情報センサー

法人が支払う定期保険料等の税務上の取扱い


情報センサー2022年2月号 押さえておきたい会計・税務・法律


公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

法人が、自己を契約者とし、役員または使用人を被保険者とする生命保険契約等に加入して保険料を支出することが広く行われています。

このうち、法人が支払う定期保険(一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険)の保険料の額は、期間の経過に応じて損金の額に算入するというのが基本的な考え方です。

しかし、定期保険のうち保険期間が長期にわたるものや保険期間中に保険金額が逓増するもの、がん保険などのいわゆる第三分野保険では、保険期間の前半に支払う保険料に多額の前払保険料が含まれており、支払保険料を原則どおりに損金算入するのは問題があります。

そこで、国税庁では、定期保険に係る保険料について法人税基本通達9-3-5で取扱いを定めているほか、随時個別通達を発遣して対応してきましたが、個別通達の発遣から相当期間が経過したこと、個別通達に該当するか否かで類似商品の取扱いに差異が生じていること、などの理由から取扱いのルールを見直し、定期保険及び第三分野保険の保険料に関する取扱いを統一する目的で、令和元年6月28日付で定期保険及び第三分野保険を対象とした通達改正を行いました。

この改正後の通達は、令和元年7月8日(一定のものについては同年10月8日)以後の契約について適用され、同日前に契約したものについては引き続き改正前の通達が適用されるため、多くの法人では、改正前の通達が適用される契約と改正後の通達が適用される契約が混在することとなり、契約ごとに管理していく必要があります。

そこで、本稿では、法人が自己を契約者とし、役員または使用人を被保険者として定期保険等に加入して保険料を支払う場合の取扱いについて、概要を解説します。

ここで取り扱う通達等は下表のとおりとし、契約の転換・払済保険への変更、特約を付した場合などの取扱いについては割愛します。このほか、法人が、役員を被保険者として加入する保険の関連項目として、会社役員賠償責任保険の取扱いについても触れることとします。

表

Ⅱ 令和元年通達改正前の取扱い

1. 定期保険に係る保険料

法人が、自己を契約者とし、役員または使用人(これらの者の親族を含む)を被保険者とする定期保険に加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額は、死亡保険金の受取人の区分に応じ、次のように取り扱われます。

表

以下、本稿では給与とされないことを前提として解説します。

2. 個別通達等による取扱い

(1) 長期平準定期保険等

法人が、長期平準定期保険等に加入してその保険料を支払った場合には、前払期間中においては支払保険料のうち1/2〜3/4を資産計上し、前払期間経過後の期間において、その資産計上した累積額を期間経過に応じて取り崩して損金算入します。

① 長期平準定期保険

下記イ、ロの要件を満たす定期保険をいい、下記②に該当するものを除きます。

イ 保険期間満了時の被保険者の年齢 > 70歳

ロ 加入時年齢+保険期間 × 2倍 > 105

長期平準定期保険に係る前払期間及び資産計上額は次のとおりです。

表
② 逓増定期保険

下記イ、ロの要件を満たす定期保険をいいます。

イ 保険期間の経過により保険金額が5倍までの範囲で増加

ロ 保険期間満了時の被保険者の年齢 > 45歳

逓増定期保険に係る前払期間及び資産計上額は次のとおりです。

表

なお、保険期間の全部または数年分の保険料をまとめて支払った場合には、いったんその保険料の全部を前払金として資産に計上し、期間経過に応じて上記①②の処理をします。

(2) 終身保障タイプの医療保険、がん保険

法人が、終身保障タイプの医療保険またはがん保険に加入してその保険料を支払った場合には、次のように取り扱います。

① 医療保険

イ 終身払込の場合

払込の都度、損金算入します。

ロ 有期払込の場合

保険料払込満了までは下表のように一定額を資産計上し、保険料払込満了後に取り崩して損金算入します。

表
② がん保険

法人が終身保障タイプのがん保険に加入してその保険料を支払った場合には、平成24年4月26日以前に契約したものについては上記①と同様に取り扱い、平成24年4月27日以後に契約したものについては次のように取り扱います。

イ 保険契約の解約等において払戻金のないもの(有期払込で、払込期間終了後の解約等においてごく少額の払戻金がある契約を含む)

払込の都度、損金算入します。

ロ 上記イに該当しないもの

加入時から105歳までの期間を計算上の保険期間として、次のように取り扱います。

i 終身払込の場合

表

ⅱ 有期払込の場合(一時払を含む)

