【特別対談】企業価値向上に寄与する人的資本経営、情報開示で求められるストーリーと期待される変革

情報センサー2024年3月 特別対談

【特別対談】企業価値向上に寄与する人的資本経営、情報開示で求められるストーリーと期待される変革


有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が始まり、企業の持続的な成長に欠かせない要素の1つとして注目を集める、人的資本経営。

人材戦略を通じて企業価値をどのように高めていくのか、企業を取り巻くステークホルダーがそれぞれどのような役割を果たしていくべきなのか、コーポレートガバナンスの分野に詳しいボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社、代表取締役の高山与志子氏をお招きし、お話しいただきました。

左から高山氏、片倉

左 ボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社 代表取締役、ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社 副会長 高山 与志子 氏
右 EY新日本有限責任監査法人 理事長 公認会計士 片倉 正美



要点

  • 人的資本経営が注目される今、多様性、投資家からの要求の高まり、DX推進など企業が置かれている環境の変化とは。
  • 従来の社会貢献だけでなく、企業価値向上へ資するサステナビリティに対する考え方、位置付けの違いとは。
  • DE&Iに向き合うことは人的資本経営を推進する力となり得る。
  • 開示は単なる数字の公表ではなく、いかにストーリー性を持ってステークホルダーに伝えるか。


Ⅰ グローバルで人的資本経営が注目される背景

責任投資原則、金融危機を経てサステナビリティ情報の重要性が高まる

片倉:高山さんはこれまで、さまざまな企業におけるコーポレートガバナンスに関するコンサルティング、企業と機関投資家との対話の推進などに携わっていらっしゃいました。人的資本との関連を交えて、あらためてご経歴をお聞かせください。

高山(以下敬称略):私の現在の専門分野は、取締役会の実効性向上に関わる領域で、特に取締役会評価に注力したコンサルティングを行っています。取締役会評価はコーポレートガバナンス・コードで上場企業に求められているプラクティスの1つで、取締役会が自らの実効性を分析し評価することで、取締役会の監督機能の向上を図るというものです。同評価の支援に特化したコンサルティング会社であるボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社を2015年に設立し、以降、数多くの日本企業の取締役会評価を支援しています。

また、金融庁のコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードに関するフォローアップ会議のメンバーとして、両コードの改定にも関わってきました。投資家の投資行動においても、企業の経営においても、人的資本を含むサステナビリティへの意識が非常に重要だということが認識されるようになり、両コードにおいては、改定の過程でサステナビリティやESGに関する記載がかなり増えています。

人的資本や人材戦略に関係するその他の領域としては、私は、2014年から「なでしこ銘柄」の選定基準等検討委員会メンバーを務めています。なでしこ銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が合同で、女性の活躍推進を積極的に進めている優れた上場企業を毎年選定し、投資家にとって魅力ある銘柄として紹介するものです。日本企業がどのように女性活躍推進を進めているのか、そしてそれがどのように企業価値につながっているのか、委員会の立場として議論し、検討してきました。

片倉:ありがとうございます。さまざまなお立場でコーポレートガバナンスやサステナビリティ経営に関わっていらっしゃった高山さんですが、あらためて本日のテーマである人的資本がなぜグローバルで注目されるようになったのか、お伺いしたいと思います。こうした考え方が強まるきっかけとなった出来事としては、何が挙げられるでしょうか。

高山:企業の価値を見る上で、財務情報と同じようにサステナビリティ情報の重要性が高まっています。非財務のさまざまな課題を解決することが、企業価値を上げるためには欠かせないという考え方が、企業の経営陣、そして投資家の間にも広がっていると言えるでしょう。

グローバルでこうした考え方が意識されるようになった契機としては、2006年に国連が「責任投資原則」を定めたことが挙げられます。これは、機関投資家に対し、投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込むことや、投資対象の企業にESG課題についての適切な開示を求めることなどを定めたものです。

その後、金融危機が世界を襲い、投資家も企業も、企業の成長性や価値を計る上で、財務だけでなく、非財務のファクターが重要だという考え方が非常に強くなりました。企業がサステナビリティやESGの課題にどのように向き合っているのかに関心が集まり、当然その中に、人的資本、人材戦略の要素も入ってきます。欧米では日本よりも早い段階でこのような変化が起きています。


