EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY 新日本有限責任監査法人 公認会計士
平川浩光、久保慎悟、宮﨑 徹、廣瀬由美子、松川由紀子、石川 仁
この2023年3月期決算においては、改正時価算定適用指針及びグループ通算制度に係る税効果会計上の取扱いを定めた実務対応報告第42号が原則適用となります。また、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱いを提案している実務対応報告公開草案第63号について、公開草案が公表されており、グローバル・ミニマム課税に関する改正法人税法が2023年3月31日までに成立した場合には、成立後、2023年3月31日までに公表することが想定されています。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2023年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。
なお、改正法人税等会計基準及びインボイス制度については、2023年3月期決算では適用されませんが、改正法人税等会計基準については「未適用の会計基準に関する注記」に記載する可能性があること、インボイス制度については準備に時間を要すると考えられることから、本稿にて紹介することも有用と考えられるため追加しています。
Q1 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(全般)
Q2 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(固定資産減損会計)
Q3 為替、金利、相場変動の影響に関する留意事項(外貨建有価証券)
Q4 新型コロナウイルス感染症及びウクライナ情勢に関する留意事項
Q5 税効果会計-企業分類((分類4)のいわゆる反証規定)
Q6 税効果会計-回収可能性の判断手順
Q7 税効果会計-留保利益の税効果
Q8 改正時価算定適用指針の概要
Q9 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い
Q10 投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い
Q11 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の注記の取扱い
Q12 グループ通算制度及び実務対応報告第42号の概要
Q13 個別財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q14 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性
Q15 連結財務諸表における繰延税金資産の回収可能性
Q16 グループ通算制度を適用する場合の表示及び注記
Q17 電子記録移転有価証券表示権利等に関する取扱い
Q18 グローバル・ミニマム課税制度の概要
Q19 グローバル・ミニマム課税制度の税効果会計への影響
Q20 改正法人税等会計基準の概要及び適用時期
Q21 税金費用の計上区分
Q22 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
Q23 経過措置
Q24 インボイス制度の概要
Q25 インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない消費税相当額の会計処理
Q26 インボイス制度下の控除不可消費税相当額を仮払消費税として区分して計上する場合の会計処理
Q27 非財務情報開示の改正の概要及び適用時期
Q28 サステナビリティに関する企業の取組みの開示
Q29 人的資本、多様性に関する開示
Q30 記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-
Q31 コーポレート・ガバナンスに関する開示等
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※ 本稿は2023年3月6日の時点の情報に基づくものです |
昨今の環境において、海外を中心とした金利の上昇、為替相場の急激な変動、原材料の価格、燃料・資源価格、輸送運賃価格等の上昇といったビジネス環境の変化が生じています。
業種によって影響度合いは様々ですが、一般的に影響する会計処理や開示の具体例を(図表1)にまとめています。
勘定科目 |
会計処理・開示への影響 |
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棚卸資産 |
棚卸資産の評価損 |
金融商品 |
外貨建有価証券の評価(Q3) |
退職給付会計 |
割引率、長期期待運用収益率(翌期首における見直し) |
減損会計 |
減損の兆候(Q2)、将来C/Fの予測(仮定や基礎データ等への影響(Q2)、割引率 |
開示 |
会計上の見積りの開示における言及、継続企業の前提の開示 |
棚卸資産については、原材料価格の高騰により採算性の悪化から棚卸資産の評価損への影響が生じる可能性があり、金利変動の影響は退職給付会計における割引率や長期期待運用収益率の見積りにも関係してくる場合があります。
資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、継続してマイナスとなる見込みである場合や、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合には、減損の兆候となるとされています(減損適用指針12項、14項)。また、経営環境が著しく悪化したか、又は悪化する見込みである場合として、材料価格の高騰や、製・商品店頭価格やサービス料金、賃料水準の大幅な下落、製・商品販売量の著しい減少などが続いているような市場環境の著しい悪化が例示されています。このため、例えば、為替、金利、相場変動の影響に伴い、仕入価格が高騰し、営業損益のマイナスが続くことが見込まれるような場合や、材料価格の高騰が続いているような場合には、減損の兆候に該当する可能性があるため、為替、金利、相場変動が将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
