保険業 第3回:生命保険会社のビジネスと会計処理の概要

EY新日本有限責任監査法人

1. 生命保険会社とは

生命保険会社とは、保険業法において「生命保険業免許」を受けたものをいうとされています(保険業法第2条第3項)。また、保険業法第3条第4項では、生命保険業免許は、以下一に掲げる保険の引受けを行い、又はこれに併せて以下二若しくは三に掲げる保険の引き受けを行う事業に係る免許とするとされています。


一 人の生存又は死亡(当該人の余命が一定の期間以内であると医師により診断された身体の状態を含む。以下この項において同じ。)に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料を収受する保険

二 次に掲げる事由に関し、一定額の保険金を支払うこと又はこれらによって生ずることのある当該人の損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険

 イ 人が疾病にかかったこと
 ロ 傷害を受けたこと又は疾病にかかったことを原因とする人の状態
 ハ 傷害を受けたことを直接の原因とする人の死亡
 ニ イ又はロに掲げるものに類するものとして内閣府令に定めるもの(人の死亡を除く。)
 ホ イ、ロ又はニに掲げるものに関し、治療(治療に類する行為として内閣府令で定めるものを含む。)を受けたこと

三 一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険のうち再保険であって、上記二に掲げる保険に係るもの


      2. 生命保険業のビジネスモデル

      生命保険業の事業は上記に説明のとおり、人の死亡、疾病、傷害に関して一定の保険金を支払うことを約し、保険料を収受することです。業務の大きな流れは概ね次のとおりで損害保険業と同様です。

      (1) 保険商品の設計
      (2) 営業活動・販売・保険料の収受
      (3) 資金の運用
      (4) 準備金の繰入れ
      (5) 保険金の支払い

      通常の製造業では売上原価が先に確定し、その後、売上が確定することが多いのに対し、保険契約では、売上(保険料)が先に確定し、その後、売上原価(保険金)が確定する点が保険契約の特徴としてあげられます。このような事象は長期サービス契約や工事契約等でも見られるものです(図表2参照)。

      【図表2】 業務サイクル


      3. 生命保険契約の会計処理

      (1) 保険料

      契約者から収受した初回保険料は仮受金としていったん記帳され、医的診査等を経て、保険契約の引受が決定したのち、仮受金から保険料に全額振替えられます(引受けられなかった保険料は返金されます)。

      ① 保険料入金時

      ② 引受決定時


      2回目以降の保険料は、個別契約内容との一致が確認されたのち、仮受金から保険料に振替られます。

      保険料はその対象期間に係らず上記のとおり処理されます。例えば、10年分の保険料を一括して収受した場合であっても全額が当期の保険料として計上されます。

      (2) 保険金等

      保険金や解約返戻金は支払時に全額費用処理されます。


      したがって、10年分の保険料を一括して収受したのち、契約者からの解約請求に基づき解約返戻金を支払った場合でも全額が当期の保険金等として処理されます。

      (3) 支払備金

      保険会社は契約者等から保険金等の支払請求を受けると支払の適否を判断したのち、支払処理を行います。請求を受けたものの、期末日時点においていまだ支払が行われていない保険金等は支払備金として負債に積み立てられます。期末に支払備金として積み立てられた保険契約についても、翌期に支払われる場合には保険金等として処理されます。支払備金は翌期末に振戻処理され、翌期の支払備金繰入額と相殺処理されます。

      ① 期末日

      ② 翌期末日


      また、保険事故が発生しているものの、契約者等から保険金等の支払請求が行われていない契約に対しても支払備金が見積り計上されます。既発生未報告備金(IBNR備金:Incurred But Not Reported)と呼ばれ、大蔵省告示第234号(平成10年6月8日)に基づき、過年度の既発生未報告の実績と当年度の保険金等の支払状況に基づき算定されます。

      (4) 責任準備金

      上記のとおり、保険料と保険金等は基本的に現金主義にて会計処理されますが、保険会社は期末日に責任準備金を積み立てることにより、損益を引受けた保険リスクの解放に応じて認識されるように修正します。責任準備金は翌期末日に振戻し処理され、翌期の繰入額と相殺されます。

      ① 期末日

      ② 翌期末日


      責任準備金は、次の区分に応じて金融庁の認可を受けた方法に基づき積み立てることが法令で求められています(保険業法第116条、保険業法施行規則第69条)。


      【図表3】 責任準備金の区分

      区分

      内容

      保険料積立金

      保険契約に基づく将来の債務の履行に備えるため、保険数理に基づき計算した金額。

      未経過保険料

      未経過期間に対応する責任に相当する額として計算した金額。

      危険準備金

      保険契約に基づく将来の債務を確実に履行するため、将来発生が見込まれる危険に備えて計算した金額。


      保険料積立金が「・・・将来の債務の履行に備えるため・・・」とされているのに対し、危険準備金が「・・・将来の債務を確実に履行するため・・・」となっているとおり、危険準備金は、保険料積立金の積立水準、すなわち、通常想定される保険金の支払水準を超えた支払に対して、健全性の見地から備えるものと一般に考えられています。そのため、繰入額は、単年度の最低繰入額と残高ベースでの繰入限度額が定められているのみで、最低繰入額と繰入限度額の範囲であれば経営者の自由裁量で積立額を決定することが法令上、認められています。

      責任準備金及び責任準備金繰入額は、積立額に経営者の自由裁量の余地がある危険準備金を含めて一括して表示されるため留意が必要です。

      一般的な保険料、保険金等及び責任準備金の業務の全体像を図示すれば次のようになります。

      【図表4】 業務フローの全体像


      まとめ

      上記で解説してきたように保険業は「保険契約」という極めて特殊な商品を取り扱う事業であり、保険業の会計を理解するためには、基本的な概念や用語、商品の仕組み等を理解することが不可欠となります。また、生命保険会社の会計では、一般事業会社と同様に収益の繰延及び費用の見越が必要ですが、その方法が保険業法に基づく準備金を通じて行われること、その他保険業法に基づく各種準備金の積み立てが必要なこと、別記事業であることなどが特徴的です。なお、当該特徴は損害保険会社でも同様です。




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