EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本記事ではベータv0.3版本文のうち押さえたい点を中心に、前版からの改訂点についてお伝えします。
今回のベータv0.3版の発行で押さえておきたい主な3つの点は以下の通りです。
要点
自然関連の財務情報開示フレームワークであるTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.3版が2022年11月4日に公開されました。
今回の公開情報は、データ量が多いこともあり(ダウンロードできるPDF冊子の形で11冊分〈11月4日時点〉が公開)、本文以外のガイダンス類に関しては今後3回に分けて順次解説していきます。本記事では、ベータv0.3版の本文とエグゼクティブサマリーについて、主な変更点や新たに加えられた要素について説明します。
ベータv0.3版において押さえておきたい次の3つのポイントをそれぞれ簡単に解説いたします。なお、ベータv0.3版のエグゼクティブサマリーの要約を参考情報として後述しますので、ぜひご参照ください。
今回、ベータv0.3版の本文、エグゼクティブサマリーと共に、ガイダンスとディスカッションペーパーが下記の通り発行されました。本ガイダンスを構成するのは、Annex 3.1とAnnex 3.2のペア、Annex 3.3とAnnex 3.4のペア、および「Additional draft guidance for corporates on science-based targets for nature」です(詳細は後日解説)。これらにより、企業では、LEAPアプローチのA(評価)フェーズでのリスク・機会の考え方が具体的にイメージできるようになり、金融機関では開示提言のピラーに沿ったガイダンスを確認することができます。また、目標設定に関するガイダンスとしてSBTN(Science Based Targets Network)に沿うよう明確な指針が出ました。
ディスカッションペーパーについても、今後ガイドライン化が予定されている社会的次元へのアプローチやシナリオ分析に対するアプローチが発表され、次回のベータv0.4版に向けてTNFDがどのような考え方を持っているかを確認することができます。今後、社内にて検討が必要な項目について知ることができるため、企業においてはこれらのディスカッションペーパーなどからも事前に情報を取り込むことが期待されます。
TNFDのフレームワークはもともと、既存の情報開示フレームワークであったTCFDをベースとして構築されており、どの箇所をcarry over(持ち越し)、adaption(適用)し、additional(追加)するかの検討を経て構築されてきています。
TNFDのベータv0.1版が発行されたときには基本骨格はTCFDそのままに、少し変更点が入っている程度でしたが、より検討が進み、今回のv0.3版にて下記4点の大きな更新がありました。(これまでの変遷を図2-1にまとめています。)
① ベータv0.1版ではTCFD提言の文言がそのまま記載されていた「指標と目標」の項目B(「気候への影響〈GHG排出量の開示など〉」)がTNFD用に適用され、自然に対する依存と影響についての情報開示がうたわれた。
② 複数の開示提言(各ピラーの項目)において、「自然関連の依存と影響」が「リスクと機会」と併記された。
③ これまで「リスク管理」のピラー(柱)だったものに「リスクと影響の管理」のように「影響」が追記された。
④ 自然関連の依存、影響、リスクと機会の特徴を捉えるべく、以下の重要な3点が情報開示提言として追加された。
(i) トレーサビリティ(提言ではインプット源の特定のアプローチとして記載)
(ii)ステークホルダー(権利保持者を含む)、エンゲージメントの質
(iii) 気候変動におけるネットゼロと生物多様性におけるネイチャーポジティブを同時に達成するための統合型移行計画の重要性増大に伴う気候と自然関連目標の整合
自社グループやポートフォリオのリスクマネジメントにおいて、企業や金融機関にLEAPアプローチを活用してもらえるよう、今回のv0.3版の発行にて下記4点の改訂が加えられました。(各改訂点については、図3-1にまとめています。)
① ベータv0.2版までは金融機関向けだけにスコーピングのガイダンス(LEAP-FIと呼ばれていたもの)が示されたが、今回企業向けにLEAP分析の対象範囲をどこまで含めるかを検討できるよう、2つの質問(C1とC2)を含む企業向けのスコーピングガイダンスが示された。
② 診断(Evaluate)フェーズでのこれまでの想定では、影響はネガティブなものだけで考えられていたが、ネガティブな影響を削減することとポジティブな影響を与えるのとは同じではないとの認識から、ネガティブ影響の最小化とポジティブな影響に関する新しいガイダンスが示された。これはIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム)における自然変化の5つのドライバーに沿うもので、自然に対するネガティブとポジティブ双方の影響を特定、評価、管理できるようにするもの。
③ 評価(Assess)フェーズではこれまで5つのステップがあったが、「機会」を「リスク」と並べて他のステップに包含することで、「機会」特定として独立していたA5のステップが削除(A4と統合)された。また、LEAPアプローチの評価(Assess)フェーズのために、自然関連のリスクと機会を評価に関する新しいガイダンス「Guidance on the Assess phase of LEAP – v0.3 beta framework Annex 3.1」が用意された。
④ ステークホルダーエンゲージメントの表現において、権利保持者とのエンゲージメントアプローチや要求事項を鑑み、他のステークホルダーと区別するため、「ステークホルダー(権利保持者とのエンゲージメントを含む)」に更新された。
出典:「The TNFD Nature-related Risk & Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.3」(2022年11月)より当社作成
今回のv0.3版においてLEAPアプローチの評価(Assess)フェーズのガイドラインが発行され、LEAPアプローチにおいてはL(発見)とE(診断)とA(評価)までのガイドラインがそろったことになります。ガイドラインだけでは分かりにくい部分もあるため、補完するための自然関連のリスクと機会のインディケーター例も発行されており、どのようなリスクと機会について検討するべきかの道筋が示されました。とはいえ、例示も限られているため、企業においてはこれらのガイドラインや例示を参考として自社における自然関連のリスクと機会をしっかりと見極めなければなりません。
また、ディスカッションペーパーとしての形ではあるものの、自然関連のリスク分析と開示に関する社会的次元へのアプローチやシナリオ分析に対するアプローチも発表され、これらは次回のベータ版公開にてガイドラインとして発表される予定です。企業にとっては検討しなければならない事象が次々と形を整えてきている状態であります。
