TNFDベータv0.4版発行:目標設定のガイダンス(Annex 4.8)について

TNFDベータv0.4版発行:目標設定のガイダンス(Annex 4.8)について


自然関連の財務情報開示フレームワークTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。

本稿ではそのうち、目標設定に関するガイダンス(Target Setting:Annex 4.8)について概説します。


要点

  • 企業にとって効果的な目標(ターゲット)を設定するための作成プロセスが提示された
  • 目標設定における推奨事項および方向性が示された
  • SBTNのフレームワークを用いて、自然に関する目標設定を行うことが推奨された
  • 昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)および国際イニシアチブとの整合性を確保した自然関連目標を設定することを強く奨励された


2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、以下の目標設定の考え方と目標例に関する付属書類について、概要を説明します。

  • Annex 4.8 目標設定に関するガイダンス(Guidance on Target Setting)

1. TNFDの文脈に沿った効果的な目標(ターゲット)

効果的な目標(ターゲット)は、以下の4つの作成プロセスに沿って設定されたものであるとTNFDはしています。

① 目標を何に設定するか?
② それをどのように測定するか?(指標の選択)
③ 目標値と達成までの軌道は?
④ モニタリング、報告、レビュープロセス
 

① 目標を何に設定するか?

企業はまず、何を目標にしたいのかを特定する必要があります。以下の図1に示すように、直接的な取り組み目標を設定することもあれば、事業内のさまざまなレベルや地域で相関する指標を通じた間接的な取り組み目標を設定することもできます。


図1 目標の分類とその例

図1 目標の分類とその例

出典:” The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.8 Guidance on Target Setting” ,(2023年6月2日アクセス)を基にEY作成

 

それらの選択をする際、以下のことを考慮する必要があります。
 

依存関係や影響の経路:

関連する依存関係と影響の経路の理解に基づき、依存や影響の経路のどの要素を適切に定量化して目標を設定できるか、相関する指標を代わりに使用できるか(詳細はガイダンス本文BOX1に記載)。
 

戦略およびリスク・機会の管理目標との整合性:

目標は、シナリオ分析(詳細はガイダンス本文BOX2に記載)の結果から導かれる自然関連の依存、影響、リスクおよび機会を管理するための組織の優先事項、目的または戦略と明確に整合しているか。
 

コントロールとインセンティブ:

自らが管理している、あるいは大きな影響力を持つ活動、影響、結果について目標を選択し、望ましい結果を達成するための行動を動機付けるような形で目標を設定しているか。
 

気候変動目標との相互作用およびトレードオフ:

自社の気候関連の目標との相互作用を考慮しているか。気候関連目標と自然に関する目標との間の整合性、貢献、トレードオフの可能性が明確になるように。
 

② それをどのように測定するか?(指標の選択)

定量化された目標は、進捗を測定し追跡できる測定指標にリンクしている必要があり、以下を考慮した指標を選択すべきであるとされています。
 

関連性:

全体的な目的と明確に関連付ける必要がある。
 

透明性と現実性:

オープンソースで自由に利用できるデータやツールを使用するのが理想的。それにより、成果に対する説明責任を果たしているという信頼が得られ、再現性が高まり、検証と妥当性確認への負担が少なくなる。
 

応答性:

組織の活動の変化にタイムリーに対応する(変化が分かりやすい)指標。
 

本ガイダンスでは、以下の表1のような指標を例示しています。

表1 指標と目標の例

指標

目標例

事業活動における天然資源のインプットと非生産物のアウトプット(インパクトドライバー)

・2020年以降に森林破壊された土地から調達する一次産品の量を2025年12月31日までにゼロにする

・2020年比で2030年までに利用農地面積当たりの農薬使用量をX%削減する

・2030年までに食品廃棄物を50%、食品ロスを少なくとも25%削減する

生態系資産の状態/程度(自然の状態)

・2025年までに直接的な事業活動およびバリューチェーンにおいて、関わりのある陸地の100%に絶滅危惧種が存在するかどうかを評価する

・絶滅危惧種が存在することが分かった地域の100%を、2030年までに効果的に管理し、脅威を減らし、種の健康を改善し、種の個体数を増加させる

・2030年までに、関わりのあるすべての水域が、環境的に健全な環境水質と生態学的に健全な流域環境を有するようにする

生態系サービスの望ましいフロー(依存)

・2030年までに、バリューチェーンにおける依存の大きい部分の水の使用量をX%削減する

③ 目標値と達成までの軌道は?

