資産運用会社が不確実な未来に備えるための6つの方策

資産運用会社が不確実な未来に備えるための6つの方策


急速に変化する世界で抜きんでた存在となり、成功するためには、果敢に行動することが必要です。


要点

  • 資産運用会社はディスラプション(創造的破壊)の加速と利益率の低下に直面しており、戦略的にパフォーマンスを向上させ、成長を最大化する必要がある。
  • 6つの主要分野で適切に意思決定を下すことにより、資産運用会社が2023年に、他社をしのぐ持続的な成功を収める道が開かれ得る。
  • 経営陣はシナリオ策定と戦略的柔軟性により、今とは根本的に異なる将来の業界構造に対応することが可能になる。

2022年当初、世界の多くの地域は、100年に1度の規模のパンデミックから抜け出しつつありました。しかしそれが回復の先触れとなるどころか、2022年には、相互に関連し合う未曽有の地政学的・マクロ経済的ショックが立て続けに起こりました。その結果、この数十年間でもっとも不安定な状況が続いた年になりました。ニュースの見出しは、ウクライナ情勢、超大国の対立、エネルギー危機、サプライチェーンの混乱、商品価格の高騰などで占められました。S&P 500の年間下落率は19.4%でした。また、ナスダック総合指数は33.1% 1、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスは18%下落しました 2。インフレ率は米国で8.5%を、英国、ドイツ、イタリアでは10%を超えました 3。

このような出来事の影響は、2022年が終わっても続くでしょう。いわゆる「複合危機(ポリクライシス)」が転換点であり、この時点で2023年以降の基調が決まったのです。何年にもわたり緊張が高まっていた大国間の対立は、ついに再び世界情勢の第一の懸念事項となりました。インフレは数十年間の休眠状態を経て、再び経済課題のトップに躍り出ました。そして、長年続いた超低金利時代は終わりを告げ、米国、欧州、アジアでは金融政策が急激に引き締めに転じました。例えば、英国の政策金利は、2022年中に0.5%から3.5%に上昇しました。

2023年を迎えるにあたり、確実に予測できるのは、不確実な状況が続くだろうということだけです。確かに、インフレ鈍化の兆候は、中央銀行の政策の転換に対する期待を高めています。しかし、脱グローバル化、脱炭素化、人口動態などの、価格上昇の根本的な要因が消え去ることはないでしょう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前の、比較的穏やかな経済状況に戻る可能性は非常に低いとみられます。

サーフボードにひもを結んでいる男性
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第1章

資産運用業界は重要な転換点に直面している

投資見通しは、かなりダイナミックに推移

世界が変わる時、市場も変わります。資産保有者や資産運用会社は、投資見通しの予測が極めて困難な状況に直面しています。金利の上昇はすでに金融市場の姿を変えてしまいました。2023年を通してこの影響を受けることになるでしょう。各国の主要中央銀行首脳による最近の発言は、さらなる金融引き締めが実施される可能性が高いことを示唆しています。また、投資家がポートフォリオのリバランスを進めるのに伴い、再び、流動性の逼迫と無秩序な価格再決定が発生する恐れがあります。

インフレ、金利、資産価格の短期的な変動だけが混乱の要因ではありません。さまざまな要因のために長期的な変化も加速しています。現在の変動の激しい世界から抜け出した先には変化を遂げた世界が待っており、そこには新たな脅威、そしてエキサイティングな機会があるでしょう。資産運用市場の未来は、今までとは大きく異なるものになるでしょう。投資見通しを変化させる根本的な要因には、以下のようなものがあります。