多様性、投資家からの要求の高まり、DX推進など 企業が置かれている環境変化とは

片倉:人的資本経営が重要視されるようになった理由として、企業が置かれている環境の観点で見ると、どのような背景があると考えられるでしょうか。

高山:幅広い観点で見ると、3つのポイントがあると考えています。

1つ目は、企業が持続的に成長するための要素として、ダイバーシティや働き方の多様性が強く認識されるようになったという点です。国内で考えると、少子高齢化で労働人口が減少することから、多様な人材を登用するという点に関心が向きがちですが、グローバルで見ると「変化が激しい時代である」ということが大きく影響していると思います。

あまり変化のない世界、変化があってもある程度予測がつく環境であれば、均質な組織で効率性を追求する方が、企業価値が高まるという考え方もできるかもしれません。しかし、刻一刻と変化する環境において、まず生き残り、そして成長するためには、均質な組織では対応できず、多様性が不可欠と言えるでしょう。

2つ目は、投資家からの要求の高まりです。2006年の責任投資原則が発表されて以来、投資判断において、人的資本も含めたサステナビリティの重要性が非常に高まっています。ただし、投資家の関心は最終的にはどのように企業価値を高めるのかという点です。人的資本に関しても、単に「取り組んでいます」というのではなく、経営戦略との関係性、企業価値向上に向けた施策の中での位置付けが大切になってくると思います。

そして3つ目が、企業におけるDXの推進です。一見すると、DX戦略は人材戦略とあまり関係がないように見えるかもしれませんが、実は相互に深く結びついています。

DXは、デジタル化によって生産過程などをさらに効率化する、社内の情報共有を進めて意思決定のスピードを上げるための経営基盤を作る、というような側面に関心が向きがちです。しかし、DXのトランスフォーメーションの部分、つまり、成長戦略においてDXを変革の手段として使い、ビジネスモデルや組織、企業文化を大きく変えるという点が、実は大変重要です。ビジネスモデルを変えるにはイノベーションが必要ですし、イノベーションを起こすにはそうした意識と能力を持った人材を育てなければなりません。DX推進においては、人材戦略を常に伴います。

このように、企業が置かれている環境の変化に伴い、人的資本を重視する経営が不可欠なものになったと言えるのではないでしょうか。


Ⅱ 欧米と日本の「時差」はなぜ生じたのか

労働市場や投資家からの要求など、「文脈の違い」をひもとく

高山:人的資本に対する意識の変化について、日本の動きはグローバルと比較すると時差があります。世界的には2000年代前半からこうした動きが顕著でしたが、当時日本では、まだまだ人的資本をはじめとするサステナビリティ課題の重要性が認識されていなかったように思います。片倉さんは、監査法人というお立場から、海外と日本とにおける認識や変化のスピードの違いについて、どのように感じていらっしゃいますか。

高山氏

片倉:国連の責任投資原則ができたのが2006年ですが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したのは、10年近く後の2015年になってからです。

その後、徐々に広がりを見せましたが、欧米のようなコンセンサスを得るまでには至っていなかったように思います。2020年9月に「人材版伊藤レポート(経済産業省に設置された「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書の通称)」が公表され、「人的資本」という言葉や考え方が一般にも浸透したのではないでしょうか。

なぜこれだけスピードに差が生じたのか、それを考えるには、企業を取り巻く環境の違い、国内独自の事情を丁寧に見ていく必要があると思います。

例えば海外では労働者の流動性が高く、そもそも日本ほどの均質な組織ができづらい状況にあります。また、欧州はサステナビリティに対して厳しく、人的資本の観点で企業がどのような対策を打っているのか、投資家や規制当局が企業に開示を求めるプレッシャーも相当強いものがあります。こうした違いが、日本における変化のスピード、企業の取組みの違いなどにつながっているのかもしれません。

高山:確かに文脈の違いは重要ですね。国内外における投資家の意識の違いは私も大きく感じます。海外では金融危機を経て、サステナビリティ関連、ESG関連のファクターをきちんと見ておかないと、その企業が生き残れるか、成長できるか判断できないという強いコンセンサスが、機関投資家の間にありました。