将来キャッシュ・フローの見積りにあたり、売価や原材料仕入価格の見積りは、翌期以降の変動見込みを反映させる必要があります。また、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合、減損適用指針18項及び19項に基づいて算定された外貨建ての将来キャッシュ・フローを、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算し、減損損失を認識するかどうかを判定するために見積られる割引前将来キャッシュ・フローに含めるとされています(減損適用指針20項、35項)。このため、将来キャッシュ・フローが外貨建てで見積られる場合には、将来の為替相場を予想して円換算するのではなく、減損損失の認識の判定時の為替相場により円換算することとされている点、ご留意ください。
時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下の事実が生じている場合に、評価額の引下げが必要ですが、著しい下落又は低下の判断は、外貨建てで行うとされています。また、外貨建有価証券について時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合には、当該外貨建有価証券の時価又は実質価額は、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額によるとされています(外貨建取引等実務指針18項、19項)。
このため、円安の状況下で円貨建てでは50%程度以上の下落又は低下がない場合であっても、著しい下落又は低下の判断は外貨建てで行うこととされていますので、外貨建てで50%程度以上の下落又は低下がある場合には、評価の切下げを行うことになります。
その場合には、外国通貨による時価又は実質価額を決算時の為替相場により円換算した額が評価額となりますので、決算期の異なる子会社において、決算日の実質価額を基に評価額の切下げを行う場合であっても、親会社の決算時の為替相場により円換算する必要がありますので、ご留意ください。
新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。)の感染拡大を受けて、2020年4月10日に企業会計基準委員会(ASBJ)より議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方」が公表されました。その後、2021年2月10日に当該議事概要は更新されましたが、これまでの議事概要の考え方は変わっていません。このため、本感染症が会計上の見積りに与える影響を考慮するに際して留意すべき事項としては、当該議事概要において示された以下の内容については現時点でも参考になると考えられます。
また、2020年4月10日に日本公認会計士協会より「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表されており、その中で、会計上の見積りの監査にあたっての留意事項が示されています。主な内容は以下のとおりです。
ウクライナ情勢についても、本感染症と同様に会計上の見積りの前提となる様々な仮定に影響を及ぼすと考えられます。この点、2022年4月7日に日本公認会計士協会より「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」が公表されており、その中で、会計上の見積りの監査にあたっての留意事項が示されています。主な内容は以下のとおりです。
(1)事業の継続
(2)契約や取引の履行可能性、サプライチェーンの乱れ
(3)製品等の今後の需要動向や供給動向
(4)原材料の価格、燃料価格及び資源価格、食品等の原料価格、輸送運賃価格等の上昇
(5)天然ガスやその他の資源(鉱物資源等)の供給不足
(6)為替変動
本感染症が発生してから数年が経過していることやウクライナ情勢も長期化していることに鑑みれば、企業の状況によっては、これらの事象の発生間もない時期と比べて、見積りの不確実性の程度が相対的に低くなっており、以前に比べて仮定の合理性を判断しやすい状況になっていることも考えられます。したがって、企業自ら一定の仮定を置くにあたっては、それぞれの企業が置かれている現時点の状況に照らして、当該仮定が最善の見積りといえるかどうかを検討することが求められると考えられます。
この点も踏まえて、前年度決算で企業が置いた仮定について見直しの要否を検討するなど、今年度決算の状況に照らして改めて仮定の合理性を検討する必要があると考えられます。
回収可能性適用指針29項では、(分類4)から(分類3)として取り扱ういわゆる反証規定の定めがあります。
(分類4)の要件を満たしても、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱う
上記(1)のとおり、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱います。
この時、(図表2)の(ケース1)のとおり、将来1年目及び2年目は将来の一時差異等加減算前課税所得がプラスですが、3年目はマイナスのケース、また、(ケース2)のとおり、2年目だけマイナスですが、それ以外は5年目までプラスのケースにおいて、それぞれいわゆる反証規定を適用して(分類3)として扱うことができるかが論点となります。なお、マイナスとなる年度は臨時的な要因によるものであることが明らかであるという前提になります。
将来の一時差異等加減算前課税所得 |
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以下の理由から、上記いずれのケースでもいわゆる反証規定を適用することはできないと考えられます。
①「将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じる」といういわゆる反証規定の要件は、原則とは異なる取扱いを容認するものであることから厳格に捉える必要があると考えられます(※)
② 回収可能性適用指針29項の要件において、臨時的な原因である場合に容認されるような定めとはなっていないことから、(分類2)や(分類3)の要件(臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得)とは異なり、仮に臨時的な原因であったとしても、将来の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなる場合にはいわゆる反証規定の要件を満たしていないと考えられます
※「企業会計基準適用指針公開草案第54号『繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)』に対するコメント」コメントNo.70参照。
前期においていわゆる反証規定を適用し、(分類3)としていたものの、当期の一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなってしまったとき、合理的な説明が可能であるとして、当期においてもいわゆる反証規定を適用することは可能かどうかが論点となります。
