収益認識 第4回:取引価格を算定する

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 内川 裕介

1. 概要


収益認識に関する会計基準等では、第3のステップとして取引価格の算定を行います。


収益認識の5ステップ

収益認識に関する会計基準等において取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する金額を除く)と定めており(基準第8項)、取引価格の算定にあたっては、契約条件や取引慣行等を考慮することとされています(基準第47項)。

取引価格はステップ2で識別した各履行義務に配分され(ステップ4)、各履行義務が充足又は充足するにつれて収益として計上されます。
 

2. 取引価格の算定


取引価格を算定するにあたっては、(1) 変動対価、(2) 契約における重要な金融要素、(3) 現金以外の対価、(4) 顧客に支払われる対価に関する全ての影響を考慮するものとされています(基準第48項)。従って、これらの影響を考慮すると、取引価格は必ずしも契約書に記載された金額の総額となるとは限らない場合があります。

また、取引価格は、第三者のために回収する金額を除くとされていることから、例えば消費税等は取引価格から除かなければならない点に留意が必要です(図表※参照)。


取引価格イメージ

※上記図表では (1) 変動対価は契約金額に加算される場合 (2) 重要な金融要素は財又はサービスの提供時点よりも後に対価を受け取ることを前提としています。


なお、取引価格の算定をする上では、財又はサービスが契約に従って約定どおりに顧客に移転するものと仮定しています。すなわち、契約の取り消しや変更はないものと仮定しなければなりません(基準第49項)。

以下で取引価格の算定にあたって考慮が必要な事項について解説します。

(1) 変動対価

取引価格が変動する可能性がある場合

(2) 重要な金融要素

財やサービスの提供時点と、対価の受取時点が異なる場合

(3) 現金以外の対価

顧客からの対価が現金以外で支払われる場合

(4) 顧客に支払われる対価

企業が顧客に対して現金を支払う場合やクーポンを付与する場合

3. 変動対価


(1) 定義

変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいいます(基準第50項)。具体例としては、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等が挙げられます(適用指針第23項)。

変動対価は、契約条件で定められる場合のほか、企業の取引慣行や公表した方針等に基づいて価格の引下げを顧客が期待する場合や、契約締結時に企業に価格引下げの意図がある場合にも示されることがあります(適用指針第24項)。

(2) 見積方法

変動対価の見積りは、企業が権利を得ることとなる対価の額を、より適切に予測できる方法を用いて見積ります。具体的には、変動対価を見積るにあたって、最頻値法と期待値法のいずれを適用するか企業は決定しなければなりません(基準第51項)。これらの方法は企業が任意で選択できるものではなく、企業が権利を得ることとなる金額をより適切に見積ることができる方法を選択しなければなりません。また、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用することになります(基準第52項)。

なお、変動対価の見積りについては、決算時に見直すことが必要となります(基準第55項)。


変動対価の見積方法

(3) 設例(最頻値法と期待値法)


  • A社は製品を1個あたり10千円で販売する契約を2019年4月1日に卸売業者のB社と締結した。B社が2018年度中に購入する数量に応じて、以下のリベートがA社から支払われる。販売個数、リベート率、発生確率の表は以下の通りである。リベート率は全仕入分に適用されるものと仮定する。

  • A社は2019年6月末に終了する第1四半期において、当該製品を1,500個販売したものとする。

設例

設例のケースでは販売個数が5,000個~7,499個の発生確率が45%と一番高いため、最頻値法を適用する場合には当該発生確率のリベート率を採用することになります。一方で、期待値法を適用する場合には加重平均値として算出されたリベート率を採用することになります。この点、企業の事業内容等に照らして、より適切に見積ることができる方法を採用することになります。

以下ではそれぞれ二つの見積方法の計算結果を示します


(1) 最頻値法を採用した場合の変動対価

最も発生確率が高い販売個数(5,000個~7,499個)に使用されるリベート率2%を使用する。
1,500個×10千円×(1-2.00%)=14,700千円

(2) 期待値法を採用した場合の変動対価

発生し得る対価の額を発生確率で加重平均する。
合計(加重平均値)として算出されたリベート率2.15%を使用する。
1,500個×10千円×(1-2.15%)=14,677千円


(4) 取引価格に含めるべき変動対価

変動対価の全額が常に取引価格に含められるわけではなく、収益の過大計上を防ぐ観点から、取引価格に含めることができる変動対価には一定の制限がかけられています。すなわち、変動対価に関する不確実性が解消される時点で、収益認識累計額に大幅な減額が生じない可能性が非常に高い範囲でのみ、変動対価を取引価格に含めることができます(基準第54項)。

変動対価の見積りが制限されるケースは事業を取り巻く経済環境や、財又はサービス個別の性質、その他契約条件等、総合的な判断が必要となるため一概に示すことはできませんが、収益が減額される確率又は減額の程度を増出させる可能性のある要因の例示として以下が示されています(適用指針第25項)。

市場の変動性又は第三者の判断若しくは行動等、対価の額が企業の影響力の及ばない要因の影響を非常に受けやすいこと

対価の額に関する不確実性が長期間にわたり解消しないと見込まれること

類似した種類の契約についての企業の経験が限定的であるか、又は当該経験から予測することが困難であること

類似の状況における同様の契約において、幅広く価格を引き下げる慣行又は支払条件を変更する慣行があること

発生し得ると考えられる対価の額が多く存在し、かつ、その考えられる金額の幅が広いこと

4. 重要な金融要素


契約の当事者が明示的又は目次的に合意した支払時期により、財又はサービスの顧客の移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含んでいるものとされます(基準第56項)。

例えば、顧客と約束した対価(販売価格)100の製品を×1年4月に販売し、代金の支払いを×2年5月に行うが×1年4月で支払いを行えば対価が90となる契約である場合、当該差額に後払いによる金利調整分の性格があると認められるのであれば、この差額10は金利調整分の性格があると認められ、当該部分が重要である場合には、重要な金融要素に該当すると考えられます。

上記ケースでは、取引価格の算定上、金利相当分の影響を調整し、財又はサービスに対して顧客が支払うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で収益を認識します(基準第57項)。すなわち、上記例では販売時点において90の収益を認識することになり、10については受取利息を計上することになると考えられます。


重要な金融要素 図示

なお、契約における取引開始日から顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には、金利相当分の調整を実施しないことができます(基準第58項)。
 

5. 現金以外の対価


契約における対価が現金以外の場合に取引価格を算定するにあたっては、当該対価を時価により算定します(基準第59項)。現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には、当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として当該対価を算定します(基準第60項)。
 

6. 顧客に支払われる対価


顧客に対して支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額します。

顧客に支払われる対価は、企業が顧客に対して支払う又は支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業に対する債務額に充当できるものの額を含みます(基準第63項)。


顧客に支払われる対価

例えば、販売先の購入量に応じてリベートを支払うような場合が考えられます。顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の①又は②のいずれか遅い時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額します(基準第64項)。上記の図表の場合、取引価格は100-5 = 95となります。

関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時

企業が対価を支払うか又は支払いを約束する時



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