EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 松川 由紀子
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 浦田 千賀子
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
2025年3月期においては、四半期開示制度に変更がある他、改正法人税等会計基準等及びグローバル・ミニマム課税制度に係る実務対応報告46号が原則適用となります。
本稿では、これらを中心に25年3月期第1四半期決算に影響する会計基準を解説するとともに、年度の最初に迎える第1四半期決算で留意すべき検討ポイントについても解説します。
また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開始時期は<表1>の通りです。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
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23年11月に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)(以下、改正法)により、企業内容開示制度の見直しが行われ、24年4月1日以後に開始する四半期から四半期報告書制度は廃止されて、上場会社には半期報告書の提出が義務付けられることとなりました。そして、第1・第3四半期開示については、四半期決算短信に一本化することになりました。(<図1>参照)。
改正法により影響を受ける会社は以下の通りです。
* 3月期決算会社の24年4月以後開始する事業年度から、非上場企業の半期報告書においても、新半期報告書の選択適用が可能(改正法24条の5第1項及び附則3条1項)。なお、銀行等(特定事業会社)の半期報告書の制度(中間監査)に変更はない。
今回の四半期開示制度の主要な改正ポイントは以下の通りです。
第1・第3四半期については、四半期決算短信のみの開示に一本化されます。これを受け、四半期報告書で開示されていた事項のうち、投資者の要望が特に強い項目を四半期決算短信に追加し、開示が義務付けられることになりました。
第1・第3四半期に係る決算短信において、開示を義務付ける事項は、<図2>の通りです。従来の四半期決算短信から、サマリー情報に「レビューの有無」の記載を追加するとともに、添付資料の四半期財務諸表等において、「セグメント情報等の注記」及び「キャッシュ・フローに関する注記(任意に四半期キャッシュ・フロー計算書を開示する場合を除く)」を追加しています。
また、開示が義務付けられる事項以外についても、原則として、上場会社が投資者ニーズを適切に把握し、投資者ニーズのある事項に関して積極的に開示することが重要とされています。このため、会社情報適時開示ガイドブックにおいて投資判断に有用と考えられる情報を例示し、投資者ニーズに応じた自発的な開示を促すこととされました。この投資判断に有用と考えられる情報の具体例は<図2>をご参照ください。
なお、第2四半期については、法定開示が存続することから、従来の取扱いが維持されます。第1・第3四半期決算短信で追加が義務付けられた事項については、開示の義務付けはされていませんので、速報性と投資家のニーズを踏まえて各社で開示の要否を判断することになります。
*1 日本基準、IFRS、米国基準で取扱いに差は設けず一律義務付け。四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書は省略可
*2 決算説明資料など決算短信以外での開示を行うことも可。その場合、該当書類を参照すべき旨・参照方法を記載
出典: 株式会社東京証券取引所上場部 「四半期開示の見直しに関する実務の方針」、https://www.jpx.co.jp/news/1023/bkk2ed0000002ovx-att/bkk2ed0000002oz7.pdf (2023年11月26日アクセス)を基にEY作成
従来の四半期報告書においては、四半期財務諸表について会計監査人の四半期レビューが義務化されていましたが、第1・第3四半期の四半期報告書が廃止されることにより、法定の期中レビューは半期報告書のみとなります。
第1・第3四半期の決算短信に対する会計監査人のレビューは原則任意とされていますが、会計不正等により、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、会計監査人のレビューが義務となります。
改正法の適用は、24年4月1日以後に開始する四半期からとなります(改正法附則2条1項)。ただし、24年4月1日より前に開始した四半期会計期間については、従来通り、四半期報告書の提出が求められます。したがって、決算期によって四半期報告書が廃止され四半期決算短信に統一される時期、及び新たに定められた半期報告書の提出が求められる時期が異なるため、留意が必要です(<図3>参照)。
制度見直し後の半期報告書は、ASBJ所管の中間会計基準及び金融庁所管の開示に関する法令(財務諸表等規則関係)に基づき作成することになります。一方で、四半期決算短信については、取引所の有価証券上場規程に基づき作成されますが、その詳細については、現行の四半期会計基準を参照する形となりました(<図4>参照)。
第2四半期では、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表(以下、合わせて中間財務諸表)が開示されることになります。改正法適用前後の半期報告書制度をまとめたものが<図5>です。特定事業会社以外の上場会社等と、特定事業会社以外の非上場会社のうち、新半期報告書を提出することを選択した会社の中間財務諸表には、中間会計基準等が適用されます。
なお、(連結)財務諸表等規則においては、従前の四半期(連結)財務諸表は第1種中間(連結)財務諸表に、従前の中間(連結)財務諸表は第2種中間(連結)財務諸表に改正されています。
中間会計基準等の開発にあたっての基本的な方針として、中間財務諸表の記載内容が従前の第 2 四半期報告書と同程度の記載内容となるように、基本的に四半期会計基準及び四半期適用指針(以下、合わせて四半期会計基準等)の会計処理及び開示を引き継ぐこととしています。
