行動経済学・心理学を起点としたコンサルティングサービス – BX Strategy

In Consulting

EYの試算によると、行動経済学・心理学を起点として社会課題解決型の行動を消費者や従業員に対して促すことにより生み出される市場規模は、約11兆円に上ります。BX(行動科学トランスフォーメーション)は、企業による11兆円市場の参入と取り込みを促します。
関連トピック

BXとは

BXとは、Behavioral Insight Transformation(行動科学トランスフォーメーション)を言い、「行動経済学や心理学などの行動科学を起点にして、人の心に寄り添った方向へコミュニケーションの在り方を変革(トランスフォーム)すること」を指します。


BXが社会課題解決の切り札に

行動経済学や心理学などの行動科学を取り入れ、人が生まれながらに持つ本能のメカニズムを理解することによって、近年顕在化している主な社会課題を抑制できる可能性が高まっています。*1*2

例えば、不健康だと分かっていても、脂っこい食べ物や味の濃い食べ物などを食べ過ぎたり飲み過ぎたりすることで起こる生活習慣病は、「健康に悪い影響を与えないように脂っこい食べ物は控えよう」といった正論のコミュニケーションだけでは発症を防ぐような解決に至りません。「脂っこくて」「味が濃い」食べ物を否定するのではなく、血糖値や血中脂肪の上昇を抑制する飲み物と同時に摂取することを推奨したり、減塩食品の選択を推奨したりするなど、偏食や過食を一定程度認める不完全さを許容するコミュニケーションが有効です。

また、環境に配慮した行動を促したい場合は、「環境にやさしい行動をしよう」といった正論をぶつけるのではなく、「子供の教育上良い行動をしよう」のように、人が生まれながらに持つ強力な本能(例:わが子びいきの本能)とひも付けたコミュニケーションが有効です。実際に、環境を理由に家庭内での節電行動をしない人でも、子供への教育的影響を考慮して節電行動をするようになる可能性が示されています。*3


BX市場の規模は約11兆円

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の試算*4によると、行動経済学・心理学などの行動科学を活用し、健康増進、環境配慮、保険加入、エシカル消費、老後資産形成、デジタル活用、DE&I、ワークライフバランス充実など、社会課題解決型の行動を促した際に生み出すことができる市場規模は、約11兆円にも上ります。このBX市場は、主に次の理由から、今後も拡大すると考えられます。

  • 政府によるサステナブル投資の推進:政府がサステナブル投資の推進を加速している折*5、サステナブル投資を呼び込むための企業経営がますます求められている。

  • 企業に対するグリーンウォッシュへの警笛:企業によるサステナブル投資の呼び込みに対して、グリーンウォッシュ(見掛け倒しの環境対策)が経営リスクとして取り上げられ始めている。*6

  • 社会全体のCO2削減貢献に対する要請の高まり:ESG投資家や国際機関が、企業の社会全体への「削減貢献」を重視し始めている*7*8(企業による「消費者のサステナブルな消費行動への転換に対する責任」が、ますます大きくなる可能性が高い)。
BX市場の規模

つまり、行動科学を起点にして、人の心に寄り添った方向へコミュニケーションの在り方を変革(トランスフォーム)するBXは、企業による11兆円市場への参入と取り込みの切り札となり得ます。
 

BX Strategyチームについて

私たちは、行動経済学・心理学を起点とした経営コンサルティングを専門としたチームです。

大学教授や博士課程修了者をはじめとする、行動経済学や心理学などの行動科学に関するアカデミックな知見や手法をバックグラウンドに持ち、かつビジネスにも精通した経営コンサルタントのチームだからこそ、経営上重要な課題を科学的なアプローチによって解決に導きます。
 

BX Strategyの提供サービス

EYは、人を動かすための心のツボを体系化したフレームワーク(ARMS:Auto-response、Realization、Motivation、Self-efficacy)を活用し、個々のプロジェクトに合わせて科学的に効果が高いと考えられる行動変容施策を設計した豊富な実績を持ちます。
例えば、環境配慮行動を促すために「子どもを大事にしたい」という本能をくすぐる施策(例:子どもの教育上良いから家庭内で省エネをしようというコミュニケーション)など、人の行動変容を引き起こす最適アプローチを、ARMSモデルを活用しながら設計していきます。

ARMSモデル
ARMSモデル

EYの強み

行動科学のアカデミックな専門性や、行動科学の理論・モデルを使用するシンプルなマーケティング支援にとどまらず、EYが培ってきた豊富なビジネスソリューションとの組み合わせにより、経営課題の解決に直結する施策の立案など、実践的な支援を提供します。

  • 行動科学のアカデミックな知識を豊富に有する経営コンサルタントとして、行動科学の理論・モデルを起点としながら、企業経営における構造的課題を特定した上で、課題解決を図ります。

