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2022年10月28日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から(図表18)記載の会計基準等の改正が公表され、また、同日に日本公認会計士協会(JICPA)から同表記載の実務指針等の改正が公表されています。
公表主体 |
改正会計基準等の名称 |
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ASBJ |
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
JICPA |
会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」 「金融商品会計に関するQ&A」 |
ASBJより、2018年2月に企業会計基準第28号等を公表し、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了しましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討を行うこととしていました。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果
ASBJでは、移管の完了後、まず上記①について審議を開始しましたが、2020年度の税制改正においてグループ通算制度が創設されたことに伴い、グループ通算制度を適用する場合の取扱いについての検討を優先していました。その後、2021年8月に実務対応報告第42号を公表した後に、審議が再開され、今般、公表に至ったものです。
主な改正点は以下の2点です。詳細な内容はそれぞれのQ&Aをご確認ください。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)(Q21参照)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果(Q22参照)
適用時期については、(図表19)のとおり、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。なお、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能ですが、早期適用する場合には、上記2つの改正点のいずれも同時に適用しなければならないと考えられます。
原則適用 |
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
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早期適用 |
2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
当事業年度の所得等に対する税金費用について、現行の会計処理では以下のとおりとなっていました。
(現行の会計処理)
当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等(以下「法人税等」という。)については、法令に従い算定した額を損益に計上する(改正前法人税等会計基準5項)
上記現行の会計処理によれば、課税所得の発生原因となった取引がどのようなものであろうと、課税所得に対して発生した法人税等は全て損益計算書において損益として計上されることになります。
ここで、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税等が課せられるケースがあるとします。この場合には、対象となる取引等についてはその他の包括利益に計上されることになりますが、一方で、当該取引等に対して課せられる法人税等は損益に計上されることとなります。
このような場合には、「税引前当期純利益」と「税金費用」の対応関係が図られないことになり、この点が問題視されていました。
この点について、以下の設例を用いて説明します。
【設例:前提条件】
① A社(3月決算)は、取得原価が10,000の「その他有価証券」を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は、12,000であった。
② X1年4月1日にA社はグループ通算制度に加入することが決定しており、X1年3月期の期末において、当該「その他有価証券」に対して、税務上、時価評価が行われる。このため、「その他有価証券評価差額金」2,000は、X1年3月期において課税所得に含まれ課税される。
③ A社は、当該「その他有価証券評価差額金」を除いても課税所得が4,000生じている。
④ X1年3月期の期末における法定実効税率は30%であった。
⑤ その他の将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
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改正後の会計処理の概要は以下のとおりです。
① 当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、「損益」、「株主資本」及び「その他の包括利益」(又は「評価・換算差額等」)に区分して計上する(法人税等会計基準5項、5-2項)
② 株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定する(法人税等会計基準5-4項)
まず1点目の発生源泉となる取引等に応じて3つの区分に分けて計上することとした理由は、この考え方を採用した場合、税引前当期純利益と所得に対する法人税等の間の税負担の対応関係が図られる点、また、税効果額については、税効果適用指針において、この考え方と同様に取り扱っている点、加えて、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理されている点を踏まえたものです。
また、2点目の法定実効税率を乗じて算定するとした理由は、複雑な計算を伴う場合の実務への配慮です。なお、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができるとされています(法人税等会計基準5-4項ただし書き)。
改正後の会計処理について、上記(1)の設例と同様の前提である場合には以下のとおりとなります。
(仕訳)
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株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示は(図表20)のとおりです。
なお、その他の包括利益の欄の1番下の「退職給付会計における未認識項目」に関して、以下の点にご留意ください。
連結財務諸表においては、「退職給付会計における未認識項目」については、その他の包括利益を通してその他の包括利益累計額に計上されることになります。ここで、税務上は年金制度であれば掛金拠出額が損金算入されます。一方、会計上は、退職給付引当金は損益を通して計上された部分と、その他の包括利益を通して計上された未認識項目部分とで構成されているため、掛金拠出額に係る当期税金費用も、損益とその他の包括利益とで区分する必要があります。しかし、損益及びその他の包括利益と税金費用との対応関係が一概に決定できず、区分して算定することは困難であると考えられます。したがって、損益とその他の包括利益に区分して算定することが困難な場合に該当するため、損益に計上することが認められています(法人税等会計基準5-3項(2)、29-6項、29-7項)。
