欧州委員会、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則を簡素化するためのオムニバスパッケージ法案を発表


  • EUは「競争力コンパス(Competitiveness Compass)」において競争力強化および経済的繁栄に向けた指針を示しており、ロードマップの一環として規則の簡素化を検討している。2月26日に発表されたオムニバスパッケージ第1弾から始まり、サステナビリティに関する規則に焦点を当てている。
  • 炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する変更案の1つに、新たな適用除外基準の導入がある。
  • 影響を受ける企業、または予測される範囲の拡大によって今後影響を受ける可能性のある企業は、引き続き動向を注視し、必要に応じて対策を講じることが重要となる。
  • オムニバスパッケージの詳細については、2025年4月9日に開催のウェブキャスト(英語のみ)にぜひご参加ください。


エグゼクティブサマリー

2025年2月26日、欧州委員会は、サステナビリティに関する規則に焦点を当てた2つのオムニバス簡素化パッケージ法案(オムニバスパッケージ第1弾および第2弾)を発表しました。このパッケージは、費用対効果の高い政策導入のため、欧州連合(EU)の規則を調整することを目的としています。当該パッケージにより、欧州委員会の本任期終了までに管理上の負担を25%、中小企業の負担を35%削減することを目指しています。

オムニバスパッケージ第1弾は、サステナビリティトランジションの推進に向けて規制の重複または不均衡を是正し、EU企業の競争力を強化して、EUの投資プログラムを簡素化することを意図としています。

オムニバスパッケージ第1弾には、以下に対する修正が含まれます。

  • 企業サステナビリティ報告指令(CSRD)
  • 企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)
  • タクソノミー
  • 炭素国境調整メカニズム(CBAM)

本パッケージ法案が定められたとおりに適用および導入された場合、慎重に見積もったとしても年間約63億ユーロの管理コストの削減が見込まれ、政策の優先事項を支えるための公共および民間投資能力として500億ユーロを追加で動員することが可能になると試算されます。

また、欧州委員会は2月26日、脱炭素化を加速させながらEU産業の競争力とレジリエンスの強化を目指す、クリーン産業ディールという戦略プランを発表しました。このイニシアチブは、脱炭素化を成長の推進力として位置付け、高いエネルギーコストやグローバル競争の課題に対処するものです。主な対策としては、クリーンな製造への1,000億ユーロを超える資金の投入、EU製品の需要喚起、重要な原材料の確保が含まれます。また、本ディールは、循環性や労働力の育成に重点を置き、欧州が持続可能な産業革新の分野でリーダーとしての地位を保つことを目的としています。

本税務ニュースでは、CBAM規則に関して提案のあった変更案につき、その概要をお伝えします。


背景

EUは、成長を促進するために、過度な規制による負担を軽減することで良好なビジネス環境を整える必要に迫られています。これにより、企業およびその事業規模の拡大、質の高い雇用の創出、投資誘致や、再確認された欧州グリーンディールの目的に沿った持続可能な移行のための資金確保が可能となります。最近発表された「競争力コンパス」では、ドラギレポート「欧州の競争力の未来」における提言を受け、EUの競争力強化および経済的繁栄の展望が概略されています(2025年2月12日付EY Global Tax Alert「EY Global Sustainability Tax Policy Developments January 2025 update」〈英語のみ〉参照)。

これらの目標を達成するため、同コンパスには、以下の3つの柱に基づくいくつかのイニシアチブが含まれています。

(1)イノベーションギャップの解消
(2)脱炭素化と競争力強化の共同ロードマップ
(3)域外依存の軽減と安全保障の強化


オムニバスパッケージ第1弾におけるCBAM

欧州委員会は、CBAMはEUの経済的価値を保護し、カーボンリーケージを回避するための基礎となる不可欠な措置であると強調しました。非常に多くの関係者を通じて、EUは、少量のCBAM対象製品を輸入する輸入者の管理上の負担を軽減する必要性を認識しています。

