モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任の効果の測定をどうするか

Withコロナの生活も徐々に慣れ始め、多くの国のイミグレーション当局が、海外からの異動者の受け入れを再開し始めてきています。その中で、グローバルモビリティの分野においては、今までの長期赴任だけではなく、Remote WorkやVirtual Assignmentなどの新しい働き方も一つの選択肢として検討している企業が増えてきています。一方で、日系・外資系企業を対象に行ったSurvey結果では、昔からの長期海外赴任についても、現状維持、あるいは、増加する傾向にあると考えている企業が約50%程度あります。昨今のインフレ率上昇の影響もあり、海外赴任コストの圧縮についてのプレッシャーがより高まってきていることから、海外赴任の重要性や、どこまでコストをかけるか、という戦略的な検討が必要になってきています。そこで、今回は、コストを考える上では重要となる、海外赴任の効果測定(Return on investment:ROI)について、検討していきたいと思います。

ROIを導入するメリットは、企業、モビリティ担当部門、従業員の3つの軸から考えられます。まず、企業目線から考えると、企業・従業員・社会全体に対して、グローバル・モビリティ・プログラムの持つ価値がより可視化され、幅広いビジネス部門がグローバルモビリティの戦略的重要性について理解することが可能になります。モビリティ部門にとっては、ビジネス部門が投資対象(海外赴任者)に関する情報に基づいた正しい意思決定をスムーズに行うことが可能となることで、モビリティの活性化が望めます。そして、従業員にとっては、グローバルモビリティの価値をより理解するとともに、その価値(赴任目的・ミッション)を達成するために会社がサポートしてくれていると感じることができ、最終的には、海外赴任者のリテンションやアサイニーエクスペリエンスの向上にもつながることになります。

ROIを測定するには、基準となるデータを収集し、Data Analyticsによる分析が必要になってきますが、一番重要となるのが、ROIをどのような観点から測定するかという点です。ROIを測る上での赴任者コストの把握は比較的容易です。海外赴任者の給与・手当・現物給与・経費関連の費用、ならびに、本国・赴任先国で発生する会社負担となる税金などの直接コストや、引っ越し・イミグレーション・税務サポートにおける外部ベンダーへの委託費用などの間接コストを合計すると、一般的には、1人当たり3,000万円~5,000万円程度の費用がかかると言われています。日本企業の場合、3年~5年の赴任期間とすることが多いため、1人の長期赴任者を海外に送ると、簡便的に計算しても、9,000万円~2億5,000万円程度のコストとなります。そのため、多くの企業は、いかに赴任者コストを抑えるかというビジネス部門からのプレッシャーに対抗する手段として、手当水準・項目の見直しなどの規程上の整理や、当モビリティコラムでも2回(第3回 個人のクロスボーダー課税 ―海外赴任中の個人所得―、ならびに、第7回 海外赴任者の税金はどこまで負担するの?)にわたり記載した通り、税金の負担のルールの明確化と、税金の精緻な計算を検討されているのではないかと思います。

次のステップとして、投資(赴任者コスト)から得られる効果(メリット)を測定することで、よりグローバルモビリティの戦略的な活用が可能になると考えます。効果(メリット)の測り方は、企業により答えは異なってくると思われますが、少なくとも、海外赴任プログラムの全社的な目的、当該目的の達成具合を図るための指標(成功基準)とそれらの把握の仕方、海外赴任を受け入れるための赴任者とその家族における目的とモチベーション、そしてそれらの達成度などを測定することが必要と考えられています。赴任者選定の段階で、海外赴任の目的を明確にするためのDecision Treeを策定し、「なぜ、海外赴任に投資する必要があるのか?(例えば、ビジネスの拡大、クライアントからの依頼、スキルギャップ、個人からのリクエストなど)」、「当該目的に合致するのはどの赴任プログラムなのか?」、「誰に、なぜ、投資を行うのか?(例えば、赴任目的を達成するための適正な人選をし、かつ、適正理由をより明確にするなど)」など明確な指標のもとに熟考し、より透明性を持った人選をする必要があります。

モビリティROIはまだまだ新しい考え方ではありますが、今後のさまざまな赴任形態・働き方を検討する上で避けては通れないトピックになると考えられますので、長期的な観点から検討を進めていくことをお勧めします。

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川井 久美子 パートナー

羽山 明子 ディレクター

後藤 大悟 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです