LGBT+ インクルージョン:一貫性のない世界の中で、全世界共通のポリシーを適用できますか?
LGBT+ インクルージョン:一貫性のない世界の中で、全世界共通のポリシーを適用できますか?

LGBT+ インクルージョン:一貫性のない世界の中で、全世界共通のポリシーを適用できますか?


ニューヨーク⼤学ロースクール、ダイバーシティおよびインクルージョンセンターとEYとの共同研究では、職場においてLGBT+ インクルージョンを促進する企業が活用できる3つのモデルを調査しています。

本編の公開時現在、73カ国が同性愛を違法としています。インクルーシブな価値感を共有する数々の多国籍企業は、世界中のLGBT+当事者にとって働きやすく、安心して暮らせる環境を醸成するよう活動しています。 しかし、多くの課題に対応するために考えられた施策が現地の法律に抵触する可能性がある場合、それをどう乗り越えてゆくかを含め、企業はさまざまな試行錯誤を重ねています。LGBT+ 当事者、従業員、企業などが施策を進めていく中、当事者の告発につながらないよう、当事者のみならず周りで働く方々の尊厳を傷つけずに、公平な活動を⾏う為にはどうすればよいのでしょうか︖

ここに記載するのは、EYがダイバーシティとインクルーシブネスを求める道のりで取り組んできた課題です。

EYの取り組み

EYでは、長年にわたってダイバーシティとインクルーシブネス(D&I)のための活動を続けてきました。EYではすでに90年代からLGBT+従業員の差別禁止条項を行動規範に含めていました。ビジネスの成功がダイバーシティとインクルージョンとの組み合わせからもたらされることは理解されてきています。LGBT+ インクルージョンを推進することで、当事者のみならず、あらゆる⼈材がもたらす、多様性=ビジネスの長期的成長、といった価値観が形成され、企業やチームの⾼い能⼒を引き出すことにつながることが解っていることから、D&Iは道理にかなっているから⾏うだけではなく、ビジネスの成長にも良い影響を与えると考えられています。 

LGBT+ インクルージョンに向けた取り組みを本格化させるなか、実質的な変化を起こすには、解決すべき複雑な問題が⼭積されていることが解ってきました。

私たちEYは多くの国で活動する多国籍企業として、各地域の法律に遵守し商習慣など考慮する必要がありますが、世界中で適用されるグローバルポリシーを設けることが目標ではなく、LGBT+ インクルージョンの取り組みを常に評価し、その場で実際に起こっている現実をモニターする制度とプロセスが必要であることを再認識しました。

個⼈の信念や意⾒、社会的環境、法的環境など様々な全てのステークホルダーを網羅的に考慮しようとすると、進歩が阻まれてしまう懸念があります。しかし今こそ、多様性を重要視する機運を味⽅とし、インクルージョンを世界中で⼀⻫に強く推進できるのではないでしょうか。 「EYでは、プロフェッショナルそれぞれが⾃分らしさを引き出せる環境づくりを企業の責任とする必要があると考えています。そうすることで、私たちはより強い組織となり、帰属意識も高まり、クライアントにより良いサービスを提供できるようになると信じています。EYには、同性愛が違法である国にもメンバーファームがあります。私たちは全ての従業員が活躍できる安全な職場を提供する責任があります」と、Diversity & Inclusiveness OfficerのKaryn Twaroniteは述べています。

「EYでは、プロフェッショナルそれぞれが⾃分らしさを引き出せる環境づくりを企業の責任とする必要があると考えています。そうすることで、私たちはより強い組織となり、帰属意識も高まり、クライアントにより良いサービスを提供できるようになると信じています。 Portrait smiling woman rainbow sweater

「EYでは、プロフェッショナルそれぞれが⾃分らしさを引き出せる環境づくりを企業の責任とする必要があると考えています。そうすることで、私たちはより強い組織となり、帰属意識も高まり、クライアントにより良いサービスを提供できるようになると信じています。

Karyn Twaronite
EY Global Vice Chair – Diversity & Inclusiveness

LGBT+ インクルージョンを推進することで、さまざまな背景を持った⼈材に自ら関⼼を持ってもらい、定着率を向上させ、多様な価値観を通じてチームの⾼い能⼒を引き出すことができるのです


