収益認識 第5回:履行義務への取引価格の配分

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介

1. 概要


収益認識に関する会計基準等では、第4のステップとして履行義務への取引価格の配分を行います。


収益認識の5ステップ

収益認識に関する会計基準等では、履行義務の充足時点または履行義務の充足に応じて収益を認識するため、履行義務が収益の認識単位となります。そのため、このステップ4では、ステップ3で決定した取引価格を、ステップ2で識別した履行義務に配分します。この取引価格の配分は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行い(基準第65項)、取引開始日の独立販売価格の比率に基づき配分します(基準第66項)。

独立販売価格とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(基準第9項)。


履行義務への取引価格の配分

2. 取引価格の配分方法


取引価格の履行義務への配分は、1.概要で記載のとおり取引開始日の独立販売価格の比率に基づき行います。観察可能な販売価格が存在する場合、これが独立販売価格の最善の見積りとなります(基準第146項)。

独立販売価格に基づく取引価格の配分の設例


  • 電気通信会社であるA社は、2年間の通信サービスを解約不能とすることを条件とするスマートフォンを20千円で販売している。
  • スマートフォンと通信サービスはそれぞれ単独でも販売されている。
  • スマートフォンは契約開始時点で引き渡し、代金を回収する。通信サービスの代金は毎月請求し、回収される。
  • スマートフォンと通信サービスの契約対価と独立販売価格は下記の表のとおりである。


スマートフォンの販売と通信サービスの独立販売価格の比率に基づいて、契約対価を各履行義務に配分します。独立販売価格は、契約開始時点でスマートフォンと通信サービスを個別に販売する場合の価格を使用します。取引価格の配分は以下のとおりとなります。

スマートフォンの販売は、取引価格である契約対価260千円に独立販売価格の比率である25%(=80/320)を乗じて、65千円(=260×25%)を配分します。

他方、通信サービスは、取引価格である契約対価260千円に独立販売価格の比率である75%(=240/320)を乗じて、195千円(=260×75%)を配分します。

これにより、スマートフォンの販売に係る対価65千円はスマートフォンの引渡し時に一括で収益に認識され、通信サービスの対価195千円は2年間にわたり収益に認識されます(履行義務の充足に関しては「第6回:履行義務の充足による収益の認識」参照)。




3. 独立販売価格の見積り方法


独立販売価格を直接観察できない(例えば、個別に販売していない)場合には、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力数値を最大限利用して、独立販売価格を見積ります。この独立販売価格の見積方法に関しては、類似の状況において、首尾一貫して適用することが求められます(基準第69項)。収益認識に関する会計基準等において示されている独立販売価格の見積方法の例示は、以下の通りです(適用指針第31項)。

見積方法

内容

調整した市場評価アプローチ

財又はサービスが販売される市場を評価して、顧客が支払うと見込まれる価格を見積る方法

予想コストに利益相当額を加算するアプローチ

財又はサービスが販売される市場を評価して、顧客が支払うと見込まれる価格を見積る方法

残余アプローチ

契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積る方法

なお、残余アプローチについては、以下のいずれかを満たす場合に限り、使用することができます。

  • 同一の財又はサービスを異なる顧客に同時又はほぼ同時に幅広い価格帯で販売している
  • 当該財又はサービスの価格を企業がいまだ設定しておらず、当該財又はサービスを独立して販売したことがない

<残余アプローチのイメージ図>



4. 代替的な取扱い


(1) 重要性の乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用

残余アプローチに関して、収益認識に関する会計基準等では、重要性に基づく代替的な取扱いを認めています。つまり、履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で、財又はサービスが、契約における他の財又はサービスに付随的なものであり、重要性に乏しいと認められるときには、残余アプローチの要件を満たさなくても、当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として、残余アプローチを使用することを認めています。(適用指針第100項)。
 

5. これまでの日本基準又は日本基準における実務と収益認識に関する会計基準等の比較


ステップ4「契約における履行義務に取引価格を配分する」における、これまでの日本基準又は日本基準における実務と収益認識に関する会計基準等の比較は以下の通りです。

これまでの日本基準又は日本基準における実務

収益認識に関する会計基準等

(ステップ4)
契約における履行義務に取引価格を配分する。

ソフトウェア取引については一定の定めが存在するものの、一般的な定めはない。

  • 独立販売価格に基づき取引価格を各履行義務へ配分する。
  • 独立販売価格が直接観察できない(例えば、個別に販売していない)場合は、所定の方法により見積る。
  • 重要性が乏しい財又はサービスについて、簡便的に独立販売価格を見積ることができる代替的な取扱い(残余アプローチの使用)が認められる。

上記の通り、収益認識に関する会計基準等の公表に伴い取引価格の配分方法が明確になりました。これまでの会計基準のもとでは、各財又はサービスに係る収益をそれぞれの契約上の金額で計上しているケースが少なくないと考えられ、収益認識に関する会計基準等における相対的な独立販売価格の比率に基づく配分との間に差異が生じる可能性があります。



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