モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任のコストプロジェクション(赴任コスト試算)の日系企業における活用法について

海外赴任者にかかるコストは、赴任者を受け入れる海外現地法人の損益への影響があり、また、2023年3月14日付の「モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任の効果の測定をどうするか」でも記載した通り、海外赴任の効果測定(Return on investment〈ROI〉)について検討する際の重要な要素となります。一般的には赴任者一人当たりのコストは日本勤務時の2~5倍と言われていますが、赴任の「総コスト」を正しく把握している日系企業はまだ多くはありません。一方、外資系企業では、事前に海外赴任のコストプロジェクション(赴任コスト試算)を行い、赴任コストを事前に把握するのが一般的です。今回はこの海外赴任のコストプロジェクションが、日系企業においてどのように活用できるかについて考えていきたいと思います。

赴任者にかかるコストは、給与や手当、赴任先での住居や帯同する子の教育費といった直接コストだけではなく、現地の所得税や地方税、社会保険料の本人・会社負担分、またそれらの税金を会社が負担することによるグロスアップコストを含む、総コストで考える必要があります。海外赴任のコストプロジェクションでは、報酬パッケージ、赴任期間、帯同家族などのシナリオに基づいて、現地所得税などのグロスアップコストを含む赴任にかかる総コストを試算します。

外資系企業では海外赴任のコストプロジェクションを、赴任先国の赴任者税制や社会保障協定を織り込んで計算する外部専門家への委託などで実施することが一般的で、複数の赴任シナリオのコスト比較により費用対効果が高い赴任形態の検討、適切な赴任者選定、事業部の予算策定、費用負担先との事前合意形成、赴任者税コストの期末未払い計上などの目的に利用されています。日系企業でもコストプロジェクションにより赴任コストを把握・管理することは、これらの利用目的や、前述の海外現地法人の損益への影響や海外赴任の効果測定(ROI)の目的から有用であり、今後必須のものとなると考えられます。

昨年からのインフレや円安の影響から、海外赴任者の報酬規程の見直しを検討している日系企業も増えてきています。また、赴任先国での給与以外の個人所得が課税される場合の税負担責任の明確化のため、日系企業の多くが採用している手取り保証(ネット保証)制度から欧米の多くの企業で採用されているタックスイコライゼーション制度の採用を検討する企業も見られるようになってきています。

これらの規程・制度の見直しに際し、赴任コストへのインパクトがどれくらい発生するかの検討が必要となりますが、規程・制度の改定前後の条件に基づき、コストプロジェクションで税コストグロスアップを含めた赴任コストを試算し比較することで、赴任コストへのインパクトを計算することが可能です。

このように、日系企業においても赴任者コストの事前把握・管理や赴任シナリオの比較による赴任コストインパクトの検討の観点からコストプロジェクションは有用であると考えられます。今後のモビリティの活性化や、適正なコスト配分のためにも、コストプロジェクションの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
 

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