今日のクライアントが変化しているとしたら、資産運用アドバイスの未来をどう見直しますか

今日のクライアントが変化しているとしたら、資産運用アドバイスの未来をどう見直しますか


資産運用会社と銀行に求められるのは、人とテクノロジーの融合により、クライアントの生活をより豊かにする、一人一人に合わせた資産運用アドバイスを提供することです。


要点

  • アドバイスの新たなパラダイムでは、ウェルススペクトル(富レベルの指標となる理論)全体で数々の認識を見直し、サービス業務にかかるコストの削減をもたらすだろう。
  • 2020年代は、4つの重要な戦略的テーマによって、現在業界で行われている実務は新しいモデルへと変化を余儀なくされるであろう。
  • 自社モデルの変革に着手し、将来に向け自社をどう位置付けていくかを決めるために今できることが3つの領域である。

資産運用に関するアドバイスのグローバル市場は、変革の時を迎えています。社会経済の変化に加え、オルタナティブ投資やタックスプランニング、金融教育を求める声によって、大手の資産運用会社と銀行(Wealth and Private Banks、以下「WPB」)では、ウェルススペクトル全体のクライアントエクスペリエンスを再定義することになるでしょう。人とデジタルテクノロジーをシームレスに統合できれば、クライアントの生活をより豊かにする完全に個別化したアドバイスを提供できるようになるはずです。

その結果もたらされる変化は、資産運用業界の構造に遠大な影響を及ぼすでしょう。あらゆる規模の企業がデジタル化とM&Aを活用してサービス提供の対象を拡大し、クライアントの「財布」からより多くを獲得しようとするにつれ、競争は一層激化すると考えられます。WPBは非中核市場から撤退して大規模な市場再構築に着手したり、さらには商品サービスを小売銀行業務と組み合わせたりすることなどで、費用対収益に沿った節減も進めていくことになるでしょう。

従来からある企業は自社のケイパビリティ向上に取り組んではいるものの、レガシーテクノロジーや根強く残る文化的習慣、国境をまたぐ業務の遂行など、さまざまな障壁に直面しています。新たなモデルを提供できなければ、ハイタッチとハイテクを融合できる急成長中のライバル企業に追い抜かれてしまうかもしれません。

2020年代は、企業がこうした変化の時を乗り越え未来のモデルへと加速する中で、現在業界で行われている実務が進化していく様子を目の当たりにするでしょう。本稿では、資産運用に関するアドバイスの状況が今後、新たな動向や将来のイノベーションによってどのように方向づけられていくかを探ります。人間のアドバイザーとテクノロジーを相乗効果的に融合させ、資産運用プランをアドバイスの中核とするアドバイスモデルの変革を実現するため、WPBがすべき3つの重要ポイントを示します。

今こそ、WPBが次世代のアドバイスを提供するために鍵となる体制を整え、革新的なアドバイスモデルのビジョンを現実に変えて競争を勝ち抜いていかねばなりません。 

「The future of advice(資産運用アドバイスの未来)」レポート全文を読む

イノベーションが導く資産運用アドバイスの未来の新たな方向
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第1章

イノベーションが導く資産運用アドバイスの未来の新たな方向

未来は、変化するクライアントの好みと進化する業界のケイパビリティが交差するところに存在します。

2020年代では、デジタル化の加速とサステナビリティの日常業務化が進むにつれ、資産運用に関するアドバイスの需要が急速に拡大するとみられ、アドバイス提供の在り方が変化していくと予想されます。

資産運用アドバイスの未来を定義する大きな進歩

2030年までにアドバイスの認識は、おそらく今日とは大きく異なるものになるでしょう。シームレスに融合された人とデジタルテクノロジーを介して、完全に個別化したアドバイスを提供することにより、クライアントの生活の質を向上させ、業界の収益性も強化されるでしょう。

アドバイスの未来を定義する要素は次の通りです。

  • 蓄積されたデータから自動的に生成される、先見性のある知見(ニーズや状況の変化に合わせて常に更新される)
  • ウェルススペクトル全体のクライアントの特定ニーズに合わせて提供される、個別化されたエクスペリエンス
  • 従来の資産運用商品・サービスから新しいものまで幅広く網羅した総体的なアドバイス
  • 明白な注意義務に下支えされた、高い水準の透明性と信頼
  • 全てのステークホルダーに向けた、より強力で明確な価値創造(アドバイス、費用、利益の明確な関係で示される)
  • アドバイス提供対象の拡大につながる、グローバル規模の関与と顧客確保の強化