  • 脱グローバル化とナショナリズム:パンデミックと地政学的な対立の激化とが相まって、過去20年間に達成されてきた経済統合に向けての大きな進展を逆行させました。グローバル化によって生み出されたつながりは進化し、持続するでしょう。しかし一方で、戦略的自律性と国家的レジリエンスの拡大を望む声がさらに強まり、国境を越える移動が遅滞し、労働や商品、製品の価格が上昇するでしょう。
  • 人口動態とヘルスケア:高齢化が世界的に進んでいます。60歳以上の人口は、2020年の10億人から2030年には14億人、2050年には21億人に増加する見込みです 4。多くの国・地域では、平均余命が延びることで退職後の資金計画が圧迫され、公的医療が手の届かない価格になっています。中国のような国は、人口構成が経済に負荷をかける「人口オーナス」に直面していますが、インドやアフリカ諸国などの若い世代の多い国々では、「人口ボーナス」が期待されています。
  • ジェンダー間のバランスの回復:人口動態の変化、経済的・社会的な変化、家族計画は、女性の経済力向上を加速させています。各種の調査では、2030年までに世界の富の55%が女性によって所有されるようになると示唆されています 5。
  • 都市化と移住:2050年までに、世界人口の68%が都市部に居住するようになると予測されています 6。地方からの国内移住や経済的理由による国外移住は、将来のインフラの必要性と個人の経済的ニーズに大きな影響を与えるでしょう。
  • サステナビリティと気候:サステナビリティを求める声が高まっています。2027年までには消費者の54%が、意思決定に環境・社会・ガバナンス(ESG)データを使用するようになるでしょう。米国のテキサス州やウェストバージニア州などでの政治的反発をはじめ、一部の国・地域では懐疑的な意見があり、また、2022年にはエネルギー価格の高騰により短期的な課題が生じましたが、全体的なトレンドは明らかです。気候変動がこのトレンドの主要な推進要因ですが、生物多様性などの他の目標も重要性を増しています。
  • イノベーションとテクノロジー:今後数年のうちに、天文学的な量のデータを活用する人工知能(AI)などのツール(過去2年間で、有史以来作成された全データよりも多くのデータが作成された)、核融合やグリーン水素などの新しい投資テーマ、私たちの生活に革命を起こすかもしれない量子コンピューティングやメタバース、Web3.0などの急速な変化が生じるでしょう。
     

資産運用会社は強い財政的圧力にさらされている

2022年の混乱は、資産運用会社の財務パフォーマンスに極めて深刻な影響を与えました。市場の下落と純流出により、運用資産(AUM)が急激に減少し、収益も減少しました。同時に、インフレがコストを押し上げました。加えて資産運用会社は、プライベートマーケット、ESG統合、デジタルトランスフォーメーションなどの分野での投資と能力増強を継続していました。これらの要因のために、必然的に平均利益率が大きな圧力にさらされることになりました。2021年第4四半期から2022年第3四半期にかけて、世界の大手資産運用会社40社全体で、運用資産は14.9%、収益は22.9%減少したのに対し、営業利益率は12ポイント低下しました。

新年を迎えても、これらの圧力が反転する可能性は低いでしょう。ここ数年の投資前提は覆されました。現在吹いている経済的逆風の一部が反転したとしても、市況の変化のために、資産運用は以下のような深刻な影響を受けるでしょう。

  • 最近のさまざまな出来事のために、投資家は同時に達成することが難しい成果の組み合わせを要求するようになっています。例えば、キャピタルロスの回復、資産の安定化と保護、収益創出、ドローダウン(許容下落率投資戦略)の加速などです。
  • 資産運用会社は、経済の新たな現実を踏まえて投資戦略を見直す必要があります。例えば、リスクフリーレートがほぼゼロから約4%にまで上昇した場合、レバレッジ主導の戦略はどのような影響を受けるか。社債の年利回りが5~10%のときに、流動性の低いオルタナティブ商品への投資する合理的理由とは何か、などです。
  • 不安定性はアクティブ運用で成果を挙げる機会をもたらします。また、オルタナティブ投資への関心は高まる一方でしょう。同時に、個人投資家・機関投資家は、手数料の引き下げとカスタマイズの向上をさらに強く求めるでしょう。さらに、投資家教育とガイダンスに対する期待や、サステナビリティ関連データへの要望も増大するでしょう。

端的に言えば、投資家の期待に応えることは、さらに多くの努力を要し、難しく、費用がかかるものになるでしょう。これが、運用資産の伸びの鈍化と業界の競争激化と相まって、資産運用会社の財務パフォーマンスに対する非常に強い圧力となるでしょう。

EYのモデリングによると、業界の収益性見通しは確実に下振れするとみられます。私たちのアプローチでは、パッシブ運用および機関投資家のオルタナティブに対する資産配分の増加、手数料圧縮の減速、固定費の年間3%の増加、そして経費率は一定であることを前提としています。本稿執筆時点の見通しは以下の通りです。