今回の発行ではTNFDの開示提言とLEAPアプローチに部分的な更新がありましたが、基本的な構造や要求事項については大きな変化はなく、骨格が固まってきていると言えます。このため、各企業においては、TNFD開示に乗り遅れないためにも、全てのガイドラインがまだ出そろっていない今のうちから自然関連のリスクと機会を検討していくことが推奨されます。
全てのガイドラインに目を通し、しっかりと検討していくのは専門的知識も要するため徐々にハードルが上がってきています。TNFDのタスクフォースメンバーの中には、EYのメンバーも含まれており、EYとしてTNFDのルールメーキングに関与しています。また、最新の情報は、EYの生物多様性に携わるグローバルなメンバーファームにも共有されており、TNFDの深い理解を持ったメンバーを取りそろえているため、ガイドラインに精通し、専門知識を有するEYのメンバーがクライアントの皆さまのTNFD関連のサポートをすることが可能です。
発行されたv0.3版のエグゼクティブサマリーの要約(一部本文からの情報も記載)
章立ての原文(EY訳) |
概要 |
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Introducing the TNFD framework |
TNFDについての紹介(ネイチャーポジティブを目指すもの)。フレームワーク開発を通して下記を目指す。
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Updates on the TNFD’s consultation and engagement efforts |
今後の予定について(下記はEYが整理したもの)
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Updates in v0.3 of the beta framework |
タスクフォースWGとv0.2版に対するフィードバックを受けて変更や追加をするも、コアとなる構成はv0.2版から変更なし。
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Draft disclosure recommendations |
既に確立されているTCFDフレームワークからのcarry over(持ち越し)、adaption(適用)、additional(追加)のポイントが検討された。 |
Approach to materiality |
Single materiality, double materiality, dynamic materiality, societal materialityなど、マテリアリティの定義が多様にある中で、どのようなセクターや、管轄区域にある企業や金融機関にもTNFDフレームワークを柔軟に適用、使用できるようにするため、情報開示の「コア部分」と「拡張部分」とに分けて柔軟性をもたせることを検討中。 |
The LEAP approach to risk and opportunity assessment |
LEAPアプローチについて主に4つの変更点を今回発表。 |
The approach to metrics and targets |
指標
なお、v0.3版本文では、指標が表にまとめられており、v0.2版で紹介された自然への依存と影響を確認する ための評価指標(Impact Driver 、State of nature 、生態系サービス)や、今回のv0.3版にてガイダンスが発表された自然関連のリスクと機会の評価指標が整理されている。さらには v0.4版で発表予定のResponse(対応)の評価指標、および開示指標である「コア指標」と「追加指標」についても触れられている。 |
Additional guidance by sector, realm and biome |
今回のv0.3版にて「金融機関向け追加ガイダンス(ドラフト)」を発表。
<上記の金融機関向け追加ガイダンスの解説については時期を追って別記事として発表を予定> |
Approach to scenarios |
今回のv0.3版にてシナリオの使用やシナリオ分析に対するTNFDのアプローチについてをまとめたディスカッションペーパーを発行。 |
Approach to societal dimensions of nature-related risk assessment and disclosure |
組織の自然に対する影響と依存は場所(location)に特異的であり、社会や現地コミュニティーと密接にリンクしているため、自然関連リスクマネジメントと開示の社会的次元について検討中。 |
Core concepts & definitions |
今回の拡張や追加点、フィードバックなどを受けて、コンセプト、定義やカテゴリについて更新を実施。
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Priority areas for further framework development |
2023年3月のv0.4版に向けて開発優先度の高いものは下記の通り。
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Engage - Co-create the TNFD framework |
v0.1版やv0.2版と同様、下記についての呼びかけ。
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Box: The TNFD’s open innovation process |
下記のトピックについて動員組織数や組織名の例示
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参考文献
“The TNFD Nature-Related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.2”, TNFD website, https://framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2022/06/TNFD-Framework-Document-Beta-v0-2.pdf(2022年11月30日アクセス)
ベータv0.3版はv0.2版の開示提言に一部変更や追加があり、「影響」と「依存」がより強調されるようになりました。また、LEAPアプローチも部分的に変更され、企業向けのスコーピングが追加されました。その結果、ネガティブな影響だけでなく、ポジティブな影響についても検討が及ぶようになることが予想されます。
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フレームワークのベータv0.2版発行に伴い注目すべき3つのポイント
自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)フレームワークのベータv0.2版が2022年6月28日に発表されました。これは、2022年3月に発表されたベータv0.1版に続くものです。 本記事では、ベータv0.2版の発表内容をポイントごとに簡単にまとめ、今後日本企業が取り組むべき方向性についてお伝えします。