この点、当期における適用は極めて限定的であると考えられ、非常に慎重な検討が必要であると考えられます。
これは、(2)のとおり、いわゆる反証規定は原則とは異なる取扱いを容認するものであることから、その要件は厳格に捉える必要があると考えられるためです。
将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性は、以下の①から③に基づいて、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを判断することになります(回収可能性適用指針6項)。
① 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
② タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
③ 将来加算一時差異
そして、当該回収可能性を判断するにあたっての具体的な手順は(図表3)のとおりです(回収可能性適用指針11項)。
① |
期末における将来減算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う |
---|---|
② |
期末における将来加算一時差異の解消見込年度のスケジューリングを行う |
③ |
将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額とを、解消見込年度ごとに相殺する |
④ |
③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額と相殺する |
⑤ |
①から④により相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとに相殺する |
⑥ |
⑤で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額については、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額(⑤で相殺後)と相殺する |
⑦ |
①から⑥により相殺し切れなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性はないものとし、繰延税金資産から控除する |
上記のとおり、繰延税金資産の回収可能性の判断手順では、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づく将来減算一時差異の解消見込額との相殺((図表3)⑤)の前段階として、将来加算一時差異のスケジューリングに基づいた解消見込額と、将来減算一時差異の解消見込額とを解消見込年度ごとに相殺((図表3)③)することになります。これは、企業の分類のいかんによらず、将来加算一時差異と相殺可能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとするということです。
したがって、例えば、以下の設例のように(分類4)の会社であり、一時差異等加減算前課税所得の見積期間が1年であったとしても、1年を超える期間についても将来加算一時差異と将来減算一時差異が年度ごとに相殺可能である限り、回収可能性があるものと判断され繰延税金資産が計上されることとなります。設例においては、X2年度及びX3年度の将来加算一時差異の解消見込額に基づく相殺額である50ずつに対する繰延税金資産30((50+50)×30%)について回収可能性ありと判断することになる点、ご留意ください。
X0年度末の関連情報は以下のとおりです
(繰延税金資産の回収可能性の判断)
① 将来減算一時差異のスケジューリング
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
---|---|---|
300 |
120 |
120 |
② 将来加算一時差異のスケジューリング
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
---|---|---|
△50 |
△50 |
△50 |
③ 将来減算一時差異の解消見込額と将来加算一時差異の解消見込額との解消見込年度ごとの相殺
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
|
---|---|---|---|
将来減算一時差異 |
300 |
120 |
120 |
将来加算一時差異 |
△50 |
△50 |
△50 |
相殺可能 |
50 |
50 |
50 |
相殺不能 |
250 |
70 |
70 |
④ ③で相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、解消見込年度を基準として繰戻・繰越期間の将来加算一時差異(③で相殺後)の解消見込額との相殺
該当なし(③で相殺後の将来加算一時差異はゼロであるため)
⑤ ④までで相殺し切れなかった将来減算一時差異の解消見込額について、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額(タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を含む。)と解消見込年度ごとの相殺
X1年度 |
X2年度 |
X3年度 |
|
---|---|---|---|
④までの相殺不能額 |
250 |
70 |
70 |
一時差異等加減算前課税所得 |
250 |
- |
- |
相殺可能 |
250 |
- |
- |
相殺不能 |
0 |
70 |
70 |
⑥ 以降省略
(繰延税金資産計上額)
400(③での相殺可能額150 + ⑤での相殺可能額250)× 30%=120
資産除去債務が新たに認識される際は、資産除去債務(負債)と資産除去債務に対応する除去費用(資産)は同額両建てで計上されることになりますが、それらに係る将来減算一時差異及び将来加算一時差異のスケジューリングは異なるものになることに留意が必要です。
資産除去債務については実際に関連する有形固定資産が除去されるタイミングで負債が取り崩され税務上認容されるため、資産除去債務に係る将来減算一時差異は、除去予定時期にスケジューリングされることになります。
一方で、資産除去債務に対応する除去費用は減価償却を通じて税務上加算調整されるため、その将来加算一時差異については、減価償却期間にわたって減価償却方法に合わせてスケジューリングされることになります((図表4)参照)。
このように両者のスケジューリング期間、方法は異なることになり、資産除去債務に係る将来減算一時差異が、対応する除去費用に係る将来加算一時差異をもって全額回収可能性があると判断されるわけではないと考えられ、両者の慎重なスケジューリングの検討が求められる点にご留意ください。