  • 行動変容のメカニズムを科学的に特定・分析できるEY独自の心のツボを体系化したフレームワーク(ARMS)をはじめとして、企業経営への行動科学の本格的な落とし込みを容易にする独自のBXソリューションを有しており、企業経営への行動科学の適用を容易にするパッケージ化されたソリューションにより、さまざまなビジネスシーン、政策に対して、短期間で精度の高い支援が可能です。

  • 単純なデータドリブンやビックデータの解析(手当たり次第のデータ収集・解析と、探索的な答えの導出)にとどまらず、行動科学の知見に基づきより精度の高い仮説を立てた上で、必要不可欠なデータのみを科学的手法に基づいて取得・解析することで、不要な試行錯誤を繰り返しません。
     

具体的な支援パッケージ

EY独自の支援パッケージによって、企業経営のコミュニケーションの在り方を行動科学を起点として変革(BX)します。

Step1. 課題の明確化:
組織の経営課題を分析し、変容させるべき行動を特定します。

Step2. 対象行動の診断:
ペルソナ(対象とするセグメント)ごとに変容させるべき行動のボトルネック(促進・阻害要因)を独自モデル(ARMS)に基づいて特定します。ボトルネックは、先行研究調査、デプスインタビュー、Webアンケート調査などによって取得したデータを科学的手法に基づいて解析することで特定します。具体的には、多変量解析(重回帰分析、ロジスティック回帰分析、構造方程式モデリング、テキストマイニングなど)によって得られた結果を、独自モデル(ARMS)に基づいて解釈していくことで、ボトルネックを特定していきます。また、ペルソナについても多変量解析(クラスター分析など)によって得られた結果を、ARMSに基づいて科学的に解釈していくことで設定します。

Step3. 施策の設計:
特定したボトルネックを解消する、打ち手仮説(行動変容のための施策)を設計します。科学的な有効性と、経営上のインパクトの双方の観点を踏まえ、ナッジなどの代表的な行動変容理論に加え、変えたい行動に応じて追加で調査した先行研究の知見も活用します。(例:効果的なインセンティブ設計など)

Step4. 実験/モニタリング:
設計した施策を効果検証する手法(Web実験、社会実証、ABテストなど)を設計した上で、実際に効果検証を行い、最も有効な施策を特定します。その際には、取得データに対する多変量解析(統計分析)によって結果を解釈します。

Step5. インサイトの導出:
打ち手仮説を経営上スケールさせる(既存システム・フロー・コンテンツに適用する)方法を検討し、必要に応じてロードマップを作成します。

具体的なご支援パッケージ

幅広い業種・領域の専門チームと連携した知見を提供

EYは、BX(行動経済学・心理学含む)領域の専門チームに加えて、グローバルで豊富な知⾒と実績を持ち、各業界・分野それぞれの専⾨家がワンチームで連携することで、社会課題解決型の製品・サービスの普及やウェルビーイングの追求を後押しします。

例えば、サステナビリティ経営に関する施策を考案する際には、行動科学の専門家に加えて、サステナビリティ経営のスペシャリストが施策を監修することで、科学的かつ経営上よりインパクトが大きな解決策を導くことが可能です。
 

過去の実績・支援事例

政府・公共機関:
・再エネ電気の利用を促すコミュニケーション・サービス(アプリ)の検討支援

総合電機業界:
・パーソナルデータの取り扱いに関するレピュテーションリスクとその対応策の検討支援

金融(銀行・保険)業界:
・安全運転アプリの開発支援
・代理店における営業力の強化支援
・個人顧客向け金融サービス開発支援
・コミュニケーション・ガイドライン策定支援

EY内:
・新卒採用活動(インターンシッププログラム、リテンション施策)

その他、マーケティング・プロモーション戦略の検討支援を中心として多数の支援実績あり。
 

関連する出版・執筆など


脚注
*1 出典:Griskevicius, V., Cantú, S. M., & van Vugt, M. (2012). The Evolutionary Bases for Sustainable Behavior: Implications for Marketing, Policy, and Social Entrepreneurship. Journal of Public Policy & Marketing, 31(1), 115-128.
*2 主要な社会課題を引き起こす市場には、2つのタイプ(本能過敏市場と本能欠落市場)が存在する。本能過敏市場は、本能が過敏に反応した結果(例:食欲の過敏な反応)として生じ、本能欠落市場は本能が欠落している結果(例:環境に配慮したいという本能の欠落)として生じるものである。
*3 出典:伊藤 言他「心理的個人差によるクラスタリングと省エネ行動への介入効果との関連 第6回気候変動・省エネルギー行動会議(BECC JAPAN 2019)」、2019年8月
*4 試算方法について
試算に当たっては、「A.社会課題を解決する行動に関連する市場規模」×「B.行動変容による市場規模の拡大率(=一律10%と仮定)」として算出。

「A.社会課題を解決する行動に関連する市場規模」について
表の「社会課題を解決する行動」を対象とし、それぞれの行動が以下のAの対象となる市場を拡大させると仮定。(例:これまで健康を意識しない消費行動をしていた人が、行動科学を用いたアプローチにより、健康食品を購入するようになるなどして市場規模が拡大)

