EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授 高村 ゆかり
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 公認会計士 馬野 隆一郎
要点
脱炭素の取組みと収益性維持の両立は、企業の持続的な経営に不可欠な命題です。投資家目線を踏まえつつ、ビジネスモデルの見直しなど、長期経営計画の立案に着手している企業も多いと思われます。企業価値を持続的に高めるには、どのような考え方が求められるのでしょうか。国際環境条約や気候変動に関する法政策に精通する、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と、当法人にてサステナビリティ情報を含む企業の情報開示対応を支援するサステナビリティ開示推進室 室長の馬野隆一郎の対談から、気候変動問題の世界的な潮流や機関投資家のサステナビリティ情報開示への姿勢の変化を読み解きます。
――昨今、気候変動問題は企業経営の重要課題の1つとして捉えられるようになってきました。この潮流をどのように見ていますか。
高村 社会的な関心の高まりや若い世代が抱える危機感、機関投資家からの要請など、さまざまな要因を受けて、本腰を入れて対策を講じる企業が増加していると思います。気候変動対策の国際的な枠組みは、2015年に採択された「パリ協定」です。世界共通目標に掲げているのは、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を継続する」こと。さらに、21年に英国のグラスゴーで開催された「COP26」では、1.5度目標の実現に決意を持って追求することが合意されました。こうした世界的な流れは日本の経済界にも大きな影響を与えています。
馬野 環境問題について、これまではCSRや社会貢献のような位置づけで取り組む企業も少なくありませんでした。しかし昨今は、「気候変動問題はビジネスの持続可能性に直結する問題である」という捉え方が主流です。特に、二酸化炭素排出量の多い重工業、気温上昇の影響が原料調達にダイレクトに影響する食品産業などにとっては事業の存続に関わる喫緊の課題となっています。また、投資家が企業に対し、気候変動を含む地球規模の社会課題への対応・取組みについての開示(サステナビリティ情報)を求める動きも国際的に加速しています。この開示の流れは最近の世界を取り巻く不安定な社会経済情勢の中でもとどまることなく進展しています。
高村 おっしゃるとおり、確かに脱炭素化に向けて動き始めている企業は増えましたが、「一過性の動きなのではないか」と見ている経営者もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは違うと思っています。特に日本や欧州にとって、中長期的視点からグリーンエネルギー政策を進め、エネルギー源を多様化し、化石燃料への依存度を減らすことは、経済発展の基礎となるエネルギー安全保障の点でも重要です。企業も気候変動問題への対応を経営に統合することは、長期的な企業価値に関わる問題と捉えることが大切です。
――サステナビリティ情報は財務情報だけでは評価が難しい「企業の真価」を評価するために必要だとされています。気候変動対応の情報開示に取り組んでいる企業は増えていると感じますか。
馬野 プライム上場企業には、気候変動の事業への影響や取組みについて、国際的な開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言等に則した開示が求められ、日本企業の気候変動情報開示の裾野は確実に広がっています。TCFD提言は、気候関連リスクや機会に関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目の開示を推奨しています。気候変動問題の影響だけではなく、ビジネスチャンスの分析も含めて戦略に落とし込まれているか、企業全体としての取組みができているかが今後評価されると考えています。
高村 私も同意見です。特にCOP26では、50年までのネットゼロ(温室効果ガス排出差し引きゼロ)に対する金融機関の強いコミットメントを感じました。融資や投資を受ける企業は自社の温室効果ガス排出量や削減計画の開示は待ったなしであるといえます。
馬野 金融機関の中にはスコープ3(自社以外からの投融資先を含む炭素排出量)まで含めたカーボンニュートラルを実現すると宣言する動きも出てきています。今後、金融機関によるサステナビリティ情報開示要求もいっそう高まることが予想されます。企業もこれまで以上に対応する必要がありますが、具体的に何から着手すればよいか模索している企業も多くあると感じます。
高村 経営戦略に環境問題をうまく統合している企業の共通項の1つは、やはりトップや経営陣がその重要性を認識し、対応しているかどうかです。責任体制を明確にし、従業員一人ひとりに浸透させるためのビジョンやガバナンスを構築しています。TCFDへの対応は、気候変動問題を入り口として、企業経営や社会の在り方を長期で見据えるための1つのツールだと捉えることもできます。
――サステナビリティ情報開示は手段であり、目的とするべきは企業の長期的価値の創出にあるということですね。EY新日本有限責任監査法人がメンバーファームとなっているEYで取り組んでいる自社およびクライアントの長期的価値支援ついて教えてください。
馬野 長期的価値の創出につながるサステナビリティ情報開示の取組みとすること、また、財務情報とサステナビリティ情報の結合性に目を向けることが重要だと思います。例えば、企業が脱炭素技術を用いた製造プロセスを導入し、製造設備を入れ替えるとなると財務に影響します。このように、サステナビリティの取組みはいずれ財務会計にも影響するので、会計や監査の視点を持った専門的な支援が求められていると考えています。
高村 サステナビリティ情報開示の支援をするコンサルティングサービスは多数ありますが、監査法人ならではの強みだと思います。馬野さんのおっしゃるとおり、投資家はサステナビリティ情報が財務会計にどう影響するかを知りたいわけですから。
馬野 気候変動の取組みに関しては、国内外問わず優遇税制等もありますので、企業にはぜひ制度も上手に活用し取り組んでいただきたいと思います。EYでは、アシュアランス、コンサルティング、税務、ストラテジーなどサービスライン全体で、グローバルネットワークを通じた情報を提供し、長期的価値の創出を目指す企業や資本市場に貢献をしたいと考えています。
責任体制を明確にし、従業員一人ひとりに浸透させるためのビジョンやガバナンスを構築する
©2022 東洋経済ブランドスタジオ
(注) この記事は「東洋経済」2022年6月25日号に掲載の広告記事を一部修正したものです。
気候変動問題におけるEYの提供価値
150カ国以上に展開するEYは、「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)に掲げ、かねてグローバルで気候変動問題に積極的に取り組んできました。オフセット・ポートフォリオへの投資を通じて、森林再生、環境再生型農業、バイオ炭、森林保全などを相殺または除去するプロジェクトにも参画し、2021年10月にカーボンネガティブを達成。25年までにネットゼロの実現を目指しています。EYのアンビションであるLong-term value(長期的価値、LTV)創出を自社だけにとどめず、クライアント企業の支援に展開。長期的価値を4つのカテゴリー(顧客価値、人材価値、社会的価値、財務的価値)に分類し、価値を生み出す要因を明確化。脱炭素化やESG経営への変革支援、サステナビリティ指標や KPIの設定支援など項目は多岐にわたります。サステナビリティ開示推進室では、最新動向に関する情報発信や開示対応の相談、開示プロセスの構築や高度化、開示情報に関わる保証業務まで一気通貫の支援を関連部署と連携し担当しています。
国際環境条約や気候変動に関する法政策に精通する、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と、当法人にてサステナビリティ情報を含む企業の情報開示対応を支援するサステナビリティ開示推進室 室長の馬野隆一郎の対談から、気候変動問題の世界的な潮流や機関投資家のサステナビリティ情報開示への姿勢の変化を読み解きます。
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計・税務・アドバイザリーなどの企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。
全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。
EYはビジネスがサステナビリティに貢献し、またサステナビリティがビジネスに貢献するよう尽力しています。
長期的価値は、目的を明確にし、幅広いステークホルダーに焦点を当て、長期的にビジネスを維持することから生み出されます。