EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
EYでは、取締役会や経営陣が気候変動開示の取り組みについて考え、世界経済の脱炭素化に向けた組織の戦略を実現するために、「グローバル気候変動リスクバロメーター」を毎年発表しています。
現在、世界全体で1万1千社以上が「ネット・ゼロ」または同様のコミットメントを行っています。そのうちの大多数の企業がSBT基準に代表される野心的なGHG削減目標を掲げ、新たな体制を志向しています。しかしその一方で、真の脱炭素化に向けた確かな道筋を持つ組織は、まだ極めて少数であることも明らかになっています。
今回で5年目となる「グローバル気候変動リスクバロメーター 2023年度版」では、気候変動に関連するリスクと機会 が、企業の財務諸表にどの程度反映されて いるかを調査するとともに、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が発行したIFRS開示基準に対する企業の準備度合いについても分析しています。そして、企業が効果的な脱炭素移行計画を策定・実施するために、どのような取り組みを行ってい るかについてお伝えします。
この10年間で、企業の気候関連情報の開示に対する規制が厳格化し、現在では企業の行動に焦点が当てられるようになってきています。今までのようなコミットメントや目標設定の段階から、測定可能な結果を示す段階へと移行してきており、企業の行動が今まで以上に強く求められています。気候関連基準の最新版をただ順守し続けるだけでは十分ではありません。また、漠然とした長期的目標を、どう達成するか明確な計画もなくただ提示し続けるだけでは、期待されている変化をもたらすこともできません。気候変動を阻止する戦いの中で、政府の規制当局やステークホルダー、さらには一般市民からの企業に対する要求は大きく膨らんでいるのが現実です1。
今年で5年目を迎えるEYグローバル気候変動リスクバロメーター(PDF)の趣旨は、気候変動に関連して企業が直面しているトレンドや機会、主要課題を明確にすることです。地球温暖化による気温上昇を-2°C未満に抑えるには、経済全体の変革が必要です。したがって、企業は複雑な規制環境への対応と、グローバルレベルのベンチマーキングの理解の助けとなるものを必要としています。ステークホルダーや規制当局、投資家に提供される情報の質が高いほど、企業や政府は、気候関連リスクに関して持続可能でより良い判断を下せるようになります。
気候関連リスクに対応し、それを報告に反映させるとは、単にチェックボックスに印を入れるだけの作業ではありません。むしろ、そこには成功のチャンスが潜んでいます。この考え方にまだシフトしていない企業は、考えを改めなければなりません。 近年のEYの調査によると、企業が気候変動に対して行動を起こすと、財務、顧客、従業員、社会、および地球全体にかかわる価値において、期待以上のリターンが得られることが分かりました。
心強いことに、2023年のバロメーターは、企業の気候関連情報開示が進んでいることを示しています。全体的には、調査で分析した開示情報の品質スコアは44%から50%に上昇しました。このことは、ステークホルダーへの情報開示を改善しようと、企業が以前よりも時間とエネルギーを投入している証拠です。同時にガバナンスについても、改善の明るい兆しが世界中で見られることに気づくかもしれません。多くの企業が国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の開示要件を採用しつつあり、気候関連戦略を監督するのに必要なスキルが取締役会レベルにあるかどうかを開示しています。加えて、自社のバリューチェーン内の気候変動リスクやエクスポージャーへの理解を深めるため、企業はすべての重要カテゴリーでスコープ3の温室効果ガス排出量を考慮しています。ただし、こうした改善は微々たるものです。この調査結果の意味を正しく理解するには、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の発足から8年が経過していることを考えてください。つまり、品質スコアがたったの50%というのは由々しき事態なのです。気候関連の報告は、経済全体、およびその中の各セクターや企業が実際に脱炭素化への真の移行に向かっているかを理解する上で極めて重要です。
第1部
気候関連の報告に関しては、特定の市場およびセクターが先行し残りは依然として出遅れています。
昨年のバロメーターを反映した傾向としては、気候関連情報の開示は特定の市場やセクターが依然先行し、他の市場やセクターが追いつこうとしている状況です。
市場の観点から見ると、日本、韓国、北・中・南米地域、そして欧州の大半の国・地域はいずれも情報開示が順調に進んでおり、質の面で先行しています。これらの国や地域は、TCFD開示義務化を数年前から進めています。さらに詳細化したISSB要件への対応する準備を進行中であることから、この結果は当然と言えます。
一方、中東・東南アジアは昨年に比べてスコアは上昇し、さらなる発展が見込めるものの、後れを取っている状況に変わりはありません。政府にとっては、自国の気候変動に関する情報開示要件を強化し、進展を加速させる機会です。気候情報開示を義務化すれば、スコアの低い現在の状況を一変させられるかもしれません。
