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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 松下 洋
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2023年5月31日に、以下の実務対応報告及び企業会計基準の公開草案(以下合わせて「本公開草案等」という。)を公表しました。
2022年6月に「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正されました。改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコイン(本公開草案BC1項参照)のうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われました。
こうした状況を踏まえて、ASBJにおいて、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いの検討が行われ、本公開草案等が公表されました。
本公開草案等に対しては、2023年8月4日(金)までコメントが募集されています。
本公開草案では、資金決済法第2条第5項(参考「ステーブルコインに関する法規制の概要とポイント解説」)に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とすることが提案されています。
ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限るとすることが提案されています。
また、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」を適用することとすることが提案されています。
なお、今後の電子決済手段の取引の発展や会計実務の状況により、本公開草案において定めのない事項に対して別途の対応を図ることの要望が市場関係者によりASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することが提案されています。
本公開草案の対象となる電子決済手段は、主な特徴として以下を有するとされています。
第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用されるものである。第2号電子決済手段については、第 1 号電子決済手段と同等の経済的機能を果たす可能性がある電子決済手段であり、第2号電子決済手段の発行者に対して第1号電子決済手段と同一の所要の規制(下記②ⅰ)参照)を及ぼすために規定が設けられている。
ⅰ) 第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は通貨建資産であり、第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段の発行者は、法令上で経営の健全性の確保が求められている銀行等又は電子決済手段の発行残高の概ね全額を保全するように履行保証金の供託等が求められる資金移動業者に限られている。
ⅱ) 第3号電子決済手段は金銭信託の受益権であり、電子決済手段の利用者が信託する金銭の全額についてその払戻しをいつでも請求できる預貯金により分別管理され、信託財産の倒産隔離が図られている。
第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段は、電子的な通貨建資産としての財産的価値であり、当該財産的価値が電子決済手段の利用者の間で移転される。また、第3号電子決済手段は、金銭信託の受益権が電子決済手段の利用者の間で移転される。このため、電子決済手段等取引業者を通じて電子決済手段が売買される場合、流通市場が形成される可能性がある。
本公開草案では、上記(1)の特徴から、以下①、②のとおり本公開草案の対象となる電子決済手段が現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、当該電子決済手段に係る会計処理等を定めることが提案されています。
① 第1号電子決済手段及び第3号電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって財又はサービスの対価の支払に使用される点で交換の媒体となるなど通貨に類似する性格を有していると考えられる。
② 本公開草案の対象となる電子決済手段は、払戻しの請求を行うと速やかに金銭による払戻しが行われるものであり、かつ、電子決済手段が払い戻されないリスク(換金リスク)は、発行者等に対する規制により、要求払預金における信用リスクと同程度であると考えられる。この点、要求払預金に類似する性格を有していると考えられる。
以下の会計処理とすることが提案されています。
電子決済手段の取得時の会計処理 |
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計上時期 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と電子決済手段の券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
本公開草案の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本公開草案の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩すこととすることが提案されています。また、電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理するとすることが提案されています。
本公開草案の対象となる電子決済手段は、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする会計処理が提案されています。なお、本公開草案では電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めていないとされています。
本公開草案では、電子決済手段の発行時における電子決済手段に係る払戻義務の計上額及び計上時期について、次のとおり定めることが提案されています。
電子決済手段の発行に係る会計処理 |
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計上時期 |
受渡日 |
計上額 |
当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額(すなわち券面額に基づく価額)をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理 |
本公開草案の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩すこととすることが提案されています。
本公開草案の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とすることが提案されています。
外貨建電子決済手段の期末時の円換算について、以下の会計処理が提案されています。
対象 |
期末時の円換算 |
---|---|
本公開草案の対象となる外貨建電子決済手段 |
「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建取引等会計処理基準」という。)一2(1) ①の定めに準じて処理を行う |
本公開草案の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務 |
外貨建取引等会計処理基準一2 (1) ②の定めに従って処理を行う |
電子決済手段等取引業者及び発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本公開草案の対象となる電子決済手段を資産として計上せず、また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しないこととする提案がされています。
注記事項について、本公開草案の対象となる電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、金融商品会計基準第40-2項に定める金融商品の状況に関する状況に関する事項及び金融商品の時価等に関する事項について注記を行うこととすることが提案されています。
なお、上記の注記にあたっては、例えば、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、本公開草案の対象となる電子決済手段については、預金に関する取扱いに準じることが考えられるとされています。また、本公開草案の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に関する取扱いに従うことになると考えられるとされています。
資金の範囲について、キャッシュ・フロー作成基準一部改正案においては、特定の電子決済手段、すなわち、資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を現金に含めることとする提案がされています。
本公開草案等の適用時期については、公表日以後適用することとする提案がなされています。
本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。
[質問1]本公開草案の範囲に関する提案に同意するか否か。
[質問2]電子決済手段の保有に係る会計処理に関する提案に同意するか否か。
[質問3]電子決済手段の発行に係る会計処理に関する提案の会計処理に関する提案に同意するか否か。
[質問4]外貨建電子決済手段に係る会計処理に関する提案に同意するか否か。
[質問5]預託電子決済手段に係る取扱いに関する提案に同意するか否か。
[質問6]開示に関する提案に同意するか否か。
[質問7]連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲に関する提案に同意するか否か。
[質問8]適用時期に関する提案に同意するか否か。
[質問9]その他
なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
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