一方で、日本でそうした意識が非常に高まってきたのは、私も2020年頃だと思います。2017年のスチュワードシップ・コードの改定に向けた議論では、サステナビリティの要素を多く入れるようにとの意見が出されましたが、あまり賛同は得られませんでした。スチュワードシップ・コードで明確に強調されるようになったのは、2020年の改定からです。また、コーポレートガバナンス・コードで人的資本に関する記載が盛り込まれたのは2021年の改定からです。


社会貢献から企業価値向上の手段へ サステナビリティに対する考え方、位置付けの違い

片倉:日本でサステナビリティがなかなか浸透しなかった背景に、企業がそれらを社会貢献として受け止めていたという側面もあると思います。例えば企業として地球環境に配慮するのは社会貢献であり、コストであるという捉え方です。サステナビリティが企業価値につながるという意識をなかなか持てなかったのではないでしょうか。

高山:確かにそのような側面はあったと思います。当時の統合報告書などでサステナビリティに関する箇所を見ると、「われわれは社会価値を提供することと、企業価値を高めることを両立させます」という言葉をよく目にします。

「両立」という言葉からは、共に並び立つことが簡単ではないけれども、頑張って成立させますという意味が読み取れます。一方で、当時の海外の主要企業のメッセージを見ると、社会価値を提供することによって企業価値を高めますというストーリーが、示されています。社会が求める価値を提供することによって利益を上げ、それによってわれわれは成長するという感覚ですね。ここに、サステナビリティに対する当時の見方、位置付けの違いを感じます。

片倉:海外でサステナビリティ開示が進んだことで、日本のグローバルカンパニーもサステナビリティの重要性に気が付き、今、遅れを取り戻す勢いで取り組んでいます。

人的資本を含むサステナビリティ対応は、リスクという側面もありますが、企業にとってオポチュニティでもあります。新たな機会と捉えて積極的に取り組むことが、社会課題の解決や従業員のウェルビーイング向上などを通して企業価値の向上につながります。そうした意識改革がもう一歩進むと、より前向きに推進されると感じます。

高山:確かにそうですね。企業が社会で生きていく以上、サステナビリティ課題に対してはきちんと対応しなければならない、それをやらなければ社会の一員として認められないという可能性があるという意味ではリスクですが、企業が成長していくためのビッグチャンスでもありますよね。

 

Ⅲ 「オポチュニティ」としての女性の活躍推進

「理事長は50代後半男性」という慣例を破り、流れを変える

高山:多様性や女性の活躍推進などはまさにオポチュニティで、先ほどお伝えしたなでしこ銘柄では、女性の活躍をどのように企業価値につなげているかというのも、銘柄選定の重要なファクターになっています。

女性の活躍推進は、日本企業も本腰を入れて取り組み始めていますが、4大監査法人で女性として初めてトップに立ったお立場から、片倉さんご自身がこれまでの経験を振り返って、女性がキャリアを築く上での課題を感じられたことはありますか。

片倉:私が入社した30年以上前は、監査先の企業の方から、「女性は細かい点をほじくり返す」「女性は口数が多そうなので男性にしてください」と、お会いしたこともないのに個人の能力ではなく「女性だから」という理由で判断されてしまうこともありました。

クライアント先に行くときは、チームの中の女性は常に私1人。自分以外の女性がチームにいるのが当たり前になったのも、ここ10数年ぐらいのことだと思います。時間はかかりましたが、女性の公認会計士の人数も徐々に増え、クライアントの皆さまからも性別ではなく、自分の会社をきちんと監査するスキルを持っているかどうかを見ていただけるようになりました。

私が、「女性だから」という遠慮や意識を持たずに仕事をすることができたのは、私が入社した当時にお世話になった、日本の女性会計士第1号の大先輩の存在が大きいです。その方が、大きな企業のトップに対して物おじせずに、「それでは駄目よ」と言いながら、クライアントにリスク回避の提言を行うなど、アイデアを出す姿を間近で見てきました。尊敬できるロールモデルと一緒に仕事をできたのは、本当にラッキーでした。