保険期間と保険料払込期間から当期分保険料を求め、前払期間と保険料払込期間に応じて取扱いが定められていますが、ここでは、前払期間中に保険料払込期間が終了するケースについて<具体例>で説明します。

<具体例>年間保険料10万円、払込期間10年、加入時年齢55歳

(3) 介護費用保険

法人等が、介護費用保険に加入してその保険料を支払った場合には、次のように取り扱います。

表

(4) 新成人病保険

法人が、新成人病保険に加入してその保険料を支払った場合には、その払込の都度損金の額に算入されます。

(5) 長期傷害保険(終身保障タイプ)

法人が、長期傷害保険(終身保障タイプ)に加入してその保険料を支払った場合には、次のように取り扱います。

表

Ⅲ 令和元年通達改正後の取扱い

令和元年6月28日付の通達改正により、定期保険及び第三分野保険の保険料に関する取扱いは、法人税基本通達9-3-5及び9-3-5の2に集約され、前述Ⅱ2.の個別通達等は廃止されています。

なお、第三分野保険とは、保険業法第3条第4項第2号に掲げる保険(これに類するものを含む)をいい、例えば、傷害保険、疾病保険、がん保険、医療保険、介護保険などが該当します。

法人が、自己を契約者とし、役員または使用人(これらの者の親族を含む)を被保険者とする定期保険または第三分野保険に加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額は、①保険期間が3年以上、かつ、②最高解約返戻率が50%を超えるものについては法基通9-3-5の2により、保険期間が3年未満または最高解約返戻率が50%以下のものについては法基通9-3-5により、それぞれ取り扱われます。なお、保険期間が終身である第三分野保険については、保険期間の開始の日から被保険者の年齢が116歳に達する日までが計算上の保険期間とされます。

表

1. 定期保険及び第三分野保険に係る保険料(法基通9-3-5)

支払った保険料の額は、法基通9-3-5の2の適用を受けるものを除き、保険金または給付金の受取人の区分に応じ、次のように取り扱われます。

表

以下、本稿では給与とされないことを前提として解説します。

2. 定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い(法基通9-3-5の2)

支払った保険料の額は、最高解約返戻率(保険期間を通じて解約返戻率が最も高い割合となる期間におけるその割合)の多寡に応じて<表1>のように取り扱われます。

表1
表2

保険期間とは、保険契約に定められている契約日から満了日までをいい、当該保険期間の開始の日以後1年ごとに区分した各期間で構成されているものとされます。

次に、当期分支払保険料の額とは、その支払った保険料の額のうちその事業年度に対応する部分の金額をいい、前納制度や短期払などにより一定期間分の保険料の額の前払をした場合には、その全額を資産に計上し、そのうちその事業年度に対応する部分の金額が、当期分支払保険料の額とされます。

また、保険料を年払としている場合に、法人税基本通達2-2-14によりその年払保険料の額を継続して支払事業年度の支払保険料の額としているときは、その金額を当期分支払保険料として取り扱うことができます(<図解>【具体例①②】参照)。

<図解>保険期間及び当期分支払保険料の関係
<具体例1>当期分支払保険料100万円、保険期間20年、最高解約返戻率80%
<具体例2>当期分支払保険料100万円、保険期間20年、最高解約返戻率12年目90%、「III 1. <表1>※2」の割合が70%超となる期間及び解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間15年目

IV 新旧通達の適用関係

令和元年改正通達は、下記の日以後に契約したものについて適用されます。

表

なお、適用日前の契約につき、適用日以後に契約内容の変更があった場合でも、改正前の取扱いによることとされ、改正後の取扱いは適用されません(FAQ[Q13])。

一方、適用日前の契約につき、契約の転換、払済保険への変更、契約の更新などを行った場合には、新たな契約に切り替えるものとして、改正後の取扱いによることとなります。ただし、保障内容に変更のない自動更新については、契約者にとって新たに保険に加入したとの認識もないため、改正前の取扱いによって差し支えないこととされています(FAQ[Q14])。

V 会社役員賠償責任保険

ここまで解説してきた定期保険または第三分野保険のほかに、会社が役員を被保険者として加入する保険として、会社役員賠償責任保険(D&O保険)が挙げられます。
会社が加入する保険につき、保険金の受取人を役員または特定の使用人のみとした場合、会社が負担する保険料の額は原則として給与とされます(上記Ⅲ1.<表1>※2参照)。

しかし、会社法第430の3の規定に基づき、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によりD&O保険の保険料を負担した場合には、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はないこととされています(令2.9.30経済産業省・国税庁「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」)。

 

(注) 文中、法令条文等は、一部、以下のとおり略して記載しています。
    法基通:法人税基本通達


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