  • 基本シナリオでは、2023年1月から2027年12月までの総運用資産の成長率を20%(5年間の年平均成長率は3.7%)と想定しています。このシナリオでは、2027年までに総利益率が4.1ポイント低下すると予測しています。
  • 5年間の運用資産の成長率を10%と想定した、より悲観的なシナリオでは、同期間の平均利益率が7.9ポイント低下すると予測しています。
  • 他の条件が同じであれば、業界平均収益率を維持するためだけでも、2027年までに運用資産を32.7%増加させる必要があります(5年間の年平均成長率では5.8%に相当)。

最大手の資産運用会社に資産流入の大部分が向かう傾向があるため、資産運用会社の大多数は、これらの数字が示唆するよりも急激な収益率低下に直面する可能性があります。
 

経費節減と成長に関する戦略的な判断が求められる

運用環境が厳しさを増す中、多くの資産運用会社にとって今必要なのは、パフォーマンス向上と差別化の強化の両方をもたらす変革です。経営陣はどのような行動をとることができるのでしょうか。

大半の資産運用会社が最優先すべきなのは、大幅なコスト削減です。これには、企業全体の効率性を向上させるための一般的な取り組み以上のものが必要です。大多数は、必要な水準のコスト削減を達成するために、構造改革が必須となるでしょう。規模が小さかったり、明確な差別化要因を持たない組織は、特に、コスト削減を迫る大きな圧力にさらされることになります。

資産運用会社の多くは、構造的アプローチによるコスト管理と、戦略的リニューアルという、より広範なプロセスとを組み合わせて実施することを選択するとみられます。資産運用会社はビジネスモデルを再検討し、小規模な市場からの撤退、個人投資家向け機能と機関投資家向け機能の統合、テクノロジーやリスク管理などのサポート機能の収益化など、抜本的な変革を検討するべきでしょう。

EYの調査では、世界中のビジネスリーダーが主要成長分野への投資を戦略的優先事項と捉えていることが明らかになりました。CEOを対象としたEYのグローバル調査「CEO Outlook Pulse」によると、金融サービス企業のCEOのうち、63%がデジタル化とテクノロジーに多額の投資を行う予定であり、60%がイノベーションと研究開発(R&D)への投資を計画しています。製品やサービスの最適化、拡張性の向上、事業全体へのサステナビリティの組み込みなどが、CEOの主要な目標として挙げられています。

小さなトンネルの中を走るSUV
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第2章

2023年を変革の1年にする必要がある

資産管理会社や資産運用会社がパフォーマンスを改善し、ディスラプションの中に機会を見いだすために取り得る行動には、さまざまなものがあります。

EYの調査から、現在のパフォーマンスを向上させ、不確実な未来において差別化を図ろうとする資産運用会社が常に重視すべき、6つの主要分野が明らかになりました。各分野について、企業が現在直面しているかつてない状況において、特に有益と考えられる具体的な行動を紹介します。
 

1. 顧客を軸として新しい方向性を設定する

資産運用会社は、すべての投資家に顧客中心のエクスペリエンスを提供するため、新しい方法を模索しています。直感に反するかもしれませんが、社内の縦割り組織を打破し、システムを簡素化することが、多くの場合、製品をより専門化する鍵になります。重点をおくべきだと考えられる分野には以下などがあります。

  • 個人投資の民主化:セミプロ投資家や特定の承認された個人投資家が利用できるオルタナティブ投資の範囲拡大が、さらに重要になっています。規制当局も、適合性に対して柔軟なアプローチをとるようになりました。より長い投資期間での二次流動性と取引機会を提供するプライベートマーケット・プラットフォームの力強い成長は、今後も続くでしょう。ダイレクトインデックスを通じて、従来は機関投資家や富裕層しか利用できなかったようなポートフォリオのカスタマイズを、より多くの個人投資家に提供できるようになる可能性があります。投資エコシステムにおける他社との協働が、大規模な民主化の早期実現の鍵になるでしょう。
  • 機関投資家の「消費者化」:大規模な資産保有者は、通常は個人投資家に提供されるような柔軟性、利便性、デジタルな顧客対応をますます求めるようになっています。年金受託者や投資コンサルタントのための顧客ペルソナの作成など、個人投資家向けの販売手法の活用が加速するでしょう。一部の資産運用会社では、初めて、機関投資家を対象に顧客エクスペリエンスを担当する職務を設けたりしています。
  • 各世代の課題解決に向けての取り組み:人口の高齢化と平均余命の長期化に伴い、必要となる医療や退職後の資金が増えています。高齢者世代は、長期的な資金をより多く蓄えるだけでなく、それらの資金をより長期にわたり引き出す必要があります。X世代やY世代への世代間移転を効果的に進める必要性も高まっています。この世代の人々は、経済的・身体的・精神的な健全性の相互の関連性を深く認識しています。資産運用会社は、退職後の資金の形成を支援するとともに、新しい方法で投資教育とファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)を高めることで、ウェルネス増進に向けて重要な役割を果たすことができます。
     

