TNFD追加的セクターガイダンスポイント解説③:食料・農業セクター

TNFD追加的セクターガイダンスポイント解説③:食料・農業セクター


TNFDの自然関連課題に対する最終提言と実施ガイダンスの補足として、2024年6月に食料・農業事業を含む9のセクターに対して、セクターごとの追加的ガイダンスが最終化されました。食料・農業セクター固有の特徴を鑑みた、LEAP分析や開示指標とメトリクスのポイントを紹介します。


要点

  • 食料・農業セクターにおけるLEAPアプローチの適用、セクター固有のメトリクスの開示を促進するために、追加的ガイダンスが公表された。
  • 食料・農業セクターのバリューチェーンがカバーされ、農産物・畜産業から食品加工業、食品小売・流通業、外食産業の特徴も考慮される。
  • 追加的ガイダンスはLEAPアプローチのScoping, Locate, Evaluate, Assess, Prepareの各フェーズにおける考え方や実施手法を補足。
  • セクター固有の開示指標とメトリクスに関するガイダンスも提供。

2023年9月、TNFD(Task Force on Nature-related Financial Disclosures)は、自然関連課題に関する財務情報開示のための最終提言と実施ガイダンスを公表しました。また、TNFDの開示に当たり、リスク・機会分析のためのLEAPアプローチの適用が推奨されていますが、企業が属するセクターによって大きな違いが存在するため、複数のセクターのための追加的ガイダンスを公表し、各セクターの企業におけるLEAPアプローチの円滑な適用を図っています。その中で、今回紹介する食料・農業セクターをはじめとする9つのセクターに特化した追加的ガイダンスが2024年6月に最終化されました。

本記事では、食料・農業セクター(Food and agriculture sector)に特化した追加的ガイダンス(Additional sector guidance – Food and agriculture)(以下、「本ガイダンス」)の概要、該当企業に求められる対応事項のポイントを解説します。


1. 適用範囲

本ガイダンスは、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)が開発した持続可能な産業分類システム®(SICS®)内の食品・飲料事業に分類される組織に適用され、その組織のバリューチェーンをカバーしています。詳細な事業分類は以下が含まれています:

  • 農産物産業:野菜や果物の加工、売買、流通や、穀物、砂糖、食用油、トウモロコシ、大豆、飼料などの農産物の生産、製粉
  • 食肉、食鳥、乳製品産業:食肉、卵、乳製品など、人間や動物が消費する畜産物の生産
  • 加工食品産業:パン、冷凍食品、スナック菓子、ペットフード、調味料などの食品の小売消費者向けの加工・包装
  • 食品小売・流通業:食品、飲料、農産物の卸売・小売販売(小売スーパーマーケット、コンビニエンスストア、倉庫型スーパーマーケット、酒屋、ベーカリー、自然食品店、専門食品店、水産物店、流通センターなどが含まれる)
  • 外食産業:店内・店外消費のための顧客の注文に応じた食事、スナック、飲料の調理・提供

2. ガイダンス内容

2.1. LEAPアプローチに関する追加的ガイダンス

本ガイダンスはLEAPアプローチの以下の範囲を補足しています。

LEAPアプローチの範囲

表:LEAPアプローチの各ステップにおける追加的ガイダンス内容

表:LEAPアプローチの各ステップにおける追加的ガイダンス内容

2.2. セクター固有の開示指標と関連するガイダンス

食料・農業セクターにおけるセクターレベルの定量的な分析を促進するために、本ガイダンスには以下の内容が含まれています:

  • 食料・農業セクターにおけるコアグローバル開示メトリクスと指標の適用に関するガイダンス
  • 中核及び追加的なセクター固有の開示指標とメトリクス


食料・農業セクターの組織は、大本となっているTNFDの最終提言の付録1(Annex 1, TNFD Recommendations)を参照し、全セクター共通のコアグローバル開示メトリクスに関する詳細情報を得ることが推奨されています。

例として、汚染/汚染除去の範囲(C2.1-汚染/汚染除去)では、以下のメトリクスの測定・開示が推奨されています。

  • 下記で分類した排水排出(m3
    • 合計
    • 淡水
    • その他
       

2.2.1 コアグローバル開示メトリクスのセクターへの適用について

食料・農業セクターにおいてどのようにTNFDのコアグローバル開示メトリクスを適用したらよいかを解説するガイダンスが提供されており、それに従ってComply or Explainの原則で開示することが推奨されています。