LGBT+ インクルージョンと地域に応じた文化的配慮との調和を取るための3つのモデル

私たちは、ニューヨーク⼤学ロースクール、ダイバーシティおよびインクルージョン所属センターと共同で、LGBT+ エンゲージメントの3つのモデルの推進について、多国籍企業間での議論が活発になるよう、以下のディスカッション・ペーパー  Opening up the World: How multinational organizations can ascend the maturity curve on LGBT+ rights(世界をひらく: 多くの国に拠点がある企業はどのようにLGBT+ 施策の成熟度を⾼めていくことができるのか︖)英語版  を作成しました。

「この研究は、多くの国において商業活動を行う企業が職場における平等や個を尊重する⽂化を醸成しているということを実証するものであり、大都市だけではなく地域社会にまで及びます。慎重なアプローチをとり、対話を活性化する事により、私たちは⼼を開き、理解を深め、不確実性を取り除いて、グローバルな職場におけるLGBT+ の平等、インクルージョンへの道をひらいてゆくことができるのです」と、Beth Brook-Marciniak(元EY Global Vice Chair – Public Policy)は述べています。

これらのモデルは、2016年にCenter for Talent Innovationレポートで紹介されました。 Out in the World: Securing LGBT+ Rights in the Global Marketplace.(世界のどこかで:グローバル市場におけるLGBT+ の権利の保護)英語版

When in rome cycle graphic

When in Rome(郷に入っては) 

When in Romeは組織がLGBT+ ポリシーを適⽤する段階で、最も初期のモデルです。 一般的に企業はこの段階でとどまることを望んでいるわけではありませんが、⾏動を起こす前に従業員やビジネスを抑制する潜在的リスクの可能性ついて慎重に⾒極めます。この段階で企業が色々な施策を展開するためには、アライ(LGBT+ に代表される性的マイノリティーを理解し⽀援するという考え⽅を明確にしている⼈々)が主導し、現地で草の根的な活動を支援し、また現地のD&I リーダーの育成を進め、本社や他のLGBT+ 施策が進んでいる国で活躍している方々が参加できるような活動に焦点を合わせ、LGBT+ インクルージョンの価値に対する認識を現地の方々と⾼めることが⼤切です。

Embassy cycle graphic

Embassy(大使館)

このモデル(段階)では、企業は社外の法律や⽂化を変える事を目的とはせず、社内の人事(LGBT+を含む)制度や慣⾏の導入を進めます。人事制度には、性的指向や性同⼀性当事者差別の禁⽌条項の制定、同性の配偶者やパートナーへの医療などにおける同等の福利厚生の提供、LGBT+ に関するトレーニングの策定、LGBT+ 従業員リソースグループ(ERG)の設⽴などが例として挙げられます。次のモデル(段階)に移⾏するために、企業はLGBT+ 当事者やアライの方などがリーダーになれるようなトレーニングプログラムや取り組みを強化し、ERGの運営にはより多くの時間とリソースの投資、他企業や⾮政府組織(NGO)との外部連携の強化を通じ、LGBT+ のより良い提唱者になっていきます。つまり、社内の活動をメインとする中、社外にも見えるような活動を徐々に開始し、他企業と連携を取る施策を進める段階です。

Advoctate cycle graphic

Advocate(提唱者)

Advocateは、政府や地方自治体と共同で人の働きやすさ、社会参加を活性化させるような施策を考え、NPOなどと協働するなど、企業が企業という立場と社会的責任を施行する上で社会的⾵潮を形成するための過程です。 このモデル(段階)に到達した場合でも、組織は施行されている施策や制度をモニタリングし、改善していきます。 各国では価値観、商習慣、宗教などの⽂化をリスペクトしながらも、インクルージョンを進めるための施策を提唱するチャンピオンになれるよう、人材を育成し、LGBT+に関する予算を増やしたりするステージです。

EY Asia-Pacific Area ボードメンバー、およびEY JapanのChief Operating Officer 、またGlobal Unity Sponsor である貴⽥によると、「このように3つのモデルが必要である点だけを⾒てもLGBT+に関する施策の複雑さが理解できると思います。国や地域によってLGBT+の⽅々への⽀援体制には⾊々な形が考えられますが、どこにいても共通なのは、アライの⽅々が⽬に⾒える形で LGBT+を⽀援することの重要性です。アライの⽅々が積極的な⾏動をとる事により、LGBT+の⽅々には『ここは安全ですよ』というメッセー ジが伝わり、より暮らしやすい、働きやすい環境の構築につながります」

上記の 「When in Rome(郷に入っては)」モデルと「Embassy(大使館)」  モデルは、LGBT+ インクルージョン導⼊への道のりで通る通過点のようなものとなる場合が多いですが、企業はこれらモデルにとどまるべきではありません。法律や社会、および 企業のおかれる環境を勘案しつつ、グローバルに適用可能なLGBT+ インクルージョンプロセスに落とし込んでいくことになるでしょう。

LGBT+ インクルージョンの法的・社会的リスク、および企業のリスクをどう評価しますか?

