EY新日本有限責任監査法人 不動産セクター
公認会計士 伊藤 茜
1. 不動産賃貸業とは
不動産賃貸業とは、所有不動産を賃貸して賃貸料等を得る事業をいいます。賃貸不動産の種類としては、オフィスビル、商業施設、マンション、アパート、倉庫、ホテルなど幅広いですが、本稿では主にオフィスビル、商業施設、マンションの賃貸業について解説します。なお、掲載日時点で企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」が公表されていますが、下記の記載は現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、「リース取引に関する会計基準」という。)および企業会計基準適用指針第 16 号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「リース取引に関する会計基準の適用指針」という。)に基づき記載しています。
2. 不動産賃貸業の特徴
(1) 立地条件が最大の要素であること
不動産賃貸業においては、駅に近いなど交通アクセスが良いこと、周りに店舗などがあること、近隣に公共機関があることなど、その利便性が収益性を決める最大の要素になります。近年の不動産市況全般としては、地価の上昇、建築コストの高騰、およびCAPレートの低下により不動産販売価格の上昇傾向が続く中、賃料水準も都心の好立地物件では高い水準が継続し、郊外や不便な立地の物件との価格差は広がっているといえます。
(2) 定型的な取引で安定収入が得られること
不動産賃貸業は、テナントが入居すれば、毎月一定の賃料収入が得られます。また、定型的な取引であり、比較的安定した事業と考えられます。
(3) 取引に関する規制を受けること
不動産賃貸業においては、賃貸物件の建築に当たって、都市計画法、建築基準法、大都市法、消防法などの規制を受けます。また、物件の賃貸に当たっては、民法、借地借家法(定期借地権、定期借家権を含む)、消費者契約法などの規制を受けます。
(4) 需給動向に左右されること
不動産賃貸業においては、貸手側の供給量と借手側の需要量のバランスによって、賃料相場が左右されます。特にオフィスにおいては、最新の設備がある物件や、災害対応に優れた物件に需要が集まる一方で、設備が劣化した物件では空室率上昇が長期にわたるなど、物件による二極化も見られます。
3. 不動産賃貸業の財務諸表の特徴
(1) 不動産賃貸業の貸借対照表の特徴
不動産賃貸業では、不動産は販売目的ではなく賃貸目的で保有するため、有形固定資産に計上されます。不動産の取得には多額の資金が必要となることから、不動産を担保にした借入金による資金調達を行うのが一般的です。従って、不動産賃貸業の貸借対照表は、総資産が大きい、自己資本比率が低い、などの特徴があります。また、不動産を担保に入れた場合には注記が必要となるので留意が必要です。
なお、他の不動産所有者から賃借し、サブリースという形で第三者に転貸し、収益を獲得する場合もあります。この場合には、賃借契約がファイナンス・リースかオペレーティング・リースに該当するかによって貸借対照表が大きく変わってきます。
(2) 不動産賃貸業の損益計算書の特徴
不動産賃貸業では、不動産賃貸による賃借料を収受することによって収益を獲得します。損益計算書では賃料収入に加え、礼金、更新料などの収益も計上されます。また、テナントが使用した分の水光熱費を収受する場合もあります。一方、売上原価には減価償却費のほか、清掃等の管理費、水道光熱費、固定資産税や都市計画税、損害保険料などに加え、一定期間ごとに修繕費が計上されます。他の事業に比べると利益率が高く、減価償却により手元に資金が残りやすい一方で、一定期間ごとの大規模修繕により多額の資金が必要になるため、資金繰りには留意する必要があります。また、収益は主として賃料収入によって構成されるため、不動産分譲業と比較すると、投資額に対する期間収益額は相対的に小さくなる(投資回収期間が長い)傾向にあります。
4. 不動産賃貸業の事業上のリスク
不動産賃貸業における事業上のリスクとしては、次の点が挙げられます。
(1) 不動産市況の変動リスク
不動産賃貸業においては、多額の不動産を所有することが多いため、不動産市況における価格変動の影響を大きく受けます。国内外のさまざまな要因による景気変動に合わせて不動産市況が悪化することも想定され、また賃貸市場の空室率などによる賃料相場の動きにも注意が必要です。従って、不動産市況を適時適切に把握して、相場の状況に応じたテナントリーシング(賃料、期間、普通借家契約か定期借家契約か)の適切な意思決定を行う必要があります。
