「リースに関する会計基準(案)」等のポイント解説-リースの識別 第1回:総論

2024年5月15日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 佐藤 範和

Ⅰ. はじめに

2023年5月2日に公表された「リースに関する会計基準(案)」(以下「本会計基準案」という。)および「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「本適用指針案」という。また、以下本会計基準案と本適用指針案を合わせて「本会計基準案等」という。)のうち、基準適用の入口部分として重要な論点となり得る「リースの識別」について解説します。

  • リースの識別に関する定めは企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「現行リース基準」という。)では置かれていなかった定めとなります。
  • 本会計基準案等の適用によって、これまで現行リース基準により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合がある点に留意が必要です。

Ⅱ.「リース」の定義

1. 現行リース基準における「リース」の定義

現行リース基準においては、「リース」の定義について<図1>のとおり定められています。そして、「リース」と判定された取引について、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類します。ファイナンス・リース取引に分類された場合は、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行い、貸借対照表上、リース資産およびリース債務が計上されることになります(借手のケース)。

図1 現行リース基準における「リース」の定義

現行リース基準における「リース」の定義
  • 「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引をいう(現行リース基準第4項)。

2. 本会計基準案等における「リース」の定義

本会計基準案等におけるリースの識別に関する定めは、リースの定義に関する定めと合わせて、借手が貸借対照表に計上する資産および負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの識別に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があるとされています(本会計基準案BC25項)。

本会計基準等における「リース」の定義およびリースの識別に関する定めは<図2>の通りです。

図2 本会計基準案等における「リース」の定義

本会計基準案等における「リース」の定義

(本会計基準案第5項)

(本適用指針案第5項)

  • 「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいう。
  • 契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。当該判断にあたり、当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。
  • 特定された資産の使用期間全体を通じて、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)(※)から当該契約の他方の当事者(顧客)(※)に、当該資産の使用を支配する権利が移転している。

(1) 顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。

(2) 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。

(※)リースの識別において、「借手」および「貸手」の用語を使用せずに「顧客」および「サプライヤー」という用語を使用しているのは、リースの識別の判断の段階は契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためです(本適用指針案BC8項)。

したがって、契約にリースが含まれるか否かの判定にあたっては、

  • 「特定された資産」であり、
  • 当該特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客に移転していること
    の、いずれも満たしているかどうか
    がポイントとなります。

図3 契約にリースが含まれるか否かを判定するにあたっての要件

図3 契約にリースが含まれるか否かを判定するにあたっての要件

Ⅲ. 本会計基準案等において「リース」と判定される具体的要件

先に述べたように、契約にリースが含まれるか否かは「特定された資産」と「支配」の2要件が満たされているか否かがポイントとなります。次に、当該「特定された資産」と「支配」に関し、本会計基準案等では具体的にどのような定めが置かれているのか、確認していきます。


1. 要素1:「特定された資産」

契約において、下記2つの要素をいずれも満たす場合は、資産が特定されていると判定されます。

  • サプライヤーが実質的な入替権を有していない(本適用指針案第6項)
  • 当該資産が物理的に区分可能である(本適用指針案第7項)

(1) 実質的な入替権

資産は、通常は契約に明記されることにより特定されますが、資産が契約に明記されている場合であっても、一定の状況下においては、サプライヤーが当該資産を代替する実質的な権利を有しており、顧客は特定された資産の使用を支配する権利を有していないとされます。具体的には、<図4>のいずれも満たすときは、実質的な入替権を有しており、「特定された資産」に該当しないことになります。

図4 実質的な入替権を有しているか否かの判定基準

実質的な入替権を有しているか否かの判定基準

(本適用指針案第6項)

① サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有している

② サプライヤーにおいて、当該資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が、代替することから生じるコストを上回ると見込まれるため、当該資産を代替する権利の行使によりサプライヤーが経済的利益を享受する