A.の対象となる市場

社会課題を解決する行動

社会課題を解決する行動に関連する市場

健康増進

ヘルスケア(健康保持・増進に働きかけるもの)

環境配慮

クリーンエネルギー利用(家庭用ソーラーシステム、新エネ売電ビジネス)、省エネルギー化(次世代省エネルギー住宅、省エネラベル付き冷蔵庫・エアコン・液晶テレビ、LED照明)、エコカー、リサイクル素材(廃プラスチック製品、PETボトル再生繊維、レアメタルリサイクル)、資源有効利用製品(中古自動車・家電・住宅、エコマーク認定文房具、電子書籍)、エコカーレンタル、カーシェアリング、長寿命建築、国産材使用(建築用・容器・家具・装備品)、エコツーリズム、環境教育

エシカル消費

フェアトレード、植物性代替食品、サスティナブルフード、プラントベースフード、植物性代替食品、オーガニック加工食品、自然派・オーガニック化粧品、地産地消、自転車

老後資産形成

iDeCo(個人型確定拠出年金)

保険加入

自動車保険、損害保険(自動車以外)、生命保険

デジタル活用

業務効率化、サイバーセキュリティ、情報セキュリティ

DE&I

女性活躍、LGBTQ+活躍

ワークライフバランス充実

ウェルネス市場

「B.行動変容による市場規模の拡大率(=一律10%と仮定)」について
①行動科学的な手法を用いた介入には、平均して15%程度の行動変容効果があることを複数の研究が示している(メタ分析と呼ばれる、複数の研究結果の統合的な解析による)。拡大率の具体例は以下の通り。

  • ナッジを用いた介入による平均的な行動変容効果は16.6%(440件の介入結果を統合)*a
  • ナッジ以外の介入手法も含んだ、身体活動の平均的な行動変容効果は16.6%(224件の介入結果を統合)*b
  • 介入研究に限定されないが、社会心理学分野全体の効果の中央値は14.1%(6,447件の実証結果を統合)*c

②他方で、学術的な実証ではなく、リアルな現場で大規模な介入を行った際には行動変容効果が弱まることを示唆する研究も出始めているため、15%という行動変容効果の推定値に対する下方修正が必要である。拡大率の具体例は以下の通り。

  • カーボンニュートラル(温暖化阻止)行動を促進するための介入の、フィールドでの平均的な行動変容効果は約7.1%(430件の介入結果を統合)*d
  • 一部のナッジをフィールドで適用した際の平均的な行動変容効果は約1.4%(126件の介入結果を統合)*e

③下方修正した結果として、行動変容による市場規模の拡大率を一律10%と仮定した。

※なお、行動変容効果を%に換算する際には、CohenのU3という指標を用いている。

*a 出典:Mertens, S., Herberz, M., Hahnel, U. J. J., & Brosch, T., The effectiveness of nudging: A meta-analysis of choice architecture interventions across behavioral domains. (Proceedings of the National Academy of Sciences, May 4, 2022), 119(1), e2107346118.
*b 出典:McEwan, D., Beauchamp, M. R., Kouvousis, C., Ray, C. M., Wyrough, A., & Rhodes, R. E., Examining the active ingredients of physical activity interventions underpinned by theory versus no stated theory: a meta-analysis. (Health Psychol Rev, March 13, 2019), 13(1), 1-17.
*c 出典:Lovakov, A., & Agadullina, E. R., Empirically derived guidelines for effect size interpretation in social psychology. (European Journal of Social Psychology, February 4, 2021), 51, 485-504. 
*d 出典:Bergquist, M., Thiel, M., Goldberg, M. H., & van der Linden, S., Field interventions for climate change mitigation behaviors: A second-order meta-analysis. (PNAS, March 21, 2023), 120(13), e2214851120.
*e 出典:DellaVigna, S., & Linos, E., RCTs to scale: Comprehensive evidence from two nudge units. (Econometrica, January 26, 2022), 90(1), 81-116.
*5 金融庁「今後のサステナブルファイナンスの取組みについて」(令和4年9⽉20⽇)、fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20220920/02.pdf(2023年2月3日アクセス)
*6 経済産業省「令和2年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(グローバル・サプライチェーンの環境対応等に関する分析)」(2021年3⽉31⽇)、meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000172.pdf(2023年2月3日アクセス)
*7 “IWA 42:2022 Net zero guidelines”, ISO, iso.org/standard/85089.html(2022年11月29日アクセス)
*8 参考文献:DellaVigna, S. and Linos, E., RCTs to Scale: Comprehensive Evidence From Two Nudge Units.
(Econometrica, 26 January 2022), 90, 81-116.

※行動科学トランスフォーメーション、Behavioral Insight Transformation、BX Strategyは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の日本における登録商標です。


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ノーベル経済学賞を受賞したナッジをはじめとして、企業経営に行動経済学や心理学などの科学的な知見をどう生かすことができるかを解説します。


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