企業は、目標値、達成期限、その期間中の軌道を評価する必要があります。具体的には以下を満たすことが必要です。
 

時間軸の明確な規定

  • ベースライン:進捗状況を把握するために基準となる期間が明確に定義されている必要がある。ベースラインは、すべての目標で一貫していることが理想的である。
  • 時間軸:目標が達成されるまでの時間軸を定義する必要がある。短期、中期、長期の時間軸は、組織の目標で一貫している必要がある。
  • 中間目標:中間目標は、目標達成までの間のチェックポイントであり、その時点で組織は進捗状況を評価し、計画や目標の調整を行う。長期目標は5年ごとなど適切な間隔での中間目標を設定する必要がある。
     

Science-based(科学的根拠に基づく)

  • 自然と社会のニーズに関する入手可能な最善の科学に基づいて、中間目標と最終目標のレベルとタイミングを決定する必要がある。その際、シナリオ分析と信頼できる科学に基づく、地域の生態系における潜在的な転換点(これ以上進んだらもう生態系サービスを利用できなくなる点)を考慮する必要がある。

 

④ モニタリング、報告、レビュープロセス

目標設定後、企業は進捗状況を監視・報告し、定期的に見直す必要があります。具体的には以下を満たすことが必要です。
 

理解しやすさ

  • 理解しやすい方法(例:明確な言語、ラベル付け)で提示され、あらゆる制限や注意事項の説明を含むべきである。目標の開示は、組織の境界、方法論、基礎となるデータおよび仮定などの項目に関する情報によって補足されるべきである。
     

毎年の報告

  • 少なくとも年1回、自然関連目標に対する進捗状況を報告し、目標のアップデートと新しい目標を報告すべきである。
     

定期的な見直しと更新

  • 少なくとも5年ごとに自然関連目標の内容を見直し、必要に応じて更新するためのプロセスを持つべきである。戦略や目標が変更された場合、または以前に設定した目標を上回ったり下回ったりした場合、目標内容を調整可能である。

2. 目標設定のために参照できる外部基準

SBTN(自然に関する科学に基づく目標設定)

SBTNは、企業のバリューチェーンが自然に与える影響に関する目標設定のための方法を開発しています。それは科学的根拠に基づく生物多様性損失の要因と生物多様性への影響を組み込んでいます。TNFDは、企業が自然に関する目標を設定し、そのパフォーマンスを測定する際、SBTNのフレームワークを用いて科学的根拠に基づく目標を設定することを推奨しています。


3. 昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)に沿った目標設定

昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)

GBFは2050年までに自然を維持・回復させ、生物多様性を保護し、種の絶滅を防ぐための4つの目標と、2030年までの23の中間目標を設定しています。これらの目標は、生物多様性への脅威の低減、持続可能な利用と利益共有を通じた人々のニーズへの対応、制度的変化を促進するツールと解決策の3つのグループに分類されます。GBFは各国政府によって合意されており、実施・報告されますが、企業においては、地域レベルでのGBFの実施から生じる政策とコンプライアンス要件に適応する準備をしておく必要があります。また、GBFの目標とビジョンを達成するために、社会全体としての行動が必要であり、企業は、積極的に自然に対するリスクと影響を減らし、できる限り自然を回復・保護する活動に投資することが望まれます。多くのGBFの目標と指標は、ビジネス活動に直接関連しており、本ガイダンスのAnnex1に、ビジネスがGBFの目標とどのように関連するかの例が示されています。TNFDは、企業がGBF、パリ協定、公海条約、グラスゴーの森林と土地利用に関するリーダー宣言などの国際目標との整合性を確保した自然関連目標を設定することを強く奨励しています。


まとめ

2022年3月のベータv0.1版発行から今回のベータv0.4版発行を経て、開示すべき情報がより具体的、明確になってきました。Annex 4.8目標設定に関するガイダンス(Guidance on Target Setting)では、企業にとって効果的な目標(ターゲット)を設定するための作成プロセスを提示し、目標設定における推奨事項および方向性が示されました。また、企業が自然に関する目標設定を行う際、SBTNのフレームワークを用いることを推奨しています。さらに、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF:Global Biodiversity Framework)およびパリ協定などの国際イニシアチブとの整合性を確保した自然関連目標を設定することを強く奨励しています。本ガイダンスでは、具体的な指標及び目標例については、多くは触れられておらず、上記のフレームワーク、ガイドラインに示されている指標等も参考にしながら自社に最も適応する目標を見つけていくことが必要になります。

EYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFD及びSBTに係る取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に係るバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供させていただきます。


関連資料

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.8 Guidance on Target Setting,
tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Annex_4.8_v4-1.pdf

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf


【共同執筆者】

堀越 翔一朗
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部

京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士前期課程修了後、食品メーカーの技術系総合職として、食品製造工場のエンジニアリング業務に従事。2022年にEYへ入社し、CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部にて、ビジネスと生物多様性の関連性調査、LEAPアプローチを含むTNFD開示支援を中心に、気候変動関連業務(GHG排出量算定支援、CFP算定支援、その他調査業務等)、EHS関連業務、CDP、DJSI回答支援など幅広く環境・サステナビリティ分野の業務に従事。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

目標設定に関するガイダンスでは、企業にとって効果的な目標(ターゲット)を設定するための作成プロセスを提示し、目標設定における推奨事項および方向性が示されました。また、自然に関する目標設定を行う際、SBTNのフレームワークを用いることと、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)およびパリ協定などの国際イニシアチブとの整合性を確保した自然関連目標を設定することを強く奨励しています。


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    この記事について

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

    EYはクライアントと共にビジネスにおける生物多様性の主流化を目指し、ネイチャーポジティブのための変革をサポートします。

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)