また、期首から 6カ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とした場合と、四半期会計基準等に従った第1四半期決算を前提に第2四半期の会計処理を行った場合とで差異が生じる可能性がある項目((4)参照)については、改正後の金融商品取引法の成立日から施行日までの期間が短期間であることから、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じないよう従来の四半期での実務が継続して適用可能となる取扱いを定めています。
中間財務諸表の範囲は、中間財務諸表が従前の第2四半期報告書と同程度の記載内容を基本とすることを踏まえ、<表2>の通りとされています。
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中間財務諸表において期首から6カ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とすることに伴い差異が生じる可能性がある項目については、個別に検討が行われており、そのうち一部の項目については経過措置を定めています(<表3>参照)。
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中間会計基準等は、改正後の金融商品取引法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用されます(中間会計基準37項)。
なお、適用初年度においては、開示対象期間の中間財務諸表等について中間会計基準等を遡及適用することとされています(中間会計基準38項)。ただし、前述(4)に記載の経過措置により、四半期会計基準等での処理をそのまま継続することが可能となっていますので、前第2四半期(連結)累計期間と同一の会計処理を継続していれば、遡及適用の影響はないと考えられます。
一方で、従前の四半期財務諸表において採用していた会計方針と異なる会計方針を採用する場合、会計方針の変更には該当せずに新たに会計方針を採用することになると考えられますが、過去から同様の会計処理を採用していたものとして、比較情報も含めて、新たに中間財務諸表を作成することになると考えられます。
主な改正内容は以下の通り2点あり、それぞれについて解説します。なお、それぞれの改正内容について設例も踏まえて解説している情報センサー22年8月・9月合併号「株主資本又はその他の包括利益に対する課税及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いに関する改正案の解説」も併せてご確認ください。
その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、取引等)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等(以下、法人税等)が課される場合があります。
改正前の法人税等会計基準では、当事業年度の所得等に対する法人税等は取引等の発生源泉にかかわらず法令に従い算定した額が損益に計上されるため、その他の包括利益に計上する取引等に対応する法人税等も損益に計上されることになり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないという問題点が指摘されていました。
改正後の法人税等会計基準では、当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することとされました。なお、株主資本又はその他の包括利益に計上される取引等の例示は<表4>の通りです。
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税務上、内国法人が有する譲渡損益調整資産(有価証券等)を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています。繰り延べられた売却損益は、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたときに、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正前の税効果適用指針39項では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結財務諸表において以下の処理を行うこととされました。
個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられます。したがって、改正前の取扱いを見直さないこととされています。
この第1四半期決算から改正法人税等会計基準を適用する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として注記することになります(法人税等会計基準20-3項、税効果適用指針65-2項、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準10項)。
なお、改正法人税等会計基準の適用初年度においては、原則として、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用することとされています。ただし、法人税等の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができることとする経過的な取扱いが定められています(<表5>参照)。
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グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上することとされています。
なお、適用初年度における見積りについては、ASBJより補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する適用初年度の見積りについて」が公表されており、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例が示されています。
四半期財務諸表及び中間財務諸表においては、四半期財務諸表及び中間財務諸表の作成にあたって入手している情報は年度に比して限定的な情報であると考えられる等の理由から、前述(1)の定めにかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間並びに当中間連結会計期間及び当中間会計期間を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができるとされています。
この「当面の間」について、その具体的な期間は、ASBJが追加的な検討を行い、当該取扱いを改正するまでの間であることを想定しているとされています。
