EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EUの関税制度改革案、電子商取引への現代的アプローチを採用
欧州委員会は、欧州連合(EU)の関税制度改革案を発表し、その中で新たなEU税関当局を設置し、単一のオンラインデータシステムを導入することを提案しました。オンラインマーケットプレイス(国際通販事業者)にも規制が強化され、150ユーロ未満の商品に対する関税の免税措置は廃止されます。
この立法案は、今後、同意手続きのため欧州議会とEU理事会に送られ、その後欧州経済社会評議会にて協議されます。
欧州委員会の報告によると、新たに設立されるEU税関当局が、新システムの「エンジン」として機能するEU関税データハブを監督するとのことです。将来的には、このデータハブがEU加盟国における既存の税関のITインフラに取って代わることになります。これは、税関の運用コストを削減し、リスク管理と税関検査に対するEU各国のアプローチを改善することを目的としています。
新しい制度の下では、EU域内に商品を輸入しようとする企業は、自社の製品やサプライチェーンに関するすべての情報を、単一のオンライン環境である新たなEU関税データハブに記録することが想定されています。この技術は、企業から提供されたデータを集計し、機械学習、人工知能、人間が介在することで、当局がサプライチェーンや商品の動きを「360度の俯瞰」ができるようにするものです。
企業は、通関手続き時に必要な情報を提出する際に1つのポータルにアクセスするだけでよく、複数の貨物に対して1回のデータ提出で完結するようになります。ビジネスプロセスとサプライチェーンが完全に透明である場合、信頼性の高い貿易事業者(「信頼・検査(Trust & Check)貿易事業者」)は、税関が積極的に介入することなく、EU内で商品を流通させることができるようになります。Trust & Checkカテゴリーは、信頼性のある貿易事業者を対象とした現行の認可事業者(AEO)制度をさらに強化することを目的としています。
提案によれば、データハブは2028年に電子商取引の貨物向けに運用が開始され、2032年には他の輸入事業者も(任意で)利用できるようになる予定であり、これにより即時に便益と簡素化がもたらされると欧州委員会は予測しています。また、Trust & Check貿易事業者においては、商品がEU域内に輸入された場所に関係なく、その貿易事業者が所在する加盟国の税関当局において、すべての輸入品を通関させることができるようになることが想定されています。2038年からハブが義務化された際に、このオプションをすべての貿易事業者に拡大するかどうかは、2035年のレビューで評価される予定です。
提案されているシステムは、EU域内に輸入される商品のサプライチェーンや生産プロセスを税関当局が「鳥瞰図」として見られることを目的としています。すべての加盟国がリアルタイムのデータにアクセスできるようになり、情報をプールした上で、リスクに対してより迅速かつ一貫性のある、そして効果的な対応ができるようになります。人工知能は、データを分析および監視し、商品のEUへの配送がまだ始まっていない段階から問題を予測するために使用されます。EUの税関当局が、社会悪物品や違法品のEUへの流入を阻止するという、最も必要とされるところに努力と資源を集中できるようにすることを目標としています。
また、改革の重要な柱の1つは、電子商取引に対してより現代的なアプローチをとることです。この提案には、次のような計画が盛り込まれています。
また、この改革では、EUに輸入される最も一般的な低価格商品の関税計算も簡素化し、数千にも及ぶ可能性のある関税分類をわずか4つに減らします。
近年、世界的に国際通販取引の拡大を中心とした輸入貨物の増加傾向が著しく、各国の税関の処理能力のひっ迫を招く状況となっています。各国税関行政における重要な課題となっていますが、具体的に以下の問題が顕在化しています。
今回のEUにおける関税制度改革案はこれらの世界共通の課題に対応する先進的な取り組みであり、今後も世界各国において国際通販取引を対象とした同様の規制強化・制度改正が行われる可能性があります。実際に、日本においても、令和5年度の関税改正において急増する輸入貨物への対応として、国際通販プラットフォーム事業者の名称の申告、税関事務管理人制度の見直しといった制度変更が行われています。
また、EUの関税データハブに代表される、税関ITインフラ上のデータ分析は、輸入申告時の審査のみならず、税関事後調査などの領域でも活用が広がることが予想されます。特に国際的にサプライチェーンを展開する企業においては、各国の取締りの高度化に伴って通商関税コンプライアンスにおけるリスクが高まる可能性があります。企業においても、輸出入データを活用したサプライチェーンの可視化、関税リスクの分析等のデータ活用の重要性がより一層高まります。
大平 洋一 パートナー
福井 剛次郎 マネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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