2023年6月第1四半期 決算上の留意事項及び第1四半期決算でよくある検討ポイント

EY 新日本有限責任監査法人 公認会計士
平川浩光、松川 由紀子、石川 仁

この2023年6月第1四半期決算においては、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」が原則適用になり、また、改正法人税等会計基準の早期適用が可能となっています。そして、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が2023年3月期決算に引き続き適用となります。

本稿では、これらの会計基準の解説を行うとともに、年度決算の最初に迎える第1四半期決算は、期初として年度決算の会計処理に関する論点も生じやすいことから、第1四半期決算でよくある検討ポイントについても、基本的な取扱いを中心に、留意事項をQ&A方式で解説します。

2023年6月第1四半期 決算上の留意事項については、第1部Q1からQ11をご参照いただき、第1四半期決算でよくある検討ポイントについては、第2部Q12からQ17をご参照ください。


第1部 2023年6月第1四半期 決算上の留意事項

Q1 電子記録移転有価証券表示権利等に関する取扱い

Q2 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Q3 グローバル・ミニマム課税制度の概要
Q4 グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響

Q5 改正法人税等会計基準の概要及び適用時期
Q6 税金費用の計上区分
Q7 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
Q8 経過措置

Q9 インボイス制度の概要
Q10 インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない消費税相当額の会計処理
Q11 インボイス制度下の控除不可消費税相当額を仮払消費税として区分して計上する場合の会計処理
 

第2部 第1四半期決算でよくある検討ポイント

Q12 セグメント情報
Q13 四半期における固定資産の減損会計
Q14 税金費用に関する四半期特有の会計処理
Q15 税効果会計
Q16 連結の範囲
Q17 長期期待運用収益率の見直しの検討


なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。

正式名称

本文中の略称

実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」

実務対応報告第43号

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」
会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」

金融商品会計基準
金融商品実務指針
これらを合わせて
金融商品会計基準等

実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」

実務対応報告第23号

企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」

過年度遡及会計基準

実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」

実務対応報告案第66号

企業会計基準公開草案第79号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(そのX)(案)」

キャッシュ・フロー作成基準一部改正案

会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」の改正(公開草案)

改正会計制度委員会報告第8号(案)

企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」

外貨建取引等会計処理基準

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」

法人税等会計基準

企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準第28号

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」

税効果適用指針

企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針」

中間税効果適用指針

企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等に対するコメント

ASBJコメント対応

実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」

実務対応報告第44号

実務対応報告第42号 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」

実務対応報告第42号

日本公認会計士協会の消費税の会計処理に関するプロジェクトチーム「消費税の会計処理について(中間報告)」

消費税中間報告

企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

収益認識適用指針

企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」

減損適用指針

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」

連結会計基準

監査・保証実務委員会実務指針第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」

連結範囲取扱い

企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」

退職給付会計基準

企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」

退職給付適用指針

企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」

四半期会計基準

企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」

四半期適用指針

「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」

四半期財規

「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」

四半期連結財規

会計制度委員会研究報告第14号「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」

比較情報研究報告

※ 本稿は2023年6月28日の時点の情報に基づくものです


電子記録移転有価証券表示権利等編

Q1. 電子記録移転有価証券表示権利等に関する取扱い

電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱いについて、その概要及び四半期における開示への影響について教えてください。


A1.

(1) 概要

2022年8月26日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告第43号が公表されており、2024年3月期の第1四半期から原則適用となります。

(2) 公表の経緯

2019年5月に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering(注1))は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われました。

具体的には、これまで流通する蓋然性が低いものとされ、第二項有価証券として分類されてきた金融商品取引法2条2項各号に規定される信託受益権、民法上の任意組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利等(以下「集団投資スキーム持分等」という。)について、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合、株式等と同様に事実上流通し得ることを踏まえ、「電子記録移転権利」と定義し、規制が課されています。

また、2020年5月に改正施行された金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)において「電子記録移転権利」よりも広い概念である「電子記録移転有価証券表示権利等」が定められました。これは、集団投資スキーム持分等を含む、金融商品取引法2条2項に規定されるみなし有価証券のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものであり、株式や社債などの有価証券表示権利も、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示されるものとして含まれることになりました。

したがって、金融商品取引法上の電子記録移転有価証券表示権利等の分類としては、電子記録移転権利と、トークン化された有価証券表示権利が存在することになります(図表1参照)。

注1 明確な定義はないが、一般に、企業等がトークン(電子的な記録・記号)と呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や仮想通貨の調達を行う行為の総称するもの(「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書(金融庁2018年12月))


図表1 電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容

 みなし有価証券の内容権利の主な具体例(※1)
電子記録移転有価証券表示権利等トークン化された有価証券表示権利金融商品取引法2条1項に掲げる有価証券に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する当該有価証券が発行されていないもの(金融商品取引法2条2項柱書)
  • 国債証券
  • 地方債証券
  • 社債券
  • 株券又は新株予約権証券
  • 信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券

 
電子記録移転権利金融商品取引法2条2項各号に掲げる権利
  • 信託の受益権(※2)
  • 持分会社の社員権
  • 民法上の任意組合契約に基づく権利、商法上の匿名組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利のうち、いわゆる集団投資スキーム持分に該当するもの(※3)

(※1)一部の権利のみ記載している
(※2)金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る
(※3)金融商品取引法2条2項5号の要件を満たすもの


こうした状況を踏まえ、ASBJにおいて、金商業等府令における「電子記録移転有価証券表示権利等」の発行・保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、実務対応報告第43号が公表されました。

(3) 範囲

実務対応報告第43号は、「株式会社」が、金商業等府令1条4項17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としています(実務対応報告第43号2項)。

電子記録移転有価証券表示権利等

金商業等府令1条4項17号に規定される権利をいい、金融商品取引法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するもの

(4) 会計処理の基本的な考え方

電子記録移転有価証券表示権利等は、その発行及び保有がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券(電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。)と権利の内容は同一と考えられるため、実務対応報告第43号では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理((図表2)参考)と同様に取り扱うこととされています。