親会社又は投資会社(以下「親会社等」という。)による投資後の期間において、連結子会社又は持分法適用会社(以下「連結子会社等」という。)が利益を獲得した場合には、投資後に増加した利益剰余金、すなわち留保利益の金額だけ、連結財務諸表上の投資簿価(会計上の簿価)が、個別財務諸表上の投資簿価を上回ることとなります((図表5)参照)。
連結子会社等の留保利益は、将来の親会社等への配当時、又は投資の売却や連結子会社等の清算時に親会社等で課税対象となる場合には、連結財務諸表固有の将来加算一時差異に該当し、原則として、追加で納付が見込まれる税額を繰延税金負債として計上することになります(税効果適用指針23項、24項、持分法実務指針27項、28項)((図表6)参照)。
なお、連結子会社等の取得時利益剰余金(投資時に留保している金額)についても、将来において追加的な税額発生の要因となり得ますが、連結子会社等の投資の会計上の簿価と税務上の簿価の差異原因とはならないため、将来加算一時差異には該当せず、税効果を認識しません(税効果適用指針113項、114項)。
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※1 税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めに準じて行うとされている。 |
国内子会社・関連会社についても、配当による追加の税負担が生じないかどうかについては、税法の規定に照らして確認しておく必要があります((図表7)参照)。また、配当による追加の税負担が生じないケースであっても、投資の売却を意思決定した場合には繰延税金負債の計上が必要になることもありますので、計上漏れのないように留意が必要です。
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※ 令和2年度税制改正により、負債利子控除割合に基づき算定する方法から、原則として関連法人株式等に係る配当等の額の4%相当額(負債利子の10%を上限)とする方法に改正されていますので、改めてご確認ください。 |
持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針等がある場合には、繰延税金負債を計上しないこととされています。しかしながら、子会社とは異なり、関連会社については投資会社の支配下に置かれているわけではありません。
このため、関連会社の留保利益に対して繰延税金負債を認識しないための要件を満たしているかどうか(留保利益を配当させないという投資会社の方針等に実効性があるかどうか)については、より慎重な検討が必要であると考えられます。
在外子会社等の留保利益に係る繰延税金負債を計算する際には、配当時に追加で納付が見込まれる外国源泉所得税を考慮する必要があります。当該税額を算定する際には、在外子会社等の所在地国の法令(日本との間で租税条約等が締結されている場合には法令及び当該租税条約等)に規定されている税率を用いて計算することとされています。また、現地法令等の改正があった場合には、その影響を留保利益に係る税効果にも反映させることになりますが、当該法令等の改正が成立した時点から反映させる必要があります(税効果適用指針第26項、第44項)。なお、租税条約については、両国の署名後、締結手続を経た上で効力が発生しますが、税効果に反映させることになる租税条約の成立時点としては、「公文の交換等による締結(条約に拘束されることについての国の同意の表明)が行われた時点」になると考えられます。
したがって、留保利益に係る税効果に影響する法令等の改正が成立していないかどうか、決算にあたって情報の収集漏れがないように留意する必要があります。
国内子会社や国内関連会社(1/3超保有)の場合、配当により解消するケースでは、負債利子控除後の金額が益金不算入になるため1、負債利子控除(配当等の額の4%相当額(負債利子の10%を上限))分を除いて繰延税金負債を計上する必要はないですが、売却により解消するケースでは売却損益として課税されるため、これらの国内子会社等であっても、売却意思決定時には留保利益に係る繰延税金負債を計上する必要がある点に留意が必要です。
ASBJは、2019年7月に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みとして、時価算定会計基準及び改正前の時価算定適用指針を公表しました。
改正前の時価算定適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていました。また、投資信託の時価の算定を検討するにあたっては、現状では多様な取扱いがなされている、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託の貸借対照表価額を時価に統一するか否かについても検討が行われました。
そして、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記については、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースが従来みられていましたが、一定の検討を要するため、投資信託に関する取扱いを改正する際にその取扱いを明らかにすることとされていました。
上記の経緯を踏まえ、ASBJにおいて審議が行われていましたが、2021年6月に時価算定適用指針が公表されました。
適用時期については、(図表8)のとおりです。
原則適用 |
2022年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
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早期適用 |
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
投資信託財産が金融商品である投資信託については、市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます。
一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が金融商品である投資信託については、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-2項から24-7項、49-2項から49-8項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、Q9をご参照ください。