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株主資本 |
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その他の包括利益 |
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内国法人が有する譲渡損益調整資産を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています(法人税法61条の11)。
当該繰り延べられた売却損益については、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたとき(完全支配関係がある他の法人に対する譲渡も含まれる。)に、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法61条の11)。
子会社株式等を連結会社間で売却し、グループ法人税制が適用され、税務上売却損益が繰り延べられる場合について、改正前の税効果の取扱いは以下のようになっていました。
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(改正前税効果適用指針17項)
(ⅰ) 売却元企業の個別財務諸表において子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しない。
(ⅱ) 連結会社間における子会社株式等の売却の意思決定等に伴い、既に子会社等に対する投資に関連する連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合は、当該繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却により解消される一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を売却時に取り崩す。
(ⅲ) 当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、子会社等に対する投資に係る一時差異として、税効果適用指針22項又は23項に従って処理する。
上記の会計処理によれば、グループ法人税制が適用される連結会社間の子会社株式等の売却について、内部取引であることから連結財務諸表上は売却損益が消去され、税務上も売却損益が繰り延べられるため課税されていないにもかかわらず、連結損益計算書上、税金費用が計上される結果となります。このため、現行の取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの声が聞かれていました。
この点について、以下の設例を用いて説明します。
① P社は、S1社及びS2社の株式の100%を保有し子会社としている。なお、3社はいずれも3月決算の内国法人である。なお、P社連結グループは、グループ通算制度は適用していない。
② X1年3月末時点のS2社株式の税務上の簿価及び個別財務諸表上の簿価は、2,000である。また、S2社に対する投資の連結財務諸表上の簿価は2,500である。
③ P社はS1社に対して、S2社株式を時価3,500で売却する意思決定をX1年3月末に行った。なお、P社は連結財務諸表上、従前、配当による課税関係が生じないこと及び売却する意思がなかったことから、X1年3月末以前においては、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していなかった。
④ X1年4月にS2社株式の売却に係る取引が実行された。なお、S1社はS2社株式を売却する意思はない。
⑤ 法定実効税率は30%とする。
⑥ X2年3月期において、P社連結上、税金等調整前当期純利益が10,000生じており、当該利益に対応する法人税、住民税及び事業税が3,000生じている。また、上記前提条件に関連するものを除いて、将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
※ 以降の図中にある用語はそれぞれ以下の意味で使用している。
税務簿価:S2社株式の税務上の帳簿価額
会計簿価:S2社株式の個別財務諸表上の帳簿価額
連結簿価:S2社に対する投資の連結貸借対照表上の価額
(※) 法人税等調整額の算定
① 税務上繰り延べられた売却損益に係る将来加算一時差異に対する繰延税金負債の計上
⇒税務上繰り延べられた売却益1,500×税率30%=450
② X1年3月期の売却の意思決定時に計上されたS2社への投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対する繰延税金負債の取崩し
⇒連結財務諸表固有の将来加算一時差異500×税率30%=150
①-②=300
改正後の税効果の取扱いは以下のようになっています。
改正前と同様(注3)に、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針17項)
(ⅰ) 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。
(ⅱ) 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。
(ⅲ) 子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式等の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。
注3 今回の改正において、個別財務諸表上の会計処理は、以下の理由から見直されていない。
上記(2)の設例の前提条件に基づき、改正後の税効果の取扱いがどのようになるか、以下に示します。
税金費用の計上区分に関しては、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(法人税等会計基準20-3項ただし書き、税効果適用指針65-2項(2)ただし書き)。
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果に関しては、経過措置は定められていません(すなわち、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。)。これは、対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられること、また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点も、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において一定の判断がなされていたと考えられることから、遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられたためです(税効果適用指針163項(2))。
2019年の消費税法改正によって、消費税等の税率が標準税率(10%)と軽減税率(8%)の複数税率となって以降は、軽減税率の対象品目の売上・仕入を区分して請求書を発行したり帳簿に記帳したりする「区分経理」が求められるようになり、仕入税額控除の適用を受けるためには区分経理に対応した帳簿や区分記載請求書等の保存が必須となっていました(区分記載請求書等保存方式)。