みなし有価証券の主な具体例と、金融商品会計基準等における取扱い

(※1)一部の権利のみ記載している
(※2)金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る
(※3)金融商品取引法2条2項5号の要件を満たすもの

具体的には、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識については、別途の定めが置かれており、金融商品会計基準が定める原則(金融商品会計基準7項から9項及び金融商品実務指針)に従って行うこととされますが、その売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、契約を締結した時点において認識することとされています(実務対応報告第43号8項)。

その他、実務対応報告第43号における会計処理及び開示の概要は、(図表3)の通りです。

図表3 会計処理及び開示の概要

  

金融商品会計基準等上の有価証券に該当する

金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない(信託の受益権)

発行の会計処理

従来のみなし有価証券を発行する場合と同様

実務対応報告第43号の対象外

保有の会計処理

発生及び消滅の認識

原則として、金融商品会計基準が定める原則に従う

原則として、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う


 
 売買契約について、契約を締結した時点から移転した時点までの期間が短期間である場合、契約を締結した時点に認識する金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものは、左記の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従う

 

B/S価額の算定及び評価差額の会計処理

従来のみなし有価証券を保有する場合と同様

金融商品実務指針及び実務対応報告第23号の定めに従う

(5) 開示

電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとされています(実務対応報告第43号11項、12項)。このため、電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券に含めて貸借対照表に表示し、四半期において金融商品に関する注記事項を開示する場合には、当該注記においても従来のみなし有価証券に含めて注記することになります。

また、電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有しており、この第1四半期決算から実務対応報告第43号を原則適用する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として注記することになります(過年度遡及会計基準10項)。なお、実務対応報告第43号においては、特定の経過的な取扱いが定められていないため、従来から電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合には、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用することになります(実務対応報告第43号13項、過年度遡及会計基準6項(1))。

(6) 適用時期

適用時期については、(図表4)のとおり、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用となります。

図表4 適用時期

原則適用

2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から

早期適用

実務対応報告第43号の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から

(7) その他

電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については実務対応報告第43号では取り扱わないこととしています(「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」

① 株式会社以外の信託、持分会社、民法上の任意組合、商法上の匿名組合、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合における発行及び保有の会計処理

② 株式又は社債を電子記録移転有価証券表示権利等として発行する場合に財又はサービスの提供を受ける権利が付与されるときの会計処理

③ 暗号資産建の電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理

④ 組合等への出資のうち電子記録移転権利に該当する場合の保有の会計処理

電子決済手段編

Q2. 資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

2023年6月1日の改正資金決済法施行により、いわゆるステーブルコインの発行が可能となりました。実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」について、その概要を教えてください。

A2.

(1) 概要

2023年5月31日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告案第66号及びキャッシュ・フロー作成基準一部改正案(以下合わせて「実務対応報告案等」という。)が公表されています。また、実務対応報告案等に対応するため、日本公認会計士協会(会計制度委員会)から同日付で、改正会計制度委員会報告第8号の公開草案が公表されています。


図表5 新設及び改正される会計基準・実務指針等

発行主体

公開草案の名称

略称

ASBJの会計基準等

実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」

実務対応報告案第66号


 

企業会計基準公開草案第79号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(そのX)(案)」

キャッシュ・フロー作成基準一部改正案

JICPAの実務指針

会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」の改正(公開草案)

改正会計制度委員会報告第8号(案)

(2) 公表の経緯

2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正されました。改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコイン(実務対応報告案第66号BC1項参照)のうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。

こうした状況を踏まえて、ASBJにおいて、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、実務対応報告案等が公表されました。なお、実務対応報告案等は2023年8月4日までコメント募集が行われ、そのコメントの対応をASBJにおいて検討後、最終化され公表されることになります。ただし、2023年6月1日の改正資金決済法の施行により、資金決済法に規定される電子決済手段の発行はすでに可能となっており、当該電子決済手段の発行や保有が行われる場合には、実務対応報告案等の内容及びASBJにおける審議状況に留意が必要となります。「実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」等のポイント」もご参考ください。

(3) 範囲

実務対応報告案第66号では、資金決済法2条第5項(参考「ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説」)に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とすることが提案されています(実務対応報告案第66号2項)。

ただし、①第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示、②第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段に該当する外国電子決済手段のうち、当該電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段以外の外国電子決済手段、については、実務対応報告案第66号の適用範囲に含めていません(図表6参照)(実務対応報告案第66号2項、3項)。

図表6 実務対応報告案第66号の対象範囲

(※1)第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告第23号を適用する。
(※2)電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。

(4) 実務対応報告案第66号の電子決済手段の特徴及び会計上の性格

実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段は、主に(図表7)の特徴を有すとされています。

 

図表7 実務対応報告の対象となる電子決済手段の主な特徴(実務対応報告案第66号BC10項からBC15項)

主な特徴

内容

① 送金・決済手段として使用されるものである(第2号電子決済手段を除く。)

第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用されるものである。第2号電子決済手段については、第1号電子決済手段と同等の経済的機能を果たす可能性がある電子決済手段であり、第2号電子決済手段の発行者に対して第1号電子決済手段と同一の所要の規制(下記②ⅰ)参照)を及ぼすために規定が設けられている。

② 電子決済手段の利用者の請求により電子決済手段の券面額に基づく価額と同額の金銭による払戻しを受けることができるものであり、右のⅰ)及びⅱ)の発行者に対する規制により、価値の安定した電子的な決済手段である。

ⅰ)第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は通貨建資産であり、第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段の発行者は、法令上で経営の健全性の確保が求められている銀行等又は電子決済手段の発行残高の概ね全額を保全するように履行保証金の供託等が求められる資金移動業者に限られている。
ⅱ)第3号電子決済手段は金銭信託の受益権であり、電子決済手段の利用者が信託する金銭の全額についてその払戻しをいつでも請求できる預貯金により分別管理され、信託財産の倒産隔離が図られている。

③ 流通性があるものである。

第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は、電子的な通貨建資産としての財産的価値であり、当該財産的価値が電子決済手段の利用者の間で移転される。また、第3号電子決済手段は、金銭信託の受益権が電子決済手段の利用者の間で移転される。このため、電子決済手段等取引業者を通じて電子決済手段が売買される場合、流通市場が形成される可能性がある。