変更案の中で最も重要な内容は、新たなCBAMの適用除外基準(CBAM de minimis threshold)の導入であるといえます。これは、排出量に対する現在の過度な管理コストに対処することを目的としています。新たに提案された基準により、現在のCBAM対象製品の輸入者のうち、90%がこれまでの義務から免除されることになります。欧州委員会プレスリリースによると、約18.2万人に及ぶ輸入者の義務が免除されます。なお、当該変更の要点として、引き続き義務を負う輸入者によるCBAM対象製品のEUへの輸入は、CBAM規則が対象とする体化排出量の約99%をカバーできると考えられています。

ただし、今後CBAMに係る有効性評価レビューが予定されており、一部の輸入者は再び当該義務の対象となる可能性があることには留意が必要です。想定される変更としては、現在の製品カテゴリ(EU ETS:EU排出量取引制度の対象となるもの)の下流製品への拡大、製品カテゴリの増加が挙げられます。


CBAM規則修正案で提案された主な変更点

  • CBAM適用除外基準:EU域内へのCBAM製品の輸入が年間50トンまでの場合、CBAMの義務が免除されます。ただし、電力および水素は、この対象となりません。この基準値は継続的に見直され、調整される予定です。
  • タイムライン:2026年のCBAM製品輸入について証書を購入する義務は、2027年2月まで延期されます。
  • 引き続き義務の対象となる輸入者による報告の簡素化:
    • 年次申告書の提出日:CBAM申告書の提出期限は、翌年の5月31日から8月31日に延期されます。
    • 認可CBAM申告者:CBAMの義務の対象となる輸入者(年間50トンを超えるCBAM製品の輸入者)のみが、CBAM対象製品をEU域内で自由に流通させるために認可CBAM申告者となる必要があります。
    • CBAM申告書の提出:認可CBAM申告者は、有資格者または第三者に提出を委任することができます。ただし、申告に係る法的責任は引き続き輸入者に帰属するものとされます。
    • CBAM証書の要件:四半期ごとにCBAM証書が必要とされる排出量の要件は、体化排出量の80%から50%に削減されます。さらに、認可CBAM申告者は、同一の製品および第三国について、前年に提出したCBAM申告書の情報を利用することができます。
    • CBAM証書の買い戻し:暦年中に購入したもののCBAM証書が余剰となった場合において、当局による買い戻しを受けられる証書の数は、当該暦年の間においてCBAM上のコンプライアンス義務を果たすために必要なCBAM証書の合計数に制限されます。
    • 第三国で支払われた炭素価格のデフォルト値:第三国で支払われた炭素価格のデフォルト値または実際の価格は、必要となる証書の数から差し引くことができます。簡素化のため、実際に支払われた炭素価格に関する情報が入手できない場合であって当該炭素価格がCBAMの制度上も関連性する場合、当該控除のためにEUは特定の国で支払われた炭素価格のデフォルト値を提供します。
  • CBAM登録簿へのアクセス:認定検証者およびCBAM認可申告者の親会社は、関連データの登録や共有のためにCBAM登録簿にアクセスすることができます。
  • CBAM対象製品からの除外:非焼成のカオリン系粘土は、CBAM対象製品から除外されます。
  • CBAM排出量計算のシステム境界:下流製品のアルミニウムや鉄鋼製品の一定の最終工程は、EU排出量取引システムの計算方法により整合したものとなるように、排出量計算のシステム境界から除外されます。
  • 電力の体化排出量:電力の輸入については、CBAM体化排出量の計算において二酸化炭素のみが考慮されます。
  • ペナルティ:当局は、申告者の故意または過失による行為など、具体的な状況を考慮した上で、軽微または意図しないエラーの場合は罰金の減額を適用することが可能となります。
  • 迂回行為:輸入の人為的な分割は迂回行為(正当な商業上の理由や経済的な実態を反映しない正当性に欠ける慣行や取り決め、または一連の行為)とみなされます。
  • モニタリング、迂回行為の特定および執行:濫用防止規定が強化され、各EU加盟国の当局と共同で迂回行為の防止に係る戦略が策定されるため、よりCBAM規則が効果的に適用されます。


次のステップ‐タイムライン

提案された法案は3つのEU機関(欧州委員会、欧州議会、欧州理事会)による三者協議で協議および交渉がなされるため、CBAMを含むオムニバスパッケージの修正案は今後変更される可能性があります。最終的な規則が合意および公表される具体的なタイムラインは未定となっていますが、政治的環境や経済的環境を考慮すると当該プロセスは迅速に進むことが予想されます。