2. 販売をデジタル化する

販売においても、デジタル化が果たす役割は圧倒的に大きくなる一方です。テクノロジーは投資家対応を改善するだけではなく、教育やサポートを含め、カスタマイズされた付加価値のあるエクスペリエンス提供の核になるでしょう。新たなテーマとしては、以下が挙げられます。

  • 投資家教育の促進:従来にない方法で、最終投資家とファイナンシャルアドバイザーがデジタルで学習できるようにすることが、この分野で最高水準のエクスペリエンスと成果を提供する鍵になります。投資家の理解と金融リテラシー向上を目的としたゲームを活用するのも一手でしょう。教育は、カスタマイズの向上と密接に関連しています。特に、利用できる投資戦略が増え、より多くの投資初心者が投資運用会社の顧客になるにつれて、その関連性は強まります。
  • 投資の内容と目的を一致させる:投資家の見解や選好をより深く理解し、投資決定がもたらす影響のすべてについて投資家教育を行うことで、ESGを資産運用業務に組み込み、投資家が投資先の選択を通じて自身の意見を表明できるようになります。
  • ハイブリッドモデルの改善:メタバースを基盤とするアプリケーションにより、物理的な販売拠点を、財務アドバイスを提供する仮想センターに置き換えることが可能になります。仮想ポータルを使用することで、デジタルな顧客対応と人による顧客対応を融合させるだけでなく、従来なかったバーチャルな方法で個々のアドバイザーと接することのできる、個人・機関双方の投資家向けの新しいハイブリッド販売モデルを構築できます。
  • テクノロジーが実現するエコシステムに対する備え:今後数年にわたり、資産運用会社、銀行、テクノロジー企業が相互に接続された、複雑な投資エコシステムが拡大していくでしょう。そこでは、これらの事業体がリアルタイムで協働し、クライアントにシームレスなエクスペリエンスを提供します。資産運用会社が、複数のシナリオにおいて多様な役割を積極的に果たすためには、デジタル販売機能を確保しておく必要があります。状況に応じて、エコシステムのまとめ役としての役割や、エコシステムを介して専門的な商品・サービスを提供する役割を担うことになるかもしれません。柔軟性が重要であるため、他の事業体との連携に、個別のサービスを組み合わせたアプローチを採用できることが不可欠になるでしょう。
     

3. 投資に関する提案を根本的に見直す

イノベーション、都市化、サステナビリティなどのメガトレンドの急速な進展のために、資産運用会社は中核事業である資産運用をどのように行うのかについて、常に再考せざるを得なくなるでしょう。

  • AI革命の活用:この業界で現在行われているようなAIの利用の在り方は、有用性と機能の飛躍的変化のために、近い将来、刷新されるでしょう。機械学習によってAIがルールに準拠できるようになったのに対し、今度はディープラーニングによって多様なデータの分析に基づいた新しいルールが生成されるようになります。また、炭素排出量、衛星画像、インターネットの使用によって生成される「デジタル排気ガス(検索履歴や閲覧履歴など、デジタル空間に排出される情報)」などの利用可能なデータは爆発的に増加していくでしょう。このような状況を受け、資産運用会社では、解決が難しい課題に対して定量分析の導入が進むでしょう。
  • 移行の先導:気候変動やその他の環境問題への対応を推進する上で、資産運用会社は、さらに大きな役割を担うようになるでしょう。真の変化を実現するには、投資対象から除外するのではなくエンゲージメントに取り組み、投資先企業とより緊密に協力して変化を促すとともに、どうすれば国や業界独自の脱炭素化戦略に適合する投資を選択できるのかを、投資家が理解できるよう支援する必要があります。エンゲージメントの普及が進む中、グリーンウォッシング(うわべだけの環境への配慮)に対する規制も強化されているため、自社の商品・サービスの明確性を慎重に調査することが、資産運用会社にとってさらに重要になるでしょう。
  • 新しい投資テーマの活用:世界でイノベーションとディスラプションが進むペースは加速しています。これに伴い、新しいテクノロジー、さらには新しい産業に秘められた投資機会をつかむことが、一層重要になるでしょう。注目すべき分野は、核融合、グリーン水素、または量子コンピューティングなどが考えられます。
     