(2) 不動産関連規制の変更リスク
不動産賃貸業においては、前述のように多くの規制に従うとともに、規制上のリスクを伴って業務を遂行しています。従って、普段から関連する法規制については十分に理解し、将来、法令や規則、政策、実務慣行および解釈などの変化が予測されれば、発生する事態をいち早く想定し、対応策を検討できる体制を整える必要があります。
(3) リファイナンスリスク
不動産を所有するに当たり、借入金等の有利子負債を活用した資金調達をすることが多く、返済期限が到来した借入金等に対する返済財源を持たない場合には、借り換えなどにより資金の再調達をする必要があります。しかし、信用収縮が起こると金融機関から高い金利を要求され、借り換えに応じてもらえない可能性があります。従って、借入期間の長期化、および返済期限の分散化を図ることでリスクを低減する必要があります。
(4) 金利変動リスク
不動産を所有するに当たり、借入金等の有利子負債を活用した資金調達をすることが多いため、政策等により資金の需給バランスが崩れ、金利の上昇等が生じた場合における業績への影響は大きくなります。従って、金利の上昇等によるリスクを回避するための社内管理体制を整え、安定的な資金調達計画(金利の固定化、借入期間の長期化)を策定することが必要となります。
(5) 天災・人災リスク
不動産賃貸業においては、多額の固定資産を所有することが多いため、地震、洪水、暴風雨などの自然災害や気候変動のほか、事故、火災、戦争、暴動、テロなどの人災等が発生した場合には、所有不動産の毀損(きそん)等により影響を大きく受けます。従って、建物等の耐震性を高めたり、損害保険等を活用したりするなど、リスク回避を図ることが必要となります。
5. 不動産賃貸業の業務の流れ
(1) 賃貸する物件の取得または建築
賃貸する物件の取得または建築については、通常の固定資産の取得と大きく変わるところはありません。
(2) テナントの獲得・契約
空室物件の取得や新築の場合には、入居するテナントを決める必要があります。賃貸マンションの場合には、建物を建ててからテナントを募集する「公募方式」によることが一般的と考えられますが、オフィスビルや商業施設の場合には、建物を建てる前にテナントを決めておく「誘致方式」によることもあります。テナントが決まったら賃貸借契約を取り交わし、敷金・保証金などを収受して、テナントが入居し、賃貸が始まります。また、テナント獲得に当たっては仲介手数料や広告料などの費用が発生します。
(3) 賃貸・賃料の収受・管理
テナントが入居すれば、後は賃貸借の契約条件に従って、毎月、賃貸料や共益費を収受します。事務所や住宅の普通賃貸借期間は一般的に2年程度と考えられますが、商業施設等の賃貸で、テナントの仕様に合わせて建設した建物などについては、賃貸借期間は長くなる傾向にあります。また、賃料の決定には、毎月一定額を収受する固定賃料と、最低保証額を設けるとともにテナントの売上高等に応じて歩合の家賃を収受する変動賃料があります。事務所や住居については、固定賃料による場合が一般的であると考えられる一方、商業施設においては、店舗内での売り場の動線などによってテナントの売上が左右されることから、変動賃料を含む契約(*)が多いものと思われます。
賃料の回収方法は、住宅家賃は通常1カ月分を前受けするのが一般的です。店舗で特に売上歩合の場合には、テナントの売上を把握する必要もあることから、テナントの日々の売上高をいったんオーナーが預かり、後日、家賃と共益費を控除して払い戻すという方法もあります。
(*)商業施設における変動賃料の契約例
- 最低保証付歩合家賃:実際売上高に歩率を乗じる売上歩合家賃と基準売上高を設定した最低保証家賃で構成されるもの
- 最低保証付逓減歩合家賃:売上歩合は基本歩率を設定し、最低保証のリスクをテナントが負う代わりに、一定の売上高を超えた額に歩率を軽減する措置を取るもの
- 単純歩合家賃:売上に対する歩率を単純に設定するもの
- 固定家賃+売上歩合家賃型:固定家賃は売上に関係なく設定され、また、売上歩合家賃から固定家賃部分は除かれないもの
(4) 契約満了・精算
賃貸借契約には普通借家契約と定期借家契約があり、当初定めた契約期間が満了した場合の取り扱いが異なります。
まず、普通借家契約(普通建物賃貸借契約)は、契約の自動更新の条項がついているものが多く、当初の契約期間が満了しても、更新料などの支払いとともに契約期間を更新することができ、更新しなければ契約終了・退去となります。