端的に言えば、サプライヤーが資産を別のものに入れ替える能力があり、かつ、入れ替えることに関し経済的メリットがあるか否か、ということになります。

(2) 物理的区分可能性

資産が特定されているかどうかは、物理的に区分可能かどうか、という観点からも判定されます。具体的には、<図5>のとおりとなります。

図5 物理的区分可能性に関する判定基準

物理的区分可能性に関する判定基準

(本適用指針案第7項)

① 顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合

⇒「特定された資産」に該当しない

② ただし、以下の場合は「特定された資産」に該当する

  • 顧客が使用することができる資産の稼働能力が、当該資産の稼働能力のほとんどすべてであり、かつ、
  • 顧客が当該資産の使用による経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している

顧客が資産を使用しているものの、顧客が使用することができる当該資産が物理的に別個のものではない場合(稼働能力のほとんどすべてを使用する場合を除く)は、「特定された資産」にあたらないことになります。

上記2要件を図に表すと、<図6>のとおりとなります。

図6 「特定された資産」か否かを判定するにあたっての要件まとめ

図6 「特定された資産」か否かを判定するにあたっての要件まとめ

2. 要素2:「支配」

特定された資産の利用を支配する権利が顧客に移転しているかを判定するためには、以下のいずれも満たす必要があります。

  • 顧客が、使用期間全体を通じて特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している(本適用指針案第5項(1))
  • 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している(本適用指針案第5項(2))
    上記要件を図に表すと、<図7>のとおりとなります。

図7 資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判定にあたっての要件まとめ

図7 資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判定にあたっての要件まとめ

上記のうち、特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かに関し、本適用指針案第8項では<図8>のとおり定められています。

図8 特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かの判定基準

特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かの判定基準

(本適用指針案第8項)

以下の いずれかの場合

(1) 顧客が、使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合
 
(2) 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされており、かつ、次のいずれかである場合
 
① 使用期間全体を通じて顧客のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより 資産を稼働させる権利を有している

② 顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、 資産を設計している

(1) 使用方法を指図する権利

資産の使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を、顧客が有しているのか、それともサプライヤーが有しているのかによって、契約がリースを含むかどうかの結論が変わってきます。当該権利を顧客が有している場合は、契約はリースを含むこととなり、反対にサプライヤーが有している場合は、契約はリースを含まないこととなります(本適用指針案第8項(1))。

(2) 資産の使用方法に係る決定

契約の中には、資産の使用を指図する権利を顧客とサプライヤーのどちらが有しているか不明瞭な場合があります。このような状況においては、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされていることを前提として、以下に基づいた判定が行われます(本適用指針案第8項(2))。

① 資産を稼働させる権利

資産を稼働させる権利を顧客のみが有している状況においては、顧客は、当該資産を顧客自身で稼働、または第三者に指図のうえ稼働させることが可能となります。本ケースにおいては、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、契約はリースを含むことになります。

② 資産の設計

顧客が資産の設計にかかわることで、使用期間にわたる当該資産の使用方法が事前に決定されているケースがあります。このようなケースにおいては、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、契約はリースを含むことになります。

Ⅳ.「リース」の判定に関するフローチャート

これまで述べてきたとおり、本会計基準案等においては、現行リース基準には定めのなかった「リース」の判定に関するガイダンスが定められており、その内容も複雑となっています。フローチャートで示すと<図9>のとおりとなります。

図9 リースの識別に関するフローチャート

図9 リースの識別に関するフローチャート

※本適用指針案「設例1」を元に修正しています。

※各権利や契約内容の判断をする際は、すべて「使用期間全体を通じて」該当するかの判断を行う必要があります。

Ⅴ. まとめ

本会計基準案等は、会計基準独特の言い回しも多く、リースか否かの判定を行うにあたっての読み解きが困難な面もあり、実務上、判断に迷う点が多く出るものと想定されます。次回、具体的な事例を用いたリースの識別に関する解説を行いますので、あわせてご確認ください。

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