EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人・EY行政書士法人 税理士・行政書士 藤井 恵
15年にわたり、日本から海外または海外から日本への赴任者・出張者の税務、給与、福利厚生、リスク管理など、グローバルモビリティに関する総合的なコンサルティングサービスを企業に提供。主な著書(共著)に『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』(清文社)『すっきりわかる!海外赴任者・出張者・外国人労働者雇用』(税務研究会)などがある
要点
海外出向者に関する税務問題について日本本社にとって最も関心が高いのは、出向者コストを本社負担した場合に当該コストが日本で寄附金としてみなされるか否かという点ではないでしょうか。しかし、この問題と同等かそれ以上に重要ながら日本の経営者の関心が非常に低く、そのリスクすらあまり認識されていないことが多いのが、海外出向者の「赴任先国における個人所得税の申告・納税漏れのリスク」です。
そこで本稿では、海外赴任者の任地での個人所得税について、海外赴任者の報酬の特徴や管理方法について解説するとともに、申告漏れのリスクを減らすために有効な手段を紹介します。
通常、海外赴任者には、日本本社が定めた海外勤務者規程に基づき、海外勤務に伴うさまざまな手当、福利厚生が支払われています。この中には会社から本人口座に直接振り込まれるもの以外にも、会社が支払った医療費や子どもの学費などがあります。具体的には次の通りです。
<現金で支給されるもの(本人口座に入金されるもの)>
<会社が本人を介さず、ベンダー等に直接支払うことがあるもの>
海外赴任者に対しては、支払う手当や福利厚生の種類が非常に多いことや、その支払い元や最終負担先が日本本社であったり、現地法人であったりすることが特徴です。さらに、支給方法も本人口座への直接振り込みもあれば、サービスベンダーに会社が直接払う場合や本人が払う場合などもあり多岐にわたっています。日本国内で勤務を行っている場合と比べて、非常に複雑な状況になっているといえます。
日本の本社がグローバルな会計事務所の日本拠点と契約、そこから会計事務所のグローバルネットワークを使い、個人所得税の申告等を行うのが一番手間が少なく、かつ申告漏れも発生しにくくなります。外資系のグローバル企業では最も一般的な方式で、日本企業でもこの方式が増えつつあります。この方式ですと本社側でさまざまな情報を集約することができます。
この方式の場合、本社担当者は日本にいるコーディネーターとやり取りするだけでよく、本社担当者は申告に必要な書類をコーディネーターに渡せば、コーディネーターが各地の事務所に送付することになります(または指定された場所にデータを置く形もあります)。
申告や納税に関する不明点、赴任者からの質問があれば、その都度日本にいるコーディネーターに日本語で確認することが可能です。そのため、海外拠点数や赴任者数が増えても、本社担当者の手間は大きく変わらない点が特徴です。この方式を採用すると、管理も情報集約もしやすく、申告・納税漏れも生じにくい状況になります。
一元管理を行うメリットをまとめると次の通りです。
一元管理を行うメリット
<本社側のメリット>
① 赴任前
② 赴任中
③ 帰任後
<現地法人側のメリット>
<赴任者にとってのメリット>
全拠点を一元管理できる方式に一気に変更する場合、一時的にはさまざまな変化があり大変ですが、落ち着けばその後は非常にスムーズです。結果として一番合理的な方式と考えられます。一方、本社側で一元管理しないことにより生じる事例は次の通りです。
一元管理を行わない場合に起き得る事項
<赴任前>
<赴任中>
<帰任後>
一元管理体制がとられていないとさまざまなリスクが生じる可能性があります。一元管理をせずに、現地法人に委託するスタイルを継続される場合は、所得税申告が正しくなされているか、定期的にチェックすることをお勧めします。
海外出向者に関する税務問題について、出向者コストを本社負担した場合の寄附金リスクと同等に、重要で対応策を検討すべきは「赴任先国における個人所得税の申告・納税漏れのリスク」です。対応策はあるのでしょうか。
EYのピープル・アドバイザリー・サービスチームは、経営・事業戦略における人材アジェンダを実現する、言い換えれば、真の意味での適材適所(適した能力を持つ適材を適したコストで適所に配置し、適した活動に従事させること)を通じた競争力の獲得をサポートします。
EY行政書士法人(EYGH)は、EYのピープルアドバイザリーサービス(PAS)の一部門として、クライアントのグローバルモビリティ戦略とその実行・運用を支援する上で重要な役割を担います。