2023年10月1日より、「適格請求書等保存方式」(いわゆるインボイス制度)が導入されます。インボイス制度の下では、仕入税額控除の要件として、原則、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」から交付を受けた「適格請求書」等の保存が必要になります。(図表21)のとおり、適格請求書には、現行の区分記載請求書の記載事項を基として、下線太字の項目を追加することが義務づけられています。
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(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-」に基づき筆者が作成) |
インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができないことになります。
ただし、インボイス制度導入から6年間(2023年10月1日から2029年9月30日まで)は、一定の要件の下で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合(最初の3年間は80%、次の3年間は50%)を仕入税額とみなして控除することができる経過措置が設けられています。
インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入については、仕入税額控除の適用を受けることができないため、税務上は仮払消費税等の額がない(すなわち、取引の対価の額に含める。)こととなります(国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A(令和3年2月)」(以下「国税庁Q&A」という。)問1参照)。
なお、国税庁Q&Aの「Ⅲ 会計上、インボイス制度導入前の金額で仮払消費税等を計上した場合の法人税の取扱い」では、「法人の会計においては、消費税等の影響を損益計算から排除する目的(中略)などの理由で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについてインボイス制度導入前と同様に(中略)仮払消費税等の額として経理することも考えられます。」とした上で、会計上で仮払消費税等の額として経理した場合の具体的な税務調整の例が示されています。
消費税中間報告では、控除対象外消費税等に関する会計処理が定められています。しかし、控除対象外消費税等と「インボイス制度において仕入税額控除を行うことができない適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る消費税等」(以下「インボイス制度下の控除不可消費税相当額」という。)では、税務上の位置付けが異なるため、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理については、現行の会計基準等において明示されていないと考えられます。
このため、以下のとおり、インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、「仮払消費税等」として区分して計上する処理(パターン1)と、「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の、いずれの処理も認められると考えられます。
なお、インボイス制度下の控除不可消費税相当額に関する会計処理方法については、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当するため、重要性に応じて会計方針として開示することが考えられます。
<「仮払消費税等」として区分せずに取引の対価の額に含める(資産の取得原価とする又は発生した経費等に含める)処理(パターン2)の仕訳例>
インボイス制度下の控除不可消費税相当額について、Q25のパターン1の会計処理(「仮払消費税等」として区分して計上する処理)を採用した場合に、区分計上された仮払消費税等をどのように会計処理すべきかに関しては、以下のとおり、複数の考え方があり得ると考えられます。
(考え方1)消費税中間報告で示されている会計処理(「資産の取得原価に算入する処理」又は「発生事業年度の期間費用とする処理」)のいずれかを選択適用する考え方
(考え方2)控除対象外消費税等について採用している会計方針をインボイス制度下の控除不可消費税相当額にも適用する考え方
(考え方3)インボイス制度下の控除不可消費税相当額は発生事業年度の期間費用として処理する考え方
2023年1月31日に、改正された開示府令、開示ガイドライン等が公布・施行されました((図表22)参照)。
種別 |
開示府令等の名称 |
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内閣府令 |
企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令) 特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令 開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令 |
ガイドライン等 |
企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン) 記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について- |
これは、2022年6月に公表された令和3年度の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下「DWG報告」という。)における「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレート・ガバナンスに関する開示」等の制度整備を行うべきとの提言に基づいた改正となります。当該提言等を踏まえた、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という。)の記載事項の改正内容の概要は、(図表23)のとおりです。
なお、同日付で「記述情報の開示の好事例集2022」が公表されています。好事例集では、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「人的資本、多様性に関する開示」等の参考となる開示例が掲載されています。
その他、EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正が行われています。
適用時期については、(図表24)のとおり、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から原則適用となります。なお、2023年3月30日以前に終了する事業年度に係る有価証券報告書等については、従前の開示府令等が適用されます。ただし、施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等について早期適用することができます。
原則適用 |
2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から |
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早期適用 |
施行日(2023年1月31日)以後に提出される有価証券報告書等から |