投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながるものと考えられました。これらを踏まえ、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理が統一されています。
一方、市場における取引価格が存在しない投資信託財産が不動産である投資信託についても、改正時価算定適用指針では、一定の場合に、「基準価額を時価とする」取扱いや「基準価額を時価とみなす」取扱いを設けています(改正時価算定適用指針24-8項から24-12項、49-9項から49-14項)。それぞれのケースの具体的な取扱いは、Q10をご参照ください。
組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では従来から時価の注記を求めているものの、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めておらず、どのようなケースで時価の注記を求めるかについては、どのようなケースで時価をもって貸借対照表価額とすることが必要であるかと併せて検討する必要があるとされました。したがって、会計処理について今後の検討課題であることを認識したうえで、改正後の時価算定適用指針では、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の注記を要しないこととされました(改正時価算定適用指針24-16項、49-17項から49-18項)。
時価算定適用指針の適用初年度においては、時価算定適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用することとなります。この場合、その変更の内容について注記します(改正時価算定適用指針27-2項)。
また、改正前の時価算定適用指針26項の経過措置を適用し、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」(時価開示適用指針5-2項)の注記をしていなかった投資信託に関する「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記については、時価算定適用指針の適用初年度においては、比較情報の記載を要しないとされています(改正時価算定適用指針27-3項)。
投資信託財産が金融商品である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ。)については以下の分類ごとに、時価算定の取扱いが定められています。
時価算定会計基準5項に定める時価の定義により、金融商品取引所(それに類する外国の法令に基づき設立されたものを含む。以下同じ。)に上場しており、その市場が主要な市場となる投資信託で、その市場における取引価格が存在する場合、当該価格が時価になると考えられます((図表9)(A)参照。時価算定適用指針49-2項)。
市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合は、基準価額を時価とするとされています。これは、市場における取引価格が存在せず、一般に基準価額による解約等が主要な清算手段となっている投資信託については、投資信託の購入及び解約等の際の基準となる基準価額を出口価格として取り扱うことができると考えられたことによります。なお、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています((図表9)(B)参照。時価算定適用指針24-2項、49-2項)。
市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からのリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合は、時価を算定する際に考慮する資産の特性に該当し、投資信託財産の評価額の合計額を投資信託の総口数で割った一口当たりの価額である基準価額が時価となるわけではなく、基準価額に所定の調整を加えた価格又はその他の算定手法に基づいて算定した価格をもって時価とすることとなります((図表9)(D)参照)。
ただし、基準価額に対して調整を行うことを求めた場合、投資信託が業種を問わず広く保有されていることを踏まえると、その影響も広範囲にわたることが予想され、実務的な対応に困難を伴うことが想定されることから、以下の一定の要件のいずれかに該当するときは、基準価額を時価とみなすことができるとされています((図表9)(C)参照。時価算定適用指針24-3項)。
上記の要件について、投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価において、会計基準と整合する評価基準が用いられているかを確認することを求めると、適用の困難さが生じると考えられることから、①②においては、当該投資信託の財務諸表が、IFRS、米国会計基準又はこれらの基準における時価の算定に関する定めと概ね同等と判断される会計基準に従い作成されているかを確認すればよいこととなります(時価算定適用指針49-3項)。
以上を踏まえると、投資信託財産が金融商品である投資信託の時価は、(図表9)のパターンに分類されます。
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※ 基準価額を時価とみなす取扱いを適用するためには、改正時価算定適用指針24-3項(1)から(3)のいずれかの要件を満たす必要がある。 |
なお、基準価額を時価とみなす取扱いを適用した場合には、以下の事項を注記するとされています(時価算定適用指針24-7項)。
また、時価開示適用指針5-2項に定める金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記しないこととし、この場合には、他の金融商品における時価開示適用指針5-2項(1)のレベル別の時価の合計額の注記に併せて、次の内容を注記するとされています(時価算定適用指針24-7項)。
(1) 時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用しており、時価開示適用指針5-2項に定める金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨
(2) 時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用した投資信託の貸借対照表価額計上額の合計額
(3)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の期首残高から期末残高への調整表(作成するにあたっては、①から④を区別して示す。)
① 当期の損益に計上した額及びその損益計算書における科目