一方、定期借家契約(定期建物賃貸借契約)は、契約の更新がない賃貸借契約であるため、当初の契約期間が満了すれば、原則として、その時点で退去となります。ただし、借手と貸手で合意すれば、再契約をすることが可能です。
また、テナントは一般的に、契約により物件の原状回復義務を負うと考えられます。借手が施した内部造作をそのままにして退去する場合などには、敷金から原状回復費用を差し引いて返還します。
6. 不動産賃貸業の会計処理の特徴
通常の賃貸借契約について、前述の取引の流れに沿って解説すると、次のようになります。
(1) 賃貸する物件の取得または建築
これについては、通常の固定資産の取得等の処理を行います。
(2) テナントの獲得・契約
テナントの獲得においては、通常、不動産仲介業者などを通したり、広告を出したりするため、仲介手数料や広告料などがかかると考えられます。
テナントが決まり、賃貸借契約が締結されると、敷金・保証金と前払家賃を収受します。
(敷金と前受家賃の受領時の仕訳例)
本ケースは月決めの固定賃料で、前払いを前提とします。
(3) 賃貸・賃料の収受・管理
テナント入居後は、毎月、賃料を収受するとともに、必要経費が支払われます。これら必要経費は賃貸原価となります。なお、テナントが使用した水光熱費に相当する料金を収受した場合の会計処理は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」という。)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の適用に関する論点として、当企業会計ナビ第5回で取り扱っています。
(収益の振替仕訳例)
(賃貸原価発生時の仕訳例)
(4) 契約満了・精算
解約・退去時には原状回復費用を差し引いて敷金を、また保証金をテナントに返還します。
(返還時の仕訳例)
7. 不動産賃借にかかわる会計・開示上の論点
(1) フリーレントの会計処理
フリーレントとは、入居後の一定期間について賃料を無料とする賃貸借契約をいい、月々の名目賃料を下げずに、賃貸借期間全体の賃料を実質的に値引きするための手法として利用される賃貸借契約の一形態です。通常の賃貸借契約から発生する賃料、共益費等の多くはリース取引に関する会計基準の適用となり、収益認識基準の適用範囲に含めないとされている(収益認識基準3項(2)、104項)ため、特殊な契約条件であるフリーレントについて、どのように賃料を収益認識するかが論点となり、実態に応じた会計処理を行うことになります。
例えば、賃貸借期間の当初2カ月をフリーレント期間とした場合、単純に、これを「値引き」と考えれば3カ月目の賃料から収益計上を開始することになります
しかし、解約不能条項があるフリーレント契約では、2カ月のフリーレントは実質的に賃貸借期間全体の家賃の値引きと考えられるため、貸主としては当該契約が2年契約だとすれば、解約不能期間(この場合、24カ月間)で賃料を平均化して収益計上することが必要であると考えられます。すなわち、22カ月分の賃料を24カ月で均等に収益計上することになります。
また、近年ではフリーレントと同様に、賃貸借契約の募集においてテナントの入居時の負担を軽くし、入居を促すためのインセンティブとして、レントホリデーや段階賃料、移転補償(原状回復費用や引越代金の負担)、造作物の贈与等が利用されるケースもあります。
レントホリデーとは、入居後の一定期間以外の期間で、賃料を免除する契約(例えば、毎年◯月については賃料を免除する契約)をいい、段階賃料とは、当初の賃料を低く設定し、その後、段階的に値上げしていく契約方法をいいます。これらについては経済的実態がフリーレントと同一であり、解約不能条項がある場合においては、フリーレントと同様の処理が求められることがあるため、留意が必要です。
一方、移転補償および造作物贈与は、フリーレント等と異なり、別契約によって現金や設備で還元するインセンティブとなっています。還元の仕方に違いはあるものの、移転補償等が賃料全体のインセンティブの一つとして捉えられる場合には、フリーレント等と経済的実態が同一であると考えられます。そのため、解約不能期間などの条件がそろう場合、当該期間にわたって経済的効果を按分する処理も想定されます。
(2) 不動産リースの会計処理
① 不動産賃貸借取引とリース会計