実務対応報告案第66号では、これらの特徴から、実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段は、以下の性格を有する資産であるとされ、現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、当該電子決済手段に係る会計処理等を定めることが提案されています。

 

電子決済手段の会計上の性格(実務対応報告案第66号BC17項)

① 第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用される点で交換の媒体となるなど通貨に類似する性格を有していると考えられる

② 実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段は、払戻しの請求を行うと速やかに金銭による払戻しが行われるものであり、かつ、電子決済手段が払い戻されないリスク(換金リスク)は、発行者等に対する規制により、要求払預金における信用リスクと同程度であると考えられる。この点、要求払預金に類似する性格を有していると考えられる

(5) 電子決済手段の保有に係る会計処理

① 電子決済手段の取得時の会計処理

(図表8)の会計処理とすることが提案されています(実務対応報告案第66号5項)。

電子決済手段の取得時の会計処理

計上時期

受渡日

計上額

当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と電子決済手段の券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理


② 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理

実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩すこととすることが提案されています。また、電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理するとすることが提案されています(実務対応報告案第66号6項)。

③ 期末時の会計処理

実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段は、期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする会計処理が提案されています(実務対応報告案第66号7項)。なお、実務対応報告案第66号では電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めていないとされています(実務対応報告案第66号BC30項)。

(6) 電子決済手段の発行に係る会計処理

① 電子決済手段の発行時の会計処理

実務対応報告案第66号では、電子決済手段の発行時における電子決済手段に係る払戻義務の計上時期及び計上額について、(図表9)のとおり定めることが提案されています(実務対応報告案第66号8項)。


図表9 電子決済手段の発行に係る会計処理

電子決済手段の発行に係る会計処理

計上時期

受渡日

計上額

当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額(すなわち券面額に基づく価額)をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理

② 電子決済手段の払戻時の会計処理

実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩すこととすることが提案されています(実務対応報告案第66号9項)。

③ 期末時の会計処理

実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることが提案されています(実務対応報告案第66号10項)。

(7) 預託電子決済手段に係る取扱い

電子決済手段等取引業者又は発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととする提案がされています(実務対応報告案第66号13項)。

(8) 開示

注記事項について、実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準第40-2項に定める金融商品の状況に関する事項及び金融商品の時価等に関する事項について注記を行うこととすることが提案されています(実務対応報告案第66号14項)。

なお、上記の注記にあたっては、例えば、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段については、預金に関する取扱いに準じることが考えられるとされています。また、実務対応報告案第66号の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に関する取扱いに従うことになると考えられるとされています(実務対応報告案第66号BC45項)。

(9) 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲

資金の範囲について、キャッシュ・フロー作成基準一部改正案においては、特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとする提案がされています(キャッシュ・フロー作成基準一部改正案1項から3項)。

(10) 適用時期

実務対応報告案等の適用時期については、公表日以後適用することとする提案がなされています(実務対応報告案第66号15項、キャッシュ・フロー作成基準一部改正案4項)。なお、実務対応報告案第66号を適用するにあたっては、特段の経過的な取扱いを定めないこととしたため、過年度遡及会計基準6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することになるとされています(実務対応報告案第66号BC46項)。


令和5年度税制改正と税効果会計編

Q3. グローバル・ミニマム課税制度の概要

グローバル・ミニマム課税制度の概要を教えてください。

A3.

経済協力開発機構(OECD)は、かねてより、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)への対処に取り組んでいましたが、2021年になり、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」における国際的合意のうち、グローバル・ミニマム課税(第2の柱)における所得合算ルール(Income Inclusion Rule、IIR)が、我が国において導入されることとなりました。

グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールとは、国際的に最低限の実効税率(15%)を定めた上で、それを下回る国(=軽課税国)における最低税率での課税を確保するべく、親会社所在地国が、親会社に対して、子会社の最低税率に至るまで課税(トップアップ課税)するルールです((図表10)参照)。

令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、それに係る規定(以下「グローバル・ミニマム課税制度」という。)を含めた改正法人税法が2023年3月28日に成立しました。当該改正法人税法では、基本的に、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象として、一定の適用除外を除く所得について最低税率15%の課税が確保されるように制度化をすることとされています。

なお、グローバル・ミニマム課税制度を含む令和5年度税制改正の詳細については、EY税理士法人「令和5年度税制改正大綱(詳細版)」をご参照ください。

 

図表10 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールの概要

Q4. グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響

グローバル・ミニマム課税制度の導入による税効果会計への影響を教えてください。

A4.

(1) 税効果適用指針の定め

繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています(税効果適用指針44項)。

グローバル・ミニマム課税制度を含む改正法人税法は2023年3月28日に成立していますので、グローバル・ミニマム課税制度の適用(2024年4月1日以後開始する事業年度から適用)が見込まれる企業は、2023年6月の第1四半期決算を含む2023年3月期決算以降において、グローバル・ミニマム課税制度を前提として、本来は、当該制度が税効果会計へ与える影響を検討する必要があります。

(2) 実務対応報告第44号の公表

税効果会計は利益に関連する金額を課税標準とする税金を対象として認識するものですが、グローバル・ミニマム課税制度に基づいた基準税率(15%)までの上乗せ税額(以下「上乗せ税額」という。)は、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであるため、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業とが相違することとなり、税効果会計を適用すべきかが明らかではないと考えられます。また、仮に税効果会計を適用するとした場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理に関して、以下の点が明らかではないと考えられます。

① グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか

② 上乗せ税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか

③ グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか


これらに加えて、実務上の負担も想定されます。

以上より、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、改正法人税法の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難と考えられます。このため、当面の間、必要と考えられる取扱いを示すために、企業会計基準委員会(ASBJ)より実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が2023年3月31日に公表されました。

(3) 実務対応報告第44号の内容

実務対応報告第44号では、グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であることから、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされています(実務対応報告第44号3項)。

また、(2)に記載のとおり、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられることを踏まえて、企業間の比較可能性等の観点から、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用するといった原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用することとされています(実務対応報告第44号14項)。

当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間とされています(実務対応報告第44号15項)。

なお、企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があることから、グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業において、実務対応報告第44号を適用した旨を注記することは求められていません(実務対応報告第44号16項)。

3月決算会社においては、2024年3月期の第1四半期が、実務対応報告第44号を適用する初めての四半期決算となりますが、2023年3月期年度決算と同様に、当第1四半期決算においても、税効果会計の適用にあたっては、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないことになります。また、当第1四半期決算においても、実務対応報告第44号を適用した旨を注記することは求められません。


改正法人税等会計基準編

Q5. 改正法人税等会計基準の概要及び適用時期

法人税等会計基準等の改正について、その概要と適用時期を教えてください。

A5.