なお、四半期開示制度の改正により中間会計基準等が適用される場合には、「四半期財務諸表」は、「中間財務諸表」に読み替えられることになります。
グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表において固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされています。
連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することとされています。
また、連結財務諸表において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされています。この際、重要であるか否かは企業のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解するために有用であるかどうかを踏まえて判断することになると考えられるとされています。
個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、納税義務が生じる親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しませんが、連結損益計算書における表示区分と合わせ、税引前当期純利益の次に表示することとされています。
また、親会社等の所得(利益)に対する税とは区分することが適切であると考えられるため、次のいずれかの方法により表示することとされています。
なお、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができるとされています。この場合、当該金額の注記は要しないこととされています。
当四半期会計期間等及び当中間会計期間等において、四半期財務諸表及び中間財務諸表における当面の取扱い(前記1.(2))を適用するときは、適用している旨を四半期財務諸表及び中間財務諸表に注記することとされています。
ただし、四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めに関しては、適用初年度については当連結会計年度及び当事業年度においてグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が生じるかどうかの判断をすることは困難であると考えられることから、25年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。なお、四半期開示制度の改正により中間会計基準等が適用される場合には、「四半期財務諸表」は、「中間財務諸表」に読み替えられることになります。
24年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」が改正され、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする取扱いを継続することとされています。
ここでは、会計上留意すべき個別論点について、テーマごとに紹介します。新年度においては、第1四半期の期中レビューを受けないケースも想定されます。会計監査人のレビューを受けない場合においても、相互にコミュニケーションを図り、第2四半期以降に手戻りが生じないように留意する必要があります。
年度始めのタイミング(25年3月期の場合、24年4月1日)に、企業が企業内部の組織構造を変更することがあります。この時、組織構造の変更に対応して、セグメント区分の変更や減損処理におけるグルーピングの見直しなど会計的にも留意すべき論点が生じることがあります。
企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、セグメント会計基準)では、セグメント情報を開示する際の報告セグメントは、マネジメント・アプローチに基づき、一定の要件に該当する企業の構成単位(事業セグメント)を基礎として決定することとされています(セグメント会計基準10項、6項)。
企業によっては、年度始めのタイミングにおいて、組織構造の変更等や管理手法の変更がなされることがあります。このような場合、期首又は第1四半期において、組織構造の変更や管理手法の変更の有無や、変更がある場合には当該変更が報告セグメントの区分方法に影響するか否かを検討する必要があります。
また、関連する論点として、収益認識に関する注記における収益の分解情報について、各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を注記する必要があります。また、既存のセグメント情報におけるセグメントの区分が収益を分解する区分に適うと判断される場合には、収益の分解情報に関する注記を兼ねる場合もあります(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」80-11項、172項)。セグメントの区分方法を変更した場合には、収益認識に関する注記にも影響が及ぶ可能性があることに留意する必要があります。
「固定資産の減損に係る会計基準」(以下、減損会計基準)、企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、減損適用指針)では、固定資産の減損に係る資産のグルーピング(他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位)は、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮するとされています。また、当期に行われた資産のグルーピングは、事実関係が変化した場合を除き、翌期以降の会計期間においても同様に行うこととされています(減損会計基準二6.(1)、減損適用指針7項、9項、74項)。
企業によっては、年度始めのタイミングにおいて、組織構造の変更等に伴ってグルーピングの基礎となる事実関係が変化する場合があると考えられます。このため、期首又は第1四半期において、グルーピングの基礎となる事実関係の変化(例えば、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業の種類別セグメント情報におけるセグメンテーションの方法等の変更等)が生じていないか、また、生じている場合には独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位(グルーピング)が変化しているか否かを検討する必要があります。