こうした機能の多くは、それぞれ単独でも現在のベストプラクティスをグレードアップさせたものですが、複数まとまったときに生じるエクスペリエンスへのインパクトは、考え方を根本から変えるものであり、現在のアドバイスやアドバイザーをあっという間に、驚くほど時代後れにしてしまうかもしれません。

繰り返しになりますが、他の業界と明確な共通点を紹介します。例えると、自動車業界では、全ての車が自動運転車になったわけではなくても、エンジンや燃料、診断、ルート計画、ドライブアシストなどのイノベーションが車とは何か、車をどう使うかという概念を急速に変化させています。同様に2020年代は資産運用に関するアドバイスに対する見解が変わるとみられ、その過程で、資産運用業界の戦略や業務、規制、成功についての私たちの思い込みは覆されることになるでしょう。

資産運用に関するアドバイスの変革をビジョンから現実へ
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第2章

資産運用に関するアドバイスの変革をビジョンから現実へ

新たなアドバイスモデルを形作る4つの戦略的テーマ

アドバイスの未来への道のりは、オートメーション、サステナブルファイナンス、デジタルプラットフォームの利用拡大や、現在も継続中の各種開発によって形作られていくでしょう。さらにその先を見据え、WPBでは新たなイノベーションを活用して商品サービスを強化し、人によるアドバイスとテクノロジーを相乗効果的に融合させて、資産運用プランをアドバイスの中核にしていくとみられます。

未来のアドバイスモデルは、4つの戦略的テーマによって形成されるでしょう。それぞれのテーマは互いに強化し合いながら驚異的に急激な変化へと導きます。また、その過程で生まれるアドバイスの新しいパラダイムも、明確な価値創造によって支えられるでしょう。EYの調査によれば、クライアントが提供する手数料やデータと、その見返りに受け取るサービスと価値との間の明確な関連性を示すことで、WPBはロイヤルティと収益を獲得できることが示されています。

1.現クライアントの期待値の崩壊

WPBはセグメンテーション(資産運用ベースで細分化)の枠を超えて、クライアントへの理解をさらに深めたいと考えています。セグメンテーションへのより高度なアプローチには、詳細な個々人の人物像のフレームワークに加え、プロフェッショナルプロファイルまたはサイコグラフィックスによる「パーソナリティポートレート」の活用などがあります。

将来を見据え、企業はセグメンテーションモデルがクライアントの生活の変化に適応できるようにしなければなりません。投資目標や倫理的信念、デジタル嗜好(しこう)への理解がクライアントエンゲージメント最適化の鍵となり、その結果には驚くかもしれません。例えば、EYの調査によれば、金融教育を求めるクライアントはデジタル活用に最も熱心で、欧州のクライアントは北米のクライアントよりもデジタルチャンネルに対して前向きであることが示されています(図1参照)。

やがて、企業は個人に対し完全に特化したエクスペリエンスを届けることで、「個人にサービスを提供する」能力を発揮していくでしょう。おそらく、アフェクティブコンピューティング(共感能力を持つ人工知能)の活用によって、行動を解釈し、感情を洞察し、最適なタイミングで正確なニーズに対応することを目指していくと考えられます。

2. 資産運用アドバイスの大衆化

今後数年のうちにWPBモデルに訪れる最大のディスラプション(創造的破壊)は、急成長するマス富裕層および富裕層(HNW)において、洗練された商品・サービスに対する需要の高まりの影響を受けて生じるでしょう(図2参照)1。成長が期待される主な分野は以下の通りです。

  • 標準的な投資信託ファンドもしくは上場投資信託(ETF)ファンドに代わるダイレクトインデックス投資
  • 上場株式投資や公募ファンドに加えてプライベートアセット
  • 投資家が有価証券や金融資産の一部だけを所有できるようにする分割所有権
  • 市場や有形資産の取引をしやすくする情報のトークン化

超・高富裕層(VHNW/UHNW)のクライアントに現在提供している洗練された商品サービスをそれ以外の層に拡大することには、ロイヤルティや収益性を強化する可能性がある一方で、大きな課題も生じるかもしれません。