今回の改正により、有価証券報告書等に【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設されました((図表25)参照)。
【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄には、「ガバナンス」及び「リスク管理」について必須の事項として記載することが求められ、「戦略」及び「指標及び目標」は、重要なものについて記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)a及びb)。
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※ 人的資本(人材の多様性を含む。)に関する戦略並びに指標及び目標については、次の通り記載することとされています(詳細な内容はQ29参照)。 |
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パブコメに対する金融庁の考え方を踏まえると、これらの4つの構成要素の具体的な記載方法は詳細に規定されておらず、現時点では、それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられます。この場合、投資家が理解しやすいように、4つの構成要素のどれについての記載なのかが分かるようにすることが有用と考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方83~87)。
なお、サステナビリティ情報について、有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄において、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)本文)。
有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報の記載事項を補完する詳細な情報について提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができます(開示ガイドライン5-16-4)。なお、提出会社が公表した他の書類は、あくまでも補完情報としての位置づけであり、投資家が真に必要とする情報は、有価証券報告書等に記載する必要があることに留意が必要です。
パブコメに対する金融庁の考え方を踏まえると、参照可能な他の書類は(図表26)のように、「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類も含まれると考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方234~237)。また、前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類、そしてウェブサイトを参照することも可能と考えられます。将来公表予定の書類を参照する場合は、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれます(パブコメに対する金融庁の考え方238~241)。
①「任意」に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類
② 前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類(※1)
③ ウェブサイト(※2)
※1 将来公表予定の書類を参照する場合、公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等を記載
※2 ウェブサイトを参照する場合、投資家に誤解を生じさせないような以下の措置を講じることが必要
① ウェブサイトが更新される可能性があれば、その旨及び予定時期を有価証券報告書等に記載
② 更新した場合には、更新箇所及び更新日時をウェブサイトに明記
③ 有価証券報告書等の公衆縦覧期間中は継続して閲覧可能とする等
投資家の投資判断上、重要であると判断した事項については、有価証券報告書等に記載する必要がありますが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも可能と考えられます。この場合、概算値であることや前年度のデータであることを記載し、また、記載した概算値が、後日、実際の集計結果から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書等の訂正を行うことが考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方238~241)。
なお、参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書等の虚偽記載等(重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていることをいう。以下同様。)になり得る場合を除き、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことが明確化されています(開示ガイドライン5-16-4)。
サステナビリティ情報を含む記述情報における「将来情報」の記載について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券報告書等に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことが明確にされています(開示ガイドライン5-16-2)。
また、当該説明を記載するに当たっては、例えば、当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨を、検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要とともに記載することが考えられること等が明確化されています(開示ガイドライン5-16-2)。
(将来情報)
有価証券報告書等の様式中「企業情報」の「第2 事業の状況」の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」から「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」までの将来に関する事項(開示ガイドライン5-16-2)
他方、経営者が、投資者の投資判断に影響を与える重要な将来情報を、提出日現在において認識しながら敢えて記載しなかった場合や、合理的な根拠に基づかずに重要と認識せず記載しなかった場合には、虚偽記載等の責任を負う可能性があるとされていることに留意が必要です(開示ガイドライン5-16-2)。
人的資本(人材の多様性を含む。)に関する「戦略」並びに「指標及び目標」については、【サステナビリティに関する考え方及び取組】における「戦略」において、例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を記載し、「指標及び目標」において、「戦略」に記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)c)(Q28(図表25)参照)。
有価証券報告書等の【従業員の状況】においても、女性活躍推進法(注4)等(注5)に基づき提出会社やその連結子会社が「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、提出会社及びその連結子会社それぞれにおける記載が求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)d、e及びf)((図表27)参照)。