(1) 概要

2022年10月28日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から(図表11)記載の会計基準等の改正が公表され、また、同日に日本公認会計士協会(JICPA)から同表記載の実務指針等の改正が公表されています。

 

図表11 改正された会計基準・実務指針等

公表主体

改正会計基準等の名称

ASBJ

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」


 

企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」


 

企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」

JICPA

会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」


 

会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」


 

会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」


 

会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」


 

「金融商品会計に関するQ&A」

(2) 主な改正点

主な改正点は以下の2点です。詳細な内容はそれぞれのQ&Aをご確認ください。

① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)(Q6参照)

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果(Q7参照)

(3) 適用時期

適用時期については、(図表12)のとおりです。原則適用は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からですが、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能となっており、2023年6月の第1四半期決算から早期適用が可能です。早期適用する場合には、上記2つの改正点のいずれも同時に適用しなければならないと考えられます。

 

図表12 適用時期

原則適用

2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から

早期適用

2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から

(5) 早期適用するか否かを判断する際のポイント

上記①及び②の改正はいずれも、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないという現行の会計処理の問題点を改善するものとなっています。したがって、例えば、これらの改正の影響が及ぶ重要な取引等が2024年3月期において生じる可能性がある場合には、税引前当期純利益と税金費用の対応関係を図るため、これらの改正を早期適用することが考えられます。


Q6. 税金費用の計上区分

今回の改正によって、税金費用の計上区分がどのように変わるのか、教えてください。

A6.

(1) 現行の会計処理の問題点

当事業年度の所得等に対する税金費用について、現行の会計処理では以下のとおりとなっていました。

 

(現行の会計処理)

当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等(以下「法人税等」という。)については、法令に従い算定した額を損益に計上する(改正前法人税等会計基準5項)

上記現行の会計処理によれば、課税所得の発生原因となった取引がどのようなものであろうと、課税所得に対して発生した法人税等は全て損益計算書において損益として計上されることになります。

ここで、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税等が課せられるケースがあるとします。この場合には、対象となる取引等についてはその他の包括利益に計上されることになりますが、一方で、当該取引等に対して課せられる法人税等は損益に計上されることとなります。

このような場合には、「税引前当期純利益」と「税金費用」の対応関係が図られないことになり、この点が問題視されていました。

この点について、以下の設例を用いて説明します。なお、以下の設例は、2023年3月6日掲示の「2023年3月期 決算上の留意事項」Q21に掲載していた設例を再掲したものです。

【設例:前提条件】

① A社(3月決算)は、取得原価が10,000の「その他有価証券」を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は、12,000であった。

② X1年4月1日にA社はグループ通算制度に加入することが決定しており、X1年3月期の期末において、当該「その他有価証券」に対して、税務上、時価評価が行われる。このため、「その他有価証券評価差額金」2,000は、X1年3月期において課税所得に含まれ課税される。

③ A社は、当該「その他有価証券評価差額金」を除いても課税所得が4,000生じている。

④ X1年3月期の期末における法定実効税率は30%であった。

⑤ その他の将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。

(仕訳)

借方

貸方

その他有価証券2,000
その他有価証券評価差額金2,000
法人税、住民税及び事業税600
未払法人税等600

(2) 改正後の会計処理

改正後の会計処理の概要は以下のとおりです。

① 当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、「損益」、「株主資本」及び「その他の包括利益」(又は「評価・換算差額等」)に区分して計上する(法人税等会計基準5項、5-2項)

② 株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定する(法人税等会計基準5-4項)

まず1点目の発生源泉となる取引等に応じて3つの区分に分けて計上することとした理由は、この考え方を採用した場合、税引前当期純利益と所得に対する法人税等の間の税負担の対応関係が図られる点、また、税効果額については、税効果適用指針において、この考え方と同様に取り扱っている点、加えて、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理されている点を踏まえたものです。

また、2点目の法定実効税率を乗じて算定するとした理由は、複雑な計算を伴う場合の実務への配慮です。なお、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができるとされています(法人税等会計基準5-4項ただし書き)。

改正後の会計処理について、上記(1)の設例と同様の前提である場合には以下のとおりとなります。

借方

貸方

その他有価証券2,000
その他有価証券評価差額金2,000
その他有価証券評価差額金600
未払法人税等600

(3) 株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示

株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示は(図表13)のとおりです。

なお、その他の包括利益の欄の1番下の「退職給付会計における未認識項目」に関して、以下の点にご留意ください。

連結財務諸表においては、「退職給付会計における未認識項目」については、その他の包括利益を通してその他の包括利益累計額に計上されることになります。ここで、税務上は年金制度であれば掛金拠出額が損金算入されます。一方、会計上は、退職給付引当金は損益を通して計上された部分と、その他の包括利益を通して計上された未認識項目部分とで構成されているため、掛金拠出額に係る当期税金費用も、損益とその他の包括利益とで区分する必要があります。しかし、損益及びその他の包括利益と税金費用との対応関係が一概に決定できず、区分して算定することは困難であると考えられます。したがって、損益とその他の包括利益に区分して算定することが困難な場合に該当するため、損益に計上することが認められています(法人税等会計基準5-3項(2)、29-6項、29-7項)。

 

図表13 株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示

区分分類内容
株主資本親会社株式等の売却子会社等が保有する親会社株式等を企業集団外部の第三者に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い

