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「保険」という言葉は保険会社の商品パンフレットなどでよく見聞きすると思いますが、保険そのものの仕組みや、保険会社の会計がどのように行われているかについては、意外と馴染みがないかもしれません。今回は、保険業の会計について以下の構成で説明します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることを予めお断りしておきます。
「保険契約」は、保険法で以下のように定義されています。「保険契約、共済契約その他いかなる名称であるかを問わず、当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として財産上の給付(生命保険契約及び疾病傷害定額保険契約にあっては、金銭の支払に限る。以下「保険給付」という。)を行うことを約し、相手がこれに対して当該一定事由の発生の可能性に応じたものとして保険料(共済掛金を含む。)を支払うことを約する契約をいう。」(保険法2①)
簡単に言い換えれば、保険契約とは、火災などの損害や死亡など一定の事実が発生したら、保険金を払うことを加入者と約束し、加入者はその事実が発生した場合に保険金をもらえることに対して保険料を支払う契約ということができます。損害保険契約、生命保険契約、さらに傷害疾病損害保険契約、傷害疾病定額保険契約は典型的な保険契約であり、個別具体的に保険契約の定義を準用し、保険法で以下のように定義されています。
なお、保険法は民法や商法の特別法であり、私保険における関係者の権利や義務などについて定めるものであり、社会保険などのいわゆる公保険には適用されません。
経済学的には、保険とは「危険」が現実化した時に生じる経済的損失・負担を軽減し、または回復するための危険対策措置のことを指します。危険の具体的なものは例えば、以下のようなものがありますが、基本的にはこれらは保険の対象となり得るものです。また、危険は家計のみならず、企業にも降りかかるものです。
日本の会計基準では、後述のように、保険法上の「保険」(言い換えれば、保険業法等により設立された保険者が保険として引き受けしているもの)は原則、会計上も全て保険として取り扱われます。
一方、2023年1月1日より開始する事業年度より適用される「IFRS第17号保険契約」では、保険契約は「一方の当事者(発行者)が,他方の当事者(保険契約者)から,特定の不確実な将来事象(保険事故)が保険契約者に不利な影響を与えた場合に保険契約者に補償することに同意することにより,重要な保険リスクを引き受ける契約」と定義されています。IFRS第17号は保険リスクが移転されるかどうかのガイダンスを明確にしており、当該ガイダンスは”重要な保険リスク”の解釈に関わってきます。IFRS第17号の下では、事業体が発行する保険契約(再保険契約を含む)、及び保有する再保険契約ならびに発行する裁量権付有配当投資契約について、この基準により会計処理されることになります。現在適用されている「IFRS第4号保険契約」は各国における既存の会計処理を幅広く許容した暫定的な会計基準であるため、各国での会計処理にばらつきがありました。 IFRS第17号の適用により、保険契約の会計処理が国際的に統一され、国境を越えた比較可能性が高まることが期待されます。
IFRSでは、保険契約に関する会計基準があるのに対し、日本の会計基準では保険契約の会計処理を正面から取り扱う会計基準はなく、金融商品に該当すれば「金融商品会計に関する実務指針」(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号、以下「実務指針」という。)により会計処理することになります。実務指針では金融商品を以下のように定義しています。
また、金融資産及び金融負債を以下のように定義しています。
実務指針は、このように金融商品を包括的に定義する一方で、一定の保険契約については「金融商品に関する会計基準」の対象外としています。
日本では保険業には「保険業法で定められた会計」としての保険会計が適用されます。保険業とは、「人の生存又は死亡に関し一定額の保険金を支払うことを約し保険料を収受する保険、一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し保険料を収受する保険その他の保険で、第3条第4項各号又は第5項各号に掲げるものの引受けを行う事業をいう。(保険業法第2条)」とされています。保険業を営むには内閣総理大臣の免許を受けることが必要です。
保険業法では、①事業年度は4月1日から翌年3月31日までとすること(第109条)、②事業年度ごとの中間業務報告書及び業務報告書の作成義務(第110条)、③株式の評価の特例(第112条)、事業費等の償却(第113条)、契約者配当(第114条)などが定められています。さらに、保険業法施行規則においても、業務報告書の詳細な内容(第59条)、業務及び財産の状況に関する説明書類に記載する事項(第59条の2)など、保険会社の経理について規定されています。日本では、全ての保険会社は保険業法に基づく会計処理によって決算書を作成することが求められますが、保険会計に関する部分については、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP)と呼ばれるものは存在しないため、保険業法に基づく会計がGAAPとされているのが現状です。なお、金融商品会計基準や固定資産の減損会計などは保険会社固有の事象に対応するものではなく、これらと異なる保険業法等の定めはないため、そのまま適用されています。また、保険会計は、日本の場合は「保険業法で定める会計」なので、他の規制業種と同様、別記事業(会社計算規則第146条)となっています。
一方、米国では、保険会社の認可が州単位のため保険会社は各認可州の保険業法に基づいて決算財務諸表を作成しなければなりません(SAP)。また、これに加えて、SEC登録企業などはFASB(Financial Accounting Standards Board:米国財務会計基準審議会)の作成した会計基準書(USGAAP)に基づく決算書の作成をしなければなりません。すなわち、2つの財務諸表を作成しなければならないのです。
保険業においては保険業法第1条に記載されているとおり、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することを目的としていることから、保険会社は極めて高い健全性が要求されるため保守主義の考え方が強く残っています。価格変動準備金・危険準備金、異常危険準備金など保険業法で特別に認められた準備金が存在し、利益を一部内部留保することが負債の計上として認められています。生命保険契約においては、費用は早めに、収益は遅くという保守主義の考え方が強く反映されています。例えば、日本では保険契約獲得に係る費用の発生時費用処理が求められます。一方、IFRSやUSGAAPでは当該費用が契約期間に亘って按分されます。
上記で解説してきたように日本の保険業では「保険業法で定められた会計」としての保険会計が適用されること、当該保険会計は保険契約者等の保護を図るという保険業法の目的から、保守主義の考え方が強く残っていることが特徴です。
第2回では損害保険会社、第3回では生命保険会社の会計処理の概要を取り扱っていきます。
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