例として、汚染/汚染除去の範囲(C2.1-汚染/汚染除去)では、全セクター共通のコアグローバル開示メトリクスに加えて、以下の追加的ガイダンスが示されています。

  • C2.1-汚染/汚染除去
    • 農産物・食肉、鶏肉、乳製品・加工食品・食品小売業者及び流通業者・飲食店セクターが当該メトリクスを報告する際、国家統計局やFAOなどの国際機関によって公開された係数(ある管轄区域の作物当たりの平均農薬使用量など)に基づく推定値を使用することができます。また、報告する排水量には作物製品加工施設及び/または家畜加工施設から排出される水を含め、汚染物質には栄養塩類(窒素とリン)、農薬、有機物負荷(作物及び家畜の排せつ物を含む)、病原体、金属類、その他の新興汚染物質(抗菌剤やその他の動物用医薬品を含む)を含める必要があります。
       

2.2.2 コアセクター開示指標及びメトリクス

食料・農業セクターのTNFDコアセクター開示指標及びメトリクスが提供されています。セクター内のすべての報告書作成者が、コアグローバル開示指標及びメトリクスに加え、これらのセクター特有の指標及びメトリクスをComply or Explainの原則で開示することが推奨されています。

食料・農業セクターにおいては、以下の指標及びメトリクスの開示が推奨されています。

  • FA.C1.0 森林破壊と土地転換のない製品:製品別の、森林破壊と土地転換を防止(DCF)していると判断される、管理、運営、または調達された土地からの生産量の割合(%)
  • FA.C3.0 水不足地域由来の製品:ベースラインの水不足の度合いが高い/極めて高い地域から生産または調達される農産物または飼料の割合(%)
  • FA.C23.0 食品廃棄物の再利用:食品廃棄物のうち、副産物及び/または副産物に再利用されたものの割合(%)
     

2.2.3 追加的セクター開示指標及びメトリクス

食料・農業セクターの追加的セクター開示指標及びメトリクスとして、下記を含めた21指標及びメトリクスが例示されています。本ガイダンスで記載されている指標及びメトリクス以外でも組織の重要な自然に関連する依存、影響、リスク、機会を最も適切に表現する指標及びメトリクスを活用することが推奨されています。

  • FA.A4.0 畜産における医薬的に重要な抗菌薬:動物の種類別にみた、1)医療上重要な抗菌剤及び 2)医療上重要でない抗菌剤を投与された動物生産または動物性蛋白質の割合(%)
  • FA.A1.0 土地利用効率:製品1kg当たりの土地利用面積(ha/kg)
  • FA.A2.0 食品ロス/廃棄:総食品生産量/取扱量に占める食品ロス及び/または廃棄物の割合(%)。埋立処分から転換された食品ロス及び/または廃棄物の割合(%)
  • FA.A3.0 収穫量:作物の種類別の実収量と潜在収量(kg/㎢)、及び収量格差
  • FA.A23.0 リサイクル、再生可能、堆肥化可能な非プラスチック包装:調達・購入したプラスチック製以外の包装材のうち、1) リサイクル材、2) 再生可能材、3) 堆肥化可能な材料から作られたものの割合(%)。使用されている各材料について、現地の法律及び規制に従ってリサイクル、再利用、堆肥化されている割合(%)
  • FA.A5.1 自然植生の耕作地:耕作面積1㎢当たり10%以上の自然植生を有する耕作地の割合(%)、耕地面積1㎢当たり20%以上の自然植生を有する耕地の割合(%)

まとめ

食料・農業セクターのTNFD適用企業に対して、各社の固有状況に基づいた分析・開示が求められています。

われわれEYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)ユニットは、タスクフォースの初期メンバーとしてTNFD へ直接関与しており、IPBESの主執筆者を含む数多くの生態学・自然環境のプロフェッショナルによる知見と洞察の提供が可能です。また、TNFD関連の豊富な支援実績を有しますので、ご不明点やお困りのことがございましたら、お気軽にご相談くださいませ。



【共同執筆者】

竹子 清楓(Sayaka Takeshi)
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部(気候変動・サステナビリティ・サービス)

シニアコンサルタント

2023年にEY新日本有限責任監査法人に入社し、気候変動・脱炭素、生物多様性、循環経済分野におけるサステナビリティ開示支援や動向調査など幅広い業務に従事。
入社前は、外資系テクノロジー企業・コンサルティングファームにてシステム導入案件やBPRの経験を有す。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー 

2024年6月に食料・農業セクターの追加的ガイダンスが最終化されました。食料・農業セクターのTNFD適用企業に対して、各社の固有状況に基づいた分析・開示が求められています。


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