 
子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い

 
子会社に対する投資の売却子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続しており、連結財務諸表上、当該売却に伴い生じた親会社の持分変動による差額を資本剰余金として計上する場合の当該資本剰余金部分に対応する法人税等相当額についての取扱い

 
子会社に対する投資について追加取得に伴い生じた親会社の追加取得持分と追加投資額との差額を資本剰余金として計上し、その後に子会社に対する投資を売却した場合における当該資本剰余金に対応する法人税等相当額についての取扱い
その他の包括利益グループ通算制度(又は連結納税制度)の加入時の時価評価グループ通算制度(又は連結納税制度)の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債(例えば、その他有価証券)に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合

 
非適格組織再編成における時価評価非適格組織再編成において、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債(例えば、その他有価証券)に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合

 
在外子会社持分へのヘッジ会計投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合

 
退職給付会計における未認識項目確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合

(4) 四半期特有の会計処理への影響

四半期適用指針18項では、税引前四半期純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する四半期特有の会計処理を採用する場合の取扱いが定められていますが、税金費用の計上区分の改正に伴って、四半期適用指針の改正は行われていません。

この点、四半期適用指針19項が参照している中間税効果適用指針12項では、予想年間税引前当期純利益を基礎として、予想年間税金費用の算定を行うこととされています。このため、予想年間税金費用の算定にあたっては、株主資本及びその他の包括利益に対して課税される税額は含まれず、四半期特有の会計処理を採用する場合において、株主資本及びその他の包括利益に対して課税される税額は、改正法人税等会計基準に従って処理することになると考えられますので、留意が必要です(ASBJコメント対応No.5参照)。


Q7. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

今回の改正によって、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の会計処理がどのように変わるのか、教えてください。

A7.

(1) 税務上の取扱い

内国法人が有する譲渡損益調整資産を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています(法人税法61条の11)。

当該繰り延べられた売却損益については、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたとき(完全支配関係がある他の法人に対する譲渡も含まれる。)に、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。

(2) 現行の会計処理の問題点

子会社株式等を連結会社間で売却し、グループ法人税制が適用され、税務上売却損益が繰り延べられる場合について、改正前の税効果の取扱いは以下のようになっていました。

① 個別財務諸表上の取扱い

連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(改正前税効果適用指針17項)

② 連結財務諸表上の取扱い(改正前税効果適用指針39項)

(ⅰ) 売却元企業の個別財務諸表において子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しない。

(ⅱ) 連結会社間における子会社株式等の売却の意思決定等に伴い、既に子会社等に対する投資に関連する連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合は、当該繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却により解消される一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を売却時に取り崩す。

(ⅲ) 当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、子会社等に対する投資に係る一時差異として、税効果適用指針22項又は23項に従って処理する。

上記の会計処理によれば、グループ法人税制が適用される連結会社間の子会社株式等の売却について、内部取引であることから連結財務諸表上は売却損益が消去され、税務上も売却損益が繰り延べられるため課税されていないにもかかわらず、連結損益計算書上、税金費用が計上される結果となります。このため、現行の取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの声が聞かれていました。

この点について、以下の設例を用いて説明します。なお、以下の設例は、2023年3月6日掲示の「2023年3月期 決算上の留意事項」Q22に掲載していた設例を再掲したものです。

【設例:前提条件】

① P社は、S1社及びS2社の株式の100%を保有し子会社としている。なお、3社はいずれも3月決算の内国法人である。なお、P社連結グループは、グループ通算制度は適用していない。

② X1年3月末時点のS2社株式の税務上の簿価及び個別財務諸表上の簿価は、2,000である。また、S2社に対する投資の連結財務諸表上の簿価は2,500である。

③ P社はS1社に対して、S2社株式を時価3,500で売却する意思決定をX1年3月末に行った。なお、P社は連結財務諸表上、従前、配当による課税関係が生じないこと及び売却する意思がなかったことから、X1年3月末以前においては、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していなかった。

④ X1年4月にS2社株式の売却に係る取引が実行された。なお、S1社はS2社株式を売却する意思はない。

⑤ 法定実効税率は30%とする。

⑥ X2年3月期において、P社連結上、税金等調整前当期純利益が10,000生じており、当該利益に対応する法人税、住民税及び事業税が3,000生じている。また、上記前提条件に関連するものを除いて、将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。

※ 以降の図中にある用語はそれぞれ以下の意味で使用している。

税務簿価:S2社株式の税務上の帳簿価額
会計簿価:S2社株式の個別財務諸表上の帳簿価額
連結簿価:S2社に対する投資の連結貸借対照表上の価額

(※) 法人税等調整額の算定

① 税務上繰り延べられた売却損益に係る将来加算一時差異に対する繰延税金負債の計上
⇒税務上繰り延べられた売却益1,500×税率30%=450

② X1年3月期の売却の意思決定時に計上されたS2社への投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対する繰延税金負債の取崩し
⇒連結財務諸表固有の将来加算一時差異500×税率30%=150
①-②=300

(3) 改正後の会計処理

改正後の税効果の取扱いは以下のようになっています。

① 個別財務諸表上の取扱い

改正前と同様(注2)に、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針17項)

② 連結財務諸表上の取扱い(税効果適用指針22項(1)①、23項(2)②、39項、持分法実務指針27項、29項、30項)

(ⅰ) 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。

(ⅱ) 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。

(ⅲ) 子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式等の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。

注2 今回の改正において、個別財務諸表上の会計処理は、以下の理由から見直されていない。

  • 子会社株式等の売却により将来加算一時差異が生じているにもかかわらず繰延税金負債を計上しない取扱いは、一部の場合を除き、一律に繰延税金負債を計上する税効果適用指針の取扱いに対する例外的な取扱いとなるため、その適用範囲は限定することが考えられる
  • 個別財務諸表においては、連結財務諸表とは異なり、売却損益が消去されないことから、税金費用を計上しないこととした場合には、税引前当期純利益と税金費用との対応関係が図られないこととなると考えられる

 

上記(2)の設例の前提条件に基づき、改正後の税効果の取扱いがどのようになるか、以下に示します。



Q8. 経過措置

法人税等会計基準等の改正における経過措置を教えてください。

A8.