LGBT+ 施策の成熟度と現地の法制度などを照らし合わせながら、上記3つのモデルを通して徐々に新たな施策を進めることが可能です。グローバルリーダーとローカルリーダーが法律、社会、企業環境にあるリスクを評価し、現地の状況に見合った活動を始動することになります。その為、リスク評価は最初に行う必要があります。リスク評価には主観性が伴うため、企業の価値観やリスクに関する感度に合わせた包括的なプロセスである必要があります。

変化に向けて

クライアントとの会話の中で尋ねられることが多い重要な質問にはどのようなものがありますか?︖

ダイバーシティとインクルージョンをどのように推進し、周囲に良い変化起こしますか?どのようにして既存概念に変革を起こしますか? ステークスホルダーとの信頼や理解をどのように築きますか︖

実際のところ、これらの質問への回答は1つではありません。私たちのレポート Making it real – globally: a practical guide for advancing lesbian, gay bisexual and transgender diversity and inclusion across global companies(グローバルな実現:グローバル企業全体でのレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの多様性、インクルージョンを進めるための実用的なガイド) では、実際にLGBT+・ポリシーを進めるための9つの⽅法を提案しています:

平等な機会と機会が提供されない場合のリスクを評価し、⾏動の優先順位を決める

ポリシーはグローバルレベルで設定し、現地での活動、及び詳細なアクションは調整しながら行う

  1. 平等な機会と機会が提供されない場合のリスクを評価し、⾏動の優先順位を決める
  2. ポリシーはグローバルレベルで設定し、現地での活動、及び詳細なアクションは調整しながら行う
  3. ダイバーシティ関連の事例を継続して作り、あらゆる層に対する教育と具体的な事例の紹介を行う
  4. 社内の全レベルにおいて、LGBT+当事者と アライとの関係を構築する
  5. LGBT+の従業員に対するキャリア支援の仕組みを構築する
  6. 管理職に対するリバースメンタリングや研修の機会を設ける
  7. ローカルおよびグローバルレベルにおいて、ソーシャルメディアを活⽤する
  8. LGBT+ ネットワークを構築し、グローバルレベルで連携する
  9. 成果を測定し、活動に取り入れ、成功を祝う

EYと共に活動する

世界中の国々で⼤きな変化が起きていますが、EYでは色々な企業の皆さまと共同で変革をすすめていきたいと考えています。さまざまな企業や団体のコラボレーションによって社会的な影響⼒は拡⼤し、潜在的なリスクを軽減すると考えています。


  • 国連のStandard of Conduct for Businessへのサポートを企業として表明する
  • 2019年度に設立された世界経済フォーラムと⼤⼿多国籍企業とのコラボレーション(Partnership for Global LGBTI Equality – PGLE)に参加する(unity.network@ey.com.)
  • LGBT+インクルージョンの成功事例を自社で実践する⽅法について、他企業とシェアし、ベストプラクティス事例を集める
  • #ProudToBelong ハッシュタグを使⽤してソーシャルメディア上の対話に参加する

EYでは、上記のアクティビティーについて、多国籍企業の方々と一緒に行っていきたいと考えています。日本でも上記のようなアクティビティーを勘案される場合には、EYへお尋ねください。

EYのLGBT+ インクルージョンについてのレポートをダウンロードする:Can you apply a globally consistent policy across an inconsistent world?(一貫性のない世界の中で、全世界共通のポリシーを適用できますか?英語版)

サマリー

ニューヨーク大学ロースクール、ダイバーシティおよびインクルージョンに関する所属センターが行った新しい調査では、多国籍企業が法的、社会的、企業のリスクをどのように評価し、LGBT+ エンゲージメントの3つのモデルを通じさらに多様性と包括性を高めることができるのかについて議論しています。


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