日本版CARFの導入および日本版CRSの改正と関連当局の動向

I. 令和6年度税制改正の大綱の公表:日本版CARFの導入および日本版CRSの改正

2023年12月22日、令和6年度税制改正の大綱において、「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度(以下「日本版CARF」)の整備」と「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(以下「日本版CRS」)等の見直し」が行われることとされました。これらの改正は、2027年に初回の情報交換を実施することを想定し、2026年1月1日に施行予定とされています。

本税制改正に向けた動きは、経済協力開発機構(OECD)が策定した自動的情報交換に係る暗号資産等報告枠組み(Crypto-Asset Reporting Framework : 以下「OECD-CARF」)および改正共通報告基準(Amendments to the Common Reporting Standard : 以下「改正OECD-CRS」)の実施に基づくものです。

2023年11月10日、これに賛同する日本を含む48カ国・地域は、「暗号資産等報告枠組みの実施に向けた共同声明」を発表し、自国の法整備を進め、2027年までに両制度に基づく初回の情報交換を実施することを表明しています。

(OECD-CARFおよび改正OECD-CRSの概要については、こちらからご覧ください。)

(1)日本版CARFの導入

暗号資産交換業者、電子決済手段等取引業者(電子決済手段を発行する者を含む)等の「報告暗号資産交換業者等」は、日本版CRSと同様に、暗号資産等取引を行う者(顧客)に対する、税法上の居住地国等の特定・報告手続きの実施が必要となる予定であり、法の施行予定日である2026年1月1日までに、これを適時・適切に遂行するための遵守態勢の整備が求められることになります。

≪日本版CARFの概要≫


対応事項


概要

対象となる資産・取引の特定

  • 捕捉すべき対象暗号資産等および当該資産に関する取引(暗号資産等の売買、交換、これらの行為の媒介、移転又は受入れ等)の洗い出し・特定

暗号資産等取引を行う者(顧客)の居住地国の判定および継続管理

  • 暗号資産等取引を行う者(顧客)から「届出書」を取得することを通じて、税法上の居住地国を特定
  • 当該「届出書」の取得を通じた税法上の居住地国の特定は、2026年1月1日以後、新規に対象取引を行う者のみならず、2025年12月31日以前に行われた既存の取引に対しても実施
  • 海外転居等、顧客の税法上のステータスの変更についても、継続的に捕捉・管理

対象契約の税務当局宛て情報提供

  • 顧客確認手続きの結果、報告対象者とされた者が保有する対象契約について、毎年12月31日を基準日として翌年4月30日までに、税務当局宛てに所定の情報(暗号資産等の売買の対価の額、総数量および件数等)の報告

実施手続の記録・保存

  • 顧客確認や税務当局宛て報告等、実施した手続き等の詳細を、所定の期間、記録・保存
(2)日本版CRSの改正

日本版CARFの導入に伴い、これと連携・平仄を取る形、さらには、従前の制度を厳格化する形で、従来の日本版CRSについても、以下のとおり改正が行われる予定です。

既存の「報告金融機関等」においても、改正法の施行予定日である2026年1月1日までに、これを適時・適切に遂行するための遵守態勢の見直し・整備が求められることになります。


影響が想定される対応項目


改正が予定されている主な事項


遵守対象金融機関の範囲および捕捉対象資産・取引の追加










 

  • 特定電子マネー商品の捕捉を目的として
    • 「報告金融機関等」の範囲に、「電子決済手段等取引業者」および「特定電子決済手段等を発行する者」を追加
    • 「特定取引」の範囲に、「一定の特定電子決済手段等の管理に係る契約/その発行による為替取引に係る契約の締結」を追加
  • 「特定取引」の範囲に、「暗号資産、電子決済手段又は電子記録移転有価証券表示権利等の預託に係る契約の締結」が追加され、「金銭又は有価証券の預託に係る契約の締結」の「預託」の対象範囲が拡大

顧客確認手続きの変更
 

  • 二重居住者に係る振分け規定の適用の撤廃
  • 外国納税者番号等、追加情報取得義務の強化
  • 捕捉対象資産・取引等の追加に伴う、法人顧客の区分・判定基準の見直しなど

税務当局宛て報告事項の追加





 

  • 報告事項として、以下の項目を追加
    • 署名を含む法定記載事項の漏れなき記入等の要件の全てを満たす新規届出書等の提出の有無
    • 特定法人とその実質的支配者との関係
    • 新規/既存特定取引の別など

II. 関連当局等の動向:OECDによるAEOI/CRSピアレビューの動向について

  • 2022年11月、OECDは、1巡目のAEOI/CRS遵守態勢に係るピアレビューの結果レポートを公表しました。当該レポートにおいて、日本が指摘された事項等(下表参照)については、以降、改善に向けた各種施策が、国税庁から展開されている状況です。
  • 今般、OECDでは、2巡目のレビューを開始。今回のレビューでは、オンサイトインタビューを含む、より詳細な調査が行われる予定であり、今後、国税庁による検査を含む監督が、さらに強化される可能性もあり、留意が必要です。
  • なお、2巡目のレビューの評価結果は、2025年に公表される予定となっています。

≪1巡目のOECD-AEOI/CRSピアレビューにおける日本への指摘等≫

III. おわりに

上述の通り、「OECD-CARF」および「改正OECD-CRS」をふまえた令和6年税制改正大綱の公表により、日本版CRSの改正に向けた道筋が明確になり、今後、実特法政省令および関連ガイドライン等の公表が見込まれるほか、2巡目のOECD-AEOI/CRSピアレビューの進展により、追加的な法改正又は国税庁による監督強化の動きが活発化することが予想されます。

関係する金融機関等においては、これら関連当局の動向を注視の上、実務への影響について適時・適切な検討および対処をする必要があるものと思われます。

お問い合わせ先

EY税理士法人

古川 武宏 パートナー
吉川 俊幸 アソシエートパートナー
竹内 徹 マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです




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