セクター別に見ると、今年のレポートでも、移行リスクの影響を最も受ける企業は、質とカバー率の両方で高いスコアを得る傾向にあることが分かります。エネルギーは質とカバー率の両方でトップですが、質においては、証券取引所、その他の金融サービスプロバイダー、格付け機関、信用調査機関などの金融機関がトップとほぼ同等のスコアとなり、昨年の46%から54%に上昇している点に注目です。実際、質は全体的に向上していて、不動産、鉱業、農業、資材・建築、金融機関に大きな変化が見られます。スコアの変化の背景には、規制当局や金融機関を含む投資家などのステークホルダーが、炭素集約型セクターの企業に脱炭素化の計画と進捗を開示するよう迫っていることが挙げられます。 金融機関側の視点で見ると、資金供給が事業の大部分を推進しており、投資家は「ブラウン」ローンを減らすよう圧力をかけています。
質の向上と並んで、カバー率のスコアも前年から大きく上昇しています。2022年は84%だったのが、2023年は90%でした。 とはいえ、特に開示情報の精度と質については、早急な対応が求められる課題として残ったままです。また、開示を取り巻く規制環境が、報告そのものだけでなく実際の行動を促しているのかも依然として課題です。
ガバナンス開示の質の平均スコアは、2022年以降、規制圧力もあり46%から52%に上がってはいますが、数字としてはまだ低すぎます。また、脱炭素化に向けた移行計画もまだばらつきがあり、一貫性のある何らかの計画を立てている企業は半数を少し上回る程度(53%)です。本調査から、企業は気候変動に関する情報開示に関して、依然として機会よりもリスクを重視していることが分かりました。調査対象企業のうち、リスク分析を実施したのは77%だったのに対し、機会分析を実施したのは68%にとどまり、2022年からわずかに増えた程度です。
第2部
今後数年間、気候関連の情報開示に影響を及ぼす重要な要素とは
今年の調査には、TCFD提言に照らした企業の開示状況に加えて、今後数年間の報告環境を形作る3つの中核的要素も盛り込まれました。
今年の調査では初めて、IFRS S2の気候関連開示要件準拠に向けた企業の準備状況に注目しました。特筆すべき結果は以下の通りです。
先行する企業は多くの場合、情報開示のためだけに報告の枠組みを使うのではなく、気候問題がビジネス戦略に与える影響を注視しています。気候問題は最も重要な事業戦略の中核になりつつあり、気候関連リスクと事業の成長戦略の関係を理解している企業は、IFRS S2の新たな要件に対応する上で有利な立ち位置にいます。気候関連情報開示を戦略推進に活用している先行企業の事例は、レポート本編(PDF)の中で紹介しています。
企業は今、サステナビリティ開示への取り組み強化を依然として求められると同時に、効果的な移行計画を策定し実施するという難しい課題に直面しています。移行計画では、現実世界のさまざまなシナリオを考慮し、実際のリソースを投入しなければなりません。
しかし、今回のバロメーターを見ると、調査対象企業のうち、何らかの移行計画に基づいて開示を実施しているのは53%に過ぎません。よく練られた移行戦略があれば、組織が目指す方針の通りに、あるいは目標よりもさらに先を行くことができるようになるので、この数字はもっと高くなるはずです。
企業に対して、気候関連情報開示の範囲を広げ、さらに詳細な情報を提供するよう求める声が強まっています。したがって今後数年間、企業が大きく問われるのは、必然的に、リスクと戦略的対応を財務諸表にどう反映するかが中心となります。2023年のバロメーター(PDF)によると、気候関連リスクの定量的影響を財務諸表に盛り込んでいるのは、企業のおよそ4分の1(26%)です。この数字は、気候戦略とリスク管理は企業報告から大抵は切り離されたままという一般的な傾向を映し出しています。ここは対応が必要なポイントになるかもしれません。なぜなら、気候関連リスクを報告に反映するとは、単なる書類の記入作業ではなく、想定される財務的影響を把握するための、先を見据えた包括的な取り組みでなければならないからです。したがって、企業のバリューチェーンと市場のダイナミクスを幅広く考慮した上で、評価する必要があります。
第3部
報告のレベルは正しい方向に進んでいるものの、スピードと勢いに欠けています。
EYグローバル気候変動リスクバロメーターによって描かれた全体像は、警鐘と捉えるべきです。一部の統計では前年より大きく値が伸びたのは、喜ぶべきことです。しかし多くのセクター、および多くの地域では、もともとのベースラインが低く、進むペースもゆっくりしすぎです。
本レポートでは、企業が早急に取るべき行動を3つ挙げています。
今回 |
EYグローバル気候変動リスクバロメーター2023 |
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2022 |
公開済 |
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2021 |
公開済 |
EYグローバル気候変動リスクバロメーター2021 |
今年で5年目となるEYグローバル気候変動リスクバロメーターは、世界の気候関連情報開示の進捗状況をカバー率と質の両面から採点する指標として定評があります。世界各地の1,500を超える企業を調査し、TCFDの11の提言に照らして開示状況を評価するものです。企業が対応している提言項目の数(カバー率)と、各開示情報の範囲と詳細(質)を測定しています。
EY Global Institutional Investor Surveyでは、ESGデータと情報開示を向上させることで、サステナビリティの成果をいかに加速できるかを検証しています。
EY Global Corporate Reporting and Institutional Investor Surveyにより、ESG情報開示について投資家との間に大きな見解の相違があることが分かりました。