総合的な資産運用プランをアドバイスの中核にする予定のWPBでは、外部のエクスペリエンスプロバイダーと連携を可能にする金融エコシステムの統合が必要です。不動産や信託のプランニングといった複雑なアドバイスの費用を低く抑えて提供するためには、多くの組織がエクスペリエンスプロバイダーのエコシステムと連携する必要があります。


商品面では、WPBは投資商品の提供を強化して、必要なアドバイスや妥当性チェックをより幅広い投資家グループに提供するとともに、それをデジタルで提供できるケイパビリティの開発が求められます。サービス面では、企業はクライアントの生活に重点を置く総合的な資産運用プランを業務の中核とする動きが進むでしょう。クライアント対応の中に金融教育を整然と組み込むことが不可欠です。

3. 人とデジタルテクノロジーの融合

富裕層のクライアントの大半は、将来的にはデジタルツールを介してアドバイスを得ることが増えると考えています2 。その結果、企業は自動化を進めたクライアント主導型のアドバイスを拡大することで、効率と満足度を同時に向上させるチャンスです。とはいえ、ほとんどの資産運用モデルにとって人間のアドバイザーが不可欠であることに変わりはありません。

ハイブリッドモデルの普及拡大が意味するのは、そうしたモデルを適切に扱うことが将来の成功に不可欠となるということです。そこで重要な課題となるのが、人による接客と自動化された対話をシームレスに融合させることですが、スムーズで高価値なアドバイスをオムニチャネルでリアルタイムに提供することは、特に海外やモバイルのクライアント相手では難しいでしょう。

究極の解決策は、人とテクノロジーの相乗効果的な融合です。アドバイスの未来では、WPBが高度なデジタルアシスタントと、テクノロジーを活用したリモートアドバイザーとを組み込んだプラットフォームを開発していくことでしょう。それで得られる効果は、アドバイザーのパフォーマンスと顧客満足度の変革、およびサービス業務にかかるコストの削減です。

4. データとテクノロジーを利用した資産運用アドバイスの提供

WPB業界はアドバイスの提供をデジタル化することについては大きな進歩を遂げたものの、アドバイスの提供自体でデータとテクノロジーを活用するという点ではいまだ開拓の余地を大きく残しています。デジタル投資ツールに関しては、特にアジア太平洋地域やミレニアル世代の富裕層クラスのクライアントは肯定的に捉えています(図3参照)。

急速に増大するクライアントデータのプールとAIの急速な進歩を組み合わせれば、洞察に満ちたアドバイスを自動的に生成できるようになるかもしれません。さらには、そうしたアドバイスの共有をデジタル処理を介して行ったり、アドバイザーによる接客の強化に活用したりして、非個別化されるリスクの軽減に生かせるかもしれません。やがて、高度な分析による予測機能はWPBがクライアントジャーニーのプランやクライアントニーズの予測を行う際に役立つでしょう。

今後は、個人データの力を活用することが不可欠になっていくでしょう。投資家は個人データの提供をいといませんが、WPB側から積極的な開示を促す場合は、データに対する明確なROD(return-on-data)指標を示さなければなりません。それには、データの用途についての説明や、データとアドバイスと価値の関係性を示すことなどが考えられます。信頼を維持する必要性があるということは、自動化されたアドバイスエンジンであっても、例えばAIによるアドバイスを人の感覚でチェックするなど、人間の介在をある程度維持する必要があることを意味します。

WPB側から積極的な開示を促す場合は、データに対する明確なROD指標を示さなければなりません。それには、データの用途についての説明や、データとアドバイスと価値の関係性を示すことなどが考えられます。

未来の資産運用アドバイスモデルのために今から準備する
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第3章