特に2025年は、CBAM関連の規制について、さらに(少なくとも)9つの実施法令および委任法令に係る野心的な作業計画があります。オムニバス簡素化パッケージの交渉が、過去に欧州委員会から通知されたCBAMに関する保留中の実施法令および委任法令の公表スケジュールにどのような影響を及ぼすかの見通しは不明となっていることから、当該タイムラインについても適時かつ的確な情報収集が求められます。

また、提案されたオムニバス簡素化パッケージは、2025年に予定されているCBAMの有効性評価レビューに先立つものです。このレビューでは、今後の(1)CBAMを他の製品カテゴリに拡大する可能性、(2)下流製品の追加、および(3)輸出者を支援する措置が検討されます。報告書は2025年第3四半期に発表される見込みであり、CBAMの対象範囲を拡大する新たな法案が2026年初頭に予定されています。

留意すべき事項として、上記の変更点が法律に反映されるまで、現在のCBAM規則が引き続き適用されるとの点があります。このことから、50ユーロを超える製品を含む貨物のCBAM製品の輸入については、引き続き四半期ごとのCBAMの報告義務が適用されます。


企業への潜在的な影響

EUの方針に基づき、現在CBAMの対象となっている輸入者の大部分は、年間で50トン以上のCBAM対象製品を輸入しない限りにおいて、近い将来CBAM上の義務から免除されます。現実的な最初のステップとして、輸入者は、自らがこの基準を満たしているかどうかを判断する必要があります。

将来の事業計画は、現在CBAM規則のターゲットとなっている企業だけでなく、全ての企業にとって引き続き重要なものであると考えられます。本年度に予定されている有効性評価レビューの一環として、CBAMの対象製品に下流製品やその他の製品カテゴリが追加され、範囲が拡大することが予測されており、これによってさらに多くの企業がCBAM義務の対象となり得ます。

炭素価格の規制は企業の戦略的ポジショニングに影響を与える可能性があります。輸入製品やEUで製造された製品の炭素集約度は重要なコスト要因となるものの、排出量が低い製品の場合は競争上の優位性をもたらします。言い換えれば、規制緩和が進むトレンドにおいて、CBAMおよび炭素価格の規制はサプライチェーンやビジネスモデル、炭素集約型の製造プロセスに混乱を来す恐れがある一方、炭素集約的でない製品およびサービスにとっては重要な競争機会につながることも予想されます。

そのため、CBAMを単体として考慮するのではなく、急速に進化するEUの規制環境(EU ETS、EU ETS II、エネルギー課税指令、メタン規則)におけるバリューストリームを踏まえ、有機的に分析を行うことが重要です。CBAMは、EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)とも関連しているため、CBAMまたは炭素価格に関連して大きな影響を受ける企業は、当該影響範囲についてCSRD上の報告対象となる可能性もあることを視野に入れる必要があるでしょう。

CBAMおよび炭素価格をめぐる状況が流動的である中、企業にとっては当該措置による影響の変化を見据え、客観的かつ定量化可能なデータに基づくビジネスモデル、サプライチェーン、長期的な調達判断、投資判断およびコーポレートバリューなど各方面の影響評価・検討を行うことが肝要となります。これにより、企業はより良い将来の計画を立て、適切なタイミングでコスト軽減の対策を取ることができるようになるでしょう。現時点では、多くの企業は炭素価格の増加によって予測される規制コストの分析を行っていないことからも、いち早くCBAMおよび炭素価格の観点からのプランニングを開始することが推奨されます。

実務上は立法環境の急速な変化もあり、影響を受けると見込まれる企業にとってCBAMは引き続き大きな課題となります。EU CBAM規則の修正は継続的に行われることが予想されるため、今後も動向を注視する必要があります。さらに、引き続き多くの国や地域(例:英国、ノルウェー、オーストラリア)においてもCBAMと同様の独自の措置を検討し、導入している点も踏まえ、CBAMおよび炭素価格に関するアップデートには常に意識を向ける必要があるでしょう。


お問い合わせ先

EY税理士法人

上田 理恵子 パートナー
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岡田 力 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです