方に関する科学的な知見を活用することで、こだわりが強い行動や、持続的な行動をより効果的に促すことができます。もちろん、ここで紹介した以外にも、膨大な科学的知見が存在します。
また、「好き・こだわりたい」という気持ちを刺激する際には、人が持つ本能を考慮することが不可欠です(上図のLevel 4)。例えば、「気候変動への配慮」は人の本能として弱いものです8。これは、進化的に見て、未来の不確実なリスクよりも現在の利益を優先するように人はできているからです。一方で、「自分の子供の繁栄」は人の本能として強力です9。そのため、「使わない部屋のライトを消さないと子供の教育上悪い」というメッセージは、「環境のために節電しよう」というメッセージよりも、人の行動を変える効果が高くなります。
さらに、「好き・こだわりたい」という気持ちを醸成する際には、人によって異なる関心・こだわりに寄り添うことも重要です。例えば、米国で環境に配慮するように保守層を動かすには、「地球や動植物の保護が必要」という保守層の心に寄り添わない「正論」ではなく、「環境に優しいライフスタイルが、自国の安全保障や経済成長に結び付く」という、保守層の心に寄り添ったコミュニケーションが効果的であることが実験研究で示されています10。実例としても、気候変動やESGに否定的とされる米国の共和党の上院議員が、「中国にフェアに競争させるためには国境炭素税が必要」だと、結果的に気候変動に配慮した主張をし始めているそうです11。
このように、「正論で人を動かすのは難しい」ことを前提とした上で、ナッジという手法だけに頼らず、行動経済学や心理学の知見全体を適材適所で活用し、科学を起点に人の心に寄り添ったコミュニケーションを設計するBX(行動科学トランスフォーメーション)のアプローチ12が、企業経営において今求められているのではないでしょうか。