未来の資産運用アドバイスモデルのために今から準備する

まだ存在していない目的地を目指すにはどうしたらよいでしょうか。

今すぐにアドバイスの未来を提供できなくても、今行動を起こして、新たな開発などを活用して将来の基盤を築くことは可能です。

喫緊の課題1:クライアントエクスペリエンスを向上し続ける未来のモデルを明確にする

未来のモデルは下記の4つの主要要素を網羅しています(図4参照)。現在の改善箇所をベースに大規模な変革を実現するモデルでなければなりません。

  • 戦略的枠組み:説得力のある将来のビジョン、それを達成するための明確な戦略、そして変化に備えたビジネスケースを示す、しっかりとした枠組みが必要です。WPBは、厳密な設計方針があればそれを使い、選んだアプローチを将来のモデルの運用ルールに落とし込むことができます。世界各地で事業展開する企業の場合は、現地の規制や顧客の要求を満たすと同時に、海外のクライアントにシームレスなエクスペリエンスを提供できるよう特に配慮が必要です。
  • エコシステムの互換性と柔軟性:WPBがパートナーネットワーク間のやり取りをどうするかを明確にすることが不可欠です。それには金融エコシステム内で選んだ役割を明確にし、継続的な変化に対応しフィンテックのイノベーションをオペレーティングモデルに統合できる、柔軟なテクノロジースタックを構築することが求められます。
  • サービスアーキテクチャ:WPBがアドバイスの未来を提供するために必要なインフラの特定には、戦略およびテクノロジーに関するプランを利用できます。外部のパートナーの役割やケイパビリティをサービスアーキテクチャに組み込む必要があります。
  • 規制の遵守: WPBは対象とするクライアントのエクスペリエンスに関する規制要件を特定し、実施の各段階で満たすべき事項を定義する必要があります。この点は、クライアントの移動が多い場合や、国境をまたいでのやり取りが多い場合は、特に難しいところです。

喫緊の課題2:望むモデルを実現するのに必要な投資をする

主に焦点となる分野はWPBのテクノロジーです。平均すると、それらの3分の2近くが今後3年間でデジタル投資を増やす予定です3。支出の大半は引き続きクライアントエクスペリエンスに関する構想が対象ですが、それ以外にプラットフォームの統合や商品の多様性拡大というニーズも挙げられています。

経験豊富な人材は、関係管理とテクノロジーイノベーションのどちらにも重要で、これも投資の重要分野です。アドバイスモデルの刷新やエクスペリエンスの段階的変化を実現しようとする業界にとって、優秀な人材は欠かせません。

また、新しいアドバイスのパラダイムに投資する際、WPBには実行面の大きな課題があります。複数の市場や規制・制度への対応が必要ということは、国際的に展開する企業にとっては、複雑さの中をかいくぐりながら複数の地域にまたがって実行することになるわけであり、特に困難が生じると言えます。

喫緊の課題3:テクノロジーと人材への投資に合わせて、適切な企業文化およびマインドセットも確立する

変化を成し遂げるには、適切なアドバイザートレーニングやビジネスユニットと開発者の緊密な連携、リーダーの明確なコミュニケーションが不可欠です。組織のアジリティとフレキシビリティの維持は特に重視すべき優先事項ですが、過小評価されがちです。

クライアントの期待の変化や新しい商品・サービス、デジタルテクノロジーの変化やサステナビリティ基準の策定に対応する場合に、フレキシビリティは欠かせません。効果的なコラボレーションやパートナーシップにも重要です。結局のところ、アドバイスの未来の提供は継続していくものであり、一度提供すればそれで終わるものではありません。

資産運用に関するアドバイスの進化に適応するか、それとも取り残されるか

WPBはクライアントや従業員を喜ばせ、全てのステークホルダーに価値をもたらすアドバイスの未来において、ビジョンの策定が求められます。また、充実していく業界エコシステムの中に、この新しいパラダイムをどう組み込むのかを決めなければなりません。

その上で、目標とするモデルを設計し、それを実現する投資とトランスフォーメーションのロードマップを描いていきます。主な課題として挙げられるのは、データ・信頼・価値・報酬の明確な関係性の構築、フレキシビリティとコラボレーションの必要性、国境や業界の枠を超えての業務遂行などです。

WPBの未来は、今までとは大きく異なるものとなるでしょう。必要な存在であり続けようとするのならば、今すぐに行動を起こし、激変するアドバイスモデルに向けて動き出さねばなりません。

  1. EYではウェルスセグメントを次のように定義しています(資産ベース):マス富裕層25万ドル~100万ドル、HNW100万ドル~500万ドル、VHNW500万ドル~3000万ドル、UHNW3000万ドル超。
  2. 2021 Global Wealth Research Report (pdf)”, EY, April 2021.
  3. Tech & ops trends in wealth management 2021”, Wealth Briefing, June 2021.

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アソシエートパートナー 北濱 聡

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    サマリー

    資産運用アドバイスの未来は、今までとは大きく異なるものとなるでしょう。資産運用会社と銀行にとって、今こそ行動する時です。資産運用アドバイスの新たなパラダイムへの移行は、クライアントとの関係性を強め、全てのステークホルダーに価値をもたらす能力を強化するでしょう。

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