4. 成長分野を最大化する

プライベートマーケットやデジタル資産(トークン化された現実の資産を含む)などの、オルタナティブ投資に対する投資家からの需要は増大するでしょう。人口動態や都市化などの長期的な経済要因も、いくつかの領域に新たな成長機会をもたらすでしょう。

  • プライベートマーケット:1億米ドルを超える収益を計上する企業の85%超を非公開企業が占めています。こうした中、プライベート資産への需要がさらに高まり、資産運用会社はその成長を活用し、ひいてはより高い利益率を得る可能性を手にするため、さらに力を注ぐでしょう。大手資産運用会社によるプライベートマーケットに特化した資産運用会社の買収は、今後も続くとみられます。また、複数の企業による主要なプライベートマーケットのプラットフォームの利用が増加することで、新しい業界エコシステムが生まれ、相互依存性が高まる可能性があります。
  • デジタル資産:暗号通貨、非代替性トークン(NFT)などのデジタル資産に対する投資家の関心は、低い水準からではあるものの、高まりつつあります。FTXの破綻と、現行の規制では投資家保護が限定的であることを踏まえると、金融機関の86%が何らかのデジタル資産に投資しているとはいえ、多くの資産運用会社にとってはデジタル資産が最も切迫した優先事項ではないと考えられます 7。しかし、分散投資と実物資産のトークン化を可能にする分散型台帳技術が持つ力を考慮すると、デジタル資産が重要な長期的成長分野になる可能性があります。
  • インフラストラクチャー:急速に変化する世界では、脱炭素化(クリーンエネルギーの生成、電力ネットワーク、電池貯蔵など)や都市化(交通網、教育、住宅、衛生)のためのインフラや、その他の種類のインフラに対するばく大な設備投資が必要です。資産運用会社は、資本の使用者と提供者をつなぐためにさらに貢献することができます。それにより、個人投資家や機関投資家が、国有インフラの改善を目的とする官民パートナーシップなどを通じて、インフラ構築のために資金を提供することが容易になります。
  • 高成長市場:アジア市場には、今後10年間で、最も強力な潜在成長率が期待できます。インドの若年人口は、まだ手付かずの大きな可能性を秘めています。他方中国は、政治的リスクはあるものの、依然として大手資産運用会社の主要ターゲットであり、一部の国際的資産運用会社が最近、完全子会社の設立を承認されました 8。長期的に見ると人口動態の特性が魅力的なアフリカ諸国には、資産運用会社が活用できる大きな機会を見いだせるかもしれません。
     

5. ビジネスモデルを変革する

資産運用会社は、成長見通しの最大化、長期的な戦略上の柔軟性の維持だけではなく、運用効率を飛躍的に向上させる必要があります。

  • 戦略的なコスト変革:収益性を維持し、長期的な成長分野への大規模な投資を可能にするには、大幅なコスト削減が不可欠です。コスト削減にとどまらず、デジタル化の加速とコンプライアンス上のニーズ拡大の影響に対応するためにも、アウトソーシングとマネージドサービスの利用が進むでしょう。例えばサイバーセキュリティ、財務業務、リスクやコンプライアンスなどの領域において、2023年以降も増加する可能性があります。このような方針をとることで、資産運用会社は、戦略的優先事項と成長に資本を集中させることができます。
  • 業務モデルの変革:資産運用会社は、コスト管理の取り組みを、事業変革のより広範なプロセスにさらに統合していくでしょう。クラウドへの移行により、業務コストを節減でき、AIなどの外部ツールの活用が容易になります。加えて、データを業務モデルの中核に位置付けることで、イノベーションの能力を最大限に発揮できるでしょう。
  • イノベーションの実現:資産運用会社は、イノベーション能力の最適化に向けて、データとテクノロジーの他にも、多様な対策をとることができます。それが、ディスラプションの拡大への対応として、非常に重要な意味をもつでしょう。主要な対策には、適切なインセンティブの設定、変化に対する障壁の除去、新しいアプローチを試す権限のチームへの付与、責任の移譲、迅速な意思決定、適切な監視の導入などが挙げられます。新しいアイデアに基づく従来なかったユースケースを特定できた場合などには、プロセスの途中で方向転換できることも重要です。
     

