EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
改正における主な論点について複数回にわたり解説を行います。
今回は第2回として「ECL適用対象範囲」と「実効金利法の適用」について、改正日本基準での取扱いの方向性、現行日本基準との違いによる実務への影響について解説します。
(文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめ申し添えます)
IFRS第9号は、以下の金融商品から生じる予想信用損失(以下、ECL:Expected Credit Loss)について信用評価引当金を認識することを求めています。貸倒引当金の適用対象範囲について、現行日本基準では基本的に貸出金や支払承諾を対象としていますが、IFRS第9号では、有価証券に区分される債券や、オフバランス項目であるローン・コミットメント等も適用対象としている点で差異が生じています。
有価証券については、債券の全てを対象とせずに満期保有目的の債券及び貸付金代替性債券*をECL適用対象とする方向で、以下の内容の提案がされています。
* ASBJにおいて「貸付金代替性債券」を明確に定義することが検討されており、例えば「私募債として発行され、実質的に貸付金の代替として銀行等金融機関が引き受けて保有する債券」と定義することが議論されています。
(1) 満期保有目的の債券及び貸付金代替性債券については、ステップ 3、ステップ4 及びステップ5 のいずれにおいても予想信用損失モデルの適用対象とする。
(2) 満期保有目的の債券については、格付会社が公表する情報等を活用して予想信用損失を算定する実務上の対応等について補足文書に記載する。また、ソブリン債など信用力の高い債券については、予想信用損失の額に重要性が乏しく、実務上、予想信用損失がゼロとされる場合がある旨を補足文書に記載する。
(3) 貸付金代替性債券の分類及び測定については、ステップ 3及びステップ4のいずれにおいても、貸付金と同様の会計処理となるように、時価をもって貸借対照表価額とせず、その他有価証券の範囲から外して、満期目的保有の債券と同じ測定とする。この場合、貸付金代替性債券に関連する手数料についても、ステップ2及びステップ4で提案した貸付金に関連する手数料に関するオプション(「2.実効金利法の適用」参照)を適用できるようにする。また、管理体制の変更に関する実務負担の懸念に関しては、十分な準備期間を確保するように適用時期を設定することにより対応する。
(4) その他有価証券に分類される債券のうち貸付金代替性債券以外の債券については、ステップ 3、ステップ 4 及びステップ 5 のいずれにおいても、金融商品の分類及び測定の見直しに関する議論を行うまでの間、現行の金融商品会計基準等における取り扱いを踏襲する。この点、現行の金融商品会計基準等における減損の定めの課題を踏まえると、できるだけ早期に金融商品の分類及び測定の見直しに関する議論を開始することが必要であると考えられる。
ステップ2を採用する金融機関においては、ローン・コミットメント及び金融保証契約についてIFRS第9号の定めを取り入れ、ECLの適用対象とすることが提案されています。また、この点において、ステップ4を採用する金融機関においても同様の定めとすることが提案されています。
ECL適用対象範囲の決定にあたって想定される検討フロー例を以下にまとめています。
現行日本基準においては、貸出金の帳簿価額は基本的に元本金額で計上されていますが、IFRS第9号における貸出金の帳簿価額は、将来の支払又は受取りの見積額を実効金利で割り引いた償却原価で計上されます。この実効金利には約定金利だけでなく実効金利と不可分の一部である手数料(貸出金の組成に関して受け取った手数料等)が含まれるため、約定金利と実効金利が異なることによって、貸出金の帳簿価額と元本金額が一致しない場合があります。また、実効金利の不可分の一部である手数料が現行日本基準において貸出実行時に収益認識する取り扱いを採用する場合には、手数料の認識タイミングに差異が生じます。
IFRS第9号と同等の内容を定める方向で議論されていますが、次の要件を満たす手数料については、実効金利と切り離し、収益認識会計基準等に準じて会計処理することができるとするオプションが定められる予定です。
ステップ4ではより実務に配慮したオプションの提案がなされています。
また、貸付金に関連する手数料のうち、履行義務を区分することが困難な手数料に関しては、契約期間等にわたり収益を認識するものとして会計処理できると考えられる旨を結論の背景に記載することが提案されています。
(ステップ2、4共通)
(ステップ2)
(ステップ4)
実効金利法の適用にあたって想定される検討フロー例を以下にまとめています。
出典
企業会計基準委員会審議資料 第492回、第495回、第497回、第519回、第524回、第531回、第533回
【共同執筆者】
中村 辰也
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 パートナー
八ツ井 博樹
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 アソシエートパートナー
田中 謙介
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 シニアマネージャー
和田 賢門
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 マネージャー
飯田 竜輝
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 シニア
※所属・役職は記事公開当時のものです。
貸倒引当金の適用対象範囲の拡大及び実効金利法の適用は、財務数値に重要な影響を与えるだけでなく、ITシステムを含む内部統制の構築など幅広い影響を及ぼす重要なテーマとなるため、影響度を早めに確認することが有益です。
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