(1) 経過措置

① 税金費用の計上区分

税金費用の計上区分に関しては、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(法人税等会計基準20-3項ただし書き、税効果適用指針65-2項(2)ただし書き)。

② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関しては、経過措置は定められていません(すなわち、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。)。これは、対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられること、また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点も、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において一定の判断がなされていたと考えられることから、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられたためです(税効果適用指針163項(2))。


インボイス制度編【再掲】

※インボイス制度編(Q9~Q11)は、2024年3月期の第2四半期より制度導入されるため、2023年3月6日掲示の「2023年3月期 決算上の留意事項」に掲載していた、インボイス制度編(Q24~Q26)を再掲したものとなります。

Q9. インボイス制度の概要

2023年10月1日より導入される適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)の概要を教えてください。

A9.

2019年の消費税法改正によって、消費税等の税率が標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率となって以降は、軽減税率の対象品目の売上・仕入を区分して請求書を発行したり帳簿に記帳したりする「区分経理」が求められるようになり、仕入税額控除の適用を受けるためには区分経理に対応した帳簿や区分記載請求書等の保存が必須となっていました(区分記載請求書等保存方式)。

2023年10月1日より、「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。インボイス制度の下では、仕入税額控除の要件として、原則、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」等の保存が必要になります。(図表14)のとおり、適格請求書には、現行の区分記載請求書の記載事項を基として、下線太字の項目を追加することが義務づけられています。

 

図表14 区分記載請求書及び適格請求書の記載事項

区分記載請求書の記載事項

適格請求書の記載事項

① 請求書発行者の氏名又は名称
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した税込対価の額
⑤ 請求書受領者の氏名又は名称
 

① 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」に基づき筆者が作成)

 

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができないことになります。

ただし、インボイス制度導入から6年間(2023年10月1日から2029年9月30日まで)は、一定の要件の下で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(最初の3年間は80%、次の3年間は50%)を仕入税額とみなして控除することができる経過措置が設けられています。


Q10. インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない消費税相当額の会計処理

インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない適格請求書発行事業者以外の者からの仕入の場合でも、会計上、支払対価の額に110分の10を乗じて算出した金額を「仮払消費税等」として区分して計上すべきかどうか教えてください。

A10.

(1) 税務上の取扱い

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除の適用を受けることができないため、税務上は仮払消費税等の額がない(すなわち、取引の対価の額に含める。)こととなります(国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)」(以下「国税庁Q&A」という。)問1参照)。

なお、国税庁Q&Aの「Ⅲ 会計上、インボイス制度導入前の金額で仮払消費税等を計上した場合の法人税の取扱い」では、「法人の会計においては、消費税等の影響を損益計算から排除する目的(中略)などの理由で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについてインボイス制度導入前と同様に(中略)仮払消費税等の額として経理することも考えられます。」とした上で、会計上で仮払消費税等の額として経理した場合の具体的な税務調整の例が示されています。
 

(2) 会計上の取扱い

消費税中間報告では、控除対象外消費税等に関する会計処理が定められています。しかし、控除対象外消費税等と「インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る消費税等」(以下「インボイス制度下の控除不可消費税相当額」という。)では、税務上の位置付けが異なるため、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理については、現行の会計基準等において明示されていないと考えられます。

このため、以下のとおり、インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、「仮払消費税等」として区分して計上する処理(パターン1)と、「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の、いずれの処理も認められると考えられます。

なお、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理方法については、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当するため、重要性に応じて会計方針として開示することが考えられます。


<仮払消費税等」として区分して計上する処理(パターン1)の仕訳例>

<「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の仕訳例>

Q11. インボイス制度下の控除不可消費税相当額を仮払消費税として区分して計上する場合の会計処理

Q10においてパターン1の会計処理(「仮払消費税等」として区分して計上する処理)を採用した場合、区分計上された仮払消費税等をどのように会計処理すべきか教えてください。

A11.

インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、Q10のパターン1の会計処理(「仮払消費税等」として区分して計上する処理)を採用した場合に、区分計上された仮払消費税等をどのように会計処理すべきかに関しては、以下のとおり、複数の考え方があり得ると考えられます。

(考え方1)消費税中間報告で示されている会計処理(「資産の取得原価に算入する処理」又は「発生事業年度の期間費用とする処理」)のいずれかを選択適用する考え方

(考え方2)控除対象外消費税等について採用している会計方針をインボイス制度下の控除不可消費税相当額にも適用する考え方

(考え方3)インボイス制度下の控除不可消費税相当額は発生事業年度の期間費用として処理する考え方

 

<「資産の取得原価に算入する処理」の仕訳例>

・棚卸資産の取得の場合

・固定資産の取得の場合

・固定資産の取得の場合


第1四半期決算でよくある検討ポイント編

Q12. セグメント情報

セグメント情報に関して、第1四半期決算で留意すべきポイントについて教えてください。

A12.

企業の管理手法が変更されたことに伴い、報告セグメントの区分方法を変更する場合には、前年同四半期累計期間について、変更後の区分方法により作り直したセグメント情報の開示が求められており、当該開示が困難な場合には、前年度の区分方法により作成した当四半期累計期間の情報を開示することも認められています(四半期財規様式1号(記載上の注意)8(2)、四半期連結財規様式1号(記載上の注意)8(2))。

年度開始に合わせて、企業内の組織変更等が行われることも多いことから、第1四半期においては、組織変更や管理手法の変更の有無を確認するとともに、変更がある場合には、その変更が報告セグメントの区分方法に影響するか否かを検討する必要があります。

また、収益の分解情報に関する注記(四半期財規22条の4第1項、四半期連結財規27条の3)の記載に際して、収益の分解に用いる区分は、最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報も考慮することとされています(収益認識適用指針106-4項(2))。このため、報告セグメントの区分方法を変更する場合に、事業セグメントの業績評価のために検討している情報にも変化があれば、収益の分解に用いる区分への影響についても留意する必要があると考えられます。

Q13. 四半期における固定資産の減損会計

四半期における固定資産の減損会計に関して、留意すべきポイントについて教えてください。

A13.

