EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
国際会計基準審議会(以下「IASB」又は「審議会」)は2017年6月20日に公開草案(ED)「有形固定資産―意図した使用の前の収入」(IAS第16号の改訂案)を公表した。当EDは、経営者が意図した方法で資産を稼働可能にするために必要な場所及び状態に置くまでの間に生産された項目の売却から生じる収入を、有形固定資産項目の取得原価から控除することを禁止すべく、IAS第16号「有形固定資産」の改訂が提案されていた。つまり、そのような収入は純損益に認識される。利害関係者に対するアウトリーチを実施する前に当EDに関して非常に多くのコメントがIASBに寄せられた。
2018年11月、IASBは以下に関し、寄せられたコメントに対処するために改訂案をさらに修正しつつ改訂案の最終基準化を進めていくことを暫定決定した。
改訂案はまだ発効していないので、企業は既存の基準を引き続き適用しなければならない。IASBは今後、改訂内容を審議することを予定している。
経営者が意図した方法で資産を稼働可能にするために必要な場所及び状態に置く過程のなかで、収益が稼得されるケースもある。そうした状況は、鉱業及び石油・ガス産業で一般的にみられる。
IAS第16号では、有形固定資産項目を意図した場所及び状態に置くまでの間に生産された項目を売却することで生じる正味の収入を、有形固定資産項目の取得原価に含めなければならないと定められている。つまり、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要となる場所及び状態に項目を置くために要求されない付随的な稼働から収益が稼得される場合、すでにIAS第16号では、当該収益及び関連する費用を純損益に計上しなければならないと定められている。
2017年6月に公表されたEDは、有形固定資産の意図した使用が可能になる前に生産された項目の売却から生じる収益は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(IFRS第15号)に従って純損益で会計処理され開示されるように、資産を意図した場所及び状態に置くまでの間に生じた正味の収入の処理を変更することを提案していた。
当EDに対し72通のコメント・レターがIASBに寄せられた。さらにIFRS解釈指針委員会が、コメント・レターで指摘された問題点の理解を深めるために利害関係者とのアウトリーチを実施した。IASBは2018年11月の会議で、スタッフの提案を検討し、有形固定資産の意図した使用が可能になる前に生産された項目の売却により生じた収入に関連する原価を純損益に認識することを要求する改訂案を提案した。
コメント提供者からの主な懸念点は、以下の通りである。
コメント提供者は、有形固定資産の意図した利用が可能になる前に生産された項目の売却により生じる収入及びその関連する原価を純損益に認識することを定める規定で、財務諸表利用者に予測価値がもたらされるのか、異議を唱えた。その背景として、テスト段階の生産水準は、資産の意図した利用が可能になる時点で期待される生産水準を反映するものではないためである。さらに、この期間に発生する原価には減価償却費は含まれない。
IASBは、このような収入の認識が概念フレームワーク(2010年版)の収益の定義を満たすのかを検討した。さらに、現行のアプローチで報告される資産のパフォーマンスは、テスト段階における有形固定資産への貸方計上により資産の帳簿価額が減少することによって、発生原価が減少することになるため、資産の耐用年数全体を通じて誤解を生じさせることにならないかを検討した。
しかし、IASBは、収入及び関連する原価の価値を利用者が識別できるように、開示規定を改善することはできると考えた。
当EDに含まれる改訂案は、資産の意図した使用が可能になる前に生産された数量に関連する原価を、財務諸表作成者が別個に識別することを要求した。コメント提供者は、これにより実務上の課題が増加し、判断の必要性が増えるとともに実務上のばらつきが増加すると指摘した。IASBの一部メンバーは、大手企業に関して当該要求により追加負担が生じる範囲について疑問を呈したが、IASBは、この点に関する改訂案のさらなる修正の必要性を検討していくということで一致した。修正の目的は、有形資産項目が経営者の意図した方法で稼働可能になる前に販売された項目の原価をどのように識別すべきかを明確化することである。
当EDに対する数多くのコメント提供者が、有形資産項目がいつの時点で利用可能になるのかに関する規定の明確化は、改訂案を通じてIASBが対処しようとする問題点を解決するのに不可欠であると述べ、既存のIAS第16号20項の規定は、経営者が意図した資産の稼働が可能になる点に関し、技術的な側面から検討しなければならないのか、それとも財務面から検討しなければならないのか、明確ではないと指摘した。
IASBは、資産がいつの時点で利用可能となるのかに関する既存のガイダンスの修正は、本プロジェクトの範囲を逸脱すると考えた。
IASBは2018年11月の会議で審議を行い、当EDで提案されたIAS第16号の改訂作業を進めることとし、その一方で、以下の点に関して、寄せられたコメントに対処するための追加的な修正を行うことでも一致した。
本改訂の発効日は今後決定されることになるが、表示されている最も古い期間の期首時点から将来に向けて改訂案の修正が適用されることになるのかも不明である。IASBは、今後、改訂内容を審議することを予定している。
当EDに寄せられた利害関係者のフィードバックの内容及びその範囲からIAS第16号の改訂案が如何に重要かが窺える。
改訂案により収益の認識方法の一貫性が確保される可能性がある。すなわち、収益の獲得時期に関係なく、すべての収益が純損益に認識されることになる。しかし、収入に関連して生じる原価の算定に関する改訂案で、実務上のばらつきが十分に減少し、一貫性が改善されるかどうかは明確ではない。また、追加的な開示及び表示規定で、その他の懸念が解消されるかどうかも明確ではない。
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