不動産を自社で所有せずに個人オーナー等から賃借するケースでは、自社が運営しやすいような仕様の物件をデベロッパーに建ててもらうことがあります。この場合、通常は個人オーナーに建設資金を拠出してもらう一方で安定収入を保証することが多く、長期の解約不能期間を設けて賃貸借契約を締結するケースがあります。その場合、これらの土地、建物等の不動産賃貸借契約につき、ファイナンス・リース取引、またはオペレーティング・リース取引に該当するかを判定する必要があります。判定の結果、解約不能、かつフルペイアウトの要件を満たすファイナンス・リース取引に該当した場合、売買処理に準じた会計処理(借手側で資産計上の処理)を行います。
ただし、土地は経済的耐用年数が無限であり、フルペイアウトの要件に該当しないと考えられるため、所有権の移転条項または割安購入選択権の条項がある場合を除き、オペレーティング・リース取引に該当するものと推定されます(リース取引に関する会計基準の適用指針19項)。
なお、建物賃貸料には、その建物が建築されている土地の賃料が含まれている一方で、建物部分と土地部分が区分されていない場合が多いため、建物の判定の際には留意が必要です。
②オペレーティング・リース取引の会計処理と開示
不動産の賃貸借取引がオペレーティング・リース取引に該当する場合、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うとされています(リース取引に関する会計基準15項)。このうち、解約不能なものに係る未経過リース料は、重要性が乏しい場合を除き、注記する必要があります(リース取引に関する会計基準22項)。
(3) 借手における預託金(建設協力金)、および敷金の会計処理
建設協力金(差入保証金)は、敷金と同様、賃借人からオーナーに対して支払われる金銭債権ではありますが、賃貸借期間満了時に初めて請求権が生じる敷金とは異なり、賃借人からオーナーへの貸付金類似の金融資産であるため、金融商品会計基準では会計処理を明確に区分しています。すなわち、建設協力金は、原則として、当初認識時のその時価を返済期日までのキャッシュ・フローを割り引いた現在価値であるとし、支払額と当該時価との差額は長期前払費用として計上し、契約期間にわたって各期の損益に合理的に配分することとされています。また、それが返済期日に回収されることを理由に、当初時価と返済金額との差額を契約期間にわたって配分し、受取利息として計上するとされています。一方、敷金は、賃料および修繕の担保的性格を有するもので、償還期限は賃貸借契約の満了時であり、法的には契約期間満了時に初めて返還請求権が発生するものと考えられています。このため、差し入れ金額をそのまま資産計上することになります(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」133項、309項)。
(4) 敷金・保証金の回収可能性
敷金・保証金を預け入れている場合、貸主の財政状態が悪化したときには、敷金・保証金が返還不能に陥ることがあるので、その回収可能性について注意が必要です。
(5) 内部造作の耐用年数
賃借した土地に建物を建てたり、賃借した建物に内部造作を施したりした場合には、それらの建物や建物付属設備は、固定資産として減価償却や減損の対象となります。減価償却については、会計上、当該資産の経済的使用可能期間にわたり償却することが原則ですが、賃貸借期間の経過後に更新ができない場合には、契約期間内で償却することになると考えられます。一方、契約終了後も契約更新により継続して賃借することを予定している場合には、家主の意向等から更新の実現可能性も考慮して耐用年数を設定する必要があると考えられます。
(6) 資産除去債務
他の不動産所有者から賃借し、サブリースという形で不動産賃貸を行う場合などにおいては、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」(以下、「資産除去債務に関する適用指針」という。)の適用による会計上の影響を受けることが想定されます。同会計基準および適用指針においては、資産除去債務を、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものとしており、この中の具体例として、事業用定期借地権付きの不動産賃貸借契約における原状回復義務や、建物等賃貸借取引における原状回復義務が挙げられています。
資産除去債務については、原則として、除去に伴う債務を見積もって負債計上するとともに、これに対応する除去費用を資産計上することになりますが、当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を費用に計上する方法によることができるとされています(資産除去債務に関する適用指針9項)。