一部の会計上の判断については、期首又は第1四半期に行うべきと考えられるものや、期中の会計上の判断が期首から影響することとされているものがあり、注意が必要です。
企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」9項では、「四半期連結財務諸表の作成のために採用する会計方針は、四半期特有の会計処理を除き、原則として年度の連結財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければならない。ただし、当該四半期連結財務諸表の開示対象期間に係る企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができる」とされています。このため、第2四半期以降における自発的な会計方針の変更は、当該四半期会計期間において発生した特殊の事情、例えば直前の四半期会計期間の末日までには考慮する必要がなかったが、当該四半期会計期間に至って考慮せざるを得ない状況が発生した場合等に限って認められるとされています。
このように、会計方針の変更には正当な理由が求められるとともに、会計方針の変更の適時性や、事業年度を通じた首尾一貫性も求められています。したがって、事業年度において自発的な会計方針の変更を行うのであれば、第1四半期において実施すべきであることに留意する必要があります。
企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」25項、31項において、長期期待運用収益率は、年金資産が退職給付の支払に充てられるまでの時期、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針及び市場の動向等を考慮して設定することとされ、当期損益に重要な影響があると認められる場合を除き、見直さないことができるとされています。
長期期待運用収益率については、見直しの時期に関する明確な定めはありません。しかし、期待運用収益が期首の年金資産の額に長期期待運用収益率を乗じて計算されることから、原則として期首に見直しを行うものと考えられます。なお、長期期待運用収益率の見直しに際しては、過去の運用実績等を参考にすることが考えられますが、年金資産が将来の退職給付の支払に充てるために積み立てられ、長期的に運用されている点を踏まえ決定することが必要と考えられます。
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(以下、連結会計基準)において、子会社のうち重要性の乏しいものについては、連結の範囲に含めないことができるとされています(連結会計基準(注3)。当該重要性の判断については、連結会計年度ごとに検討する必要があると考えられます(会計制度委員会研究報告第14号「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(以下、比較情報研究報告)Q4)。
このため、第1四半期においては、非連結としている子会社の年度を通じた重要性の見込みを確認し、重要性が高まるような非連結子会社については第1四半期から連結することを検討する必要があります。
なお、期首における重要性の判断は適切であったが、期の途中に業績が大きく変動するなどの限定的な状況において、非連結子会社として取り扱っていた子会社を期の途中から連結子会社として取り扱う場合があります。このような場合、連結範囲の変更は会計方針の変更に該当しないことから、比較情報は修正しないものの、当該子会社に対する支配は期首から継続しており、年度末の連結財務諸表においては当該子会社の財務諸表が連結の範囲に含まれることから、当該子会社の期首からの損益を連結財務諸表に取り込むこととなります(比較情報研究報告Q4)。
連結会計基準において、「子会社の決算日が連結決算日と異なる場合には、子会社は、連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行うこととされている。ただし、子会社の決算日と連結決算日の差異が3か月を超えない場合には、子会社の正規の決算を基礎として連結決算を行うことができる」(連結会計基準16項、(注4))とされています。
上記の基準の通り、子会社について期ズレ決算を連結財務諸表に取り込むことが認められてはいますが、決算日の統一などの理由から、子会社の決算日の変更を行う場合があります。このような場合には、決算日の変更は会計方針の変更に該当しないことから比較情報は修正しないものの、四半期報告制度や次年度以降の比較情報の有用性の観点から、会計方針の変更の取扱いに準じて、やむを得ない場合(期中に期ズレの子会社を取得した場合等)を除き、親会社の第1四半期決算から変更を行うことが適当と考えられます(比較情報研究報告Q6)。
このため、仮に子会社の決算日の変更を行う場合には期首からの変更となるように段取りを行う必要があると考えられます。
期首又は第1四半期決算においては、特に、直近の年度末決算における会計処理のフォローアップに留意する必要があります。特に継続的に検討をしている会計論点のある場合、期首又は第1四半期においての初動が肝要となります。例えば、市場価格のないその他有価証券(株式)の評価が挙げられます。
企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」21項では、「市場価格のない株式等については、発行会社の財政状態に悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない」とされています。さらに、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」92項では、「このとき、財政状態の悪化の判断の基礎とする財務諸表は、決算日までに入手し得る直近のものを使用すること」とされています。
3月決算のその他有価証券(株式)の評価において、投資先が非上場会社であり、同様に3月決算である場合には、直近年度末決算ではやむを得ず投資先の年度財務諸表を入手できないことがあります。このような場合、第1四半期において、投資先の年度末財務諸表を入手し、入手した投資先の年度末財務諸表に基づき、当該投資先に係るその他有価証券の減損要否を検討する必要があります。
なお、入手した直近の財務諸表の決算日後に、財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していればその事項も加味する必要がある点はご留意ください。
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