高山:女性としてリーダーになる、トップに立つにはまた異なるハードルがあったかと思いますが、理事長に立候補する際は、どのような決断があったのでしょうか。

片倉:先ほど高山さんがおっしゃったように、変化の激しい時代において、監査法人としてもこれまでの先例を覆し、イノベーションを起こしていく必要性と、そうしなければ先進的な監査法人として生き残れないという危機感を持ったからです。

監査法人の理事長は、それまで50代後半の男性が就任するという長い間の通説がありました。過去の成功体験を踏襲してもうまくいかない時代の流れの中で、何かを大きく変えないといけない、あえてそれまでの慣例を破ってみるのも1つの手段ではないかと考え、手を挙げました。


DE&Iが人的資本経営の推進力となる

高山:変革の時期にトップに立ったのですね。理事長としてさまざまな新しい方針を立て、それに基づいて戦略を推進してきたと思いますが、人材戦略という観点で何か大きく変えたところはありますか。

片倉:人材戦略で大きく変えたことは、会計士と会計士以外の専門家、そしてオートメーションによる自動化のベストミックスの実現です。監査や保証業務へのニーズが拡大する中で、品質の向上と効率化を両立することが経営戦略の実現を左右する重要なポイントでした。監査法人は会計士が主たる構成員のモノトーンな組織でしたが、ITやサステナビリティの専門家、弁護士や民間企業・官公庁経験者、また専門家をサポートするアシスタントなど多様な人材を採用しました。人が関わらずに済む部分は自動化も取り入れ、それぞれが専門性を生かすことで品質と効率化を進めています。一方で、多様性だけの組織ではバラバラになってしまいます。EYにはBuilding a better working world (より良い社会の構築を目指して)というパーパス(存在意義)があります。当法人ではこのパーパスを、グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人と具体化し、パーパスを全員が共有しています。また、多様性を尊重し受け入れる組織風土作りにも力を入れています。組織の成長の原動力は人ですので、仕組みや制度ももちろん大事ですが、多様な人が集い、公正な環境でお互いを尊重し合うDE&I(Diversity, Equity & Inclusiveness)に真正面から向き合うことが人材戦略、ひいては人的資本経営を推進する力になると考えています。

 

Ⅳ 有価証券報告書での人的資本情報の開示、企業価値向上にどうつなげていくか

単なる数字の公表ではなく、いかにストーリー性を持ってステークホルダーに伝えるか

高山:2023年の3月期から、有価証券報告書でサステナビリティ情報を開示することが義務付けられるようになりました。開示の概要について、あらためてご説明いただけますか。

片倉:人的資本に関しては、人材育成方針や働き方制度、女性活躍推進法で開示している女性管理職比率や男性育児休業取得率、男女間賃金格差などが記載事項として求められています。

片倉

難しいのは、単に数字を開示すればよいのではなく、いかに投資家やステークホルダーに伝わる開示をするかという点です。例えば、離職率1つとっても、日本と海外子会社を並べて記載しても、その数字が持つ意味合いは国によって全く異なります。企業は解雇可能だけれど、解雇された人はすぐにリスキリングして新しい会社に入る、その仕組みが国全体で成り立っていれば、離職率が高いことイコール「悪」ではありません。むしろ離職率が低いことがネガティブに評価されるところもあるかもしれません。

そういった背景も含めて、いかにストーリー性を持って数字が示すその企業の真の姿を開示することができるのか、ここはまだはじまったばかりなので、多くの企業が模索していくことになると思います。


人材戦略の執行を監督する取締役、監督の枠組みに5つのファクター

片倉:人的資本をさらに進めて企業価値を上げて行くために、取締役会の役割はどのように在るべきだとお考えでしょうか。

高山:人材戦略を推進する主体は、経営陣・執行側です。一方で、それが適切に行われているかどうかを監督するのが取締役会の役割です。ただし日本では、人的資本の重要性が認識されるようになったのがここ数年ということもあり、経営側の取組みもまだ途上の段階で、試行錯誤しながら進めている企業も少なくありません。そのため、取締役会がどのように監督するべきなのか、はっきりとした枠組みがまだできていないというのが現状だと思います。