6. 外部成長の機会を活用する

従来、外部成長へのアプローチの大半は、M&Aを焦点としていました。このようなディールメイキングは、収益性への圧力に対する対策として引き続き重要ですが、業界では、テクノロジーが可能にする柔軟な協働が、外部成長機会の主要な源泉だと考えられるようになっていくでしょう。

  • M&Aの効果的な活用:資産運用会社が規模の拡大とインオーガニック成長を求める中、銀行や保険会社による自社専用の資産運用会社(キャプティブ)の売却も推進要因となり、ディールメイキングは継続するとみられます。しかし、大規模なM&Aは、戦略的手段としては、今までほど重要ではなくなるでしょう。代わりに、資産運用会社は過去のディールから計画通りに相乗効果を引き出し、ESGやプライベートマーケットなどの主要分野で能力を増強するために、戦術的に投資することに注力するでしょう。
  • 協働のためのスキルの向上:競合他社、金融機関、テクノロジー企業、公的機関などと生産的な関係を築く能力が一層重要になります。築かれた関係を通じて創造性が促され、資産運用会社が達成したいと考えている他のビジネスモデルの変革も、その多くが可能になるでしょう。
  • 「未来の柔軟性」を得る:テクノロジーがもたらす複雑で流動的なエコシステムにおいて、資産運用会社が重要な役割を果たすためには、長期的に考えると柔軟性とモジュール性が非常に重要になります。ファンドの組成、資産に関するアドバイス、専門サービスの提供など、競争優位性をもつ分野が何であろうとも、投資家にリアルタイムでシームレスなエクスペリエンスを提供するには、多様なパートナーとデジタルでつながる機能が不可欠です。


資産運用会社は、徹底的に異なる将来のシナリオに備える必要があります。



資産運用会社は、これらの優先すべき行動に加えて、極端ではあるけれどもあり得る未来について考察するために、相当のリソースを割く必要があります。従来の計画策定プロセスでは、継続性が過大に重視され、柔軟性が抑制される傾向があります。資産運用会社はシナリオをモデル化し、弱いシグナルを見逃すことなく監視し、新たなトレンドやテクノロジーの交差や相互作用が変革を加速する可能性について、検討する必要があります。

例えば仮に、仮想アドバイスツールや分散型台帳上に保有されているトークン化された資産と、AIを搭載したチャットボットがリンクしているエコシステムがあるとしたら、そのエコシステムを通じて投資家のニーズを満たすことができないはずはありません。適切な規制があれば、このようなエコシステムにより、すべての投資家に対して、インタラクティブかつカスタマイズされたエクスペリエンスと低コストの仮想ファンドを提供できるのです。

このような仮定は行き過ぎた想像に思えるかもしれませんが、ディスラプションの加速により、おそらく多くの資産運用会社が考えるよりも近い将来に、実現するかもしれないのです。業界が提供するサービスはいつまでも必要とされるでしょう。だからといって、今存在している資産運用会社が必要とされ続けるとは限りません。そのようなシナリオでは、今日の企業はどのような役割を担っているのでしょうか。

不確実な未来は、すなわち悪い未来というわけではなく、ディスラプションは脅威とともに機会も生み出します。それでも、資産運用会社は、2023年以降に自らが突き付けられる課題への対応として、漸進的な変化では十分ではないであろうことを明確に理解する必要があります。未曽有のディスラプションに向き合うリーダーは、パフォーマンスを向上させ、自社が将来にわたって顧客、従業員、株主、そして社会のために価値を創造できるようにするために、果敢に行動する必要があります。


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この記事に関するお問い合わせは、以下までご連絡ください。

金融事業部 WAMセクター
アソシエートパートナー 北濱 聡

サマリー

変化を遂げた世界では、パフォーマンスを飛躍的に向上させ、不確実な将来での成功に向けて企業を方向付ける、大胆な戦略的変革が必要とされます。


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