(1) グルーピング

減損会計の資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うこととされており、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めることとされています(減損適用指針7項)。この取扱いは、四半期も年度も同様です。

当期に行われた資産のグルーピングは、原則として、翌期以降の会計期間においても同様に行うとされていますが(減損適用指針9項)、グルーピングは経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行う必要があり(減損適用指針7項)、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業セグメントの区分方法の変更など、事実関係が変化した場合には、グルーピングの変更が行われるものとされています(減損適用指針74項)。ただし、管理会計上の区分を形式的に変更すれば、連動してグルーピングの見直しが行われるわけではなく、グルーピングの見直しのためには、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位が実態として変化していることが必要です。

第1四半期において、組織変更等に伴いグルーピングの基礎となる事実関係が変化した場合には、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位の実態を踏まえて、グルーピングの見直しを検討する必要があります。

(2) 減損の兆候

① 減損の兆候に関する簡便的な取扱い

減損の兆候は、通常の企業活動において、実務的に入手可能なタイミングで利用可能な情報に基づき検討することとされています(減損適用指針11項)。この趣旨を踏まえ、前期末等において所有する資産又は資産グループについて全体的に減損の兆候を把握している場合には、四半期における減損の兆候を把握するに際して、必ずしも四半期ごとに資産又は資産グループに関連する営業損益、営業キャッシュ・フローあるいはその市場価格を算定又は入手することまでは求められておらず、使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定や、経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかについて、留意することとされています(四半期適用指針14項、92項)(図表15参照)。


図表15 年度と四半期の減損の兆候

年度
(固定資産の減損に係る会計基準 二 1)

四半期
(四半期適用指針14項)

営業損益又は営業キャッシュ・フロー

資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること

(資産又は資産グループに関連する営業損益又は営業キャッシュ・フローを算定することは必ずしも求められていない)

使用範囲又は使用方法

資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、あるいは、生ずる見込みであること

使用範囲又は方法について当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させる変化を生じさせるような意思決定に留意する

経営環境

資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか、あるいは、悪化する見込みであること

経営環境の著しい悪化に該当する事象が発生したかどうかに留意する

市場価格

資産又は資産グループの市場価格が著しく下落したこと

(市場価格に関する情報を入手することは必ずしも求められていない)

(出所)固定資産の減損に係る会計基準及び四半期適用指針を基に作成

ただし、四半期においても、資産又は資産グループに関連する営業損益等の管理資料が利用可能である場合には、当該資料に基づき減損の兆候を検討する必要があると考えられます。また、市場価格に関しても、例えば、減損の兆候を把握するための市場価格として一定の指標を使用しており、期中に当該指標の改定が行われる場合には、指標が改定された四半期において、市場価格に基づく減損の兆候の検討を行うことが考えられます。

② 前期末に減損の兆候を識別したものの減損損失を計上しなかった場合の取扱い

前期末に減損の兆候を識別したものの、減損の認識の判定を行った結果、減損損失を計上しなかった場合には、減損の兆候があったという点で、減損の兆候がなかった他の資産又は資産グループよりも減損損失計上のリスクは高いことから、四半期においても慎重に検討すべきであると考えられます。特に、前期末において、減損の兆候はあるが減損を認識しなかった資産又は資産グループの将来キャッシュ・フローの見積りに関する事項を、KAM(監査上の主要な検討事項)又は会計上の見積りに関する注記に記載している場合には、四半期においても計画と実績とを比較し、前期末における将来キャッシュ・フローの見積りのベースとなる事業計画からの乖離が生じていないかどうかを確認し、乖離が生じている場合にはその原因を分析した上で、当四半期において減損の兆候を識別すべきか否かを慎重に検討する必要があると考えられます。

(3) 減損損失の認識・測定

減損の兆候の検討については、上記(2)①のとおり、四半期適用指針において別段の定めが設けられていますが、減損損失の認識の判定や減損損失の測定については、別段の定めは設けられていません。このため、四半期において減損の兆候が識別された場合、減損損失の認識及び測定を簡便的に行うことは認められず、減損適用指針の定めに従い会計処理を行うことになると考えられますので、留意が必要です。


Q14. 税金費用に関する四半期特有の会計処理

前期末において土地に係る減損損失を計上しました。繰延税金資産の回収可能性に関する企業の分類は(分類2)であり、かつ、当該減損損失に係る将来減算一時差異はスケジューリング不能であることから、前期末において当該将来減算一時差異に繰延税金資産を計上していませんでした。

当期において当該土地を売却する意思決定を行ったことにより、当該減損損失に係る将来減算一時差異はスケジューリング可能となりました。このような状況において、税金費用に関する四半期特有の会計処理を行うにあたって留意すべきポイントを教えてください。

A14.

四半期会計基準14項ただし書きでは、四半期決算における税金費用の会計処理として、四半期特有の会計処理(見積実効税率を用いる方法)を採用することができるとされています。具体的な見積実効税率の算定方法については、四半期適用指針19項の定めに従い、中間税効果適用指針12項から16項に準じて算定することになります。

見積実効税率を計算する際に分子となる予想年間税金費用は、予想年間税引前当期純利益に一時差異等に該当しない項目を加減した上で、法定実効税率を乗じて計算することとされています(中間税効果適用指針12項(1))。上記の計算において、一時差異等に該当する項目を考慮していないのは、基本的に、一時差異等の変動は税引前当期純利益に対する税金費用に影響しないためです(中間税効果適用指針37項(1))。しかし、期首において繰延税金資産を計上していなかった重要な一時差異等について、期中において、回収可能性に変化が生じたことにより、将来の税金負担額を軽減する効果を有することとなったと判断された場合には、税金費用の計算に影響することとなるため、見積実効税率の算定にあたり、税金の回収が見込まれる金額を予想年間税金費用の額から控除することとされています(中間税効果適用指第12項(2))。

したがって、前期末において土地に係る減損損失を計上し、当該減損損失に係る将来減算一時差異について、スケジューリング不能として繰延税金資産を計上していなかったところ、当期において売却が決定したことによりスケジューリングが可能となり、繰延税金資産の回収可能性があると判断されることとなった場合には、当該繰延税金資産の回収が見込まれる金額を見積実効税率の算定式の分子に当たる予想年間税金費用から控除することになります。

なお、この際、回収可能性があると判断されることとなった繰延税金資産の額が多額であれば、分子である予想年間税金費用がマイナスになることも想定されます。この場合には、法定実効税率に基づいて税金費用を算定した上で(中間税効果適用指針14項)、回収可能と判断された繰延税金資産については、回収可能と判断された四半期において別途計上することが考えられます。


Q15. 前期末において繰延税金資産の回収可能性に関する企業の分類の変更があった場合の留意事項

前期末において、繰延税金資産の回収可能性に関する企業の分類が(分類3)から(分類4)に変更となり、従前は5年であった一時差異等加減算前課税所得の見積期間が1年に変更となりましたが、当期の四半期決算における繰延税金資産の回収可能性の判断に際して、留意すべき事項を教えてください。

A15.