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※ いずれも女性活躍推進法の規定による公表をしない場合は、記載を省略することができる。 |
注4 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)
注5 女性活躍推進法のほか、育児・介護休業法が該当する。「男性の育児休業取得率」については、女性活躍推進法のほか、育児・介護休業法においても、常時雇用する労働者の数が一定数を超える事業主に公表が義務付けられており、有価証券報告書における開示は、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業も対象となる(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.60)
注6 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号)
これらの指標の記載は、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率等は、参照する旨を記載のうえ、有価証券報告書等の「第7 提出会社の参考情報」の「2 その他の参考情報」に記載することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)g)。
また、提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、当該公表が行われる前であっても有価証券報告書等において開示が求められます(パブコメに対する金融庁の考え方7~10)。
なお、女性活躍推進法等の公表義務とならない海外子会社については、有価証券報告書等においても、その女性管理職比率等の記載を省略することができるとされています(パブコメに対する金融庁の考え方3)
なお、これらの記載事項に加えて、投資者の理解が容易となるように、任意の追加的な情報を追記できるとされています(開示ガイドライン5-16-3)。
また、【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄における人的資本に関する「指標及び目標」の実績値について、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を【従業員の状況】に記載している場合は、その旨を記載することによって省略することができるとされています(開示ガイドライン5-16-5)。
令和3年度のDWG報告で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて取りまとめられた、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み(「記述情報の開示に関する原則(別添)」)において、望ましい開示に向けた取組みとして主に以下の内容が示されています。
(望ましい開示に向けた取組み)
①「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
② 気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、GHG排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること
③「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること
④ 国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載すること
「女性管理職比率」等の多様性に関する指標の連結ベースの開示に努めるべきという点については、パブリックコメントに対する金融庁の考え方を踏まえると、提出会社における連結ベースの当該指標の記載は、各社単体ではなく、連結会社及び連結子会社において集約した1つの数値で、当該指標を開示することが考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方19)。
なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しているとされています。
当事業年度における提出会社の取締役会、指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会並びに企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものの活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載することとされています。ただし、企業統治に関して提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するもののうち、指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当するもの以外のものについては、記載を省略することができるとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(54)i )。
監査役及び監査役会(監査等委員会設置会社にあっては提出会社の監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては提出会社の監査委員会をいう。)の活動状況では、従来、主な検討事項の記載が求められていましたが、改正により、具体的な検討内容を記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)a(b))。
また、内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会や監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組み(デュアルレポーティング)の有無等、内部監査の実効性を確保するための取組みについての記載も求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(56)b(c))。
パブリックコメントに対する金融庁の考え方を踏まえると、「主な検討事項」から「具体的な検討内容」への用語の見直しは、単に検討した事項だけを開示するのではなく、実際に取締役会又は監査役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するものであり、開示事項を実質的に変更するものではないと考えられます(パブコメに対する金融庁の考え方299~301)。また、内部監査の実効性を確保するための取組みの開示の一環として、例えば、内部監査部門の独立性の確保の有無や内部監査人の選任基準、職歴、平均経験年数、資格等の取得状況などの事項も企業の取り組み状況に応じて記載することが考えられます。
政策保有株式(保有目的が純投資目的以外の上場株式)については、保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要を記載することとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(58)d(e))。