EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック状況下、気候変動に対する投資家の関⼼は弱まるのではないかと懸念されていました。市場はロックダウンによるショックから立ち直りつつありますが、投資家はパンデミック前に定めた気候変動対策の公約から後退するでしょうか。
実際には、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、気候変動の重要性はさらに増すことになりました。EY 2021 Global Institutional Investor Surveyによると、投資家は気候危機とエネルギー転換を投資の際の意思決定プロセスの中心に据えるようになっています。この分野では以下のように重要な発展があります。
第1章
ネットゼロへの移行は、投資家の投資判断の中心に据えられています。
排出量削減、炭素隔離、オフセットプログラムを通じて、ネットゼロの目標達成に向けての取り組みが始まっています。今回の調査では、ネットゼロ社会への移行もまた、今日の投資家の投資判断の中心に据えられていることが明らかになりました。
ネットゼロや脱炭素化を前進させる上で、企業も投資家も課題から逃れることはできません。企業はさまざまな気候変動によってもたらされる潜在的な影響を把握するために、強固なシナリオプランニングを行い、自社のビジネスにおける現状のリスク管理と戦略プロセスに対してストレステストを実施する必要があるでしょう。同時に投資家は、組織戦略を脱炭素化と環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を取り⼊れたものへ再構築する際に必要となる条件について、企業に働きかけることが求められます。また、各産業の脱炭素化への道筋を、包括的な定量的データ分析に基づき、確実に把握する必要があります。
第2章
投資家は積極的にグリーンリカバリーへの投資に狙いを定めていますが、市場のバブル化が懸念されています。
ネットゼロ炭素経済への移行は極めて重要な課題をもたらす可能性がありますが、移行を奨励する各国政府の取り組みは、投資家にとってはチャンスとなるでしょう。多くの投資家はすでにこうした機会の獲得に乗り出しており、調査対象の投資家の92%が、グリーンリカバリーから得られる利益を見越して過去12カ月間に投資を実施したと回答しています。
投資家もこの移行が続くと予想しており、調査では88%が、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後では、世界的な危機に対して高いレジリエンスを持ち、持続可能な価値を長期的に提供できる機会を求めて、グリーンリカバリーに焦点を当てた投資機会により一層狙いを定めると回答しています。
例えば、可能性の高い分野の1つとして、自然を活用した排出が挙げられます。気候変動に対する自然に基づく解決策(Nature-based Solutions、NbS)は「自然気候ソリューション(natural climate solutions、NCS)」とも呼ばれ、大気中の二酸化炭素(CO2)の回収を目的とした生態系の保全や回復、管理の改善などがあります。例を挙げると、森林の再生、沿岸の湿地帯の復元、健全な土壌づくりのための被覆作物の利用といった回復型農業への転換などです1。
国連の最初の報告書であるState of Finance for Nature(自然のための金融状況)によると、気候変動、生物多様性、土地劣化に対する目標を達成するためには、事実上2050年までに4兆1,000億米ドルの資金ギャップを埋める必要があるとされています。その達成には、自然に基づく解決策に対する投資額を2030年までに3倍、2050年までには4倍に拡大する必要があると考えられます2。その場合、累積投資額は最大で8兆1,000億米ドルになり、年間投資額は、将来5,360億米ドルに達することになります。本報告書によると、現在では年間約1,330億米ドルが自然に基づく解決策に向けられており、そのうち86%は公的資金、残りは民間資本で賄われています。この分野で魅力的なビジネスモデルを持つ企業が増えれば、投資家の注目度も高まっていくことでしょう。
しかし、グリーンリカバリーのチャンスにおける成功はもろ刃の剣になり得るとの懸念もあります。危惧されているのは、業界の関心が環境問題に殺到することで、わずかな投資機会に過度な資本が投入されることになりかねないという事態です。EY 2021 Global Institutional Investor Surveyによると、投資業界が再生可能エネルギー、電気自動車、植物由来食品といった分野のプロジェクトへの投資を検討していることから、需要が供給を上回るとの懸念を投資運用者は抱いています。
市場バブルの懸念を引き起こすと考えられる重要な問題の1つに、サステナビリティや環境問題に関して、グリーン技術における既存企業や革新的な新興企業を問わず、企業の主張に信頼性があるかどうかということがあります。一般的には、例えば、大規模で資金力のある企業がサステナビリティ企業としての資格を主張することができるのかという懸念や、その結果、ESG銘柄とされる投資商品はサステナビリティ度の低い企業で構成されているのではないかという懸念です3。
問題の重要性は、規制当局がこの問題に対処する動きを見せていることにも表れています。例えば、2021年3月10日に発効したEUの「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」では、透明性の向上が図られ、原則として持続可能かどうかに応じて投資商品が分類されています3。
同時に、新興のグリーンテクノロジー企業への投資を検討している投資家は、グリーン技術の可能性と、将来の収益に対する見込みについての主張が厳密な検証に耐え得るかを判断する必要があります。このことは、企業と投資先のプロジェクトが開始初期の勢いが過ぎた後も長期的に生き残れるかどうかを見極める上で重要となるでしょう。そのためには、企業の主張や報告にとどまらず、より深い洞察が必要となります。投資家が分析を行う際は、本当に長期にわたって持続可能で実行可能な機会かどうかを把握する姿勢が重要です。
第3章
再生可能エネルギーや脱炭素産業に必要な資金調達は、市場バブル懸念の緩和につながる可能性があります。
市場バブルの脅威を軽減し得る課題は2つあります。
結果として、現時点でCO2排出量の多いセクターに属する企業に多くの株式資本が流れることになると予想されます。ネットゼロへの移行に資本を投じる明確な戦略を企業が示すことで、投資家が資本を配分し、CO2排出量の多いセクターを支援することで生じるレピュテーションリスクを回避するための方法を生み出せるでしょう。
つまり、グリーン投資だけでなく、ブラウン産業のグリーン化も重要になる可能性があります。投資家にとっては、撤退よりも連携を重視し、企業とパートナーシップを組んで炭素削減とエネルギー転換に取り組むようになることが考えられます。
今やこれまで以上に、資本を投入する際には気候危機とエネルギー転換を考慮すべきという認識があらゆる規模の投資家の間で⾼まっています。サステナビリティの機会を求める機関投資家の数は増加しています。投資家がグリーンリカバリーの資金調達で主導権を握るには、長期的な戦略を展開することによって市場のバブル化のリスクに対処し、投資対象企業が提供する信頼性のある一貫したESGデータと開示情報について、現状における弱点とギャップを克服することが求められます。