四半期決算における繰延税金資産の回収可能性の判断に際しては、以下の簡便的な取扱いが設けられています。

  • 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境の著しい変化が生じておらず、かつ、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動がないと認められる場合には、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングを利用することができる(四半期適用指針16項)
  • 重要な企業結合や事業分離、業績の著しい好転又は悪化、その他経営環境に著しい変化が生じ、又は、一時差異等の発生状況について前年度末から大幅な変動があると認められる場合には、繰延税金資産の回収可能性の判断にあたり、財務諸表利用者の判断を誤らせない範囲において、前年度末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングに、当該著しい変化又は大幅な変動による影響を加味したものを使用することができる((四半期適用指針17項)

ここで、前期末における企業の分類の変化に伴って、一時差異等加減算前課税所得の見積期間が短くなっている(5年⇒1年)ことから、繰延税金資産の回収可能性を判断する上で、当期中の経営環境の変化や一時差異等の発生状況の変動が与える影響度合いが相対的に大きくなる可能性も考えられます。例えば、経営環境の変化により、今後半年間は業績が悪化するものの、その後に業績が徐々に回復する見込みとなった場合、分類変更前の見積期間(5年)であれば、全体としての繰延税金資産の回収可能性に大きな影響がない場合でも、分類変更後の見積期間(1年)であると、当該経営環境の変化が繰延税金資産の回収可能性に大きな影響を与える可能性も考えられます。

以上より、四半期適用指針16項の定めに基づき、前期末の検討において使用した将来の業績予測やタックス・プランニングをそのまま利用することができるか否かを検討するに際して、前期末の企業の分類の変更等に伴って一時差異等加減算前課税所得の見積期間が従前よりも短くなっている場合には、経営環境等の著しい変化又は一時差異等の発生状況の大幅な変動が生じていないかについて、より慎重に検討する必要があると考えられます。


Q16. 連結の範囲

連結の範囲に関して、第1四半期決算で留意すべきポイントについて教えてください。

A16.

親会社は、原則としてすべての子会社を連結の範囲に含めなければならないとされていますが、資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができるとされています(連結会計基準13項、注3)。

連結範囲の重要性の判断にあたっては、量的側面と質的側面の両面で判断されるべきであり、量的な重要性が乏しいという判断だけで連結の範囲から除外することができない子会社も存在する可能性があります(連結範囲取扱い3項)。例えば、(図表19)にある子会社については、量的な重要性が乏しい場合であっても、原則として非連結子会社とすることはできません(連結範囲取扱い4-2項(2))。


図表16 原則として非連結子会社とすることができない会社

連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な子会社

連結財務諸表提出会社の一業務部門、例えば、製造、販売、流通、財務等の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる子会社。なお、地域別販売会社、運送会社、品種別製造会社等の同業部門の複数の子会社は、原則としては、その子会社群全体を1社として判断するものとする。

セグメント情報の開示に重要な影響を与える子会社

多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している子会社

(出所)連結範囲取扱い4-2項(2)を基に作成

ここで、第1四半期には重要性がない子会社でも、年度末までに重要性が高まることが見込まれているような場合には、そのような質的側面に鑑みて、第1四半期から連結の範囲に含めることが考えられます。なお、比較情報研究報告Q4のAでは、非連結子会社として取り扱っていた子会社について、第2四半期連結累計期間から重要性が高まったため、連結子会社として取り扱うことになる場合でも、当該子会社の期首からの損益を取り込むこととされています。しかし、このようなケースは、第1四半期には予測できなかったような事態が第2四半期以降に発生し重要性が高まった場合(例えば、第2四半期において、連結子会社が災害等により損失を被った影響で、非連結子会社としていた会社の重要性が相対的に高まった場合)等の例外的なケースであると考えられます。

このため、第1四半期において連結の範囲を検討する際には、第1四半期末における状況だけでなく、年度末までに重要性が高まる可能性のある子会社がないかという点も考慮して、慎重に検討する必要があります。


Q17. 長期期待運用収益率の見直しの検討

長期期待運用収益率の見直しの検討にあたって、留意すべきポイントについて教えてください。


A17.

当年度の退職給付費用の計算に用いられる長期期待運用収益率は、当期損益に重要な影響があると認められる場合のほかは、見直さないことができるとされています(退職給付適用指針31項)。見直しを行う時期は明記されていないものの、期待運用収益は、期首の年金資産の額に長期期待運用収益率を乗じて計算することとされているため(退職給付会計基準23項)、原則的に期首に見直しを行うものと考えられます。したがって、第1四半期決算において、長期期待運用収益率の見直しの要否を検討する必要があると考えられます。

長期期待運用収益率は、年金資産が退職給付の支払に充てられるまでの時期、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針及び市場の動向等を考慮して設定することとされています(退職給付適用指針25項)。長期期待運用収益率の見直しを検討するにあたっては、前年度の運用利回り実績も1つの考慮要素となりますが、直近の運用実績だけに基づき短期的に見直しを行うようなものではなく、長期的な観点で検討することが求められる点に留意が必要です。

なお、どのような場合であれば「当期損益に重要な影響がある」と認められるのかについては、退職給付会計基準等では示されていないことから、各社において重要性に関する合理的な基準を設定するものと考えられます。



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