一方で、欧米においては、経営側の取組みも進んでおり、その結果、取締役会の監督についてもかなりのプラクティスが蓄積されています。欧米の主要な企業の取締役会が、人的資本に関する経営陣の取組みをどう監督しているのか、具体的に整理すると、5つの項目が挙げられます。


  1. 取締役会における人的資本に関する十分な議論と監督
  2. 取締役会に設置された委員会(指名、報酬、監査の委員会、あるいは、サステナビリティ関連の委員会)における人的資本に関する十分な議論と監督
  3. 人的資本に関する知見がある社外取締役の就任
  4. 報酬における人的資本の指標の導入
  5. 取締役会と投資家の人的資本などを含むサステナビリティ課題に関する対話の実施

項目によって差はありますが、日本企業の場合はまだこれからで、少しずつ始まってきているという状況ですね。これから変わっていくのではないでしょうか。

片倉:3つ目に「人的資本に関する知見がある社外取締役の就任」という項目がありますが、人的資本に関する知見がある人と言うと、例えばどういう方たちが該当するのでしょうか。

高山:日本において、人的資本の知見、と言うと、NPO代表や研究者など、そうした分野に専門に携わっている方に限定して考えられがちです。しかし、海外企業でそのような知見を有していると記載されている取締役の方たちの経歴を見てみると、「知見がある」というところをある程度、幅広く捉えています。例えば、サステナビリティや人的資本を重視して経営を行ったCEO経験者が入るケースも多いですね。


経営アジェンダとしての人材戦略、監査法人として「川上から川下まで」支援を

高山:人的資本経営、サステナビリティ情報の開示に当たって、監査法人として、どのように関わっていくべきなのでしょうか。片倉さんのお考えをお聞かせください。

片倉:やはり企業を成長させていく源泉は「人」です。だからこそ今、人的資本がこれほど注目され、情報を開示してほしいと、ステークホルダー全般からの関心が高まっているのではないでしょうか。

そう考えると、人的資本の対応は、完全に経営アジェンダです。経営戦略の重要な1つとして取り組まなければなりません。しかし、経営戦略と人材戦略とが合致せず、人への対応が経営戦略の中に位置付けられていない企業も少なくありません。経営戦略として人材戦略を組み込み、整合性を取っていくことが、企業価値を高めるために必要だということを、監査法人の立場からもお伝えしていかなければならないと思っています。

EY新日本にはCCaSS(Climate Change and Sustainability Services)というサステナビリティ対応へのアドバイザリーサービスを20年以上前から行っている専門部門があります。サステナビリティをどう経営戦略に含めていくかというところから関わり、実行していくためのプロセスの決定、データを集めてストーリー性を持った開示につなげ、開示後の第三者保証に至るまでの川上から川下まで助言できる多様な専門家で構成されています。最近では監査部門とも連携しながら、日本だけでなく世界各地で求められるサステナビリティ情報の開示および保証へのニーズに対応できる体制を整え拡充しているところです。

人的資本経営は日本企業が稼ぐ力を取り戻し、世界で勝つために力を入れているからこそ、EY全体としてしっかり支援していくことが、私たちの使命だと思っています。

最後に、高山さんから、今回の対談の感想、メッセージをお願いできますか。

高山:本日はいろいろなお話をさせていただき、企業価値を高めるために人的資本に関する戦略が必要不可欠だということをあらためて感じました。その戦略をどのようにステークホルダーに伝えていくのか、サステナビリティ情報の開示については始まったばかりですが、私は「企業が対外的に公表している内容・書かれた内容が、企業の行動を実際に規定する」という意味において、開示に対しても非常に期待をしています。

企業価値を高め、持続的に成長するためには、戦略を実行する経営陣、後押しする投資家、監督する取締役会、開示を支援する監査法人、それぞれが役割を果たす必要があります。今の日本の状況を見ていると、その方向に向かって着実に進んでいると思います。道はまだ遠くて大変な部分も多いですが、私自身はポジティブに見ており、とても期待をしています。

片倉:本日は、貴重なお話をありがとうございました。



サマリー

企業価値を高めて、持続的に成長するには、経営アジェンダとして人的資本に対応することが必要不可欠です。経営戦略と人材戦略とを合致させて、ストーリー性を持って情報を開示し、ステークホルダーに伝えていくことが、今、企業に求められています。


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