(7) 減損会計
賃貸用の不動産は通常、固定資産として分類されるので、企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」および企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」が適用されます。減損処理とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理をいいます。減損処理では、①認識・測定をどの単位で行うかを決め(資産のグルーピング)、②その資産グループに減損の可能性があるかを判断し(減損の兆候の有無の判断)、③減損処理を行うかどうかを判断し(減損損失の認識の判定)、④減損処理する金額を決める(減損損失の測定)、という四つのステップを経て行われます。③④については、不動産賃貸業特有の留意点は想定されませんが、①②については次の点について留意すべきと考えられます。
① 減損認識の単位(資産のグルーピング)
不動産賃貸業においては、一般的に賃貸している土地やビル、マンションなどが対象になってきます。グルーピングの単位は、会社の管理状況にもよりますが、通常は物件単位によることが考えられます。一方、駅前開発のような複合施設では、物件が賃貸マンション等の住宅部分とオフィス等の商業部分に分かれているケースがあります。継続的な収支は住宅部分、商業部分の単位ごとに把握されているような場合でも、住宅部分の収益性は低いがオフィス部分でカバーしているようなときは、両者が相互補完的な関係にあるかどうかが、グル-ピングの単位を決定する際の重要なポイントとなります。そのため、これらの単位を切り離したときに、他の単位のキャッシュ・フローに大きな影響を及ぼすかどうかを慎重に検討すべきと考えられます。
② 減損の兆候判定
不動産賃貸業における減損の兆候の判定では、賃貸物件から得られるキャッシュ・フローが過去数年間マイナスになっている場合や、不動産の時価が著しく下落している場合などのほか、「回収可能価額を著しく低下させるような変化」が生じた場合に留意する必要があります。具体的には「資産または資産グループを当初の予定または現在の用途と異なる用途に転用する」場合では、例えば、オフィスビルから商業施設への転用のように見かけが大きく異なる用途の変更であっても、想定されるキャッシュ・フローや損益等が同水準あるいは従来の計画以上であるなどのときには、「兆候あり」には該当しないと考えられます。一方、「資産または資産グループが遊休状態になり、将来の用途が定まっていない」場合においては、例えば遊休地を一時的に駐車場として利用して「とりあえず」収入を得ることで減損の兆候がないと判断することは困難と考えられます。
(8) 賃貸等不動産の時価等の開示
棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益またはキャピタルゲインの獲得を目的として保有される不動産については、企業会計基準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」が適用されます。
オフィスビル、商業施設、マンションなどの賃貸用不動産は、すべて開示対象となります。また、サービスアパートメントや短期賃貸マンションのように契約期間が短期であって、かつ家具付き、清掃サービス、コンシェルジュといった、一部ホテルと同様のサービスを提供している場合であっても開示対象となり得ます。一方で、自ら運営しているホテルやゴルフ場など、賃借されている不動産に該当しないものは開示対象外となっています。
また、注記事項として開示される内容は、①賃貸等不動産の概要、②賃貸等不動産の貸借対照表計上額および期中における主な変動、③賃貸等不動産の当期末における時価およびその算定方法、④賃貸等不動産に関する損益、となります。
なお、これらの開示は財務諸表利用者が「賃貸等不動産」の収益性や投資効率などを総合的に把握することに役立つ情報を提供できるものとされており、不動産賃貸業にとっては重要な注記事項になると考えられます。
8. 転貸借契約と転リース
(1) サブリースの逆ザヤ問題と会計処理
