インセンティブ報酬 第3回:事後交付型

EY新日本有限責任監査法人 内川裕介

1. 事後交付型


(1) 概要

実務対応報告第41号における「事後交付型」とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引を言います(実務対応報告第41号第4項(8))。

事前交付型は取締役等に対して職務執行の開始時点で株式の交付を行うものであるのに対して、事後交付型は取締役等に対して権利確定条件達成時点で株式の交付を行うという点で相違します。
権利確定条件が達成されない場合、取締役等は株式の交付を受けることができません。すなわち、この場合は株主としての権利を得ることができず、この点はストック・オプションと同様の特徴になります(実務対応報告第41号第37項(4)前段)。

実務上、インセンティブ報酬を設計するにあたり、株主としての権利をどの時点で与えるかという点も考慮要素の一つになると考えられます。


(2) 会計処理

① サービスに応じて費用計上し株式引受権を計上

事後交付型の会計処理は、取締役等の職務執行等のサービスの取得に応じて費用を計上し、対応する金額は、株式の発行等が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上します(実務対応報告第41号第15項)。対象勤務期間中に費用計上し、対象勤務期間後に株式の発行等を行うという特徴は、ストック・オプションと同様であることから、報酬費用の相手勘定もストック・オプションにおける新株予約権と同様の会計処理をすることとされています(実務対応報告第41号第49項)。

この点、報酬費用の相手勘定を負債とすべきという見解もありますが、取締役等の職務執行等のサービスの対価として自社の株式を直接交付するものであり支払義務がないこと等から、報酬費用の相手勘定として負債としての性質を満たすか不明瞭であると考えられます。そのため、上記のとおりストック・オプションとの類似性を重視して負債ではなく純資産の部に計上することとされています(実務対応報告第41号第50項)。



費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額を計上します(実務対応報告第41号第6項)。基本的な考え方は、事前交付型と同様であり、詳細は第2回事前交付型を参照ください。

② 割当日に新株引受権から資本金又は資本準備金に振替え

株式の割当日において、新株を発行した場合には、株式引受権として計上した額(前項参照)を資本金又は資本準備金に振り替えます(実務対応報告第41号第16項)。



事後交付型は、対象勤務期間後に株式を交付するため、対象勤務期間中に計上された費用に対応する金額は、将来的に株式を交付する性質のものになります。そのため貸借対照表に累積させておき、権利確定日以後の割当日において払込資本に振り替えることになります(実務対応報告第41号第48項)。

また、新株の発行ではなく自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、株式引受権の帳簿価額との差額を、自己株式処分差額として処理します(実務対応報告第41項第18項)。自己株式の処分の会計処理は自己株式等会計基準に従って処理することになります。



(3) 開示

財務諸表の開示は、基本的には事前交付型と同様の事項を開示することになります(実務対応報告第41号第20項(2))。事後交付型における年度財務諸表の注記事項は表1のとおりです。

ただし、事前交付型と異なり未だ株式の交付が行われていないことから、④当該会計期間中に失効した株式数(事前交付型では没収した株式数)や⑤権利確定後の未発行株式数を注記するという点が事前交付型と異なります。

表1 事後交付型における注記事項

注記事項

(1)取引の内容、規模及びその変動状況
  (各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。ただし⑤を除く。)

① 付与対象者の区分(取締役、執行役の別)及び人数
② 当該会計期間において計上した費用の額とその科目名称
③ 付与された株式数(当該企業が複数の種類の株式を発行している場合には、株式の種類別に記載を行う。④、⑤においても同じ。)
④ 当該会計期間中に失効した株式数、当該会計期間中に権利確定した株式数並びに期首及び期末における権利未確定株式数
⑤ 権利確定後の未発行株式数
⑥ 付与日
⑦ 権利確定条件
⑧ 対象勤務期間
⑨ 付与日における公正な評価単価

(2)付与日における公正な評価基準の見積方法

(3)権利確定数の見積方法

(4)条件変更の状況

2. 事後交付型において想定される取引


事後交付型において想定される取引として、業績連動発行型パフォーマンス・シェアについて紹介します。なお、以下においては会社法第202条の2に基づいて、金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする取引(実務対応報告第41号が適用される取引)を前提として紹介しています。会計処理については上記をご参照ください。

業績連動発行型パフォーマンス・シェアとは、将来の中長期事業計画の業績目標の達成度合いに応じ、中長期事業計画終了時に株式を交付するものです。

将来の業績目標の達成度合いに応じて報酬として受け取る株式数等が変動するものであることから、役員等の業績目標の達成の意欲が高まる点が期待されます。また、上場企業であれば株価が高くなるほど受け取る株式の価値も高まることから、自社の株価向上への意欲が高まることも期待されます。

これらの期待される効果については、基本的には事前交付型等で紹介したスキームと同様です。



業績連動発行型パフォーマンス・シェアに関しては研究報告15号Ⅵ付録6(1)②も参考になります。



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