オルタナティブ投資対談【前編】
田村 晃一(以下、田村): 日本における現在まで25年以上になるプライベートエクイティ・ファンド業界(“PE業界”)による投資活動の経験はどのようなもので、今後のPE業界の投資活動はどのように進化していくか。その過程でどのようなビジネス機会とリスクに直面すると考えていますか。
清塚 徳氏(以下、清塚氏): 現状を一言で言うと、かつてここまでPEファンドが活況を呈したことがなく、ようやく日本の社会やビジネスの中にわれわれの機能や存在が定着したと思っています。正式な統計は発表されていませんが、2022年のPE投資の総数が200件くらいになったようです。23年かけててここまで来たわけですが、大きく5つのカテゴリーがある中で、今回はすべてが活況を呈する状況を迎えました。ハゲタカ議論を乗り越えてここから定着し、今後も順調に成長していくというのが私の見立てです。
田村: PE業界の投資機会の5つの矢(カテゴリー)である、カーブアウト、非上場化、事業承継、再生、ファンドツーファンドのどれもが活況であるとの事、大きなモメンタムを感じますね。越智さんに伺います。世界のPEファンドは、日本のマーケットをどう見ているのでしょうか。
越智 多津哉氏(以下、越智氏): 清塚さんがおっしゃったように20年ほどかけて日本のPE業界も成長を遂げてきていて、私の記憶が定かであれば、2021年の案件数が130件ほど。それに対して今年は200件ほどというところなので、足元でもますます活況を呈している状況と認識しています。ですが一歩ステップバックして、経済規模に対するPE市場の大きさを考えてみると、実は米国だとだいたい4%程度。欧州でも2%から3%程度普及している中で、実は日本でまだ1%程度にも到達していない。足元の数字だと多分0.5%程度ですので、経済規模に対してのPE市場はまだまだ伸び代があると、グローバルな観点から間違いなく見られているかなと思います。
去年から米国での利上げもありましたし、景気減速懸念がだいぶ高まっていく中でも、PEにとって非常に大事な要素の一つであるファイナンシング、LBOファイナンシングというものが多少減速してきているという状況は海外で発生しています。日本にも影響はありますが、欧米に見られるような壊滅的な影響ではなく、相対的に見ても案件はまだまだやりやすい環境にあります。マクロ、そしてファイナンシングの環境から見ても、まだまだやれる余地はだいぶあるというのが足元の状況だと認識しています。
田村: 相対的に見ると投資リターンが日本より高いように見える日本以外の世界から見た、日本のPE投資業界のビジネスに対する魅力や期待、そしてリスクという点ではどのようなものがあるとお考えでしょうか。
清塚氏: われわれは投資家30社くらいにご支援いただいており、その4分の3が海外です。十数年前とは比べ物にならないぐらい日本に対する期待が大きい。いろいろ理由はありますが、一番は日本のPEファンド、特にミッドキャップ、スモールキャップが、欧米で期待されるリターンを上回り続けてきている、あるいは今後も出せるのではないかとみられているためです。日本のPEファンドはまだ未成熟で、従ってマーケット環境が非効率であるものの、そこにある意味でテイクアドバンテージしていくようなチャンスがあり、そこを上手にやっているGPはリターンを上げている。しかも単にワンタイムじゃなくてサステナブルな形でリターンを上げている。ここに海外の投資家が非常に注目していると思います。