EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2022年12月13日、欧州議会は、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)を2023年10月1日に導入することで、EU理事会と暫定合意に達しました。
CBAMは、排出集約的な生産が第三国に移転させられるカーボンリーケージを防止することを目的としています。CBAMは実質的に、特定の製品カテゴリー(鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、水素、および電力)に含まれる製品の輸入に対して課される課徴金に当たります。
当初の提案と比べると、今回の暫定合意には、以下を含むいくつかの新しい重要な進展が反映されています。
この暫定合意は、2022年6月に欧州議会において炭素関連の包括法案をめぐる投票が実施され、同法案が採択されたことを受けて進行中の三者間の議論(EU ETSの改正、新たなCBAM、および社会気候基金を対象に含む)の成果として達せられたものです(2022年6月23日付EY Global Tax Alert「European Parliament adopts carbon legislation package, final negotiations with EU Member State representatives expected soon」、2022年6月29日付EY Japan税務アラート「欧州議会が気候変動関連の包括法案を採択、EU加盟国代表との最終交渉も近く開始の見込み」をご参照ください)。
今回のEU立法プロセスの後、次のステップとなる欧州議会およびEU理事会による本暫定合意の正式な承認を経て、新しい法律が施行される予定です。
2021年7月、欧州委員会は、相互に関連する13件の個別法案および改正案からなる気候関連の包括法案を提出しました。この包括法案は、2050年までに気候中立な欧州を実現するため、および2030年までに排出量を対1990年比55%削減するための鍵となる措置です。
その必須要素の1つである新たなEU CBAMは、EUに輸入される特定の物品に対して、カーボンプライスを課すものです。この新たなメカニズムの具体的な目的は、世界貿易機関(WTO)の原則を維持しつつ、現在適用されているカーボンプライシング制度の性質から生じるカーボンリーケージの影響を軽減することです。
同制度は2023年10月1日に発効しますが、報告の義務のみを課す移行期間が設けられます。
EU CBAMは、EUの関税地域に輸入される、以下のカテゴリーに含まれる幅広い物品に対し、排出の対価を適用するものです。
CBAMの対象範囲は、移行期間の終了前に評価・検討される予定となっており、他の製品カテゴリー(有機化学品およびポリマーを含む)への拡大の可能性があります。全般的な目標とされているのは、EU ETSの対象となるすべての物品(例えば、鉱物油製品、石灰、ガラス、セラミック、パルプ、紙、段ボール、酸、およびバルク有機化学品その他)を、2030年までに対象範囲に含めることです。
CBAM課徴金は、製造時に発生する排出量を指す「内包排出量(embedded emissions)」、および特定の条件下における間接排出量に基づいて計算されます。
最終的な導入後、CBAM課徴金の支払いは、CBAM証書の購入(purchase)および償却(surrender)を通じて進められます。CBAM証書をEU ETS市場で取引することはできません。CBAM証書には当初、EU ETSと同様に「無償枠(free allowances)」制度が適用されます。
EUに輸入される物品のうち、生産国においてすでにカーボンプライシング制度の対象となっているものについては、それらの課徴金を考慮してCBAM課徴金が決定されます。したがって、この新たなメカニズムでは、生産国で支払われたカーボンプライスと、EU ETSにおける炭素排出枠価格との間の差額のみを支払うことになります。
移行期間についての詳細は、EU ETSの無償枠の段階的廃止に関する決定に左右されます。かかる決定をめぐる交渉は、今後数週間中に、より幅広いEU ETSの改革案の一部として実施される見込みです。これと並行して、追加的な施行法の立法プロセスも進行しています。
CBAMは、EU域内のみならず世界中の企業に対し、業務運営面および戦略的意思決定の面で影響を及ぼすと思われます。直接的または間接的な影響が生じる可能性があります。バリューチェーンおよびサプライチェーンの全体にわたり、総合的なアプローチを取ることが推奨されます。
CBAMの報告義務を含む移行フェーズは、2023年10月1日に発効する予定です。企業の当初の対応に含まれるのは、(i)同制度の管理に関する内部的な責任の割当て、(ii)CBAMの新たな対象範囲案を考慮した上でのEU輸入フットプリントおよび(コスト面やプロセス面の)潜在的影響のレビュー、ならびに(iii)移行期間における要件の遵守準備の開始です。これには特に、要求されるデータ(例えば、内包排出量のデータや、製造地におけるカーボンプライスのデータ)のレビュー、潜在的な不足の識別、および情報の収集が含まれます。
CBAM、およびこれと密接に関連し合っているEU ETSの改革をめぐり、立法プロセスが継続しているため、これらの進展を注意深く見守ることが企業にとって重要です。
大平 洋一 パートナー
岡田 力 パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
世界各国において持続可能な経済成長を志向する中で、主要な国や地域では脱炭素化に向けた新たな租税制度を採用しています。
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