サブリースとは、不動産の物件所有者と賃貸物件管理会社である不動産会社の間の賃貸借契約をマスターリースというのに対し、転貸によって当該不動産会社がテナントと結ぶ契約をいいます。一般には、物件所有者と不動産会社の間の「一括借上」や「空室保証」の賃貸借契約を含む転貸借スキーム全体の意味で使われているようです。サブリースでは、不動産会社は、テナント管理および賃料下落や空室リスクを負担することによって利ザヤを獲得します。
1990年代のバブル経済下、サブリースの中には、不動産会社が企画して土地の所有者に建物を建ててもらい、これを10年、20年といった期間にわたって「一括借上」「賃料保証」「空室保証」などの契約により借り上げてテナントに転貸するというスキームで行われたものも少なくありません。しかし、その後のバブル崩壊を受けた不動産賃借料相場の大幅な下落により、テナントからの賃料収入が大幅に減少する一方で、「賃料保証」「空室保証」などの契約条件により支払賃料は据え置きであったために、不動産業界でサブリース物件の逆ザヤが問題となりました。
不動産会社は逆ザヤを解消するために、契約上想定できなかった経済環境の悪化などを根拠にオーナーと賃料減額交渉を行い、場合によっては訴訟となったケースもあります。サブリースについては、逆ザヤによる転貸損失について翌期以降の損失見込額を転貸事業損失引当金として計上している事例や、賃料減額訴訟の和解により未払計上額と和解による支払額の差額を戻入益として計上している事例も見られます。
(2) 転リースの会計処理と開示
リース取引に関する会計基準の適用指針では、リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件をおおむね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引として定義しており、借手および貸手としてのリース取引の双方がファイナンス・リース取引に該当する場合の取り扱いが定められています(リース取引に関する会計基準の適用指針47項、73項)。
9. 不動産賃貸業の内部統制の特徴
不動産賃貸業においては、賃貸の対象となる不動産と、これに伴い発生する収益および費用に対して、通常の賃貸借の会計処理だけでなく、リース会計基準および同適用指針、固定資産の減損に係る会計基準および同適用指針、賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準および同適用指針、資産除去債務に関する会計基準および同適用指針など、複数の会計基準に関連する会計処理および開示が求められています。また、有価証券報告書の第3設備の状況や附属明細表における有形固定資産等明細表の開示も求められます。こうした会計処理や開示の基礎数値の算定に当たっては、物件ごとの採算管理や時価変動のモニタリングが求められます。
例えば、収支についていえば、減損の兆候を判定するためには、過去の損益情報が必要になりますし、当期の会計処理や、前述7(8)賃貸等不動産の時価等の開示の④賃貸等不動産に関する損益については、当期の損益情報が必要になります。また、減損損失の認識の判定および測定の場合には将来キャッシュ・フローの総額の見積りが必要になり、貸手側のリース取引の注記のためには、来期以降の契約情報が必要になります。また、フリーレントや建設協力金の会計処理により、賃料の収益計上額とキャッシュ・フローが異なる場合、これらを加味することが必要になることも考えられます。
物件についていえば、取得価額は当然のこととして、減損の兆候判定や減損損失の認識の判定および減損損失の測定、賃貸等不動産の時価等の注記のために不動産の時価をモニタリングすることが欠かせません。賃貸用不動産を減損すると、減損損失の注記だけでなく、重要な会計上の見積り注記、セグメント情報等、賃貸等不動産の時価等の注記における賃貸等不動産に関する損益等に記載されるなど、注記の対象範囲および注記事項間の整合性にも注意が必要であると考えられます。さらに、賃貸不動産を担保に供している場合には担保注記の対象となります。また、有価証券報告書における第3設備の状況2主要な設備の状況においては賃貸用不動産の所在地や面積も開示されます。
【賃貸用不動産の物件管理と会計処理・開示】
不動産業
- 第1回:不動産業の事業と会計の概要 (2024.06.27)
- 第2回:不動産分譲業の事業と会計の特徴 (2024.06.27)
- 第3回:不動産賃貸業の事業と会計の特徴 (2024.06.27)
- 第4回:保有目的の変更・不動産の時価 (2024.06.27)
- 第5回:新収益認識基準が不動産業に与える影響(2020.12.01)