② 当期のその他の包括利益に計上した額及びその包括利益計算書における科目
③ 購入、売却及び償還のそれぞれの額(ただし、これらの額の純額を示すこともできる。)
④ これまで時価算定適用指針24-3項の取扱いを適用しておらず、当期に当該取扱いを適用することとした額及びこれまで当該取扱いを適用していたものの、当期に当該取扱いを適用しないこととした額
また、①に定める当期の損益に計上した額のうち、貸借対照表日において保有する投資信託の評価損益及びその損益計算書における科目を注記する。
(4)(2)の合計額が重要性に乏しい場合を除き、(2)の時価の算定日における解約等に関する制限の内容ごとの内訳
また、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(時価算定適用指針24-7項)。
投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に通常は金融投資目的で保有される金融商品であると考えられることから、時価算定適用指針により、一律に時価をもって貸借対照表価額とすることとされました。時価の算定方法は(図表10)のとおりです。
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※ 投資信託財産である不動産については、時価の算定が会計基準の対象に含まれないことから、当該投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件は設けないこととしたとされている(改正時価算定適用指針24-11項) |
市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます((図表10)(A)参照)。
市場における取引価格が存在しない場合には、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるかどうかにより、異なる取扱いが定められています。重要な制限があるかどうかの判断については、投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱いと同様です(時価算定適用指針24-10項、Q9参照)。当該重要な制限がない場合、基準価額を時価とすることとされています。ただし、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています((図表10)(B)参照。時価算定適用指針24-8項)。
一方、当該重要な制限がある場合、基準価額を時価とみなす取扱いを適用することができます(時価算定適用指針24-9項)。その際、投資信託財産が不動産である投資信託は、基準価額の算定頻度が低く、時価の算定日における基準価額がない場合も考えられることから、時価の算定日における基準価額がない場合は、入手し得る直近の基準価額を使用することとされています((図表10)(C)参照。時価算定適用指針24-9項)。なお、基準価額を時価とみなす取扱いについて、投資信託財産が金融商品の場合との相違点は、(図表11)のとおりです。
項目 |
不動産 |
金融商品 |
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時価の算定日と基準価額の算定日の関係 |
入手し得る直近の基準価額を使用する(時価算定適用指針24-9項) |
・原則として時価の算定日において算定される基準価額を使用(時価算定適用指針49-6項) |
第三者から入手した相場価格の取扱い |
第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであるとの判断は要しない(時価算定適用指針24-11項) |
投資信託財産の評価について時価算定会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件を満たす場合には第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであるとみなすことができる(時価算定適用指針24-6項) |
なお、時価算定適用指針24-9項の基準価額を時価とみなす取扱いを適用した投資信託については、以下の事項を注記することとされています(時価算定適用指針24-12項)。
また、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(時価開示適用指針第5-2項)は注記せず、他の金融商品における時価開示適用指針第5-2項(1)の注記に併せて、次の内容を注記することとされています(時価算定適用指針24-12項)。
(1) 時価算定適用指針24-9項の取扱いを適用しており、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨
(2) 時価算定適用指針24-9項の取扱いを適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額
(3) (2)の期首残高から期末残高への調整表((2)の合計額が重要性に乏しい場合を除く。)
なお、投資信託財産が不動産である投資信託については、投資信託財産が金融商品である場合と異なり、解約等の制限の内容の注記は求められません。不動産については時価の算定が会計基準の対象に含まれないことから、解約等の制限の内容を注記したとしても、会計基準との差異を理解するための有用な情報にはならないと考えられるためです(時価算定適用指針49-14項)。
また、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています(時価算定適用指針24-12項)。
組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では、以前から時価開示適用指針4項(1)に定める時価の注記が求められてきましたが、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられました。今回の改正では、組合等への出資に関する会計処理について今後の検討課題であることを認識した上で、組合等への出資についてはその会計処理と併せて時価の注記を検討する必要があると考えられることから、時価算定適用指針では、時価の注記は要しないこととされました(時価開示適用指針24-16項)。その場合、以下の内容を注記することとなります。
なお、組合等への出資について時価の注記は要しないこととされましたが、従来、時価を開示していたケースもあることを考慮し、時価算定適用指針の適用後においても、時価算定会計基準に従った時価が算定できる場合には、当該時価を注記することが望ましいと考えられます。